#395 戦闘開始
日曜日にワクチンの四回目を打ってくるので一週間ほどくたばります。
ゆるして( ˘ω˘ )
「それで急遽出撃することになったと」
「そういうことだな」
クリシュナのシステムを立ち上げてセルフチェックプログラムを走らせながらミミに返事をする。クリシュナの整備に関しては整備士姉妹がしっかりと見ているので大丈夫――なのだが、出撃前にセルフチェックプログラムを走らせて自分の目で確認することは絶対に怠らないようにしている。整備士姉妹が完璧に整備しているから絶対ヨシ! ってやるのはちょっとな。彼女達も人間――抗議の意味で――なのだから、ヒューマンエラーを起こすこともあるわけだし。
「あの、ヒロ様。すみません。いつも私こうやって迷惑をかけてしまって……」
「別に迷惑じゃないし、仮に迷惑だとしても――」
「……迷惑だとしても?」
「まぁ、なんだ。ミミのためならなんでもないというかね?」
「どうしてそこでヘタれるんですか、もう。あはは」
ミミが笑い声を上げる。そうは言っても面と向かって言うのはちょっとクサいかなと途中で思っちゃったんですよ。ゆるして。
「……」
サブパイロット席に目をやると、クギが心なしか寂しそうな顔をしていたのでモフモフの狐耳がある頭を撫でておいた。これだけで尻尾をフリフリしてしまうクギはとても可愛いのだが、別にジゴロでもなんでもない俺のキャパシティはもう限界なので、もう少しお手柔らかにお願いしたい。
今更だとか自業自得だとかいう非難が飛んできそうだが、多分今の結果を知っていて最初からやり直したとしても同じことになると思うんだよな……となるとこれは俺の運命というか業みたいなものか。受け入れて、乗りこなそう。うん。
「えっと、今回もサーマルステルスで行くんですか?」
「そうしたいところだが、ちょっと難しいな。今回の基地も小惑星帯の中にあるんだが、セレスティアばあさんが持ってきたデータを見る限りサーマルステルスで近づくのは無理っぽい」
言いながら、俺はセレスティアばあさんが持ってきたデータをクリシュナのメインスクリーンに投影した。今回の標的はさっきも言った通り小惑星帯の中にあるのだが、真正面以外は小惑星の密度が濃い。つまり、小惑星を回避しながら基地に接近する必要があるのだ。
サーマルステルス中にスラスターを使うと一発で潜伏状態が露見してしまうので、今回は使えないというわけだな。残念ながら。
「それじゃあどうやって……って決まってますよね」
「そうだな」
「どうなるのでしょう?」
クギだけが首を傾げる。そりゃあどうなるって……なぁ?
「わがきみ! しょうとつ! しょうとつします!」
「大丈夫大丈夫」
クギが横でこの世の終わりみたいな声を上げているけど、流石にオーバーだと思うんだ。確かにほぼ最大戦速で小惑星帯を突っ切っているけど、俺は動かない石ころに船を当てるようなヘボじゃないし、万が一当たってもシールドがあるから大丈夫だよ。多分。
流石に目を離せないのでクギの様子を見ることはできないが、多分頭の上の狐耳をぺったりと後ろに倒して涙目になっているんだろうな。
「それよりも突破したらすぐ戦闘だから自分の仕事はちゃんとやれるようにな。集中だ、集中」
「は、はいぃ!?」
「大丈夫ですよ、クーちゃん。ヒロ様は自分から向かってくるわけでもない小惑星ごときに衝突するわけがありませんから。これより密度の濃い結晶生命体の群れの中でも平気だったんですから」
そう言うミミの声もなんか平坦になってる気がするんだが、大丈夫か君達。流石にこの速度で小惑星帯の中を突っ切るとなると流石の俺も集中しないとだからあまりケアできないんだが。
「ヒロ様、センサーの反応をいくつか拾ってます」
「まぁ、完全に無防備ってことはないわな」
いくら宙賊が頭クルクルパーなヒャッハー野郎だとしても、拠点ともなればそれなりに警備には気を遣っている――こともある。ガバガバなことも多いんだが、ここの連中はそんなこともないらしい。
「そろそろか」
「はい、そろそろ――来ました」
俺の視界の隅、レーダーの画面上に味方であることを示す光点が現れる。クリシュナが小惑星帯を抜けるまであと十数秒。正にジャストでベストなタイミングと言える。こんな正確なタイミングで超光速航行状態からワープアウトをしてのけたのは間違いなくメイの仕事だろう。
クリシュナのセンサーがワープアウトしてきた味方と宙賊基地が戦闘状態に突入したことを報せてくる。最初の一発はブラックロータスの大型EMLによる砲撃だろう。
小惑星帯を突っ切ってくるクリシュナの反応に気を取られていた宙賊どもは突如出現したブラックロータスとアントリオン、そしてセレスティアばあさん達への対応が遅れる。
そしてあっちの一撃が入ったところで。
「対艦反応魚雷、一番二番発射! ってな」
小惑星帯を通り抜けたクリシュナの下部ハッチから発射された二発の対艦反応魚雷が凄まじい速度で宙賊基地のタレット群へとすっ飛んでいった。
対艦反応魚雷自体の推進能力は大して高くない。普通に撃つと亀のような速度でゆっくりと飛んでいくものなのだが、今回のように発射する船が十分な速度を出している場合は話は別だ。発射された魚雷に慣性が乗ってとんでもないスピードですっ飛んでいくことになる。
「クギ、シールドセルの使用準備」
「は、はひっ」
クギの気の抜けたようは返事が聞こえた瞬間、クリシュナの直近――宙賊基地の表面に光の玉が生まれた。反応弾の炸裂によって膨大な熱量と光が発生したのだ。膨大な熱量が宙賊基地の構成要素である小惑星の表面とタレット群を飲み込み、爆散させ、その余波や破片がクリシュナのシールドへと襲いかかってきた。
「シ、シールドセル使用しました!」
「よし、上出来だ。あとは基地の表面を舐めながらタレットを潰していくぞ」
今の一撃で宙賊基地に配備されていたタレットの七割ほどが吹き飛んだはずだが、まだ他にもタレットはある。とりあえずは危険度の高いミサイル系のタレットを優先的に破壊していくか。
「ミミ、あっちとも連携してミサイルタレットの場所をピックアップしてくれ」
「わかりました!」
クリシュナのセンサーも小型艦としてはまぁ高性能な部類だが、それでもブラックロータスやアントリオンには負けるからな。情報をリンクしてもらったほうが精度は上がる。
「気合を入れろ。第二ラウンドだ」
「「はい!」」
二人の元気な返事が聞こえる。クギもなんとか持ち直したようで大変結構。それじゃあじわじわと手足をもいでいくとしますかね。




