#369 嘆きと強襲
あ゛つ゛い゛!!!!!_(:3」∠)_(半融解
「どうして……どうして……?」
『泣き言を言わないで下さい』
三角錐氏専属の翻訳者という重責から解放されてから凡そ三十分後。俺はクリシュナのカーゴスペースで世を儚んでいた。俺の隣には騎士のようなパワーアーマーを装備したままのセレナ大佐。そしてカーゴスペースを埋め尽くしているパワーアーマー装備の帝国海兵達。ミッチミチである。乗車率100%である。通勤ラッシュか何かかな? ある意味ではその通りなんだよな。
『足が早くて兵員を輸送できる船となると貴方のクリシュナが最適だったんです』
「もう軌道からのレーザー爆撃で潰しちゃえば良いじゃん。どうせあいつらには少々のレーザーなんて効かないだろ」
『それで連中のアジトが倒壊して彼らが押し潰されたらダメでしょう。往生際が悪いですよ』
「クソがよ」
俺達は今、クリシュナに乗ってリッシュⅢの惑星上に存在する宙賊どもの拠点へと急行していた。
僚機は対宙賊独立艦隊の中でも一番足の早い艦載航宙戦闘機達である。カーゴスペースなんぞ無きに等しいので兵員は運べない。
『間もなく到着するわ。対空火器やタレットの制圧後に地上に降ろすわよ』
『了解。安全運転でお願いします』
『前向きに善処するわ』
嘆く俺をよそにエルマとセレナ大佐がごく穏便かつ物騒なやり取りをしている。どうしてこうなった。
☆★☆
【相互の意思疎通が可能になったところで改めて要請する。我々の即時解放を要求する】
多くの犠牲――別に死んではいないが――の末に三角錐氏とのコミュニケーションが確立するなり、三角錐氏がそんなことを言い始めた。はて?
「俺達が確保してた個体はアレで全部だよな?」
『その筈ですが』
【惑星上に諸君らが建造したと思しき構造物が存在する。そこに我々が拘禁されている】
『惑星上に? 我々が構築した構造物はここと3km離れた場所にある指揮所だけですが、それ以外にも構造物があるのですか?』
【肯定する】
ここリッシュ星系はエッジワールドの外。所謂未探査領域である。そんな場所、それも惑星上に拠点を構えるような手合いなんてのは普通のステーションには出入りできないような後ろ暗い連中だけである。
つまり、極めて高い確率で宙賊だ。そういや奴らの宇宙基地にもタマが保管されてたな。
『場所は分かりますか? 方角は? 距離は?』
多少苦労しつつもセレナ大佐が三角錐氏から件の『構造物』がある場所を聞き出す。ほう、ここからちょっと離れてるな。まぁ、遠すぎるということもない。航宙艦なら然程時間がかからない距離だ。
【疑義がある】
「なんだ?」
【何故諸君らが把握していない構造物が存在するのか?】
三角錐氏の疑問に俺とセレナ大佐は揃って首を傾げることになった。何故ってそりゃ宙賊どものやることなんざ俺達が知っているわけもない。寧ろどうして把握していないとおかしいみたいな言い方をされるのだろうか?
『貴方達と違い、我々は集合意識体ではないからです。貴方達と我々が『違う』のと同じように、我々の中にも我々と貴方達と同じように『違う』連中がいるというわけですね』
【……つまり、諸君らは同胞同士で意思統一ができていないということか? 争う可能性すらあると?】
『我々ヒトの歴史を語る上で同胞同士での争いというものは不可分の存在です』
三角錐氏が沈黙する。いや、閉口しているのか。なんとなくだが、苦々しげというかネガティブな感情が伝わってくる気がする。
「こんな野蛮な連中だとは思わなかった、ってところか?」
【……回答を差し控える】
「安心しろ、帝国はまぁ、穏当というか付き合う相手としては悪くない相手だ」
少なくとも端から全部叩いて踏みつけて「服従しろ!」みたいなことをやらないってだけでも評価に値すると思うよ。セレナ大佐の言動や行動を鑑みるに、未開の原始文明人や未知の異星生命体に対しても丁寧な対応を心がけていることが窺えるし。
『スカウトを飛ばしなさい。降下のための兵力は……仕方がありません。キャプテン・ヒロ』
「何かな?」
『貴方のところのクリシュナはそこそこカーゴスペースに余裕がありましたね?』
「あ? まぁ、そうだな。今はブラックロータスがあるからほぼ空荷だが……クリシュナで制圧のための戦力を運ぶつもりか?」
『その通りです。できるでしょう?』
