#398 ばあさんとサシ飲み
今年の更新は今日で一旦終わり! 皆さん良いお年を!( ˘ω˘ )
「まだ戦利品の整理も船のメンテも何もかも終わっていないのに……」
「この期に及んで細かいことを気にする奴だね。一仕事終えたら酒と飯。傭兵の常識だろ? そんなのは後で良いんだよ、後で」
俺の隣に陣取ったセレスティアばあさんがそう言いながら酒をかっ食らう。結構強そうな酒だが、大丈夫なのかこのばあさん。
「うちにはうちのやり方があんだよ。あと、俺は下戸だ。酒は勘弁しろ」
「かぁーっ! 下戸だって!? それで傭兵名乗って恥ずかしくないのかい?」
「恥ずかしくねぇよ。あんま旨いと思ったことも無いしな」
「そりゃ旨い酒を飲んだことがないからだよ。下戸っつったってそんなもんはいくらでも治せるだろ?」
あまり飲んだことがないから旨さもわからないんだろうというのは確かにそうかもしれないが、その度にぶっ倒れたり前後不覚になって記憶を失うのはちょっとなぁ。
「そうかもしれないが、そうまでして飲みたいとは思わないんだよな……」
あまり旨いと思ってもいないものを飲むために身体改造まで行うか? という話である。この世界の技術ならその程度の身体改造というか体質改善は簡単にできてしまいそうだが。
「ノリが悪いねぇ、あんたは。まったく、あの子はあんたのどこがそんなに気に入ったんだか」
「それは俺にもわからん。でも俺はミミを大事に思ってるよ」
「男は乳のデカい女に弱いからね」
「確かにミミのおっぱいは素晴らしいものだけどな。それだけじゃないさ」
ばあさん相手にのろける趣味はないからこれ以上は口に出さないけどな。あんなに健気でまっすぐな子はそうそういないぞ。ミミの為なら命を賭けても惜しくはないさ。
「ふん? そうは言うけど、男としてあまり誠実ってわけでもないよね? アンタは」
「身の丈に合ってないことは自覚してる」
俺としてはこれでも気をつけているつもりなんだよ。でも、こう、どうにもこうにもならないことがあってな。世の中ってのはままならないものだよな。
「ま、あの子があんたにお熱な以上はあたしにどうこう言えることでもないんだけどね。仮に無理矢理あの子を連れて行ったとしても、あの子はどんな手を使ってでもあんたのところに帰ろうとするだろうし」
「そんなことは絶対に許さんが? ミミが望むなら……どうしてもって言うなら話は別だが」
俺としてはミミと離れるのは……うっ、考えただけで胸が。だけど、どうしてもとミミ自身が言うならその意志は尊重したい。多分しつこいくらいに説得を試みるだろうが、それでもとどうしても言うなら……やはり考えるだけで死にそうな気分になる。
「その様子だとただ遊んでるってわけじゃなさそうだね。ならいいよ。もしアンタがあの子の純粋な気持ちを弄んでいるようだったら引きちぎってレーザーガンで灰にしてやろうと思ってたんだけどね」
「ナニをだよ……恐ろしいばあさんだな」
このばあさんなら本気でやりかねないのが恐ろしいところだな。実際のところ、俺はそんな器用な事ができるような性分でもないから、そんな事態に陥る可能性は皆無だろうが。
「結果的には良かったのかもね。フォルトとマイナのことは残念だったけど、ミミは今、自由に宇宙を飛び回ってる。ミミは両親と一緒に平和な人生というものを失ったけど、代わりにアンタって存在と自由で刺激的な人生を手に入れた。釣り合いは、取れているのかもね」
「どうかな。ミミにそう思ってもらえるように力を尽くして行こうとは思うが」
「良い心がけだね。そうしな。泣かしたらババアが飛んできてやるからね」
「そりゃおっかねぇ」
実際のところ、このばあさんとガチでの殺し合いにでもなったらたまったもんじゃないな。メイから戦闘中の様子を聞いたが、ばあさんの船はかなり油断ならない性能をしているようだし。偏向シールドは十全に使いこなせるなら滅茶苦茶強いからなぁ。
通常のシールドは船の全方位に複数層のシールドを展開するものなのだが、偏向シールドは全方位ではなく、一定の方位にだけ集中して強力なシールドを張ることができる。扱いは難しいが、上手く使えば小型艦でも驚くほど堅く、分厚いシールドを展開できるのが強みだ。
クリシュナは至近距離で乱戦を行うことが多いから、あまり偏向シールドを使うのに向かないんだよな。何せ乱戦中は四方八方から撃たれまくるから。どちらかというと敵集団から一定の距離を保ってボコスカ撃ちまくるタイプの船に向いているシールドだ。
「で、聞いておきたいことがあるんだけどね」
「なんだよ」
「曾孫の顔はいつ見られるんだい?」
「鋭意検討中だ。今はお互いに傭兵生活が楽しいんでな」
「ふん? まぁ確かに子供は生むのも育てるのも大変だからね。でも、あんたんとこには有能なメイドがいるし、船医もいるし、大層な医療設備も整えたんだろ? ならもうすぐだね」
「ノーコメントだ」
実際のところ、今回のブラックロータスの改修はそういう事態にも対応できるようにという意図もあってのことではある。簡易医療ポッドだけでなく、ちゃんとした医療設備があればそういったことにも対応しやすくなるからな。ベビーシッターに関してもうちにはメイがいるし、何ならメイの部下としてメイドロイドを何人か増員しても良い。俺達も仕事中はともかくとして、移動中は手持ち無沙汰な時間も多いし、育児に関してはなんとか回していけどうな気がするけどな。
ショーコ先生が仲間に加わったからということで今回改修作業を行ったわけだが、もしショーコ先生が仲間として加わっていなかったとしても遠からず同じような改修作業はしていただろうな。船医に関してはそういう専門技能をインストールしたメイドロイド――この場合ドクターロイドとかナースロイドか?――を用意しても良かったわけだし。
「ま、もし子供が生まれたらちゃんと連絡するんだよ。顔ぐらいは拝みにくるからさ」
「気が向いたらな」
「アンタが連絡しなくてもミミが連絡してくれるだろうけどね」
なら俺に言うなよ。どうもこのばあさんは苦手だ。
「ヒロ様、セレスさん、お料理の準備ができましたよ!」
ちょうど良いタイミングでミミが俺達に声をかけてきた。これ以上ばあさんと話していると面倒なことになりそうだからな。本当に良いタイミングだ。
それに料理の準備ということは……恐らくミミチョイスのアレだろう。これはばあさんに一泡吹かせられそうだな。
「だそうだ。可愛い孫が用意してくれた料理だぞ。楽しんでくれ」
「んん? なんだいその顔は。何か企んでるね?」
「別に何も企んでなんかないさ。楽しみにしているだけだ。さぁ行くぞホラホラ」
警戒するばあさんの背中を押して既にニコラスとラティスが顔面蒼白になっているテーブルへと向かう。俺達はある程度慣れているが、ばあさんはどうかな?
 




