#350 戦闘機
朝からどらやき一個しか食ってねぇ!( ‘ᾥ’ )(お腹すいた
補給母艦ドーントレスは小型戦闘艦から大型戦闘艦、もしくはそれ以上の大きさの巡洋艦や戦艦サイズの船まで、おおよそ航宙戦闘艦と呼べるものであればあらゆる艦種に補給や整備を提供できる船である。その役割から戦略艦とも呼ばれる立ち位置にある船だ。
防衛戦力も相当のものを有している。わかりやすいのは近づく敵艦を火力の投射量で押し潰す膨大な数のタレットだが、それ以上に恐ろしいのはドーントレスに配備されている防衛戦闘機隊だ。
航宙戦闘機というのは非常に小型で、その大きさは傭兵が使う小型戦闘艦の半分程度か、それ以下である。それでいて火力そのものは小型戦闘艦と殆ど変わらず、機動性は大きく上回る。
流石に大きさの関係上強力なシールドジェネレーターを搭載することができないのと、装甲らしい装甲を持つことが出来ないので耐久性に関しては小型戦闘艦の方が大きく上回るが。それを差し引いても戦闘能力は小型戦闘艦とどっこいどっこいと言えるだろう。
そんな航宙戦闘機がドーントレスには大量に配備されている。流石に総数はわからないが。
「何機いる?」
「ええと……合計で百八十機ですね」
「物凄い数ですね、我が君。これで全部なのでしょうか?」
「いや、防衛戦力を残してはいるだろうから……もしかしたらこれで半分くらいかもな」
先にドーントレスから発進していた俺達はクリシュナの中からドーントレスの戦闘機隊発進の様子を観察していた。ドーントレスには戦闘機用のカタパルト――というか発進チューブが六ヶ所あるようで、戦闘機が六機ずつ、短い間隔でどんどん発進してくるのはなかなかに見応えのある光景だった。百八十機が発進するのに一分もかかっていない。とんでもない展開能力である。
「傭兵の皆様が運用しているのは小型戦闘艦ばかりのようですが、何故戦闘機を使わないのでしょうか?」
「居住性の問題と恒星間航行能力の有無の問題、それに戦利品などを積み込むスペースの問題、生存性の問題、他にはマルチキャノンみたいな実弾武器だとか、シーカーミサイルみたいな武器を使う際の弾薬積載量の問題が大きいからだな。ブラックロータスみたいな母艦と一緒に運用するならアリっちゃアリなんだが、それでも傭兵が使う分には小型戦闘艦の方が使い勝手が良いと思う」
「戦闘機って本当に戦闘だけしかできませんからね。小さい分、センサー類も弱いですし」
『傭兵業をするにはそれだけじゃあちょっと能力が足りないのよね』
通信越しにエルマも会話に参加してくる。
傭兵をやる以上は恒星間を渡り歩く必要があるし、船の中が自分の家のようなものになる。宙賊を撃破しても賞金だけでは稼ぎが足りないから、戦利品を回収する必要だってある。場合によっては連続で、長時間戦闘をすることもあるから継戦能力だって必要だ。当然、生きて帰らないと何にもならないから、何よりも防御力や生存性を重視しなければならない。
というか、航宙戦闘機というのは戦闘が起こる場所、起こっている場所に投入するものなのだ。
星系内のどこにいるかもわからない敵を探し出し、追い詰めて狩るための能力が欠如しているか、ものすごく弱いのである。ミミの言う通り、基本的に戦闘だけしか出来ない機体ってことだな。
「なるほど……」
俺とミミの説明を聞いてクギは考え込むような仕草をする。なんだろう、もしかして将来的に戦闘機に乗ろうとか思っているんだろうか? 確かにブラックロータスの小型ハンガーには一つ空きがあるから、戦闘機を運用することは可能だけれども――と考えていると、ドーントレスから作戦開始の通信が入ってきた。音声通信ではなく、文面による通達だ。作戦開始時間と星系内の座標データが添付されている。
「作戦開始みたいだな」
『アイアイサー。落とされるんじゃないわよ』
「そっちもな」
エルマが通信を切断する。さて、俺達も動くか。
「ミミ、ナビの設定を頼む」
「はい。到着時間も設定しますね」
ミミが作戦開始時間ぴったりに指定座標でワープアウトできるように自動航行システムにデータを入力していく。
超光速航行状態からワープアウト時には必ず強烈なエネルギー反応を引き起こしてしまうので、存在そのものを全く気づかれずに奇襲をかけるというのは不可能だ。なので、こういった大規模な奇襲――というか強襲をかける場合には、事前に座標とワープアウト時間を示し合わせて一斉に敵の直近にワープアウトし、すぐさま攻撃に移るという手法が使われる。
