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#363 嘘は言っていない

あっついですねぇ_(:3」∠)_

「あっはっはっは! いやぁ、一昨日の夜から昨日にかけてはしっちゃかめっちゃかの大騒ぎだったみたいだねぇ」


 翌日。ショーコ先生達の研究室を訪ねると、ショーコ先生があっけらかんとして大笑いしていた。


「笑い事じゃ……ショーコ先生のとこは大丈夫だったんですか?」

「ちょうどその頃に精神波排除装置サイオニックディスプレイサーの試作機を稼働させていてね。私とウェルズ氏は外の大騒ぎを全く知らずに研究に没頭していたんだよ」

「結果として試作機の性能が十分であると証明されたのは良かったよ」


 そう言ってウェルズ氏も肩を竦めている。残念そうな感情が全く感じ取れないんだが、ウェルズ氏はショーコ先生にそういう類の感情を抱かない人なのかね? ショーコ先生も美人だと思うんだが。

 などと雑談をしていると、研究室に誰かが入ってきた。ああ、誰かと思えばセレナ大佐とロビットソン大尉か。なるほど、二人の気配はこんな感じね。覚えたぞ。ところでセレナ大佐は何故そんなに猛々しい気配を纏っておられるのでしょうか? 今にも剣を抜いて切りかかってきそうな雰囲気を発しているだけでなく、額に青筋まで浮かべて。ほら、スマイルスマイル。


「余計なことを言うと口にプラズマグレネードを突っ込んで縫い合わせますよ」

「アイアイマム」


 冗談を言ったらマジでやられそうなので背筋を伸ばして敬礼する。何故彼女が怒っているのか? 心当たりは一つしか無い。


「なにか弁明があるなら聞きますが」

「何についてですかね? 一昨日の夜から朝にかけての大騒ぎに関してということなら、うちもそりゃもう大変なことになってたんですが」


 嘘は言ってない。一昨日の夜から朝にかけてはクギを相手に、その後はメイ以外の全員を相手に大変なことになっていたからな。


「……貴方達が原因ではないのですか?」

「愉快犯じゃあるまいし、故意にあんなことを引き起こすわけがないじゃないか」


 至極真面目な表情で言い切る。嘘は言っていないからな。真実を話していないだけで。

 セレナ大佐は俺の顔を不審げにジロジロと眺めていたが、やがて諦めたのか視線を逸して溜息を吐いた。


「そうですよね、流石の貴方でもアレは無いですよね……すみません、あまりの大騒ぎに気が立っていたようで」

「……レスタリアスというか、対宙賊独立艦隊内でも色々あったんだな」

「それはもう……幸いというかなんというか、『事故』で済んだ案件ばかりだったのは幸いでしたね。『事案』や『事件』レベルのものがなくて……ええ」


 事故と事案と事件の区別がわからんが、重要度というか犯罪性の有無というか強弱で区別しているのか? それは。何にせよそれは良かったな。

 あと絶対に俺達が原因だということは言わないでおこう。最悪しょっ引かれそうだ。考えてみたらちょっとした催眠テロみたいなものだものな。うちの船の中だけの話なら気にする必要はなかっただろうが、ドーントレス全体を大混乱に陥れたということになると罰金刑じゃ済まない罪状になりそうだ。


「おや? どうしたんだい、クギくん。汗が凄いよ?」

「な、なな、なんでもないです」


 そう言うクギの表情は蒼白で、しかも冷や汗だらけである。クギさん? あまりバレそうな挙動は止して欲しいんですが。


「……」


 セレナ大佐がまた疑念のこもった視線を向けてくる。ノーノーノー、私達何も知りまセーン。


「すまん、クギ。明け透けに話しちゃって……疑念を払拭するために仕方なくな」

「は、はい、我が君」


 というデリケートな話題なので、あまり突っ込んで聞かないでくれという視線をセレナ大佐に送っておく。それはそれで気に食わないという感じで睨まれたが、俺がクギとか他のクルーと『大変なこと』になっていたとしても、セレナ大佐にどうこう言われる謂れはない。ないったらない。

 ちなみに、本日の同行者はクギのみである。整備士姉妹は昨日のあれこれでダウンというか疲れ果ててダラダラしているのだ。ミミとエルマはそもそも来る必要がないし、メイには留守を守って貰う必要があるからな。


