#391 一難去って
さむい……はかどらない……_(:3」∠)_
「それじゃあね、ミミ。あいつに泣かされたらすぐに私に連絡するんだよ。ぐぅの音も出ないくらいにとっちめてやるからね」
「あはは……大丈夫ですよ。ヒロ様は優しいですから」
「フン……本当は連れていきたいんだけどね」
ジロリと睨めつけてくるセレスティアにとっとと帰れという意思を込めてシッシと手を払ってやる。
ミミを中心としたうちのクルー達とひとしきり話をして満足したのか、ババアが帰るというのでこうしてホテルのロビーまで見送りに来たのだ。わざわざ見送りに来たんだから穏便にとっとと帰ってくれませんかね? という俺の思いが伝わったのか、セレスティアが出入り口へと向かって――。
「ああ、そうだ」
――帰り際に何かを思い出したのか、立ち止まって俺に振り返った。
「あたし達以外にもあんた達をコソコソと嗅ぎ回ってる鼠がいるよ。身の回りには気をつけな」
「えぇ……? もう勘弁してくれよ」
厄介事が全部終わったと思ったら二重底でしたとか笑えん。
「このコロニーってそんなに治安悪かったっけ?」
「一応セキュリティレベルはクリーンの筈なんだけどねぇ……」
この情報にはショーコ先生も苦笑いだ。いや苦笑いで済む話じゃないんだがね。何にせよどこのどいつが何の目的で嗅ぎ回っているのかは突き止めて対処しなければならんな。
コロニーに長期滞在するって時に船を使えないとなると途端にこれだもんなぁ。船に滞在するなら外に出る時だけ気をつけて船で過ごす時は最悪の場合低出力でシールドでも張っておけばそれで安心なんだけど。万一船に侵入されても、ブラックロータスなら戦闘ボット達もいるし。
「まぁ、対応は変わらんか……どうせブラックロータスの改修完了まではイガセックに守ってもらうことになってるし、このホテルも値段相応にセキュリティはしっかりしてるだろうから」
「呑気だねぇ……自分で調べ上げて締め上げるくらいのことはしなよ」
「血に飢えたバーサーカーじゃあるまいし、そこまでやるかっての。俺は暇人じゃないんだ」
「女を周りに侍らせてよろしくやりたいだけだろう?」
「火事場に突っ込んでいくよりもその方が遥かに建設的だろう、常識的に考えて。トラブルには困ってないんでね。降りかかる火の粉を払うくらいの心持ちでいるのが一番なんだよ」
ただでさえ厄介事を引き寄せやすい体質だってのに、更に自分から首を突っ込んでいくとか絶対に御免だね。今までだって大体は巻き込まれてるからね、俺。自分から首を突っ込んだことは……無くもないか? 深く考えるのはよそう。うん。
「軟弱だねぇ……ミミ、ほんとにこいつでいいのかい? この様子だとまだ増えるよ?」
「大丈夫です。皆で仲良くしますから!」
「だってさ。少しくらいなら良いけど、ガチで泣かすんじゃないよ。タマもぎ取ってレーザーガンで炙られたくなければね」
「恐ろしいことを言うババアだなお前は……そうならないようにこれからも細心の注意を払っていくよ」
「フン……二人とも、行くよ」
「ういっす。またいつかっす、兄貴」
「ばいばぁい」
ニコラスが軽く頭を下げ、ラティスが手をひらひらと振ってからセレスティアと共に去っていく。またいつか会うことになるのかね? なりそうな気がするなぁ。あの婆さん、ファッキンエンペラーと同類の上に、奴よりも自由でフットワークが軽いときてるからな。絶対に何か厄介事を持ってくるに違いない。
☆★☆
「いやぁ、結局何事もなく平穏に終わってよかったなぁ」
「平穏に終わってないんだよなぁ……」
セレスティアが帰るなりラフな格好になって酒を手にしているティーナにツッコミを入れておく。というか皆さん揃ってラフな格好になってるじゃん。
「今日はもう部屋でゆっくりする方向になったのか?」
「まだなんか嗅ぎ回られてるかもしれないってのがわかってるのに、敢えて外に出る必要もないでしょ」
そう言いながらエルマがソフトドリンクのボトルを手渡してくる。確かにそれはそう。引きこもってトラブルが避けられるならずっと引き籠もっていれば良いんだよな。幸い、普段過ごしている環境が環境だけに俺達はずっと部屋に引き籠もっているのは苦にならないし。まぁ、それはこの世界のコロニーなど宇宙空間に住まう人達全般に言えることなのだが。
「せやせや。酒でも飲みながらホロムービーでも見てればええねん」
「のんびりするのも大事だと思いますよ、お兄さん。気を張ってばかりだと疲れちゃいますから」
「なんか思う存分酒を飲むために丸め込まれてる気がするんだが?」
「気のせいよ、気のせい」
エルマが半ば強引に俺をソファに座らせ、自分自身も俺の隣に腰を落ち着かせる。反対側にはウィスカが、そして膝の上にはティーナが座ってきた。なんてことだ、飲兵衛に包囲されてしまったぞ。
「お姉ちゃん、あとで交代だよ」
「うぃー、覚えてたらなー」
「もー」
ウィスカとティーナがじゃれあいを始める。見た目だけなら子供がじゃれあっているように見えるんだが、二人とも立派な成人女性な上に片手に酒を持ってるんだよなぁ。じゃれあうのは良いけど零すなよ、お前ら。
「クーちゃん! 遊びましょう!」
「はい、ミミさん」
最近、ミミはクギのことをクーちゃんと呼ぶようになった。順調に距離が縮まっているようで何よりである。二人でタブレット型端末を持ち出しているので、タブレット型端末を使った対戦ゲームか何かをするのかもしれない。
「お、これおもろそうやん」
「なんだこれ」
「深夜のファストフード店で店内を徘徊する人食いマスコットロボットをバイトがモニターで監視する映画らしいで」
「ジャンルは一応ホラーなのか……?」
「そんなマスコットとっとと解体しなさいよ」
「姐さん、身も蓋もなさ過ぎや」
「普通の企業がそんなマスコットロボット作るわけないし、三流のモグリが作ったマスコットロボなんだろうね。出処は宙賊とかかも?」
ウィスカがホロディスプレイに表示されているあらすじとプレビュー画像を見ながら謎の考察をしている。ウィスカの推理を採用したらホロムービーの内容が違法ロボ摘発二十四時みたいになりそうなんだが。
まぁ、折角金を払ったんだし、俺達はのんびりしながらイガセックにあくせく働いてもらうってのも一興か。しかし、またしても相手に心当たりがないな……他に考えられるのはショーコ先生の出自絡みくらいだが、昔の話だしなぁ。一体何が出てくるやら。




