#390 参考にならないって言われても困る
急に寒くなって捗らない……気圧のせいだきっと_(:3」∠)_
「どっと疲れたわ」
かなり神経を使って襲撃者対策を考えたというのに、実は相手はミミのお祖母さんで、ちょっとした嫌がらせをしてくれてやがっただけでした、とかもうね。
俺はソファに深く身体を沈めて脱力しながらミミやエルマ、それに整備士姉妹に囲まれて話をするファッキンババアを眺めていた。ショーコ先生は話が落ち着いたということで一人少し離れたところでタブレット型端末を使って何か作業をしている。実にマイペースな人だな。
「我が君、尻尾をどうぞ」
「あぁ~……癒やされるわー」
隣に座ったクギのもふもふ尻尾が俺の手を撫でる。モフモフ加減も素晴らしいんだけど、いい匂いがするんだよなぁ、クギの尻尾は。永遠に吸引していたい。
ああ、イガとコウガのニンジャの皆様には連絡をして最低限の人員だけ残して解散してもらっている。もうお互いに和解というかなんというか、荒事になることはないということでな。
「ご主人様、肩をお揉みします」
「さんきゅー……あー、そこそこ。効くわー」
「……俺、絶対ビッグになるっす」
「あそこまでは無理じゃないです~?」
そんな俺をババアのお供の若い男女が眺めていた。そういやこいつらの名前とか聞いてなかったな。
「すまんな。ストレスから急に解放されたもんで。そういや名前を聞いてなかったと思うが」
「あ、俺はニコラスっす。セレスさんに拾われてメカ弄りとか使いっ走りやってるっす」
「私はラティスですぅ。同じくセレスさんに拾われてオペレーターやってまぁす」
ニコラスにラティスね。見たところ両方とも普通の人間っぽいな。ニコラスは若干ひょろい感じでソフトモヒカンな傭兵風の男、ラティスはおっとりとした雰囲気の女性だ。おっぱいは普通。顔つきは地味めだけど整ってるかな。二人とも特に身体を鍛えている感じはしないし、白兵戦能力が高そうな感じではないな。
「めっちゃ品定めされたっす」
「視線が露骨ですよぉ?」
「職業病みたいなもんってことで一つ。メカニックとオペレーターとなると俺の眼じゃどうにも実力を測りにくいね」
「あー、まぁ俺は多分そこそこっすよ。ラティスの方は凄いっすけど」
「それほどでもぉ。そこのメイドロイドさんには敵わないと思いますしぃ」
「個人の能力でメイに勝てる人間はもう人間の枠組みを超えていると思うぞ……俺でも航宙戦以外ではメイに勝てる気はしないし」
実はシミュレーターでメイと同じ機体を使ったミラーマッチを何度かしたことがある。正に機械といった感じの正確無比な操艦をしてくるんだが、それ故に行動が読みやすいんだよな。必ず最善手を打ってくるから、それに対処すれば勝つのは意外と難しくない。
「えぇ……? そのメイさんって、小型陽電子頭脳を搭載したフルスペックの機械知性ですよねぇ?」
「そうだが?」
何故かドン引きしている様子のラティスに答える。
「その本気に勝てるんですかぁ? シミュレーターの航宙戦でぇ……?」
「今のところ十二戦全勝だ」
「はい。十二戦全敗です」
「うそぉ……?」
ラティスに完全にドン引きされた。どうしてだよ。
「そんなに凄いんすか?」
「機械知性相手に数で圧倒するわけでもなく、一対一のミラーマッチで勝つのは極まった変態さんですねぇ……例えるなら毎回パターンを変えてくる鬼畜難易度のクソゲーをノーミスで一発クリアしているようなものですよぉ?」
「えぇ……何すかそれ、想像つかないんすけど。ゴールドランク用のテストプログラムとどっちが難しいんすかね?」
「ああ、メイのほうがずっと歯ごたえがあるな。アレはヌル過ぎるわ」
こっちに来てすぐ、傭兵ギルドに登録した時に実力を見るとか言ってやらされたな。ヌルすぎてあくびが出そうな内容だった覚えがある。
「よくわかったっす。極まった変態なんすね」
「極まった変態さんですねぇ」
「女の子に言われるのはともかく、野郎に言われるのは腹が立つな」
女の子に変態さんって言われるとちょっと興奮する。しない? そう……? いや待て、クギとメイはなるほどみたいな顔をするんじゃない。別にそういうプレイがしたいわけじゃないから。
「兄貴、どうやったら兄貴みたいに沢山の女の子とイチャイチャできるようになるんすか」
「誰が兄貴か。しかし、どうやったら、ねぇ……運とタイミング?」
「参考にならないっす!」
