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#036 傭兵ギルドと紹介状

 ロリータ・ファッション専門店『アトリエ・ピュア』を後にした俺達はその足で傭兵ギルドに向かうことにした。ミミの服装は最後に選んだ黒いゴスロリ風のドレスである。着慣れない服を着て衆目に晒されるのが恥ずかしいのか、俺の服の裾を摘んで俺に隠れるようにして歩いているのがとても可愛らしい。それでは顔も満足に隠せないだろうに。


「ミミ、そうやって歩いていると余計に目立つぞ。堂々といけ、堂々と。その方がかえって目立たないから」

「うぅ……わかりました」

「そして恥ずかしがる必要なんて一切ないからな。似合ってるから。めっちゃ似合ってるから。超かわいい」

「もうゆるしてください」


 俺の攻撃でミミが両手で顔を覆って撃沈してしまった。違うんだ、フレンドリーファイアをするつもりはなかったんだ。本当にすまないと思っている。でも恥ずかしがるのも可愛い。へへへ。

 少ししてミミも落ち着いたのか、まだ少し恥ずかしそうにしつつも普通に歩いてくれるようになったので傭兵ギルドへと再び歩を進める。傭兵ギルドの所在地は『アトリエ・ピュア』の入っていたのとは別のビルの地上(?)階だ。船の発着場に近い港湾区画にあるらしい。

 ビルに入ったらエレベーターに乗り、傭兵ギルドのある階へと移動する。このビルは上層三階、中層五十二階、下層三十階の計八十五階建てのビルになっているらしい。一階あたりの敷地面積がどれくらいなのかわからんが、凄いな。


「住民はどこに住んでるのかね?」

「同じようなビルでできた居住区画があるらしいです。ここからはちょっと遠いみたいですね」

「なるほど。このビル一棟でかなりの人数が住めそうだなぁ」


 このコロニーの人口って何人くらいなんだろうか? 相当でかいステーションだし、万単位か、もしかしたら十万以上かもしれないな。

 この後のお昼ご飯はどうしようか? などとミミと相談を始め、結論が出る前にポーンと音がした。エレベーターが傭兵ギルドのある階層に辿り着いたようだ。


「傭兵ギルドで聞いてみるのもアリかもな。ここのことには詳しいだろうし」

「そうですね」


 連れ立ってエレベーターから出ると、周囲の視線が集まってきた。視線を向けてきている者の風体は様々だ。ガタイが良くて威圧感のあるステロタイプな傭兵の男性、同じく傭兵らしい二足歩行の爬虫類系異星人、何がどうなってそんな格好をしているのかわからないが、ビキニアーマーを着ている褐色肌の女性、どう見てもメイドさんにしか見えない女性、揃いの宇宙服のようなものを身に着けた子供くらいの大きさの六人ほどの集団、作業服を着たレッサーパンダのような異星人、えとせとらえとせとら。


「なんかターメーンプライムコロニーの傭兵ギルドに比べると……賑やかだな?」

「そ、そうですね」


 俺への視線はすぐに途切れたが、ミミへの視線はなかなか途切れないようでミミが少し居心地悪そうにしている。まぁ、そのうち慣れるだろう。俺は身振りでミミにカウンターへ行くことを促し、先に歩き始める。ミミが俺に従って歩き始めると若干だがミミへの視線が弱まったようだった。いかにも傭兵という感じの格好をしている俺の連れだと認識されたのだろう。

 こういうののテンプレ的な『可愛い子連れてるじゃねぇか新人よぉぉー?』みたいな絡んでくる噛ませ役とかは特に居ないようで、俺達は至ってスムーズに傭兵ギルドの受付カウンターに辿り着くことができた。ミミが視線を惹きつけるのか可愛いから仕方がない。自然の摂理だからね。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 俺の選んだ受付カウンターに詰めていたのは妙齢の女性だった。、しっかりと傭兵ギルド職員の制服を身にまとったキャリアウーマンといった感じである。胸部装甲の厚さはエルマを圧倒、ミミ以下といったところか。美人さんだな。傭兵ギルドの受付嬢は美人という選考基準でもあるんだろうか。


「俺はキャプテンのヒロ。こっちはオペレーター見習いのミミ。ターメーンプライムコロニーから移動してきたんで、その挨拶でね。暫くこの辺りに滞在して活動するつもりだ」


 そう言って情報端末を見せると、彼女が読み取り機を差し出してきたのでその上に翳す。ピッ、と読み込み音のような音が鳴ってカウンター上にホログラムディスプレイの画面が出現した。


