#399 後片付けと次の目標
明けましておめでとうございます!_(:3」∠)_
ちょっと近々原稿作業に入ることになりそうです( ˘ω˘ )(諸事情によりいつもより早い
「これで勝ったと思うんじゃないよ……」
「もう勝負付いてるから」
捨て台詞を吐きながら覚束ない足取りで去っていくばあさん御一行を見送り、打ち上げの後片付けを終わらせて一晩休んだ翌日。
俺達は次の目的地についての話し合いをすることにした。
「現状特にこれという目的はないから、行き先は自由に決められるんだよな」
「目的は無いのかい?」
首を傾げるショーコ先生に俺は首肯した。
「具体的なものはな。とは言え俺達は傭兵団なわけだから、宙賊をしばくなりなんなりして金を稼ぐのが行動理念と言っても良い。今回の稼ぎはそこそこのものになりそうだけど、まぁ物足りないというかもっともっと稼ぎたいな」
ブラックロータスの改修でまた金を使ったからな。最辺境領域で稼いだ分なんぞはそれだけで簡単に吹っ飛んでいる。自転車操業は辛いねんな。食うに困るほどではないけれども。
「何か美味そうな稼ぎの種を見つけるまで適当に星系を渡り歩いて宙賊どもをしばいて回るというのも手なんだけどな」
「それでも良いけど、もう少し具体的なプランは欲しいわね」
「言うて、兄さんやし適当にほっつき歩いてても飯の種は転がり込んできそうやけどな」
「そんな適当な……とは言えないよね」
やめてくれ二人とも。その術は俺に効く。犬も歩けば棒に当たるくらいのノリで俺がトラブルに巻き込まれるとか暗に言うのはやめろ。悪質な事実陳列罪だぞ。
「案、と言えるかどうかは微妙ですけど、一つあります!」
ミミがやる気を漲らせて挙手をした。こういった経営というか金稼ぎの方針決定の場でミミが先陣を切って発言するのは珍しいな。
「オーケー、聞かせてくれ」
「はい! 今回の宙賊基地襲撃で手に入れた戦利品なんですけど、アレイン星系で捌くのはちょっと勿体ないんですよね」
「ああ、なるほど。それはそうよね」
ミミの発言にエルマが同意する。なるほど、確かにそうだなと俺も納得する。表情を見る限り、ティーナとウィスカだけでなくショーコ先生も納得した表情だ。ピンときていないのはクギだけのようである。
「交易の基本ってやつだ。今回宙賊基地からかっぱらってきたものは基本的にこの星系で作られた産品だ。つまり、それをこのアレイン星系で売り捌こうとしても、あまり値がつかないわけだよ。何せ産地そのものだからな。商品が溢れてる」
「なるほど……つまり、お肉をお肉屋さんに売ろうとしても買い叩かれるから、お肉を使う食堂や一般のご家庭に売りに行こうということですね」
「うん、まぁ、そうね」
しかし何故例がお肉なのか? お肉好きだよな、クギは。そういや結局クギを連れて培養肉工場を再訪したのだが、クギにはグロ耐性でもあるのかまったく気にした様子がなかった。謎にメンタルが強いんだよな、クギは……俺はまた気分が悪くなったのに。
ちなみに俺以外の犠牲者を道連れにすることには失敗した。畜生め。
「アテはあるの?」
「はい! おばあちゃんから聞きました!」
そう言ってミミが卓に内蔵されているホロディスプレイを起動し、銀河地図を立ち上げる。
「少し遠いんですけど、このあたりの星系域でパンデミックの兆しがあるそうです。もしかしたら今から向かうと、パンデミックがもう始まっているかもしれないですね」
ミミが指し示したのはアレイン星系から十レーン以上離れている場所にある星系域であった。最寄りのゲートウェイなども見当たらないから、向かうとなるとコツコツとハイパーレーンを伝って移動するしかないな。
「パンデミックねぇ……危なくね?」
一口にパンデミックと言われても何がパンデミックしているのかがわからないと迂闊に近寄れない。インフルエンザみたいな罹ると辛いけど若くて体力があれば概ね死なない、程度のものならまだ良いが、未知の致死性ウィルスだの細菌だのとかだと困る。
「私を含めてこの船のクルーは大概の感染症に対応できるワクチンを打っているから、大丈夫だと思うけどねぇ。よしんばワクチンが効果を発揮しない新種の病原だとしても、感染対策をしっかりとすれば少なくとも我々がそのパンデミックに巻き込まれる可能性は大きく減らせるさ」
「それはそうかもしれんけども」
宇宙船内は閉鎖環境なので、そもそもそういったウィルスだの細菌だのを「持ち込まない、持ち込ませない」仕組みが完備されている。エアロックとか除菌室だとかもそうだし、空調自体にウィルスや細菌などの増加をチェックする高性能センサーが付いていたりもする。クルーの誰かが感染症に罹った場合、下手すると本人に自覚症状が出る前にセンサーが反応したりするわけだ。
