#396 爆炎の中から
ワクチン接種後の体調不良が落ち着いたから投稿再開!( ˘ω˘ )
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「おやまぁ。器用な奴だねぇ」
「キャプテン、感心してる場合じゃないっす!」
小惑星を改造した宙賊基地の表面をまるで這い回るかのように動いてはタレットを的確に潰していく坊やの船を見ながら感心していると、ニコラスが切羽詰まったような声を上げた。
「肝の据わらない奴だねぇ。だからアンタはモテないんだよ、ニコラス」
「レーザーとシーカーミサイルの弾幕に晒されてる割には平常心保ててると思うんすけどね!?」
確かに宙賊艦からレーザーは飛んできているけど、どれも整備がガタガタのヘボレーザーだし、偏向シールドを前面に集中させればなんてこたないさね。シーカーミサイルに感してはメイドの船が即座にレーザーで迎撃してるから届きやしないし。楽な仕事だよ、まったく。
「マルチロック完了でぇす」
「はいよ。それじゃあ一番から四番、発射」
大量のストーカーミサイルがパパパッ、と何度も明滅させるかのように推進剤を燃焼させて宙賊の群れへと食らいつくように向かっていく。
『なんだ!? ミサイルアラート!』
『シーカーミサイルじゃないのか!? 的が小さすぎる!』
『早い! 迎撃できん――うわぁぁあぁっ!?』
混乱した宙賊どもがストーカーミサイルを迎撃しようとレーザーやらマルチキャノンやらを乱射しているけど、そう当たるもんじゃないさね。ストーカーミサイルの弾頭はシーカーミサイルの弾頭と比べると大きさは三分の一くらいで的が小さいし、燃料の噴射も散発的で光学的にも熱源的にも捕捉しづらいときてる。
「ああ、いいね。奴らの悲鳴を聞くと胸がスッとするよ」
「悪趣味ですよぉ……」
「何言ってんだい。くたばる宙賊の悲鳴を傍受して聴くのは傭兵の嗜みだよ。戦場音楽ってやつさ」
「えぇー……?」
ラティスは感性がまだ堅気のままなんだよねぇ。まぁ、堅気の感覚で考えればたしかに悪趣味かもね。やめるつもりはないけどさ。
「着弾。爆発四散っすね」
「汚い花火だねぇ」
宙賊艦一隻辺りにストーカーミサイル三発。これがアナイアレイターの宙賊確殺レシピだ。一発目で貧弱なシールドを吹き飛ばして、二発目で船体を粉砕する。三発目は前の二発のうちどっちかが空振りした時の予備だね。もし生き残ったら重レーザータレットの出番さ。
「しかし楽な仕事っすね。動く必要すらないとか」
「あっちは大変そうだけどね」
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「シールドセル!」
「はいっ!」
「シーカーミサイル来ます!」
「チャフとフレアもだ!」
「はいっ!」
思ったよりも宙賊基地の抵抗が激しい。セレスティアばあさんの情報に間違いがあったわけじゃないが……基地の防衛設備を指揮してるヤツの能力が高いのか?
降り注いでくるシーカーミサイルをチャフとフレアで騙しながらクリシュナを加速させて誘導を振り切る。当然、振り切ったミサイルはそのまま宙賊基地の表面に突き刺さって爆発するわけだが……図らずも宙賊基地にダメージが入っているのは不幸中の幸いとでも言うべきか?
