#400 数字は強敵
寝不足で捗らなかった……_(:3」∠)_
「頭が爆発しそう」
「メイに任せたら良いわよ」
ミミへの報酬分配率変更の話から派生して、傭兵の配偶者との財産分与だとか船医の給料についての話とかで頭がフットーしそうだよぉ! エルマも俺と同じように思ったのか、苦笑いをしている。
「???」
クギに至っては理解が及ばなくて宇宙猫みたいになっている。数字の話は難しいねんな……俺もマジでわからん。内容が半分も頭に入ってない。
ごく簡単に纏めると、今のスキルを考えればミミへの報酬分配率は0.5%アップして1.5%が妥当ではないかという話と、ショーコ先生への給料はスキルや資格を考慮すると三十日あたり2万から3万エネルを基本給として、船医もしくは科学者としてのスキルを活かして利益に貢献した場合に適宜ボーナスを出すのが良いのではないかという話になった。
「うーん、ショーコ先生の取り分が少なくなりすぎないかしら?」
「そこは賞与で適宜調整するしかないんじゃないか?」
「三十日で3万から4万エネルは十分な高給取りだと思いますが……? プラチナランカーにとってはそれくらいは端金ですか」
傭兵ギルドのお姉さんが呆れたような視線を向けてくる。確かに小さい金額ではないと思うけども、他のクルーに分配している金額を考えるとな。まぁ今は然程懐に余裕があるわけでもなし。2万から3万エネルってのも決して小さくはない金額ではあるか。
なお、配偶者との財産共有に関しては傭兵とクルーの場合は一般的な帝国法を参考しつつも若干特殊な扱いとなり云々と、お経か呪文か何かの類かと思うような大変に長い内容となっており、俺が辛うじて拾えた内容としては取りあえずは傭兵家業を続けている間は今のまま、財布は別にしてミミにも報酬を分配するという形で進めて、今後ミミが傭兵稼業から離れて育児に専念するなど状況が変化した時に改めて『事が起こった時』の財産分与などについて法的な書類を作るのが良いだろうという話――だったと思う。
「まぁ、実際には無責任に種を撒き散らかして勝手に死んでってパターンが多いんですけど」
「世知辛いなぁ……」
「というか、行きずりでってパターンですね。基本的に傭兵というのは星系を渡り歩いていくことが多いですし。その点ちゃんと囲って連れ歩いているキャプテン・ヒロ殿はまともですよ。ええ」
そう言う受付のお姉さんの口元は笑っているけど目は笑っていない。メイはメイドロイドだから除外するとしても、ミミとエルマ、ティーナとウィスカ、クギ、そしてショーコ先生と合計六人も女性を囲っているというのは確かにうん。俺もどうかとは思うけれども、これには海よりも深い事情があるので許してほしい。
「人数はともかく、概ね誠実だから心配は要らないわよ。一般的な傭兵と違って呑んだくれたり娼館に通い詰めたり、変なドラッグに手を出してラリったりもしてないしね」
「それに我が君はとてもお優しい御方ですよ」
「それはそれは……」
このスケコマシ野郎めという目で睨んでくるのはやめていただきたい。俺は悪くないしそもそもとやかく言われる筋合いもないわ。
「コホン。それでは今回キャプテン・ヒロ様達が討伐した宙賊及び破壊した宙賊基地とその戦力の撃破報酬――これには宙賊基地の資源としての価値も含まれたものになりますが、ヒロ様達の取り分は合わせて2306万エネルと算定されました」
「まぁそんなもんか。小さかったもんな、あの基地」
「そうね。小惑星部分がかなり多そうな基地だったし」
「おおもうけ、ですね?」
「まぁそうね」
「そうだな。そこそこ儲けたな」
2306万エネルの内訳を見てみると、一番大きいのは撃破報奨金の項目で、次に基地資材の買取金額、その後は宙賊艦の撃破報酬と賞金ってところか。この他に鹵獲品の売却益もあるので、今回の儲けは全部合わせると3000万エネルをちょっと超えるくらいになるかな。もっとも、戦利品の売却は一旦キャンセルして他所に運んでいくつもりだからまだ現金化できていないし、持っていく先の状況次第では値段が跳ね上がる可能性もあるのだが。
「それと、たった今アレイン星系の統治当局から傭兵ギルドに照会があったようなのですが、高度医療物資の大量購入を試みているそうですね?」
「あー、そうだな。今回手に入れた戦利品はここで捌くよりも遠方で捌いたほうが当然カネになるだろ。で、戦利品にそっち系の物資が多かったから、どうせなら満載して高く売れる場所に売りに行こうと思っているだけだ。というか、そんなことで照会が来るのか?」
「それは通常の医療物資ではなく高度医療物資だからですね。使い方によっては常用性の高い危険なドラッグなどの製造にも使えるものだったりしますから、流通に制限がかけられているわけです。取り扱いには専門のライセンスが必要なものもあったりするのですが……キャプテン・ヒロの船団には有資格者がいるので問題ありませんね」
「ショーコ先生か。そういやラボには小型の製造プラントもあったはずだな」
つまり、材料も設備も技術を持っている人間もいるから、うちの船団はやろうと思えばヤバいお薬のディーラーめいたこともできてしまうわけだ。それについて本当に大丈夫か? アレイン星系を統治している当局から「こいつら本当に大丈夫?」と問い合わせが来たと。
「プラチナランカーとしての立場と信頼を利用してそういった類のドラッグを流通させた場合には称号その他すべて剥奪の上、傭兵ギルドとしても生死不問の賞金をかけることになるのでご注意ください。帝国法上でも重罪となりますので」
「俺は善玉で通ってるんだろ? 心配しないでくれ。そもそもそんな手段でカネを稼ぐなんざリスキーに過ぎるし、そんなことせんでもいくらでもカネは稼げる」
「そうですね。傭兵ギルドとしてもプラチナランカーを舐めるなと言いたいところです」
そう言って受付のお姉さんはにこりと笑顔を浮かべてみせた。
うん、その笑顔はあれですね。だからこそプラチナランカーの看板に泥を塗ったらとんでもないことになりますよということですね。わかります。
「とりえず、先方への返事は任せる。報酬は一旦俺の口座に振り込んでおいてくれ」
分配はメイに任せよう。数字に強いからな、メイは。
 




