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#367 未知との遭遇

ねむみがとれぬ( ˘ω˘ )

 兵隊というのはまず何よりも上官の命令に絶対服従することを叩き込まれる。それはまぁ、当たり前といえば当たり前だ。A地点を死守しろという命令を出したにも関わらず、防御行動を勝手に中断してその場から逃げ去るような兵が居ては戦闘行動もままならない。

 ビデオゲームで考えると尚わかりやすい。ジャンプボタンでジャンプせず、攻撃ボタンで攻撃を行わず、回復魔法のコマンドを選択したのに敵の攻撃力を下げる魔法を使うようではゲームにならない。

 要は、指示通りに動かない手足などゴミ以下の聳え立つクソであるということである。そして、兵というのは使える手足でなくてはならない。それは生粋の帝国軍人ではなく、傭兵である俺にもある程度は求められる資質であるというわけだ。


「これだから帝国軍に雇われる仕事ってのは……」


 愚痴を吐きながらニンジャパワーアーマーの機動力を最大限に活かして凡そ3km先にある現場へと急ぐ。ごつごつとした岩を飛び越え、砂礫を蹴散らし、中、小型の戦闘ボットによって後送される帝国兵と擦れ違う。


「大佐、前線の様子は?」

『膠着状態、とでも言うべきでしょうか。対象にこれといった動きは見られません』

「つまり、兵の後送を妨害する素振りもなければ追撃をする様子もないと」

『あるいはこちらを観察しているのかもしれませんが。どこに感覚器の類があるのかさっぱりわかりませんがね』


 とりあえず最初の『接触』後は奴さん、大人しくしてるってわけだ。残念ながら真っ当な人間である俺にはあの謎の三角錐の思惑なんぞを推し量るのは難しい。あまりに難しい。


「敵対的な意思は無い、と見て良いのかどうか……」


 ちなみに、航空支援のために上空で待機しているエルマが操艦しているクリシュナやメイの掌握下にあるブラックロータスには例の三角錐が放った精神波の影響は極めて限定的なものだった。3km程度の距離にいたセレナ大佐をはじめとした帝国軍人でも衝撃を受けた程度だったので、もっと距離があるあちらでは更に影響が小さかったらしい。


「何にせよ接触してみるしかないか」


 赤茶けた小さな丘を飛び越えた先に砂塵に埋もれかけた朽ちかけの構造物のようなものや、戦闘ボットや陣地防御用のシールドが展開されている帝国の陣地、そしてその前に立ちはだかる大きな三角錐のようなものが見えてきた。うーん、結構なデカさだな。タイタン級の戦闘ボットと同じくらいの大きさとなると、全高は10m前後といったところか。


「ぬっ……?」


 こちらがあちらを認識した瞬間、あちらもこちらを認識した。理由は分からないが、そう感じる。これはいよいよ俺も超人じみてきたな、と内心で溜息を吐きつつ帝国軍の陣地へと移動する。


「全く頼もしい限りだなぁ」


 当然ながら、陣地はスカスカである。陣地に詰めていた帝国軍人達はとっ初めの『接触』で全員が昏倒して戦闘ボット達に後送されたからな。残っているのは負傷兵の運搬に向かないタイタン級戦闘ボットのような戦闘に特化した戦闘ボットの類だけで、生身の人間に至っては俺一人である。

 俺はここであの三角錐からの『接触』に耐えつつ、セレナ大佐の指示を受けながらサイオニック通信機を操作してあの三角錐とのコミュニケーションに励むというわけだ。

 いざとなれば戦闘ボットを動かしてくれるという話だし、せいぜい命を大事にという感じでいつでも逃げ出せるようにしておくとしよう。

 え? 敵前逃亡をして良いのかって? 流石に戦死するまで帝国軍に付き合う義理は無いし、危険を感じた場合には戦闘ボットを囮にして逃げて良いって言質だけはセレナ大佐からもぎ取ってきたからな。せめてそれくらいの確約がないと何と言われようと俺は前線には行かんと強硬に拒否させてもらった。