「船を回すぞ!」
「はいっ!」
「はいっ!? うぐっ!?」
スラスター全開で宙賊基地の表面から離脱しながらフライトサポートを切り、サイドスラスターを使って反転する。予想通り、然程遠くもない位置にシーカーミサイルの群れだ。ミサイルアラートがさっきから鳴りっぱなしだよ。
散弾砲を連射し、追ってきたシーカーミサイルを一掃してから爆炎の中に飛び込みながら、重レーザー砲の射撃モードを自動照準から手動照準に切り替える。
「――ッ!」
息を止め、時間が緩慢に流れ始めた世界でクリシュナが爆炎を突き抜けた。
もどかしいほどに遅い照準の動きにやきもきしながら、こちらに砲口を向けているシーカーミサイルポッドに重レーザー砲の照準を合わせていく。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ――よし。
「はぁっ……! これで、終わりだ!」
「敵基地のシーカーミサイルポッド全滅です!」
「シ、シールドセル残り三つです!」
「三つあれば足りる。残りのレーザータレットを潰すぞ」
「「アイアイサー!」」
☆★☆
『お疲れ様でした、ご主人様』
宙賊基地のタレットを全て破壊し、抵抗手段を全てもぎ取ったところでブラックロータスから通信が入った。
「ああ、お疲れ。そっちは問題なかったか?」
『はい。こちらに損害はありません。ただ、宙賊艦の賞金はかなりあちらに取られてしまいましたが』
「そりゃ仕方ないな。宙賊艦狩りに特化したあの船相手じゃ分が悪い」
『圧巻だったわよ。アントリオンにも積もうかしら、ストーカーミサイル』
「それも良いと思うけど、弾薬費が嵩むのが問題なんだよなぁ。アレ」
威力が弱いからどうしても数を撃つ必要があるんだが、一発辺りの弾薬費は普通のシーカーミサイルとあんまり変わらないんだよな。シーカーミサイルとどっちが使いやすい? と言われればそりゃストーカーミサイルのほうが使いやすくはあるんだが、コストを考えるとちょっとなぁっていう。
「で、攻撃の調子は?」
『メインジェネレーター以外のバイタルパートを狙って順次砲撃しています。無力化もまもなくかと』
「オーケー、そのまま砲撃を続けてくれ」
ブラックロータスの艦首が激しく発光し、然程間を置かずに宙賊基地に爆発が起こる。何をしているのかって? 内部の人員を砲撃で減らしてるところだよ。
つまり、安全に物資をサルベージするために砲撃で基地を穴だらけにして基地の気密性を破壊しているわけだ。当然だが、普通の人類――広義の意味で――はきちんと適切に加圧されている、呼吸に適した空気が満たされた空間でなければ生存することができない。
稀に生身でも宇宙空間で活動できる種族もいるそうだが、まぁ殆どの場合は無理だ。宇宙空間に生身で放り出されれば一分も保たずにヒトは死ぬ。それは気密性の失われた宇宙空間の構造物の中でも同じことである。
人道的な対処? 何それ美味しいの?
いや、うん。わからないでもないけどね。現代日本に生まれた人間としては思うところがないわけでもない。でも、人道とやらは致死性のレーザーを防いではくれないからな。宙賊や居るかどうかもわからない犠牲者の命よりも俺達の命のほうが大事だ。
『お疲れさん。良い踊りだったよ』
「そりゃどうも。上手くやったな?」
『弾薬費でトントンさ。薄利多売は辛いね』
通信の向こうでニヤニヤしているのが脳裏に浮かぶようだ。確かに弾薬費はかかってるだろうが、基地の破壊ともなれば通常の賞金の他にも討伐報酬が入る。そうなると別に薄利ってわけでもねぇんだよなぁ? まぁ良いけども。宙賊の基地からサルベージした物資の売却益はこっちが七割だからな。最終的にはほぼ同じくらいの稼ぎになるだろう。
『処理が終わるまで一服させてもらうよ。ストレージ位置はわかってるね?』
「メイがしくじることはないから安心してくれ」
『なら結構。一服し終わったら連絡するから、そうしたらそっちもちょっと休みな』
「了解」
流石に完全に油断するつもりはないみたいだな。現時点で宙賊の抵抗は全て排除したが、基地が落ちたのに気づかずに戻ってくる宙賊がいないとも限らない。だから、ここで油断をすると実は結構危なかったりするのだ。
「コロニーに帰るまでが仕事だ。油断しないように行くぞ」
「わかりました!」
「はい、我が君」
クギもいつもの調子を取り戻したようで何より。というか、ミミは本当に動じなくなったというか、慣れたよな。真面目に報酬配分率のアップを考えよう。早速だが、今回の報酬配分からだな。
 




