#379 何も全部自分達だけで解決する必要はないよね
今一つ捗らなかった_(:3」∠)_
俺達が商談室に入ろうとすると、勝手に扉が開いてメイが出迎えてくれた。
「お疲れさん、メイ。どんな塩梅だ?」
「はい、ご主人様。こちらの要望を伝え終えて候補となる設備のピックアップをしているところです」
「なるほど。それじゃあまずはこっちの件に注力するか」
「はい、ご主人様」
あの敵意というか殺気の件に関しては俺個人に向けられただけのものならなんとでも対処できるだろうし、ここまで歩いてくる間に策も思いついたからな。まぁ策というほどのものでもないけど。
「この度は当社をご利用頂きありがとうございます。オカモト商会のテラダと申します」
「どうも。このディーラーに決めたのはそこの二人だけどな」
店の選定に間しては俺は完全にノータッチだから、この店を選んだ件でお礼を言われてもな。とりあえず小型情報端末で彼のホロ名刺を受け取り、メイに促されるままに席に着く。
しかしオカモト商会のテラダさんね。なんか日本っぽい名前が多いな、アレインテルティウスコロニーには。ショーコ先生の名前もそうだし、イナガワテクノロジーもそうだし。何か理由があるのかね?
「主に研究設備を使う専門家はそっちのウィスカとこっちのショーコの二人だから、基本的には彼女達の要望を満たす方向で。予算に関してはメイに一任する」
「承知致しました」
「はい、ご主人様」
なんだかんだで金も結構貯まってるからな。どっかに移動する道中で宙賊をちまちまとしばいたり、この前の軍の依頼みたいに日数で賃金が発生するようなのもあるし。ざっと残高をチェックしてみると、五千万エネルほどになっていた。ミミに任せてる交易も馬鹿にならない金額が入ってくるし、ドワーフ姉妹が剥ぎ取る戦利品の売却益も相当なものだからなぁ。
まぁ、その。相手が宙賊ってだけでやってることが追い剥ぎと変わらん、と言われると反論のしようもないんだが。相手が宙賊だし多少はね? 許されるようんきっと許される。
「シュンダイメトリック社製のチャンバースキャナーは絶対にあったほうが良いよ」
「もうちょっと大きな部品も作れるレプリケーターも欲しいんですけど……」
「それならこちらの商品が」
「ではこのスペースをこのように改築しましょう」
「あー、それとうちの――イナガワテクノロジー製の医療ポッドの最新型もあったよね?」
研究者と技術者と商会員とメイドロイドがブラックロータスのホログラムやら商品カタログのようなものを表示した多数のホロディスプレイを囲んで改築案を話し合っている。俺とクギはそれを眺めながらディーラー所属のコンパニオンガイノイド――オリエント製のメイドロイドかどうかまではわからない――が淹れてくれたお茶とお茶菓子を堪能する。
「美味しいですね、我が君」
「良いお茶とお菓子だな」
メイとウィスカがどのようにこの店と接触したのかはわからないが、上客と見做されたのであろう。天然物というか本物のお茶っ葉から淹れられたものかどうかは判別がつかないが、とても粗茶とは言えなさそうな香り高いお茶である。一緒に出されているお菓子も落雁のような砂糖菓子で、あまりこちらの世界に来てからは食べた覚えのないお菓子だ。あまり向こうでは得意じゃなかったんだが、温かいお茶と一緒に頂くとなかなか良いものだな、これは。
「エルマ様達はご無事でしょうか?」
「もうすぐ着くってさ」
クギが聞いてきたところで丁度小型情報端末にエルマからのメッセージが届いた。ミミ達が着いたら急いで動かないとな。はてさて、簡単に手配できるものなら良いんだが。
☆★☆
「無事で何より」
ディーラーであるオカモト商会に着いたエルマ達にそう声をかけると、エルマにあからさまに呆れられた。
「ヒロじゃあるまいし、こんな治安の良いコロニーでそうそうトラブルになんて見舞われないわよ」
「やめてくれエルマ。その術は俺に効く」
そうはっきり言われると胸に突き刺さるものがあるんですよ。
「ヒロ様、大丈夫ですか?」
その一方、ミミはこうして心配してくれるというね。やっぱミミは天使だな天使。エルマもああ言いつつも心配してくれてたようだけど。
ちなみにティーナは挨拶もそこそこに俺の無事を確かめると、「ヨシ!」と言ってブラックロータス改築計画を話し合っている中央のテーブルに突撃していった。何がヨシなんですかね?
「別に何かされたわけじゃないから大丈夫だ。ただの被害妄想なら良いんだがなぁ」
そう言ってちらりとクギに視線を向けると、彼女は目を伏せながらふるふると首を横に振った。俺だけでなくクギも同じようにあの敵意だか殺意だかを感じたというのなら、やはり俺の勘違いだとか被害妄想だとかで済ませてしまうのは早計というものだろう。
「で? どうするの? さっさとケツまくって逃げても良いと思うけど」
「それもそうなんだが、正体くらいは確かめないとだろう」
どの程度の脅威なのか確かめないことには判断も難しい。これでその辺のチンピラに殺意を向けられただけとかだったら笑えるんだが、そうはいかない予感がビンビンするんだよなぁ。
「何か案があるんですか? 結構危険だと思うんですけど」
「あるさ。危ないならアウトソーシングすれば良い」
そう言って俺は手に持っていた小型情報端末の画面を二人に見せた。そこには俺が調べている途中のアレインテルティウスコロニーで活動しているセキュリティサービスの情報が表示されている。
「ああ、なるほど。確かにアリね。それなりに金額はかかるけど……出費は大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。いざとなったら稼げば良いし」
ここアレイン星系はハイテク星系なだけあって商品価値の高い交易品が多い。そうすると、それを狙った宙賊どもの活動も活発になる。更に言えば行き交う人々もそれなりに身なりが良いというか、富裕層が多かったりもするからな。人質ビジネスなんかも盛んだ。つまり俺にとっては良い狩り場なわけである。
「それじゃあ早速良さげなところを見繕いますね! どういう感じのサービスが良いでしょうか?」
「金はかかってもいいから、あっちにカウンターできるような所が良いな。襲撃者が居る前提で、網を張るなり狩り出すなりできるところが良い」
「わかりました、そういう条件で探してみます」
そう言ってミミがタブレット端末を専用ポーチから取り出してセキュリティサービスの情報を探し始めた。こういうのはミミに任せておくのが一番だ。情報の精査をメイにしてもらえば完璧だな。