最悪の場合全員が環境対応のスーツなり何なりを着るって手もあるし、そもそもそういうクルー達が何らかの病気でダウンした時の事を考えて今回ブラックロータスを改修したわけなのだが。
「うーん……まぁ、今回の改修の成果を見るって意味でも悪くはないか」
「そうね。今後はそういう星系域でも問題なく活動できるってことの証明にもなるし。傭兵ギルドへの実績アピールとしても悪くないと思うわよ」
「病気に苦しむ方々を救えるのであれば、それも功徳を積む道かと思います」
エルマは傭兵としての観点から、クギは……クギはどういう視点なんだ、それは。俺は修行僧とかじゃないんだが。まぁ人の助けになるのは良いことだよな。金は取るけど。
「オーケー、それじゃあそのプランで行こう。戦利品の売却はキャンセルして、山分けの内容もばあさんに掛け合って医療系の資材を優先でこっちに回してもらって、ついでに積めるだけ医療系資材や機械の類を積んでいく。もし行き先でパンデミックが起こっていなかったとしても、医薬品や医療系資材はどこでも需要は高いから不良在庫を抱えることにもならないだろ」
「そうだねぇ、医療関係の品は確かに飛ぶように売れてたと思うよ。持っていく物資の選定には私もミミ君に協力するね」
「頼んだ。ティーナとウィスカはショーコ先生に意見を貰いながら感染対策関係の準備を進めてくれ。エアロックとか除染室の用意とか、環境スーツの用意とかな」
「合点承知!」
「わかりました」
ティーナとウィスカがそれぞれ返事をする。さて、そうなると後は俺とエルマ、それにクギだが。
「俺達は戦利品に関してばあさんとの話し合いをするのと、傭兵ギルドと星系軍基地に行って今回の討伐報酬と賞金の受け取りだな。後はショーコ先生とミミの報酬分配率について相談だ」
「あっ……はい」
「よろしくねぇ」
なんとも言えない表情のミミと、にこやかに手をひらひらと振るショーコ先生の対比が実に印象的だな。実際のところ、俺とミミの関係性を考慮してどのような報酬分配率にするのが正しいのかはよくわからん話なのだよな。しっかりと聞いてくる必要があるのは間違いないだろう。
「それじゃあそういうことで。各員行動開始」
「「「アイアイサー」」」
☆★☆
ばあさんとの交渉は難航するようなこともなく、ごく簡単に終わった。
「あの子に話したのはあたしだからね。こうなるとは思ってたさ」
「そりゃそうか」
「ま、別にあたしらが損をする話でも無いしね」
ばあさん達に医療系以外の戦利品を分配し、向こうはそれをこのアレインテルティウスコロニーで売るなり、自分達で運べる分は別の星系に持っていくなりして売り捌いてエネルを稼ぐというわけだ。賞金や撃破報酬の分配条件については事前に話し合っていた内容で進めることにしたので、特に問題にはならなかった。条件に関しては既にお互いに確認して傭兵ギルドに送ってある。あちらで処理を進めてくれているはずだ。
え? 他人任せの部分が多い? そりゃお前、仕事はプロに任せるのが一番だよ。俺は船の操縦がちょっと上手いだけの男だぞ。一体俺に何を期待しているんだ。
「それじゃあ俺達は傭兵ギルドに顔を出しに行くから。達者でな」
「そっちもね。そのうちデカい山でも見つけたら声を掛けるよ」
「お手柔らかに頼むぞオイ」
ばあさんが言うデカい山とかどれだけデカいんだよ。勘弁してくれ。大宙賊団の家を焼きに行こうぜ! あたし達だけでな! とか言ってきそうで怖いわ。
溜息を吐きながら通信を切ると、出かける準備を終えたエルマとクギが俺をジッと見つめていた。
「なんだよ」
「いや、別になんでもないけど。あんたってなんだかんだ勤勉というか、真面目に働くわよね」
「素晴らしいと思います、我が君」
「急に褒められるの怖いんだが……? 任せるところは任せて丸投げしてるだろ」
「でも、自分でやれるところは自分でやってるじゃない。それこそメイとか私達に丸投げもできるのに」
「それが普通じゃね?」
「はいはい、そうね。それじゃその調子で傭兵ギルドにも行きましょうか」
「えぇ……何その反応」
上機嫌なエルマとクギに両腕をホールドされ、連行される。鈍感ではないつもりだが、マジで理解ができん。この程度で勤勉だとか真面目だとか言われるって、一体この世界の一般的な傭兵はどれだけぐうたらなんだよ……いや知るのが怖えわ。できるだけ調べないようにしておこう。




