#351 容赦無用
なんだか今日は集中力がいま一つ……!( ‘ᾥ’ )
『バラバラに動くんじゃねぇ! 集まれ! 一点突破するぞ!』
『この状況でどうやって集まってるんだ!? あぁ!?』
『とにかく逃げろ! 奴らに構うな! 小惑星を盾にしてひたすら進め!』
宙賊どものやりとりが通信越しに聞こえてくる。奴らはアホなので暗号化されてすらいない回線でよく通信しているのだが、今回はちゃんと暗号化されているな。それだけでこいつらの装備が他の星系の宙賊のものよりも多少まともだということがわかる。もっとも、暗号強度が低過ぎて聞いての通り全て筒抜けなのだが。
「ヒロ様、このままだと結構な数が抜けちゃいます」
「仕方ないね。俺の腕とクリシュナの火力なら小惑星帯でガン逃げされようとも追いかけて落とせるけど、軍の機体とはいえ戦闘機の火力じゃ落としきれないやつも出る。機動性とシールドがマシな宙賊なら抜けもするさ」
だからこそ、それを想定した布陣をしているわけだしな。
『超光速ドライブが起動しねぇぞ! セーフティが解けねぇ!』
『クソどもの待ち伏せだ! うわぁぁぁぁっ――!』
小惑星帯を抜けた宙賊どもがグラヴィティ・ジャマーを装備した妨害艦とその護衛の戦闘機隊に捕捉されたようだ。小惑星帯内で宙賊どもを追いかけ回している俺達の活躍によって図らずも宙賊側は戦力の逐次投入のような形になってしまっている。
二十隻の宙賊艦が一斉に押し寄せてくれば小惑星帯内縁部に配置されている妨害艦とその護衛機だけでは迎撃が間に合わないかもしれないが、二隻がバラバラに十回抜けていくなら迎撃は容易だ。
『ちょっと? 結構抜けてきてるんだけど?』
「思ったより数が多いんだよ。というか俺は頑張ってる。戦闘機隊の連中にもっと頑張るように言え」
『彼らにヒロと同じくらい働けって言うのはちょっと酷ってものよね……よし、撃破』
エルマも小惑星帯の内縁部で戦闘に入っているようだ。エルマのアントリオンが戦ってるってことはそこそこ多く抜けてるのか? いや、エルマが率先して賞金を稼いでいるだけかもしれんが。
「何にせよ状況をよりマシにするべく動くしか無いな。追撃するぞ」
「はいっ!」
小惑星をギリギリの距離ですり抜けながら宙賊艦をバンバン狩っていく。
これで一部が殿として抵抗し、一部が逃げに徹するとかやられると厄介なのだが、宙賊が自己犠牲の精神なんぞを持ち合わせている筈もないので。
「逃げに徹する宙賊艦のケツを撃ち抜いていくのは最早作業だよな」
「ここまで一方的だと微妙に罪悪感を覚えますね」
「とはいえ宙賊だしな」
有無を言わさず生死不問で爆発四散させるのはどうなのだ? と思ったことがないわけではない。だが、奴らの所業を一度でも見てしまうとな。そういう同情心は消し飛ぶ。
「我が君、小惑星帯を抜けますが」
「そろそろ応援が必要かと思ってな」
宙賊のケツを撃ちながら情報人工衛星から送られてくるデータを確認していたのだが、そろそろ小惑星帯内での戦闘は終わりだ。基地から逃げた宙賊は小惑星帯から脱出しつつあり、グラヴィティ・ジャマーを装備した妨害艦の妨害範囲内に殺到しつつある。
「うわ、大乱戦ですね」
「突っ込むぞ」
小惑星帯を抜けると、妨害艦の護衛として配置されていたドーントレスの戦闘機隊と宙賊が盛大にやりあっていた。流石にこの乱戦では目視でアントリオンを見つけるのは難しいな。
「アントリオンの援護に向かうぞ。ナビ設定を頼む」
「はい!」
「クギはいつでもサブシステムを動かせるようにな」
「はい、我が君」
