#370 任務完了
暑くて捗らなかった(半融解
一区切りということで原稿作業のため、しばらくお休みします! 許してね!_(:3」∠)_
「思うんですがね」
『なんですか?』
「この指揮官先頭みたいなクソ文化どうにかならないんです?」
血の海となっている宙賊基地司令室の中心で至極真っ当な意見具申をする。
辺りに転がるのは宙賊『だった』ものの残骸だ。生きたままの確保も出来なくはなかったと思うのだが、セレナ大佐は即断即決で捕虜は取らないと明言した。なので、ご覧の有様である。
『なりませんね。これが一番早いですし』
そう言ってセレナ大佐が血振りをしてから自分の剣を鞘に納める。グラッカン帝国の貴族が振るう剣というのは鋼で作られた日本刀と違って錆びないし、剣の鞘にはナノマシン技術を使った浄化・整備機構がついているからこれで事足りてしまうんだよな。お手入れ。まぁナノマシンが分解した血やらなにやらを定期的に鞘から取り出して捨てなきゃならんのだが。
なんというか、基地の攻略戦は実に簡単なものであった。パワーアーマーを装着した帝国海兵の絶大な火力による制圧射撃。そして俺とセレナ大佐が敵に吶喊し、瞬く間に全てを斬って捨てる。その繰り返しである。苦戦のくの字も無い。
強化手術をしているわけでも高度な義体化をしているわけでもなく、パワーアーマーすら装着していない宙賊が完全武装の精強な帝国海兵と、オーダーメイドのパワーアーマーを装備した貴族将兵に勝てる道理がないのである。ついでに俺みたいなわけのわからんのもいるし。
『ご主人様、基地内の制圧を完了致しました』
「タマは?」
『北ブロックの倉庫らしき区画に保管されています。几帳面な者でも居たのか、綺麗に並べてあります』
「几帳面な宙賊ねぇ。まぁそんなのもいるか。とりあえずご苦労さん。こっちはデータの引っこ抜きに入る。戦闘ボットの回収準備を進めてくれ」
『アイアイサー』
ブラックロータスが軌道上から上空まで降下してきて、それから通常の降下ポッドを使って戦闘ボットを回収するらしい。
「撤収はどうします?」
『タマを運ぶために艦隊の駆逐艦と降下ポッドがすでにこちらに向かってきていますので、そちらで回収します』
「なるほど。じゃあ俺はここの処理が終わり次第お役御免ってことで船に戻りますけど」
『……私の心の中の無垢な少女はそんなことが許されて良いのか? と叫んでいますが、冷静な帝国軍人の大佐はそれを止める合理的な理由が見いだせないので許可します』
「それってつまり個人的に根に持つってことじゃねぇか! 面倒くせぇな!」
そういうとこだぞ、大佐。まぁ、これはこれで甘えているのかもしれんが。こんなかつて人間だったものがツキジめいて転がっている血の海でそんな甘え方をされても反応に困るわ。
☆★☆
宙賊基地の制圧を終えた俺はクリシュナに乗ってブラックロータスまで戻り、整備士姉妹にニンジャアーマーの防疫処置などを施してもらった上でやっと一息つくことが出来た。
「どーん」
休憩スペースのソファに座ったところで早速ティーナが俺の膝の上に上半身を投げ出してくる。整備士姉妹も一緒にシャワーを浴びてきたので、三人とも湯上がりなのだ。
「構って欲しいのか? オラオラ」
「にょあー」
ひっくり返って顔を見上げてきたので、両手の平でティーナの頬を左右から挟んでやる。あっちょんぶりけ。ふふふ、罪なもちもちほっぺただな。いつまでも触っていられそうだぜ。
「んっ」
「なんだこの可愛い生き物」
ティーナのほっぺたを好き放題していたら、ウィスカが近くに寄ってきて俺の手の甲にほっぺたを押し付けてきた。わんこか何かかな? よーしよしよしよし。
「んにゅにゅにゅにゅ」
ミミとエルマ、それとクギは上空での近接航空支援を続けるために俺をブラックロータスに降ろしたあと、すぐに再出撃していった。なので、今ブラックロータスに乗っているのは俺とティーナとウィスカ、それにメイだけである。メイはコックピットで操艦に専念しているのでここにはいない。
「戦闘ボットの整備は良いのか?」
「天下のイーグルダイナミクス製やから、うちらがすること殆どないんよね」
「お兄さんが運用システムをまるごと導入したので、メンテナンスもほぼ自動化されているんですよ。もちろん、全部終わった後にチェックは必要なんですけど」
「なるほど。そういえば他にもビックリドッキリなメカが隠してあったりしないだろうな? あの強襲ポッドには驚いたぞ」
「兄さん、買う時にちゃんと資料見たやん」
「斜め読みしかしてないし、じゃあそれでって感じで決めたから……」
ワタシ、ムズカシイコトワカリマセーン。スペックと汎用性の高さだけで決めたからな、最終的には。後で整備士姉妹に色々教えてもらうとするか。
「安い買い物じゃないのに……お兄さんって妙に慎重なところと妙にこう、ガバガバなところがありますよね」
「大金持ってると気がついたらカツカツになってるタイプやね。うちらみたいなのが財布の紐をギュッと締めたらんと」
「ティーナはともかくウィスカはダメじゃね? アーティファクトショップでなんかよくわからんオブジェ買おうとしてたじゃん」
「うっ……あ、あれはちょっとした気の迷いですから」
などと話していると、エルマからブラックロータスに戻るというメッセージが俺の小型情報端末に入ってきた。どうやら三角錐氏との接触は平和裏に終わったということで警戒態勢が解除されることになったらしい。
「エルマ達も戻ってくるとさ」
「それじゃあ私達の独占タイムは終わりですね」
「短い天下やったなー。まぁ姉さん達が帰ってくるまでは存分に味わってとこか」
俺の太腿にほっぺたをスリスリしてくるティーナの頭を撫でる。こっちは猫か何かかな? よーしよしよしよし。
というわけで、特大の厄介事になるかと思われたエッジワールドでの未知との接触は思ったよりも平和裏、かつスムーズに終えることが出来たのであった。
ここから大逆転でピンチな展開になることはまずありえまい。ガハハ。勝ったな。
 




