#349 宙賊対策会談
天気が良いと捗りますね!( ˘ω˘ )
「貴方が宙賊艦から引きあげたデータストレージから宙賊の拠点の位置が判明しました。位置はここ。ドーントレスからは恒星を挟んで反対側に近い場所ですね。小惑星帯の外縁部、未探査星系へのハイパーレーン突入口に近い場所です」
セレナ大佐がホロスクリーンに表示された星系地図の一点を指差す。なるほど、この位置じゃ恒星と小惑星帯が邪魔でドーントレスからは探知が難しいし、未探査星系から戻ってきた探索艦の動きをキャッチしやすいな。元からここにあったのか、それともドーントレスの停泊空間を考えてここに急造したのかはわからんが、なかなかに考えられた位置取りだ。
「既に斥候により詳細な座標も装備も割れている。どうも連中は既に逃げ出す準備を始めているようだ。攻略を急ぐ必要がある」
エスレーベン少将の怜悧な顔がホロスクリーンの光で照らされる。うーん、イケメンってか雰囲気があるな。これが将器を感じるというやつか。
「なるほど。出ようと思えば俺はすぐに出られますが、他の戦力はどういう感じで?」
「ドーントレスの戦闘機隊はいつでも発進可能だ」
「幸いなことに対宙賊独立艦隊もすぐに出られます。整備と補給を終えて出撃しようというタイミングで色々あったので。傭兵は既に狩りに出ているのも居ますから勢ぞろいとはいきませんが、ドーントレスの戦闘機隊の参戦があるならば問題にはならないでしょう」
セレナ大佐が色々あったので、というタイミングで俺にチラリと視線を向けてくる。だからごめんて。悪意はなかったんだって。
「それじゃあササッと行ってササッと撃破して終わらせるのが良さそうだ。こちらの戦力規模を考えると一気に押し寄せて力押しで潰すのが正解だと思うが、宙賊の逃亡をケアするなら対宙賊独立艦隊の主力は外縁部から火力押しして、傭兵、戦闘機隊は内縁部から接近して小惑星帯内で宙賊を狩るのが良いんじゃないか。あとはグラヴィティ・ジャマー持ちを護衛機と一緒に内縁部に配置して退路を塞げば良い」
そう言って俺はホロスクリーンを操作して二方面から宙賊基地を挟み撃ちにするように戦力のアイコンを配置した。ドーントレスの戦闘機隊の練度が低いなら小惑星帯の中で戦うのはちょっと危ないかもしれないが、小型戦闘艦よりも更に小さい艦載戦闘機は本来こういった小惑星帯内での戦闘や数で押す乱戦に強い。特性を活かすなら十分アリな選択だ。
「どうして貴方がGJの存在を、と思いましたが……そういえば、イデアル製の中型艦が増えていましたね」
「やっぱ大佐のところに配備されてたか。そうじゃないかとは思ったよ」
そう言って肩を竦めておく。用途が限られているから、そうなんじゃないかとエルマと話してたんだよな。とは言え用途が限られていると言っても、星系軍や対宙賊独立艦隊にしてみれば使い勝手の良い装備であることは確かだ。民間船が宙賊に襲われているところに駆けつけた瞬間に展開すれば宙賊を逃さず捕えるなり撃破するなりが容易になるからな。
「キャプテン・ヒロの戦術案は参考にさせてもらおう。詳細は我々で詰める」
「アイアイサー。それじゃあ俺達は出撃準備を整えるってことで」
「そうして下さい。言うまでもないと思いますが……」
「はい、発令までは他言無用ね。承知しておりますとも。二人も良いな?」
「勿論」
「はい、我が君」
俺が視線を向けるとエルマとクギも頷いた。今から漏れても然程大勢に影響は無いだろうが、無論漏れないならそれに越したことがないのが良いに決まっている。重々気をつけるとしよう。
「ああ、そうだ。大佐、例のタマの件は?」
「そっちはとりあえず保留です。事情聴取や『交渉』は進めていますが、宙賊の件ほど喫緊の問題ではないので。現物も確保、収容できましたしね」
「……収容違反とか起こさないでくださいよ」
「何を心配しているのかわかりませんが、スキャンを透過する硬化剤で固めてシールド容器に収納していますから。ああなるとタイタン級の戦闘ボットでも抜け出すのは無理ですよ」
「なら良いんですがね。それじゃあ俺達はこれで」
内心「ほんとぉ? ほんとに大丈夫ぅ?」という気持ちでいっぱいだが、敢えて口に出すのはやめておこう。うっかり口にして現実になったらセレナ大佐がストレスでぶっ倒れるか、腰のものを抜いて暴れ出しそうだからな。
☆★☆
お行儀よく機密区画を抜け、船に帰る。いつ作戦が発令されるかわからないから寄り道もナシだ。
「ただいま」
「おかえりなさい、ヒロ様。早かったですね?」
ブラックロータスに戻ると、ミミと整備士姉妹は格納庫区画で揃ってタブレットを覗き込んでいた。物資のチェックでもしていたのかな?
