#347 話せば長くなる
天気が悪くて捗りませんでした( ˘ω˘ )
「で、ヒロ。キャプテン・ファ○キン・ヒロさんよ。こいつぁ一体全体どういうこった?」
俺がセレナ大佐に連絡――というか通報してからおよそ三十分後。俺達とスクリーチ・オウルズのクルー達は揃ってスクリーチ・オウルズの船が停泊しているドーントレスのドックエリアへと足を運んでいた。
スクリーチ・オウルズの母船となっている中型艦二隻は既に軍の海兵部隊による包囲――というか強制捜査が実行されており、貨物を搬入・搬出するための大型ハッチが開け放たれてその内部から続々とコンテナが運び出されている。
「俺の目が確かなら俺の大事な船に兵隊どもが押し入って積荷を運び出しているように見えるんだがな? 本当にこいつぁ一体全体どういう事態だってんだ? えぇ?」
酒のせいか、怒りのせいか――或いはその両方か。キャプテン・ソウルズの顔は真っ赤になっていた。今にも爆発寸前、といった様子だが……さて、どうしたものか。俺が愛煙家ならここで一本煙草をふかすところなんだろうが、俺はあいにく酒も煙草もやらないんだよな。
そもそも、コロニーや宇宙船で空気を汚染する煙草は厳禁なので、基本この世界に愛煙家などというものは殆ど見当たらないのだが。
「話せば長くなる」
「話さねぇならてめぇの顔の風通しを良くしてやるぞ。このレーザーガンでな」
キャプテン・ソウルズが指先で自分の腰のレーザーガンを指す。やめろやめろ。この距離でそんな物騒なことをすると俺はともかくメイがあんたを叩きのめすぞ。
「別に話さないとは言ってないだろ。話せば長くなるって言っただけだ。あー、事の起こりはウィンダス星系だ。知っているよな?」
「帝国最大のシップヤードだな。それで?」
「俺はこの星系に来る前は野暮用でそこに滞在してた。で、ある日のことちょっとした事件に巻き込まれた。人間を切り刻んで殺す殺人マシンみたいなやつに襲われたわけだ。幸い俺は腕に多少覚えがあるし、そもそもそいつは帝国軍の戦闘部隊に追われてた。俺がこいつで応戦している間にそいつを追ってた帝国軍の戦闘部隊が追いついてきて、まぁその場はなんとかなったわけだ。俺とやり合い始めたところで既に死人は出ていたようだがな」
「話が見えねぇな。その話とうちの船が帝国軍の連中に家探しされているのと何の関係がある?」
顔を真っ赤にしたままキャプテン・ソウルズが腕を組んで先を促してくる。流石に歴戦の探索者は冷静だな。いや、単に俺相手に暴力をちらつかせての恫喝は意味が無いと判断しただけか?
「話せば長くなるって言ったろ? つまり、その犠牲者と殺人ロボットがみたいな『何か』が問題なんだよ。死んだのはウィンダステルティウスコロニーで珍品を扱っていた店の店員と、その場に居合わせた客で、その殺人マシンみたいな『何か』は元々まんまるの玉だったんだ。謎のな。で、軍の調査でどうもこのエッジワールド方面から運ばれてきたらしいってことがわかった。あんたらは知らないだろうが、このドーントレスに増援の帝国軍艦隊と傭兵達が到着して程なくこの船で営業しているアーティファクトショップにガサ入れが入ったんだ。そのガサ入れの最中に例の玉が発見されて、また大暴れした」
その場に俺が居たことは……まぁ言っても仕方がないか。黙っとこう。
「あのままスルーして明日の朝、あんた達が全員例の殺人マシンみたいなモンにズタズタに切り裂かれていたなんてニュースを見るのは御免だからな。だから通報したんだ。善意だと言い張るつもりはないが、悪意があってのことじゃないってのは信じてほしいね」
「俺達だってド素人じゃねぇ。危険な橋だっていくつも渡ってるんだぞ」
「相手が悪い。致死威力のレーザーどころかプラズマランチャーの直撃を食らってもピンピンしているような殺人マシンに対処できるのか? パワーアーマーとレーザーランチャーやプラズマランチャーで重武装した帝国海兵でも手こずるような相手だぞ。俺だってこれが使えなかったら死んでたさ」
そう言って俺は腰の二本一対の剣の柄を叩く。帝国海兵の皆様が即席のメイスをぶん回してたのは彼らの名誉のために黙っておこう。
「……クソ。お前さんの言い分に納得したところでうちの船が土足で荒らされてる現実は変わんねぇな。クソが」
「あー、船長? この分だと今回の儲けはどうなるんですかね?」
「軍の皆様が持ち出しちまってるからどうにもなんねぇよ。まぁ、持ち出した以上は奴さんどもにお買い上げ頂く他ねぇな。あとはうちの船に土足で上がり込んで荒らした分はきっちりふんだくってやる。行くぞ、野郎ども」
「「「アイアイサー!」」」
キャプテン・ソウルズはクルー達を引き連れて今まさにガサ入れされているスクリーチ・オウルズの船へと向かっていった。
「で、私たちはどうするの?」
「ついていってもやれることはないしな。俺達の船に帰るとしよう。黙っててもセレナ大佐から連絡は――」
「にーさーん。うち飲みたりなーい」
帰ろうという話でまとめようとしたら駄々っ子が不満げな顔で俺の腕を引っ張ってきた。痛い痛い。腕が抜ける。見た目が小さいのに力が強い。ウィスカも控えめに俺のジャケットの裾を摘んで引っ張ってる。こっちは控えめで可愛いもんだな。
「船に帰ってから飲んだら良いのではないか?」
「っかー! ちゃうねん! 船で宅飲みすんのとお店で上げ膳据え膳で飲むのはちゃうねん!」
「えぇ……?」
ダンダンとなかなか勇ましい音を立てて地団駄を踏むティーナ。それ、俺の足踏むのやめてね? なんか骨折れそうだから。ウィスカやエルマ、それにミミとクギの顔を順に見回していく。
うーん、確かに通報騒ぎで途中で切り上げてきちゃったし、若干不完全燃焼感はあるけれども。
「ミミ、高くても良いからもう少し良いとこあるか?」
「お任せ下さい!」
ミミが笑顔で胸を張る。うん、何がとは言わんがヨシ! ミミを見ていると俺の気分も少しだけ上がってきたな。クギは自分の胸元を擦って深刻そうな表情をしなくていいからな。大きいのも小さいのも普通のも全ての乳は等しく尊いから。おっと、言ってしまった。まぁ良いか。
「それじゃあ内輪で飲み直し、食い直しといこう。どうせ明日からまた厄介事だろうしな。今日はパーッと行こう。パーッと」
たまには一般的な傭兵みたく宵越しの銭は持たないみたいな金の使い方をしても良いだろう。まぁ、流石に今日稼いだ分を全て使い尽くす程に飲み食いするのは無理だろうけど。