一応敵拠点のレーダー範囲外にワープアウトして時間をかけてこっそりと近づくって方法もあるが、どっちにしろ今回の戦術は大火力と物量による短期決戦だから合致しないな。
「行くか」
「「はい!」」
ミミとクギの元気のよい返事を聞きながら、自動航行システムをオンにする。さて、始めるとしよう。
☆★☆
光の矢のように後方へと飛んでいく恒星の光。それが突如停止し、同時にワープアウトの轟音が鳴り響く。
『クソが! 後ろに大量に沸きやがったぞ!?』
『内縁部に出るな! 押し潰されるぞ!』
『どうしろってんだ!? 小惑星帯の中をずっと飛んでけってか!? そんなんで逃げられるわけねぇだろうが!』
「大盛況だな」
「そうですね」
既にレスタリアスを始めとした対宙賊独立艦隊の艦艇やブラックロータスによる宙賊基地への艦砲射撃は始まっており、運良く発着場を艦砲射撃で潰される前に外へと脱出できた宙賊どもが小惑星帯内に入ってきたところだったようだ。完璧に作戦通りだな。
「データリンク開始……これは丸見えですね」
「ドーントレスの偵察機は良い仕事するなぁ」
クリシュナのレーダーには小惑星帯内を右往左往している宙賊艦の反応がバッチリ映っていた。
ドーントレスの偵察機が斥候としてこの辺りの調査に来た時に、高度なレーダー機能を持つ情報人工衛星をこの辺りに設置していたのだそうだ。戦闘が始まると同時にその情報人工衛星を起動した結果、こうして宙賊艦の動きが丸見えになっているということだな。
「我が君、サブシステムの起動準備も完了しました」
「よし。それじゃあ始めるぞ」
ウェポンシステムを起動し、小惑星帯の中に飛び込む。
既にドーントレスの戦闘機隊も小惑星帯内へと突入しており、宙賊艦との戦闘が始まっているようだ。少し出遅れたか?
「どこを狙いますか?」
「ど真ん中だな。バチバチやっていこう」
ドーントレスの戦闘機隊の実力の程はわからないが、レーダーの反応を見る限りは順調に宙賊どもを仕留めているようである。なら、同じように端から狩っていったのでは大した戦果は上げられない。ここはど真ん中に突っ込んで大暴れしてやるのが良いだろう。
スラスターを噴かして加速し、空間を漂う大小の小惑星の間を縫うようにクリシュナを疾駆させる。
「……」
クギが静かになってしまっているが大丈夫だろうか? と一瞬だけ視線をクギに向けたら、頭の上の耳をぺたりと伏せて顔を青くしていた。ミミも小惑星帯内の高速航行に関しては慣れるのに時間がかかってたからなぁ。
「接敵します」
「はいよ」
クリシュナの三倍以上は大きな小惑星の陰から飛び出し、低速で航行している四隻の宙賊艦のうち一隻に狙いを絞って四門の重レーザー砲を斉射する。
『うおぉ!? なんだ!?』
斉射を食らった宙賊艦のシールドが一瞬で飽和し、艦体の中央部に近い部分が爆発を起こした。一撃では沈まなかったか。やっぱここらの宙賊は少し装備が良いな。
『敵だ! 傭兵艦!』
『クソが! 叩き潰せ!』
意外と反応が早い。中破した宙賊艦以外の三隻がレーザータレットやマルチキャノンタレットで反撃してくる。
「ほい」
攻撃したそのままの勢いで宙賊達が潜伏していた小惑星と小惑星の間にできていた空間を通過し、別の小惑星の陰に入って反撃をやり過ごす。ふん? 少し食らったが、これくらいならいけるか。
「クギ、シールドセル用意」
「は、はいっ!」
再び小惑星の陰から飛び出し、今度は真正面から宙賊艦に突っ込んで四門の重レーザー砲と二門の散弾砲をぶっ放していく。当然ながら真正面から突っ込んでいるので被弾は避けられないが、こちらのシールドが削り切られるよりもこちらが向こうを叩き潰すほうが早い。
『こいつ火力が……うわぁぁぁっ!?』
『ぎッ――!』
四門の重レーザー砲の二斉射で一隻が爆散し、散弾砲の至近距離射撃でもう一隻のコックピットブロックが粉砕される。
『待て、こうふ――』
『やめっ、やめろォッ!? 俺の船はもう動け――』
一瞬で仲間が二隻撃破されたのを見て攻撃を止めた最後の一隻と、初撃で中破していた一隻も容赦なく撃破する。悪いな、そもそもお前ら宙賊に対する慈悲は持ち合わせていないし、今はドーントレスの戦闘機隊と競争中なんだ。七面倒臭い降伏やら何やらを受けている暇はない。
「次だ」
「はい!」
最後の一隻が攻撃を途中でやめたからシールドセルを使うまでもなかったな。チラリと再びクギの様子を窺うが、耳も顔色も相変わらずのままだ。こりゃ慣れるまでまだまだかかりそうだな。