「話が早かったからな、色々な意味で」
付き合いの長いセレナ大佐は言わずもがな、エスレーベン少将も単刀直入な人だったからな。俺に一定の信用を置くのにも時間がかからなかったし。
「出撃準備だ。緊急発進するかもしれないから、納品に時間がかかるような物資があるなら金だけ払って取り置きにしておいてもらってくれ」
「急やなぁ。でもそれは大丈夫、補充する物資の量もそんなになかったからすぐ終わるで」
「出撃ってことは、宙賊ですか?」
「そういうこと。データストレージが早速活躍したわけだな」
「なるほどぉ……タマの方はどうなったんです?」
「そっちは一時保留だと。ブツは確保したからじっくりと事情聴取とかを進めていくらしい。ブツさえ確保してしまえば緊急性は下がるからな」
「それはそうやな。それにしてもセレナ大佐はどういう決着を想定しとるんやろね?」
「目的はなんとなくわかるけど、どうするつもりなのかはなんとも見えてこないよね」
「それは確かにそうだな」
ティーナとウィスカが揃って首を傾げる。俺も首を傾げる。
確かにどういう形での決着を望んでいるのかは俺も今ひとつ想像がつかんな。目的としては有用な装甲材となりうるあのタマの装甲だか甲殻だかを自由に加工、生産するってのが一番なんだろうが、宙賊対策に特化したセレナ大佐の艦隊がその目的を達成するのに適切なのかと言うと、俺は甚だ疑問である。彼女の艦隊はあくまでも宙賊を狩るのに特化した艦隊であって、未探査星系の探査や研究となると畑違いも甚だしいと思うのだ。
まぁ、レスタリアスはデカい船だ。船のスペースにはある程度の余裕があるだろう。やろうと思えば急造の研究区画を設けることは可能だろうし、研究スタッフを乗せることも出来るだろうが。
「そっちに関しては宙賊問題が片付き次第セレナ大佐がなんとかするだろう。俺達にはあまり関係のない話だし、気にする必要も無い……と良いなぁ」
「兄さん、それは無理筋やろ」
「絶対巻き込まれるでしょ」
「ですよね」
「私もそう思います」
ティーナ、エルマ、ミミ、ウィスカが順番に突っ込んでくる。セレナ大佐と付き合いが浅いクギだけが「そうなのですか?」と首を傾げているが、まぁ巻き込まれるだろうな。
嫌だなぁ、今度は調査が済んでテラフォーミング中どころか、何があるかもわからない――少なくとも変形して襲ってくる恐れのあるタマは転がっている――未探査惑星に降下することになるのか? 絶対に嫌なんだが。攻撃的なエイリアンだか戦闘メカが潜んでいる謎の惑星に降下とか絶対SFアクションホラーになるやつじゃん。
「兎にも角にもまずは目の前の宙賊対策だ。恐らくブラックロータスは正面からの艦砲射撃、クリシュナは小惑星帯での乱戦、アントリオンは小惑星帯内縁部で逃亡しようとする宙賊の足止めをすることになるだろうから、そのつもりでな。多分アントリオンには護衛機がつくだろうし、対宙賊独立艦隊のグラヴィティ・ジャマー機も近い場所に配置されるだろうから大丈夫だろうと思うが、エルマは特に気をつけろよ。ブラックロータスの支援もクリシュナの支援もすぐには受けられない可能性が高い。出し惜しみはするな」
「わかってたことだけど、ヒロは過保護よね」
「当たり前だ。何にせよ船はぶっ壊してもいいから絶対に死ぬなよ。死ななきゃいくらでもやり直しはきくんだからな」
「はいはい、わかったわよ。安全第一、出し惜しみはなしね」
「わかってくれて何よりだ。しかし、そうなると今回はアントリオンはあまり稼げんな……特別報酬を請求するか」
実際のところ、クリシュナとアントリオンは組んで戦わないとコンセプトが成立しないからな。特殊装備を使って他には出来ない仕事をする以上、多少は請求してもバチは当たるまい。
「ガメつくいくやん。どういう心境の変化なん?」
「心境の変化は別にないぞ。単にスキルと装備の安売りはしないってだけだ。方針は一貫してる。前に二人の整備の腕をあちらさんの要望で役立てた時にもしっかり請求しただろ?」
「あぁ……確かにそうですね」
結晶生命体と戦った際に損傷を受けた傭兵艦の修理を請け負って大変に忙しい目に遭ったのを思い出したのか、ウィスカが遠い目をする。あれだって二人のスキルとブラックロータスの設備をタダで提供はせずにちゃんと金を取ったってことだからな。今回のアントリオンも同じようにするだけの話だ。
「ということで、出撃準備だ。方針はとにかく『ご安全に!』だ。いいな?」
「「「アイアイサー」」」
クルー達が揃って声を上げる。クギだけちょっと遅れるのが可愛いな。
俺の準備は……ニンジャアーマーのチェックだけしとくかな。今日使うことはないだろうが、近いうちに使うことになりそうだし。あぁ、やだなぁ。