真顔で聞いてきたニコラスに俺なりに真摯に答えたのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。
「俺だって狙ってこうなったわけじゃないからわかんないよ。ただ、思い切りとか一歩踏み出す勇気とかは要るんじゃないか? ミミとの出会いはなんとなくさっき話したよな?」
「聞いたっすね」
「無垢な少女がピンチのところを傭兵に助けられて、船に連れ込まれて無理矢理……でも最終的に相思相愛になっちゃうとか、ホロ小説にありそうな展開でしたねぇ」
「無理矢理じゃないからね? 連れ込んだ後にびっくりさせられたのは俺だからね? まぁミミの件はそれこそ今行ったように思い切りと一歩踏み出す勇気ってやつだったわけだ。で、エルマに関しては……やっぱトラブってピンチだったところを助けた」
「どうやったらあんな可愛い子とか美人さんのピンチにそんなに遭遇するんすか」
「あー、運?」
「参考にならないっす!」
それこそクギが言う俺の運命操作能力とやらが関わっていそうな気がするんだが、俺自身には何もしている自覚がないんだよなぁ。だからもう運と言わざるをえない。
「まぁエルマを助けるのも手持ちの金をほぼ全部擲つ必要があったからな。これも思い切りだよな」
「あとは経済力、ですねぇ?」
「やっぱ世の中金なんすね」
「世の中金で何とかできることが多いのは一つの真理だろうな」
金で全てが解決するってわけではないけどな。相手が金やモノに興味を持っていなければなんともならないわけだし。
「俺の運が普通の人と違うのは自覚しているけど、良いことばっかりじゃないからな? 何かとトラブルに巻き込まれやすいんだよ、本当に……本当に」
「一瞬で目が濁ったっすね」
「軍の将校に目をつけられて部下にならないかと付け回さるわ、宙賊の基地をぶっ壊してコロニーに戻ったら訳のわからん化け物どもがコロニー内で繁殖して阿鼻叫喚の地獄絵図になっているわ、帝国貴族のゴタゴタに巻き込まれて斬りかかられるわ、件の将校に付き合わされて生身でテラフォーミング中の惑星に降下することになった上に、体長十数メートルはある生物兵器と戦う羽目になるわ……オラ羨ましいだろ、代わるか?」
「絶対に嫌っす。命がいくつあっても足りないっす」
ニコラスに真顔で断られた。ですよね。俺だって逆の立場なら断るわ。
「結晶生命体の群れに単艦で突撃した件もありますが」
「あれは別に危なくなかったし」
「ちょっと何言ってるかわかんないっすね」
「さすがにクレイジーと呼ばれるだけはありますね」
「それ久しぶりに聞いたけどシンプルに悪口だと思わんか?」
ふわふわと動くクギの尻尾を捕まえてモフりながらラティスにジト目を向けてやる。おい、目を逸らすな。目を逸らすってことはお前もそう思ってるってことだな?
「あーっと、その、そっちのクギ、さん? とはどういう……?」
「強引な話題転換だな……クギとはー……えーと、なんと言ったら良いんだろうな?」
「運命です」
「だそうだ」
「またもや何の参考にもならないっすね。じゃああっちのドワーフのお二人とは?」
「整備を頼んだ船の様子を見に行ったら姉がぶん投げた妹が俺に直撃した」
「はい? もう一回言ってもらって良いすか?」
「整備を頼んだ船の様子を見に行ったら姉がぶん投げた妹が俺に直撃したんだ。それでなんやかんやあってシップメーカーからの派遣扱いでうちのメカニックになった」
「なんやかんや、ですかぁ」
「姉妹の名誉のためにも詳細は言えないが、色々あったんだよ……で、その後は金だな」
「金っすか」
「やり手の船のメカニックって儲かるだろ?」
「そうなんすかね? まぁ、確かに会社勤めとは比べ物にならないかもっすね。月給5000も行かないって話っすからね」
自分がそうだから、傭兵の船で働くメカニックの稼ぎについてはそれなりに把握しているよな。
こいつらの船の設備がどの程度のものかはわからないが、ブラックロータスの格納庫ほどの設備は無いとしても、最低限の道具さえ揃えてあれば宙賊艦から装備を引っ剥がして整備して売るだけでも相当な稼ぎになるからな。メカニックがいるかいないかで傭兵の収入は結構変わるもんだ。
「勿論金だけじゃないけどな。結局は運と相性だと思うよ」
「そっすか……」
すまんな、有用なアドバイスができそうになくて。でも、何にせよまずは身近な人を大切にすると良いと思うぞ。俺は。野暮になりそうだから何も言わないけど。
 




