#401 次なる目的地へ
キリが良いので、ここで一旦更新を停止して原稿作業に入ります。
次巻はまた書き下ろし比率が物凄いことになりそうなので(白目)
次回更新までお時間ちょうだいね!_(:3」∠)_
「なんか迷惑をかけたみたいですまないねぇ」
「ごめんなさい……」
傭兵ギルドで全ての精算ができたので星系軍基地には寄らずに船に戻ると、ショーコ先生とミミに謝られた。どうやら医療物資を用意する過程で身分照会が傭兵ギルドに行った件について謝っているようだが……。
「いや、扱うものを考えれば当たり前だから謝るようなことじゃない。多分今後も同じようなことがあるだろうからな。報告だけちゃんと俺に来ればヨシ! 今回はたまたま傭兵ギルドに居たからすぐわかったけど」
医者というか薬学の知識がある人間がいて相応の設備があるなら警戒されるは当たり前だし、それが医療物資を主に扱っている商船とかでなく俺達みたいな傭兵だとことになれば当局が疑惑の目を向けてくるのも当然だ。本来はそういった疑いを避けるためのライセンスというものなのだろうが、恐らく特殊なケース過ぎたんだろうな。
「最終的に儲かるなら多少疑われたり、面倒があったりしても問題ない。それで助かる命もあるわけだしな」
別に悪行というか殺生を生業としていることに対して善行でこう、カルマのバランスを取ろうというわけではないが、誰かの助けになってそれで儲かるならそれに越したことはないよな。ちょっと行政手続きで面倒をかけられるくらいはなんてことないだろう。
そもそも、俺が主な収入源としている宙賊狩りも結果的に無辜の民間人の命を救っているに違いないのでカルマバランスは絶対にヨシ! だけどな。
え? 宙賊もヒト? そういうのは拐った人の四肢モギモギして上で内臓もコショコショしてある種の化学物質製造機に『加工』したりするのをやめてから言ってもらって良いかな? それだけでなく別の道具としても『使え』ます! エコだね! じゃねぇんだわ。
「そうだね。私も医者の端くれだから、少しでも怪我や病気に苦しむ人が減るように活動するのは賛成だ」
「つっても俺達は金儲けが目的の傭兵団だからな。無償奉仕とはいかんが」
「それは当然だね。私だって腕を安売りするつもりはないよ。そういう施しはお偉い貴族様の仕事さ」
「それを言ってしまうと、ヒロは帝国の名誉子爵だけどね」
「そういや一応あの勲章には名誉子爵の肩書と一緒に僅かばかりだが年金も付いてたなぁ……とは言え俺は領地も持っていないわけだし。誰とも知らない他所の貴族の領民に施しをしてやる謂れもないんだが。とりあえずえげつなく稼ぐのは控えるって方向で」
エルマの指摘にそういえばそうだったと思い直す。年金いくらだっけ? あとでメイに確認しておこう。正直端金だったから気にも留めてなかったわ。
「それでええと、そうそう。ショーコ先生、なんかヤバいドラッグとかも作れちゃうんだって?」
「理論的にはそうだね。興味があるのかい?」
「無いよ。一応キャプテンとして確認しただけだ。外に流すのは勿論駄目だし、自分達で使う用にってことで作るのも基本的に禁止な。医療的な措置でどうしても必要ってことなら俺の許可を得る必要はないけど、事後報告でもいいからちゃんと報告するのと、管理はショーコ先生が責任を持ってやってくれ」
「了解。管理に関してはメイくんに手伝ってもらっても良いかな?」
「それは良い考えだな。メイ、大丈夫か?」
『はい、ご主人様。お任せください』
話し合いをしている食堂のスピーカーからメイの声が聞こえてくる。ショーコ先生に加えてメイも一緒になってそういったドラッグを管理してくれるなら安心できるな。
「しかし、一口に危険なドラッグと言っても範囲が広いんだよねぇ」
「そこはショーコ先生の裁量に任せるよ。不安なら都度メイと協議してくれ。素人の俺の判断でスペシャリストを縛るのは愚策だからな。スペシャリストであるショーコ先生が報告が必要と思ったものだけ報告してくれれば良い」
「あはは、信頼が重いねぇ……応えられるように頑張るよ」
