#372 今までとこれから
昨日は未明から激痛に悶え苦しんだり病院に行ったり石が見つかったりなかなか鎮痛剤が効かなかったり大変だったよ……!
病欠したので振替更新。ほめていいよ!_(:3」∠)_(謎のドヤ顔
さて。最辺境領域からアレイン星系へ向かうとなると、ルートは……まぁいくらでもある。とはいえ、普通に行くと滅茶苦茶に遠いので、俺達はゲートウェイを使うわけだが。
ゲートウェイを使うとなると、ルート選択の余地は殆ど無かった。
「最寄りのゲートウェイからアレイン星系直近のゲートウェイに飛んで、そこからアレイン星系へと行くというわけだねぇ」
「あー……まぁ、そうね」
枕元でタブレット型端末を操作してそう言うショーコ先生に俺は生返事を返す。なんというか、色気も何も無いピロートークだなぁ、などと思いながら。
まぁ、うん。ご覧の通り手を出してしまったのけれども。
「何か言いたげだね?」
眼鏡を外した素顔のショーコ先生が顔を寄せてきてそう言う。美人さんだなぁ。
「誘われるままに手を出しておいてなんだけど、良かったのかなと」
「うん? 良かったよ? みっともない姿を見られて恥ずかしかったけどね。やっぱり経験の差は如何ともし難いよねぇ」
そう言ってショーコ先生はニンマリと笑みを浮かべて見せる。
「ご馳走様でした……って違うそうじゃない。なんかこう、あるじゃん。段階を踏んでというかね?」
俺がそう言うと、ショーコ先生は少しキョトンとした顔をした後に再び口元を綻ばせて見せた。
「別にお互い甘酸っぱい恋がしたいティーンエイジャーというわけでもなし、良いんじゃないかな? 私は大満足だけど、キャプテンはそうじゃないのかい?」
「勿論俺も大満足だけどな。なんというかこう、恋はともかくとして愛的な意味で若干の心配が?」
「愛、愛ねぇ……? 私はそういうのはよくわからないんだよね。両親もいないし、この世に生まれてこの方、そういう感情に触れた覚えがないから」
「おん? 重い話?」
「人によってはそう捉えられるかもね。私にとっては普通のことで、それについて何か言っても仕方のないことだから気にもしてないけれど。私は私だしね」
ショーコ先生はそう言いながらタブレット型端末を枕元に置き、同じベッドに寝ている俺と向き合うようにころりと体勢を変えた。
「私はね、人造人間なんだ。広義の意味ではね」
「広義の意味?」
「うん。身体の作りそのものは人間の女性と同じだよ。ちゃんと子供だって産める身体だ。ただ、私は硝子と金属で出来た子宮から産み落とされたのさ。今はもう存在しない、とある星間企業の研究施設でね」
そう前置いてショーコ先生は自らの出自を語った。要約すると、彼女はとある星間企業とやらが優秀な研究員を『量産』する目的で作った子供で、様々な人間の優秀な遺伝子情報を統合して作られたデザイナーベイビーというやつであるらしい。
ああ、つまりアレだね。種で運命な機動戦士に出てきたアレだ。種がパリーンって割れて凄い能力を発揮する。なるほどなるほど。いや、ショーコ先生は種がパリーンしたりはしないだろうけど。
「最終的に私を製造した企業は違法な生命創造だのなんだのと、まぁ色々とやらかしていてお取り潰しになってね。私は帝国政府に保護された後に色々と検査を受けたりして、イナガワテクノロジーに引き取られたわけさ」
「へー、ショーコ先生もなかなかに波乱万丈な人生を送っているんだな」
「……それだけかい?」
「うん? うん、ショーコ先生が愛とか恋とかがよくわからないって理由はわかったよ。まぁそういうのは身体で繋がってから徐々に育んでも良いよな、と思い始めたところだ」
ショーコ先生に言ったら怒られるか呆れられるかしそうだけど、遺伝子レベルで調整された人造人間ってなんかかっこいいよね。そもそも、エルマもそうだけど帝国の貴族なんかはサイバネティクスやバイオニクスで身体強化しているわけだし、そういうのと同じっちゃ同じだよな? なら別に忌避するような筋合いもない。
というか、それを言ったらなんだかよくわからない理由でこの世界に迷い込んできた俺のほうがよっぽど気味の悪い存在だろうし。
「この話を聞くと気味悪がる人が多いんだけどねぇ」
