#346 的中する予感
ちょっと小説を読んでて僅かに遅れました( ˘ω˘ )(インプットは大事だからユルシテ
「おぉ、こうして対面で会うのは初めて――いや、なんというかスゲェな、お前さん」
ホロスクリーン越しではなく、直接顔を合わせたキャプテン・ソウルズは俺を……というか俺達を見るなり頬を引き攣らせた。ミミとクギは予告通り俺の腕を抱え込んでべったり。エルマはすました顔で俺の近くを歩いていて、それにティーナとウィスカ、それにメイも同行している形である。
「男の夢ってやつか? いや、大したもんだ。さすがはプラチナランカーだな。大物だ」
「事情があるんだ、色々と……改めてどうも、ヒロだ」
「ソウルズだ。お嬢さん達もどうぞよろしく」
ミミとクギに腕を解放してもらってキャプテン・ソウルズと握手を交わす。
彼は壮年の男性で、男の俺から見てもなかなかのハンサム……いわゆるイケオジというやつだった。グレイの瞳に同じくグレイがかった短髪。服装に取り立てて特異な面は無いが、長身でスタイルも良い。筋肉質過ぎず、弛んでもいない。かといってひ弱にも見えない。バランスの良い体つきだな。
「立ち話もなんだ。席は取ってある」
キャプテン・ソウルズに促されて彼のクルーと一緒に店に入る。事前にミミが調べたところによると、ここはドーントレスの正規の食堂ではなく所謂娯楽施設として運営されている酒場の一種であるのだそうだ。分隊、小隊単位で親睦を深めるのに利用されるのを目的としているそうで、十人から数十人くらいの人数で飲み食いが出来るようになっているらしい。
「こういうののセッティングが得意な奴には事欠かなくてな。今日はだいぶ張り切ってたんだが……」
そう言ってキャプテン・ソウルズがちらりと視線を向けた先にはチベットスナギツネみたいな顔になっている若めの男性クルーがいた。なんか負のオーラが溢れ出しそうになっているぞ。大丈夫かあいつ。
「ハッ、まぁあの勘違い野郎には良い薬だろう。せいぜい格の違いってのを見せつけてやってくれ」
「面倒臭いのは御免だぞ、俺は……」
キャプテン・ソウルズに背中をバシバシと叩かれながら席に着く。珍しいことに、どうやらここはビュッフェ形式でメシを食うようになっているようだ。大量に用意されている料理を自分で皿に取り分けて、適当な場所で話しながら食うか用意された席で食うかを自由に選べるらしい。酒もセルフなのか? いや、酒はセルフでも良いが、給仕ロボットに注文もできるようだな。酔っ払いがいちいちサーバーに酒を取りに行くのは危ないもんな。
☆★☆
そうして始まった食事会だが、早々に険悪な雰囲気に――はならなかった。
「嫉妬とかそういう感情が一周回って尊敬っすわ」
「いやなんかもう……ほんともう。ヒロさんパネェっす」
「お、おう」
何故かミミやクギではなく俺が若い男性クルー達に囲まれていた。彼等的にはメイドロイドであるメイは別としても五人も女性を囲っている俺はリスペクトの対象であるらしい。
「例のしきたりというかアレも半ばカビの生えかけた古いやつだけど、こうまで見事にハーレムを作ってるのは初めて見たわ」
「つーかよくもまぁあんな可愛い子ばかり……秘訣、教えてもらって良いすか?」
通信でミミに絡んでいたちょっとチャラそうな男性クルーが姿勢を正し、真顔で聞いてくる。
「そんなもんはねぇよ……流れだ、流れ。敢えて言うならタイミングを逃さないことと、どういう結末になるかは別として関わる以上は最後まで責任を持つ覚悟をするくらいか」
実際に狙って船に引き込んだのはエルマだけなので、俺の言っていることは嘘ではない。ミミは衝動的に助けて、その結果として船に乗せる他無かっただけだからな。明確にクルーにするつもりで俺が能動的に船に引き込んだのはエルマただ一人である。
「僕としては可愛い女の子を五人も囲っているのに更にメイドロイドにまで手を出しているのが信じられないんだけど……しかもあのメイドロイドさん、とんでもないカスタム品ですよね?」
今度は少しヒョロい感じの眼鏡の青年が声をかけてくる。うん、見るからにナードっぽい。ステレオタイプだな! まぁ、眼鏡といっても妙にメカニカルだし、何らかのウェアラブルデバイスなんだろうけど。
「そうだな。うちのメイと同じ仕様でメイドロイドを作るとなると軽く数十万エネルはかかるな」
