#362 桃色毒電波
虫刺されが痒い( ˘ω˘ )(キレそう
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新しい朝がきた。
「おはようございます、我が君」
起きたら、それはもう満面の笑みを浮かべているクギと目が合った。心なしか、お肌がつやつやしているように見えるのは気のせいだろうか。
「もう無理寝る」
「おはよう、ございます、我が、君」
布団を被って閉じこもろうとしたが、クギがぐいぐいと布団を引っ張ってくる。くそぉ、力が強い。このままでは何の罪もないお布団が引き裂かれてしまいそうなので、お布団の中に閉じこもるのを諦めることにする。
「おはよう、クギ」
「はい、おはようございます」
ニコニコしているクギは既に服をしっかりと着込んでいた。昨夜の詳細に関してはコメントを控えるが、彼女のテレパシーというか精神感応能力はズルいとだけ言っておく。例えるなら、単純な殴り合いで常に相手に与えたのと同じダメージが返ってきたら勝ち目がないよねって話だ。
「それで我が君、世界の見え方は変わりましたか?」
「うーん、変わったようなそうでもないような」
俺の『目』とやらは無事に開いた。開いたのだが、俺の認識としてはあまり劇的には変わっていない。確かに今までにない揺らぎというかうねりのようなものを自分の中に感じるし、クギにも同じようなものを感じるが、その程度である。
ああ、いや。ブラックロータスの中にいるミミやエルマ達の存在をそれとなく感じられるのは違うところかもしれないな。目で見るのとは少し違う。存在を感じるのだ。脳の中心辺りで。
「とにかく不意打ちとかはそうそう受けそうにないかもしれないな、今後」
「少しずつ馴染んでいけば、いずれは力の制御もできるようになると思います。まずは少しずつ、ご自身の中に在る力に慣れていってください。不安があればすぐにご相談くださいね」
「わかった。とりあえず……」
「はい」
「シャワーを浴びたいな」
☆★☆
ササッとシャワーを浴びてクギと一緒に皆の集まっている休憩室に行くと、足を踏み入れるなり全員から視線が集まってきた。ミミはなんだか顔を赤くしてモジモジしているし、エルマも同じく顔を赤くしてジト目で睨んできている。ティーナはニヤニヤしていて、ウィスカは俺に視線を向けては逸らすという感じだ。メイはここにはいない。メイだけは存在を感じ取れないんだよな。メイドロイドは生命体じゃないからだろうか。
「おはよう、皆」
「お、おはようございます。ヒロ様」
「……おはよ」
「おはようさん」
「おはようごじゃいます」
反応が妙である。クギに視線を向けてみるが、彼女はにこにこしているばかりで何も言わない。なんだろう、この空気は。なにか致命的な事態が起きている気がしてならない。いや、反応を考えればある程度の当たりはつけられるが。
「もしかして、何か漏れてた?」
「漏れるというか、突き抜けてきたというか……」
「私達は発信源がわかってたから理解も出来たけど、そうじゃない人達はわけも分からずびっくりしてたんじゃないかしら」
「クギさん?」
「はい、我が君」
クギ曰く、俺が目を開く際に放出される膨大なサイオニックパワーをクギが受け止め、無害な思念波に変換して大放出することによって『星系内の生命体が全滅するような事故』を防止したらしい。
「そうしないと、場合によっては恒星系そのものを破壊するような現象が発生したかもしれません。我が君の場合は時間と空間、運命を操る能力を発現させているので……最悪、この恒星系の時間が静止したり、その結果発生する時空間の歪みが周辺恒星系を含めた極大範囲の破壊を引き起こしたかもしれませんね。もしかしたらもっと酷いことが起こっていた可能性もあります。運命を操る能力が暴走した場合、何が起こるか想像も付きませんので」
「理解した。理解したけど、もう少し穏当な方法はなかったのだろうか?」
「我が君の力を此の身が受け止めて変換するにはあの方法しかありませんでしたが……お嫌でしたか?」
「お嫌ではなかったけれども、結果には頭を抱えているよ……」
つまり、行為中のらぶらぶ()思念波が垂れ流されたというわけなので。大半の人にとっては出所不明の現象に過ぎなかっただろうが、俺とクギというサイオニック能力者の存在を知っている人々にとっては発生源がモロバレである。具体的にはセレナ大佐とかショーコ先生とかウェルズ氏とか。ロビットソン大尉もだな。俺の名誉というか尊厳は大きな傷を負った気がするが、結果としては俺のサイオニック能力が本格的に目を覚ましたということでプラスなのだろうか。プラスなのだと言うことにしておきたいなぁ。
「なんかこうさ。こう……ご都合主義というかなんというか。もう少し穏当かつストイックな方法で俺の目を開かせる方法は無かったのだろうか?」
「はい、我が君。ございます」
「あるんかい!?」
ならそっちの方法でやれば良かったのでは?
