#397 戦いのあとのお楽しみ
メリークリスマス! 僕はお犬様とふたりきりだけどね!_(:3」∠)_
ブラックロータスの砲撃によって宙賊基地は文字通り穴だらけになり、制圧――というか掃討はほぼ完了した。無事なのは倉庫区画と発電区画くらいだ。
少し頭の回る奴なら物資が集積されている倉庫区画や、下手すると基地全体が吹っ飛びかねない発電区画が砲撃されることはないと気づいてそれらの区画に逃げ込んでいる可能性がある。まぁ、逃げ込んだところで袋の鼠なのだが。
ただ、そういう場所に逃げ込んだ連中というのは白兵戦で一発逆転を狙っているかもしれないからな。白兵戦で襲撃者を返り討ちにして船を奪えば確かに一発逆転だ。
『強襲ポッド、射出しました』
「オーケー、あとは仕上がりを待つばかりだな」
当たり前の話だが、俺達がわざわざ出向いてその思惑に乗ってやる必要など微塵も無い。うちには優秀な戦闘ボットが揃っているので、基地の外殻を破壊して突入する強襲型の突入ポッドで戦闘ボット達を突っ込ませてやるだけである。
丁寧にブリーチングをするのではなく、外殻を壊して気密性を奪いながら突入してくる戦闘ボットとか、生き残っている宙賊にとっては悪夢そのものだろうな。
「クーちゃん、浮かない顔ですね」
「そうですね……もう少しこう、どうにかならないものかとは思います」
「言うて宙賊だからなぁ……まぁ、中には『良い』宙賊もいるのかもしれないが」
個人レベルでは交流を持てるようなやつはいるかもしれない。でも宙賊だしなぁ……ヒトを加工して売り捌くような奴らとわかり合うのはちょっと。薬漬けにした上で手足ナイナイして出荷くらいなら序の口で、もっとこう、口にするのも憚られるような状態にされちゃってるヒトとかを見ちゃうとなぁ。
宙賊の戦利品の中にある食品の中で、ラベルも何もないようなのは間違っても口にしてはいけない。勧められても「いいえ。私は遠慮しておきます」ってな。そういうことも平気でやる連中だから。
「あれは姿形が似ているだけの別の生き物と思ったほうが気が楽だぞ」
「そういうものでしょうか……」
クギは箱入りだからなぁ。傭兵を生業としている俺についてくるなら、こればっかりは慣れてもらうしかない。宙賊は邪悪で、悪逆非道な連中だから慈悲など掛ける必要はない――ってのはある意味思考停止みたいなものかもしれないが、そういうのは皇帝陛下とかがなんとかする領分の仕事だと思うんだよな。一介の傭兵がなんとかできるような問題の範疇を超えてるわ。
『ご主人様。倉庫区画の掃討が完了致しました』
「了解。クリシュナは引き続き警戒を続けるから、向こうと協力して戦利品の選別と回収を始めてくれ」
『はい、ご主人様。軍への連絡は如何致しますか?』
「ああ、手間をかけるが連絡しておいてくれ」
『はい、お任せください。それでは』
メイとの通信を終了する。いつものことながら有能で実に助かるな。
「回収用のドローンを出して権限をブラックロータスに移譲しておいてくれ」
「わかりました!」
「はい、我が君」
☆★☆
俺達が乗っているクリシュナが警戒をしている間にブラックロータスとアントリオンから戦利品の回収ログがどんどん流れてくる。戦利品で目立っているのはやはりハイテク製品だな。
まぁ、ハイテク製品と一口に言っても内訳は様々なわけだが。例えばナノマシンの基になるナノマテリアルだとか、様々な薬品の基材となる化学物質だとか、レーザーなどの攻撃に耐性を持つ装甲材や特殊繊維の素になる特殊合金だとか、他にもメイにも使われている小型陽電子頭脳だとか。
どれもこれもなかなかの高額で売り捌けそうな品ばかりだ。これは戦利品の売上額にかなり期待できそうだな。
「ああ、そうだ。ミミ、今回の報酬分配から分配率を上げるからな。給料アップだ」
「えっ!? い、いえ、別に上げなくても大丈夫ですよ? 今でもお金とか全然使いきれてませんし」
「いや、ミミの働きを考えるとそうもいかないと思うんだよな。とにかくコロニーに戻って戦利品を売り捌く準備を終えたら、一回全員で傭兵ギルドにいって報酬分配率の見直しをしよう。そろそろ良い時期だと思うんだ」
この世界だと暦が星系ごとに違ったりするし、宇宙空間で寝起きしていると昼も夜もないし、その上ハイパードライブで恒星間航行なんかもするということもあって、日々の移り変わりというものを感じづらい。でも、そろそろミミを船に迎え入れて一年くらいは経つ筈……だよな? きっとそう。多分そう。
「そう、ですかね。でも、その、私とヒロ様は……ふ、夫婦? じゃないですか? いちおう?」
「普段あまり意識してないけど、そう言われるとそうなんだよな」
「むっ……」
ミミのほっぺたがぷくりと膨らんだ。ちゃうねん。可愛いけど、ちゃうねん。
「いや、夫婦だからとか関係なく、いっつも仲良くしているというかね……? 話がずれたな。それで?」
「むぅ……夫婦だと、そういう報酬の分配? とかその辺の扱いはどうなるのかなって思ったんです」
「なるほど、確かに。帝国だと夫婦で財布を完全に一緒にするのがメジャーなのかね?」
「うーん? どうなんでしょう。あまりパパとママからそういう話を聞いた覚えはないです。クーちゃんはわかりますか?」
「此の身も帝国のそういった事情は存じ上げません。帝国の、というか此の身どもの国でもどうなのかはよくわからないのですが」
ミミに話を振られたクギもそう言って首を傾げる。うん、これはやっぱりちゃんと話し合う必要がありそうだな。このへんの常識は誰に聞けば良いのかね。困った時のエルマか? それともショーコ先生か? ティーナとウィスカは……どうだろうな? うーん。なんか全員微妙そうな気がする。
やっぱり困った時には傭兵ギルドだな。アレインテルティウスコロニーに戻ったら早速訪ねてみよう。
☆★☆
戦利品の回収は何事もなく終わり、星系軍の巡回部隊も程なくして到着した。
彼らの目的は現場の調査と宙賊基地に使われている各種資材の確保だ。ジェネレーターをはじめとして、宙賊基地を構成している資材そのものリサイクルすればステーションやコロニーの資材として使用可能だからな。俺達は流石にそこまではしない――ステーションの解体や建築には専用の設備を搭載した船が要る――ので、連中にお任せである。
「今日はあたしの奢りだよ。乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
そして、アレインテルティウスコロニーに戻ってきた俺達はコロニーの酒場でばあさん達と打ち上げをしていた。どうして。