「……まぁ、良いでしょう。なんとか騒ぎも収まりましたから、十二時間後に出航します。案内役としてスクリーチ・オウルズも随行することになるので、そのつもりで」

「了解。それじゃあ俺達も出港準備を整えておくとしよう。クギ、船に戻るぞ」

「はい、我が君」


 タマ達が俺とクギが垂れ流した桃色毒電波の影響を受けて異常行動なんかを起こしていないか聞きたかったんだが、タイミングを逃したな。まぁ、ショーコ先生もウェルズ氏も何も言っていなかったし、特異な変化は見られなかったのかね。今度機会かあったら聞いてみるとしよう。


 ☆★☆


「で、やっと出陣ってわけね」


 昨日の疲れが取れきっていないのか、若干気怠げな雰囲気を纏ったままエルマが呟く。肌艶は良いので別に体調が悪いというわけではなさそうだ。


「あの、クギちゃんはどうしてあっちで小さくなっているんですか?」


 ミミが休憩スペースの隅っこ――テラリウムの辺りで三角座りをしているクギを見て心配そうな表情を浮かべている。


「あー……ほら、一昨日のアレ」

「桃色毒電波?」

「その言い方やめない? まぁ、それなんだけども。ほら、特に対策もせずに垂れ流したじゃないか」

「せやな」

「あれな、神聖帝国では恥ずかしい行為であることには違いないけど、基本的に各々いくらでも自衛できるから罪でもなんでも無いんだとよ」

「あー……なるほどね」


 事情を察したエルマが苦笑いを浮かべる。


「それがこっちではテロ行為扱いだからな。そこまで深く考えずにやらかした上に、それで下手すると俺がしょっ引かれかねないということを今日知って落ち込んでいるんだ」

「なるほど……確かにあれはちょっとしたテロ行為ですよね」


 ウィスカの言葉が聞こえたのか、俯いたままのクギの獣耳がピクリと動く。


「クギ、大丈夫だから。証拠もないし、疑惑を向けられたとしても立証は不可能だ。頭の中身を直接覗かれるような尋問でもされれば話は別だけど、疑惑程度でそこまでのことはされないし」


 宙賊などの重犯罪者でもない限り、脳味噌の中身を直接覗くブレインハックによる尋問はされないって話だからな。ドーントレスには対サイオニック関係の装備は配備されていないという話だし、俺達の犯行――犯行と表現すべきものかどうかはわからないが、とにかく俺達の仕業であるということがバレることはない筈だ。


「言うて、行く先々でこんなことやってたらそのうちバレそうやけどな」

「もう大丈夫だ、多分」


 クギに修行をつけてもらえば制御はできるようになるはずだからな。俺の『目』が開いてからは俺から垂れ流されるサイオニックパワーの量も相当減ったという話だし。


「とにかくそう時間を置かずに出航することになるから、各自準備と体調の調整を頼む」

「それはわかったけど……あんた元気ね」

「なんだか身体の調子が良いんだよな」


 エルマもミミもティーナもウィスカも昨日のアレコレで結構お疲れのようなんだが、俺はなんだかかえって身体の調子が良いくらいなんだよな。なんだろう、もしかして多少なりともサイオニックパワーの制御ができるようになった結果、体力の底上げでもされたのだろうか?


「出港の準備って言ったって物資の補充も機体の整備も終わってるから何も無いわよ。体力が有り余ってるならクギを慰めるなりメイを構うなりしてあげなさい。私達は適当に体調整えておくから」

「了解」


 メイドロイド相手のご機嫌を取るってのも世間的には変な話なのかもしれないが、メイには世話になってるからなぁ。蔑ろにしようとは思えない。何にせよまずは隅っこで座り込んでいるクギのご機嫌を窺ってからメイの様子を見に行くとしよう。

 最近メイには留守を任せるかクギのお供をしてもらうかしてもらっていたからあまり構えなかったし、一昨日から昨日にかけてもブラックロータスのことを任せっきりだったからな。

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― 新着の感想 ―
パワーアップという点でだけ見れば、某DBの超神水や瀕死→仙豆→復活のサ◯ヤ人コンボなんだが… 余波が桃色毒電波じゃあね…ギャグ扱いだし、締まらないよね(苦笑)
[一言] …4人がかりの相手に勝ったんかい、ヒロ。
[一言] 流石に桃色毒電波はアウト。 クギちゃんアウトー! おしり叩きの刑に処してください。
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