ショーコ先生が苦笑いを浮かべる。熱烈な視線を感じてティーナに視線を向けてみると「ウチは? ウチは!?」という顔をしていたので頷いておく。うん、君とウィスカもシップエンジニアリングのスペシャリストとしてショーコ先生と同じように信頼してるから。
「物資の積み込みが終わったらアレイン星系でやることは終わりかしらね?」
「そうだな。ミミはばあさんとはもう良いのか?」
「はい! 挨拶もしましたし、連絡先も交換しましたから!」
そう言ってミミはタブレット型端末を掲げて見せる。なるほど、連絡先を交換したのか。この広い銀河では電子的なメールでさえ届くの数日から下手すりゃ一月ほどかかる場合があるが、とりあえずは届くからな。いつでも連絡が取れるとなればお互いに安心できるってものだろう。
かく言う俺も今までに出会った人のうち何人かと連絡先を交換している。例えばクリスとかな。文通みたいな感じでそこそこの頻度でメールをやり取りしているぞ。たまにセレナ大佐から愚痴めいたメールが届いたりすることもあるし、前に船に乗せたプレス各社のクルーから連絡が来ることもある。頻繁にではないけど。
「ならよし。ショーコ先生も――」
「大丈夫だよ。別れの挨拶はあの時に済ませたし、連絡先だって知ってるしね」
「そっか。んじゃ荷物の積み込みが終わり次第行きますかね」
「ういー。せや、兄さん。次の目的地ってどこなん?」
「ああ、そういや言ってなかったか。次の目的地はリーメイ星系だ。ミミのばあさん曰く、その星系周辺で新種のウィルスか何かによるパンデミックの兆候があるらしい」
「リーメイ星系!?」
俺の返事を聞いたティーナが突然立ち上がって叫ぶ。なんだおい、尋常な様子じゃないぞ。
「何か因縁のある星系なのか?」
「それは……まぁ、せやな」
ティーナはどうにも歯切れが悪い様子だ。ウィスカに視線を向けてみると、彼女も同様である。
「二人とも因縁があるみたいだな。無理に話す必要はないけど、今更目的地を変えるのもちょっとって状況だぞ?」
医療物資はどの星系でも売れるから、地道にコツコツと売っていっても良いんだが、やはり何らかの事情で医療物資を大量に必要としている星系にまとめて売るのが効率が良い。余程の事情で無ければ予定通りに行きたいんだが。
「……まぁ、因縁はある。でも、船の行き先をうちらの事情だけで変えるのは道理が通らんしな。気にせんでええで、兄さん」
「ティーナがそう言うなら良いけど……ウィスカも大丈夫か?」
「お姉ちゃんが良いなら……お姉ちゃん」
「まぁ、話さんわけにもいかんよなぁ。別にもったいぶるようなことでもないんやけど。ええとな、リーメイ星系はうちの古巣やねん。ウィーと再会して、出てくまでのな」
気まずそうな表情でティーナがそう言った。
古巣。古巣ねぇ……そういやティーナはウィスカと再会するまではどこぞのコロニーで筋の良くない連中とつるんでて、再会してからそう言う連中と手を切って、危ない橋を渡ってブラド星系に逃げてきた、みたいな話を聞いたような。
「……つまり、厄介事の香りだな?」
「せやな……ごめんな、兄さん」
「ええんやで」
しょんぼりとしているティーナにそう言っておく。最早どこに行こうとも平穏無事に済まないのは予定調和みたいなもんだからな。
「悟ったような表情になってるわねぇ……」
「あはは……こういうのはいつものことですし」
確かにミミの言う通りいつものことだな。何の問題もない。
「いつもこうなのかい?」
「此の身もまだ日が浅いのでなんとも……ただ、今のところはそうですね」
「そっかぁ……大変なことにならないといいねぇ」
ショーコ先生、他人事みたいに言ってるけどショーコ先生も一緒に巻き込まれるんだからな。逃さないぞ。あと、クギは諦めたような表情になるのが早い。順応が早いのは結構なことなんだが。
「そういうわけだ。今回もフォローを頼むぞ、メイ」
『お任せください、ご主人様。戦闘ボットをいつでも出撃させられるようにしておきます』
頼もしいけど物騒だなぁ。その用意が無駄になることを祈っておこう。