「はい。しかしそちらの方法ですと、適切な場所で、適切な師による厳しい修行を最低でも五年は受けなければなりませんが」
「それを一晩でなんとかしてくれるクギは本当に最高だな」
手のひら返しが酷い? 仕方ないね。五年も厳しい修行なんて受けていられないし。
「此の身のような巫女は我が君のような方の『目』を安全に、速やかに開かせるのが最大の務めなので。務めを果たすことが出来て、此の身は幸せです」
そう言って微笑むクギの表情はとても満足げであった。しかし、その表情を見て俺は不安になる。
「その務めを果たしたことによってクギの身体が致命的な損傷を受けたとかそういうことは無いだろうな? 凄く強いっていう俺の力を受け止めて、思念波に変換した負荷で寿命を縮めたとか」
「そのようなことはありません。寧ろ身体の調子が良いくらいです。結果としてそのような事になった場合、我が君が此の世を呪ってしまいかねませんから。そうならないように見出され、練磨された者こそが巫女としてのお役目を頂くのですよ」
務めを果たしてテンションが上がっているのか、クギが胸を張ってドヤ顔をしている。嘘はついていないみたいだし、大丈夫そうかな。
「そろそろいい?」
「アッハイ」
皆が腰掛けているソファにも座らずにクギと話をしていたら、エルマに声をかけられた。声がなんか怒ってる。怒ってるよね? いや怒ってないのか? なんだかそこはかとなく感情が伝わってくる気がする。これも『目』とやらが開いた影響だろうか。
「一晩中あんた達の桃色毒電波に曝された私達にお詫びをするべきだと思うのよ」
「桃色毒電波」
エルマのネーミングセンスは実にユニークだな。HAHAHA!
「この度はご迷惑をお掛け致しました」
腰を直角に曲げて深く頭を下げる。完全なる白旗である。お前が悪いと言われたら認めざるをえない状況だ。
「言葉だけじゃ誠意って伝わらないものよね」
エルマが静かに立ち上がり、俺に近寄ってくる。目が据わっててコワイ!
「せやな」
いつの間にか――いや気づいてたけど――忍び寄ってきていたティーナが俺の左腕を掴み、エルマが右腕を掴む。ちょっと、力が。力が強いです。一人相手でも腕力じゃ敵わないのに、二人がかりとか勝てるわけ無いだろ!
「ちょっと待て落ち着こう今日はそろそろ出撃になるはずだしこんな時間から遊んでいる暇は」
「ミミ」
「はい」
引きずられる俺と引きずるエルマとティーナに追従してきていたミミがタブレット型端末の画面を俺に見せてくれる。なになに? 謎の現象によりドーントレス各所で風紀の乱れ? ドーントレスの憲兵当局は艦内に持ち込まれたアーティファクトによるものだろうという見解を発表し、大規模な調査を始めているとのことですか。なるほどね。
「一日二日は大騒ぎだろうからセレナ大佐も動けないわよ。ということで観念しなさいね」
「やさしくしてください」
いくら俺がこっちの世界に来てから身体を鍛えたとは言っても、限度というものがあるので。
四人相手に勝てるわけ無いだろ。常識的に考えて。