「はい、確認しました。キャプテン・ヒロ様ですね。ランクはシルバー、クルーは二名……もう一名のエルマ様は?」

「船に残ってる。イナガワテクノロジーの件があるからね」

「イナガワテクノロジー……なるほど。当星系に来るなりとは、運が良いのか悪いのか」

「金が稼げるんだから悪いことじゃないと思いたいね」


 俺がそう言って両手を開いて見せると受付嬢さんは苦笑いを浮かべた。うん、わかってるよ。ちょっと俺達がトラブルを呼び込む体質だっていうのはね。薄々とね。トラブルに巻き込まれて逆に運が良いとでも思っておかないとやってられないよ。


「あちらからの接触は?」

「今のところはありませんね。恐らく謝礼金の算出と決済の稟議に時間がかかっているのではないかと。それなりに大きい企業なので」

「なるほど。先方から連絡があったら船か俺に連絡をよろしく頼みます」

「承知致しました……おや?」


 受付嬢さんが突然声を上げて手元で何かを操作する。


「ジャストタイミングですね。ちょうど今イナガワテクノロジーから連絡がありました」

「Oh……先方はなんと?」

「謝礼金の提示額は50万エネルのようですね」

「相場がわからんなぁ……極端に安くなければ別にケチをつける気は無いんですがね。ちょっと船に残ってるクルーと相談しても?」

「はい」


 受付嬢さんの了承を得られたので、船に残っているエルマに通話を入れる。どうやら真面目に待機していてくれたらしく、エルマはすぐに通話に出てくれた。


『はい、エルマよ。どうしたの? トラブル?』

「いや、傭兵ギルドに顔を出したところだったんだがな。ちょうど今イナガワテクノロジーから謝礼金の提示があったんだ。50万エネルってことなんだが、妥当かね?」

『んー、曳航して帰ってきたわけでもないし、救援に駆けつけて星系軍が来るまでの護衛金額としては妥当だと思うわよ。中型客船が払う礼金としてはね』

「ならそれで受けていいか?」

『ええ、問題無いと思うわ。一応ミミにも相談してみてね』

「了解、ありがとうな」

『良いわよ。頼ってくれるのは嬉しいからね』


 じゃあ、私は船でのんびりしているわねと言ってエルマは通信を切った。それを確認した俺はミミにも視線を向ける。


「エルマは50万で大丈夫だと思うってさ。ミミは何か意見はないか?」

「イナガワテクノロジーは確か総合病院も経営していたはずです。ヒロ様の健康診断をするために紹介状などをいただくのはどうですか?」

「そうなのか、じゃあそれも要求してみるか。そういうことでお願いします」

「はい、ではその旨を先方にお伝えいたしますね。返信が来次第ご連絡いたします」

「よろしくお願いします。それと、聞きたいことがあるんですが」

「はい? なんでしょうか?」

「このコロニーの名物とかうまいもんが食える飯屋を教えてください」


 まさか傭兵ギルドのカウンターでそんなことを聞かれるとは露程も思っていなかったのか、受付嬢さんが頭の上に疑問符を浮かべまくって固まった。

 そんなに意外な質問かね……?


 ☆★☆


 ミミとのデートを楽しんだ翌日、イナガワテクノロジーからのメールで紹介状を受け取った俺達は三人でイナガワテクノロジーの経営する総合病院へと向かっていた。

 え? 名物料理? 名物に美味いものなしなんて言うが、俺は割とそういう意見には懐疑的な立場だ。常識的に考えて名物と呼ばれるものが不味い訳がない。

 そう思ってました。

 いやね、確かに合成されたてのフードカートリッジの中身なんてのは確かに産地じゃないとなかなか味わえないと思うよ? でもね、素材の味そのままにそれをペースト状にしてみましたみたいなもんはどうかと思うね。

 確かに腹は膨れたし、旨味はあったけどもさ。なんていうの? 旨味のあるシェイク? しかもLサイズ。いや、もうなんか例えようがないな。栄養補給ペーストとしか言いようが無かったわ。

 これには俺もミミもチベットスナギツネみたいな表情をせざるを得なかったね。あの受付嬢さんは俺達に何か含むところでもあったのだろうか?