 傭兵の立場としてクライアントの命令には最大限応える必要はあるが、クライアントにも傭兵の生命を損なわないように最大限手を尽くす義務がある。つまり、明らかな死地に放り込むのは傭兵を使う上でのルール違反でもあるわけだ。俺はその契約条項を盾にして任意撤退の権利をもぎ取ったのである。『進んだ』人命尊重意識と傭兵ギルド万歳。


「現地到着」

『早かったですね。それでは早速コンタクトを始めて下さい』

「了解」


 陣地内に放置されていたサイオニック通信機に取り付き、操作を始める。まぁ、機械としてはそんなに操作の難しいものではない。共通規格の端子を使ってパワーアーマーとサイオニック通信機を接続し、あとは普通に喋るだけである。喋った際の思念波をサイオニック通信機が自動で読み取って翻訳し、テレパシーとして発信する。そして向こうから発信されてくるテレパシーを感知すると、サイオニック通信機はその内容を翻訳してホロディスプレイに表示するというわけだ。

 実に簡単。何の問題もない。そう、俺が俺でなければ。


「あっ」


 端子を接続してから俺は致命的なことを思い出した。サイオニック通信機の制作にあたってはサイオニック回路や発振器、それに操作者の思念を読み取る部分などに精霊銀が使われているのだということを。

 パァンッ、と破滅的な音が鳴り響き、接続端子が弾け飛ぶ。思い出した瞬間に接続コードを引き抜いたのだが、間に合わなかった。


『今の音は何で――なんですか、それは』


 俺の横で作業を見守っていた戦闘ボットからセレナ大佐の声がする。ああ、遠隔操作してるのね。


「なにもしてないのにこわれました」

『ふざけているんですか?』

「ふざけてないです。俺は無実だ」


 敢えて言うなら俺と精霊銀の相性が最悪であるということを今の今まで失念していたというだけである。


「一応受信は問題なく動いているみたいですが……ボディランゲージでのコミュニケーションでも試みましょうか?」

『もういっそ今すぐいつもの悪運を発揮して突如テレパシーに目覚めるとか、対象が私達の言葉を話せるようになるとかそういう感じの展開でも引き起こしてくれませんか?』

「無茶を言うな、無茶を……」


 そんな都合よく超能力やら自分の望む展開やらを引き寄せられるなら苦労せんわ。


「しかしどうしたものか。ヘイ、三角錐さんよ。俺達は対話を求めているんだが対話に応じる気はあるかね?」


 もう破れかぶれで陣地内から三角錐に向かって呼びかけてみる。そうすると、三角錐から分離して浮遊していた小さな三角錐がこちらへとその先端を向けた。なんだ? 攻撃か? と警戒したのだが、次の瞬間に発せられたのは攻撃ではなく、強大な思念波であった。


【肯定する】


 脳味噌の奥を突き抜けていくような思念波に思わず眉を顰める。


「そいつは結構。ただ、声がデカすぎる。俺はともかく、他の連中にとってはな。もう少しテレパシーの出力を絞ってくれ」

【了承する】


 今度の思念波は先程よりマシであった。というか、意外と普通に会話できてんな? 俺の声が聞こえているのか?


【否定する。汝の同胞と思しき者どもから理を学んだまで】

「今一つはっきりと理解できんが、ここらで転がっていた帝国兵達から俺達とコミュニケーションを取るのに必要な情報を引っこ抜いたわけか?」

【肯定する】

「つまり俺の考えは話すまでもなくお見通しってわけだ。今は便利だから良いが、人間ってのは基本的に自分の心の内を秘しておきたいものだ。お前さんにとっては理解し難いかもしれないが、今後は控えることを推奨するよ」

【検討する】


 さて、都合の良いことに向こうはこっちにある程度合わせてくれるつもりがあるようだ。困難な対話になりそうな気配をヒシヒシと感じるが、未知との遭遇は今のところ平和裏に始められたというわけだ。上手く交渉できると良いが、さて。

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― 新着の感想 ―
マビーディックかなって思っちゃった
[一言] セレナが関わるとタイトル詐欺だな、この小説。と最初からなのにようやく実感した
[一言] 以前、既知との遭遇ってタイトルあったな
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