アントリオンに向かう途中で接近した宙賊艦を辻斬りのように撃破していく。こういう時には射角の広いアーム型のウェポンマウントが大変に使いやすい。いきなりクリシュナの重レーザー砲をぶち込まれた宙賊艦は何が起こったか理解することも出来なかっただろうな。
「あ、いたいた」
そうしてミミのナビゲーションに従って少し進むと、前方に激しい光を放っている宙賊艦が見えてきた。あれはアントリオンの高出力レーザービームエミッターで焼かれてるな。キャパシターのエネルギーを垂れ流すとかそういう意味でゲロビーム、ゲロビなんて俗に呼ばれたりするが、あれは撃たれると滅茶苦茶鬱陶しいんだよな。シールドと装甲が弱い機体だと即致命傷になるし。
『やめろぉぉぉぉっ!? 降参! 降参する!』
多分現在進行系で焼かれている宙賊艦のパイロットが叫んでいるんだろうが、エルマは無言で宙賊艦を焼いた。ついにビームが宙賊艦のジェネレーターに到達したのか、それとも生命維持装置の酸素供給システムにでも引火したのか、焼かれていた宙賊艦が爆発四散する。
「容赦ないな」
『あら? 来たのね。あいつらに容赦する必要なんてないでしょ』
「違いない。シーカーばら撒きで牽制してくれ」
『アイアイサー』
アントリオンが二門のシーカーミサイルポッドからミサイルを発射する。これで奴らはシーカーミサイルの回避を優先するために真っ直ぐ逃げるのが難しくなるわけだ。宙賊艦が出せるような速度では普通に真っ直ぐ飛んでもシーカーミサイルに追いつかれるからな。
「どんどんやっていくぞ」
『オーケー。競争ね』
「競争は無理じゃないかな」
『言うじゃない』
機動性と総火力が違うからな。まぁ、本人はやる気のようだしお手並み拝見と行こうか。
□■□
作戦全体の進捗は順調だ。既に出撃済みで呼び戻せなかった傭兵の戦力以上にドーントレスから戦闘機隊を出して貰えたので、航宙戦では危なげなく勝利を掴み取ることが出来た。エッジワールドの宙賊だからと警戒していたのだが、被害も軽微に収まったようだ。
「制圧作戦の進捗は?」
「敵主力の排除は完了。後は細かいところを制圧していくところです」
「毎回のことながら面倒ですね……海兵のメンタルケアはしっかりするとしましょう」
海兵達の大半は宙賊基地の中で見たくもないものを目にすることになる。奴らの『休憩所』程度ならまだマシな方で『加工場』だの『商品倉庫』だのといった施設となると……思い出しただけで気が滅入る。
「新装備の使い勝手は良さそうですね」
「はい。ドーントレスの戦闘機隊の働きもありますが、やはり超光速ドライブの起動を阻害できるのは有利ですね」
ロビットソンの返事を聞きながら、ヒロ達の戦果を確認する。やはり頭一つどころか二つ三つは抜けていますね、彼は。エルマさんもちゃんと戦果を上げているようですし。これだけの戦果があれば多少の融通はできそうです。知り合いだからと依怙贔屓するのは私の矜持が許しませんが、正当な評価をする分には何の問題もありません。
「あとは制圧が問題なく完了すれば――」
「大佐、問題発生です」
「――内容は?」
「例の玉が発見されたようです。未起動状態ですが」
「面倒な……予備戦力と収容班を向かわせなさい」
どうにもこのところ物事がスムーズに行きませんね。彼の影響――いや考え過ぎか。彼が居ると事態がとんでもない方向に進むことがありますから……前のマザーの情報のように何か知っているかもしれませんね。ちょっと直接会って締め上げ――お行儀よく聞き出してみましょうか。