「数十万! 船よりは安いとはいえ……いや、なんつぅか……保つんすか?」
そう言ってチャラい船員がカクカクと腰を前後に動かす。
「まぁ……鍛えてるし? それにうちの『シェフ』は有能だからな」
そう言って腹筋に力を込めて拳でドンドンを自分の腹を叩いておく。実際、うちの船に搭載している自動調理器のテツジン・フィフスは俺の運動データなどを観測して最適な食事を提供してくれている――らしい。定期的に簡易医療ポッドでスキャンしているデータや俺の小型情報端末、トレーニングルームのマシン、それだけでなくメイからもデータを受け取って俺に必要な栄養素なんかを決定しているとかなんとか。高性能が過ぎる。
「毎日のように宙賊とドンパチしたり、貴族の陰謀に巻き込まれたり、結晶生命体の群れに突っ込んだり、パワーアーマーを着たり着なかったりして生物兵器と切った張ったしたり、お貴族様に剣で斬りかかられたり、乗っていた飛行機械が墜落したりしていれば俺みたいな出会いが向こうから転がり込んでくるかもな」
「いや無理でしょ」
「普通死にますよそれ」
「そういうトラブルに巻き込まれた結果として今があるんだ。察してくれ」
こうして羅列するととんでもねぇな。なんで生きてるんだろう、俺。
「でも、トラブルって意味じゃそっちも不自由はしてないだろ? 今日のとか」
「いや、今日のはマジでヤバかったわ」
「ヒロさん達が来てくれてなかったら少なくとも僕は死んでたね……シールドも剥げて装甲も抜かれて死を覚悟してたよ」
おや? どうやらこの眼鏡くんは探索者が出していた護衛の小型戦闘機のパイロットだったらしい。見るからにヒョロいナードって感じなんだが、意外だな。
「なるほど。ということはやはり今日の出会いは俺達にとってのチャンス……?」
「お? なんだ? 挑戦か? 処す? 処す?」
「冗談っす。無理っす」
「でもメイドロイドは良いなぁ……戦闘のサポートもしてくれるんですよね?」
「ああ、陽電子頭脳に金をかけて戦闘能力をオミットすれば10万行くか行かないかくらいでいけるんじゃないか?」
「それくらいならなんとか……うーん」
眼鏡くん――確かヘクトルとか呼ばれていたか――は食事もそっちのけで考えに没頭し始めてしまった。そろそろ良いか? 仕掛けてみよう。
「そういやそっちのキャプテンが言っていたが、未探査星系で何かお宝を発掘してきたって?」
「お? 聞いたんすか? そうなんすよ、これがなかなか――あ、言って良いのかな?」
「聞いたところで俺は傭兵で探索者じゃないからな。別に手に入れた場所とかそんなのは興味ないし。ただお宝って言われたらワクワクするだろ?」
「それはそう。オフレコっすよ? こういうのなんすけど」
そう言って彼は自分の小型情報端末を使って探索者向けの多機能パワーアーマーと、その横に鎮座している謎の真球のホロを映し出した。
「こんな感じのタマなんすけどね。こいつがレーザーも跳ね返す上にかなり丈夫で、明らかに自然物には見えない。しかもあった場所も明らかに人工物っていうか、自然にできた地形じゃないっぽい感じで。こいつはアーティファクトかもしれないってことでちょっと期待してるんすよ」
「あぁ……そう。ちなみに、船には誰かクルーは残ってるのか?」
「いや、全員で払ってここに来てるっすね」
そう言ってチャラい感じの若い船員が会場内に視線を向ける。ああ、なんかあっちでキャプテン・ソウルズとうちの飲兵衛どもが飲んでるな。ミミとクギはメイに付き添われて俺の周りにいるよりももう少し年齢層の高い船員達と楽しく話をしているようだ。
「ちょっと悪いな」
「うっす」
俺は小型情報端末を取り出し、アドレス帳からセレナ大佐を選択して通信を開始する。すると、程なくしてセレナ大佐が通話に応じた。
『どうしました? データストレージなら先程こちらに到着――』
「大佐殿、例のタマを見つけた。スクリーチ・オウルズに積み込まれていて、今クルーは全員出払ってる」
『……』
「あー、大佐殿?」
『ちょっと黙って下さい。今、全精神力を感情のコントロールに向けているので』
「……滅茶苦茶に苛ついてるみたいだが、俺に悪意は無いからな。本当に。天地神明にかけて」
『わかってますから黙ってもらえます?』
「はい」
絶対キレてるやつじゃん! こえぇよ! 俺は悪くねぇ!