「できるけどさぁ……それ、俺もついてくことになるよな?」
『……』
セレナ大佐は俺に顔を向けたまま沈黙した。うん、見えるわ。騎士っぽいパワーアーマー越しに見えるわ。すっごい笑顔のセレナ大佐の顔が透けて見える気がするわ。クソがよ。
☆★☆
『敵タレット沈黙』
『造作もなかったわね。降ろすわよ』
リッシュⅢの地表に構築された謎の構造体――まぁ宙賊の隠れ基地だったわけだが――の対空砲やタレットの類を対宙賊独立艦隊の艦載航宙戦闘機と一緒になって全滅させ、エルマがクリシュナを地表へと降下させていく。
ヘボい威力のレーザー砲やマルチキャノンのタレットを一方的に叩き潰すだけの簡単な戦いだったな。あれじゃあご同業の宙賊相手ならともかく、帝国航宙軍や俺のクリシュナには手も足も出ない。想定してるシールド強度が違いすぎるんだよ。
「降下したらあとは高みの見物で良いんだよな?」
『そんなわけないでしょう? 切り込みますよ』
「待て待て、戦闘ボットが居るだろ?」
そう言いながら愛用の剣の柄に触れるセレナ大佐に慌てて意見具申をするが、彼女は肩を竦めてみせた。ああ、パワーアーマーなのに柔軟な動きですねぇ。流石はオーダーメイド品。
『残念ながらあちらに全部降ろしたので』
「……予備戦力を残すのは基本中の基本では?」
『相手の戦力がわからない状況では戦力の逐次投入になりかねませんし、エアカバーもあったので全てを投入したんですよ。こうなるとは予想できませんでしたから。ですが、所詮は宙賊の基地です。我々だけで十分でしょう?』
フラグかな? まぁ確かに宙賊の白兵戦能力なんざ高が知れてるが、用心に用心を重ねて悪いことはない。
「メイ、こちらの座標を確認できるか?」
『はい、ご主人様』
パワーアーマーの通信機能を介してメイに連絡をすると、すぐに返事が返ってきた。メイのことだから、俺の様子を完全に追ってくれていたのだろう。
「宙賊の構造物は確認できるな? うちの戦闘ボットを降ろしてくれ。制圧戦だ」
『承知致しました。指揮はこちらで?』
「任せる。タマは壊すなよ」
『アイアイサー。お任せ下さい。百八十秒でそちらにお届けします』
メイとの通信が切れる。さて、不本意ながら頑張るかとふと視線をセレナ大佐に向けると、彼女はなぜかじっとこちらに視線を向けているようだった。ヘルメット越しなので顔は見えないが、こちらを注視しているのは気配でわかる。
「なんだよ?」
『別に。なんでもないです』
そう言ってセレナ大佐が視線を逸らす。なんだよ? パワーアーマーのヘルメット越しだから表情も見えないしマジでなんなのかわからんぞ。なんとなく不満げなのだけはわかるが。いや、羨ましいのか?
「メイドロイドは良いぞ。おいやめろ馬鹿。装甲が傷つくだろ」
何故かガキンガキンと腹パンされた。どうしてだよ。
☆★☆
大気圏突入時に断熱圧縮によって発生する超高熱。それによって発生する火の尾を引きながらうちの軍用戦闘ボット達が降下して……おい、あのコースは直撃では?
ズドドドドドッ! と連続で着弾音が聞こえてくる。戦闘ボットを載せた降下ポッドが岩石に偽装した構造体の外殻をぶち抜いてその内部へと突入したのだ。
構造体のど真ん中ではなく、入口辺りに着弾したのは計算尽くなのだろうか? あの場所にタマがあったりしたら大事だぞ。
「メイ、あれは無事なのか? というか、回収は可能なのか?」
『無事です。回収は降下ポッドを別途向かわせているので、そちらで行います。今回使ったのは地表施設襲撃用の強襲降下ポッドです。イーグルダイナミクスから提供されていた試供品ですね』
『場所取って邪魔やってん。丁度良かったわ』
会話にティーナが割り込んでくる。ああ、そう。まぁ運用システムごとまとめて買ったから、そういう余録がついていてもおかしくはないのか。俺は知らなかったが。ティーナ達に丸投げしすぎたかな。
「他にビックリドッキリメカは無いだろうな?」
『運用システムごと買うたから一通りあるで?』
「今度内容をしっかり教えてくれ……」
丸投げしすぎたな。まぁ困るものでもないけど、いきなりでびっくりさせられるのは御免だ。
「敵味方識別は終えてるんで俺達も突入しましょうか、大佐殿」
『ええ、はい、そうですね。しかし貴方が関わると万事が万事派手になるのは何故でしょうね?』
「それは俺も知りたい」
故意ではないんだ。故意では。本当に。