「俺は別にそう思わないけど。ショーコ先生的に特に段階を踏まずに俺とこういう関係になっても問題ないって思ってるなら今はそれでいいや。後のことはなるようになるし、するから」
ティーナとウィスカの整備士姉妹やクギに手を出すのには時間がかかったが、ショーコ先生が相手なら特に問題もないだろうと思ったんだよな。彼女はエルマと同じで自立した大人の女性だし。
それを言えばティーナとウィスカもそうだったんだが、二人は見た目がな……今はもう慣れたけど。危険な扉が開いた気がするが、今更気にしても仕方があるまい。
「あ、その顔はわかるよ。他の子の事を考えているね? いけないんじゃないのかい? そういうのは」
ショーコ先生が俺の頬を摘んでゆるゆると引っ張ってくる。どこかのエルフだと悶絶するぐらい抓ってくるんだが、こういうところはやっぱり人それぞれ――おっと、いけないけない。
「仕方のない男だなぁ……もう少し私に夢中にさせてあげようか」
「よし、受けて立つぞ」
今は何も考えずにこの温もりを大事にしよう。うん。
☆★☆
「上手くいった事自体は良いことなんやけど、納得いかんよなぁ?」
「じー……」
翌朝、ショーコ先生と一緒に起きてブラックロータスの休憩スペースへと足を運んだ俺はリトルなギャングに絡まれていた。バチクソに威圧というか不満げな様子を隠しもせずに絡んできているのだが、まぁ本気ではなさそうな感じではある。
「クギも言ったれ」
「ええとぉ……その、此の身は特に文句などは無いのですが」
ティーナに担ぎ出されたクギが珍しく苦笑いを浮かべている。クギは何においても俺が一番。本当に心配になるくらい俺を全肯定してくれるから、こういう風に不満をぶつけるぞ! と担ぎ出されるのはあまり性に合わないのだろうな。
「二人は種族差というか見た目と立場のギャップが原因で、クギに関しては危ういと思ったからだから堪忍してくれ」
「危うい?」
「あー……今でも若干思ってるんだが、クギはもう俺に絶対服従というか、全肯定というか、俺が黒いものを白といえば白ってことにする雰囲気があるというか……な?」
「ん、んんー……まぁ、それは若干わからんでもないけど、別にクギだって盲目的に兄さんを肯定しとるわけやないと思うで?」
ティーナがそう言ってクギに視線を向けると、クギは大きく頷いてみせた。
「そうですよ、我が君。無論、お役目のこともありました。ですが、今はそれだけでなく心から我が君の事をお慕いしています」
「正面からそう言われると照れるが……」
しかし心から慕われるほどクギとの絆はそう深まっていないように俺からは思えるのだが……ん? もしかして。
「テレパスか?」
俺の問いにクギは答えずにただにっこりと微笑んでみせた。なるほど、クギは他人の頭の中身を覗ける訳では無いが、無意識に発されている思念波を読み取ることには長けている。クギによって能力を覚醒させられる前の俺は力も思念波も垂れ流していたわけだから、クギはそれを読み取っていたわけだ。道理で懐くというか、慣れるのが早いわけだよ。
「それはズルくないか?」
「今はもう大丈夫なので」
などとクギとやり取りをしていると、ウィスカが俺の膝の上にダイブしてきた。しまった、放置しすぎたか。
「……にゃーん」
「ぶふっ!」
俺の膝の上を占領したウィスカがごろりと膝の上に体勢を変え、猫の鳴き真似をしながら俺の顔を見上げてきた。なんだこの可愛い生き物は。
「うぃ、ウィー……なんちゅうあざといことを……っ! 恐ろしい子っ!」
「自分でやってて凄く恥ずかしいよ、これ……」
ティーナに突っ込まれたウィスカが顔を真赤にして両手で覆い隠してしまう。
そんな俺達の様子を見ながらミミとエルマ、それにショーコ先生が食堂からこっちを見ているが、三人で集まって何の話をしていることやら……険悪そうな雰囲気は感じないから、別に何の問題も無さそうではあるが。
「ショーコ先生にあんまり夢中にならんでうちらのこともちゃんと構うんやで。平等は大事だと思うんよ、うちは」
「OKOK、今晩のお誘いってことだな?」
「ちゃう……! くは、ないけどぉ……むーっ!」
「ぐほぉ!? ちょ、パンチはやめろ! マジで効くから!」
照れ隠しの一撃が重い。まぁ、この調子だと道中でも退屈する暇は無さそうだな。干からびないように気をつけよう。