「どうしたのよ、砂でも噛んだような顔をして」

「いや、あの屋台を見るとな……」


 イナガワテクノロジーが経営する総合病院への道の途中で俺達が昨日寄ったのと同じ屋台を見つけたのだ。横を見ると、ミミも同じような顔になっていた。ちなみに今日のミミの服は診察で服を脱ぐことも考えられるので、シンプルなトレーニングウェアの上にジャケットを着込んでいるような感じである。俺もエルマもだいたい同じような格好だ。一応レーザーガンは全員携行してるけど。


「不味かったの?」

「ギルドの受付嬢にオススメされたんだが、まぁ酷かったな」

「得難い体験でしたね……」


 ここでないと口にできないという意味では確かに名物だったのかもしれないけどな。安くて腹が膨れるのは悪くないが……何度も食いたいものではないな。

 俺とミミがあの屋台で出された栄養補給ペーストがいかに不味かったかということを力説しているうちに大きなビルに辿り着いた。ビルの壁面にはイナガワテクノロジーの社名がでかでかとペイントされている。あのビル全部イナガワテクノロジーのテナントなのか。


「すんごいわかりやすいな」

「そうですね。遠くからでもわかりやすいですねー」


 ミミがビルを見上げて感心している。エルマは特に思うところはないのか、特にコメントはなかった。三人揃ってビルのエントランスに入る。


「何階だろうな?」

「ビル内のナビロボくらいあるでしょ」


 なびろぼとはなんだろう? と考えながらエルマの後に続くと、エルマは壁面にあったコンソールのようなものに自分の情報端末を翳した。そうするとピピッ、となにか電子音のようなものが響き、壁面の丸い穴から握り拳ほどの球体が飛び出てくる。


『いらっしゃいませ。私はナビゲーションユニットN-34です。エルマ様を目的地へとご案内致します』

「ほう、ハイテクぅ」

「ハイテクでもなんでもないじゃないこんな……そっか、あんたにとってはハイテクなのね」

「そうなんです」

「そうなんですか?」

「そうなんです」


 ミミが首を傾げる。そういえば、ミミには俺が異世界から来たんです的な話をしていなかったな……今晩にでも話すとするか。別にミミは俺を疑ってないし、話す必要もないとは思うけど。一応エルマに相談してみるかな?

 コロコロと転がりながら俺達を案内するナビゲーションユニットの後を追って移動を開始する。どうやら早速エレベーターに乗るらしい。


「うーん、なんか可愛いなこいつ」

「そう? なかなか独特な感性ね」

「えぇ? 小動物っぽくて可愛くない?」

「ちょっとわかるかもしれません。小さいのに頑張ってる感じがしますよね」


 ナビゲーションユニットが自動で移動階を指定し、エレベーターが動き始める。そう言えばこの世界のエレベーターは途中で止まって他の人が乗り込んでくることが無いんだけど、一体どういう仕組みになってるんだろうな? とても謎だ。

 程なくして目的の階層に辿り着いたのか、エレベーターの扉が開いてナビゲーションユニットが再びコロコロと転がりだした。ころんころんと電子音をわざわざ出している辺り微妙にあざといな。きっと同行者がよそ見をして見失っても音でわかるようにしてるんだろうな。


「着いたみたいね」


 医師や看護師らしき白衣の人達と何度か擦れ違いながら通路を進んだ先に開けた空間が見えてきた。いかにも医療機関って感じの清潔そうな明るい空間だ。


「やぁ、ようこそ。待っていたよ」


 ナビゲーションユニットがその場所に立っていた人物の足元で止まる。

 女性だ。背の高さは俺と同じくらい。腰まである濃い茶色の長い髪の毛を三つ編みで一本にまとめていて、両手を白衣のポケットに突っ込んでいる。少し野暮ったい感じのする眼鏡の奥からこちら向けられる視線はどこか眠たげな雰囲気だ。顔立ちは地味だが、美人の類だと思う。胸部装甲の厚さは……ミミと同等レベルだな。エクセレント。


「私はショーコ。今回、君達の健康診断を担当する……まぁ、医者だね。よろしくね」


 そう言って彼女はにへらっと微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 顔に似合わず、解剖大好きなマッドサイエンティストだと良いな。 「ちょっとバラします」なんて頭蓋骨を・・・・・・。
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