#345 気持ちはわかるが俺は悪くない。
ちょっと短いけど定時前にできたからヨシ!( ˘ω˘ )
スクリーチ・オウルズの船を護衛しながらドーントレスに帰還した俺達はとりあえずセレナ大佐と連絡を取ることにした。
『……もう一度言ってもらえますか?』
ブラックロータスの休憩スペースにセレナ大佐の頭の痛そうな声が響く。
「撃破した宙賊艦から引っこ抜いたデータストレージから宙賊の拠点の座標特定に繋がりそうなデータキャッシュを複数獲得した。まだメイが分析している最中だが、そっちが望むなら解析途中のデータと判明している暗号鍵、あとデータストレージそのものを現時点で引き渡す」
スクリーチ・オウルズを助け、宙賊艦の残骸から戦利品を引きあげた結果、ジャンク品一歩手前の各種装備の他に複数のデータストレージを回収することに成功した。そしてそのデータストレージを帰りがてらメイが精査した結果、今セレナ大佐に説明したようなものが見つかったわけである。
『……実は宙賊と繋がっていたりしませんか? 討伐開始初日――それも昼前に普通そんなクリティカルな情報を持ってきます?』
「そんなわけないだろ、常識的に考えて……とにかく手に入ったもんは仕方ない。俺は悪くねぇ」
これも俺の悪運というか妙な運命力の為せる業なのだろうが、どうにもそういうスピリチュアルな方向での解釈はしっくりこない。とは言え、俺が妙な運命というかトラブルを引き寄せるのは目を背けがたい現実なので、ある程度は認めなければいけないのだろうが。
『はぁ……まぁ良いです。仕事が進むのは良いことですからね。宙賊どもを一分一秒でも早く滅ぼせるならそれに越したことはありませんし』
「さっすが大佐殿。話がわかる」
『こちらにデータストレージを送って下さい。ポート番号を転送しておきますので』
「アイアイマム」
敬礼をしながら通信を終える。すぐに艦内物資輸送システムで使用するポート番号が送られてきたので、それをメイに転送しておいた。これでメイがデータストレージと解析途中のデータをセレナ大佐宛に送ってくれることだろう。
「どうしましょうか?」
「恐らく軍から本拠地襲撃の仕事が来るだろうから、それまで待つのもアリだな」
「それで良いのですか? ちゃんと働かなければ我が君がセレナ様からお叱りを受けるのでは?」
「データストレージの発見と引き渡しでこれ以上なく仕事は果たしたわけだし、本拠地襲撃時に撃破数と賞金は一気に稼げるからな」
ティーナとウィスカもしばらくは鹵獲した装備品の整備に忙しいだろうし、ブラックロータスの格納庫もそこそこに満たされている。意外と嵩張るからな、レーザー砲だのなんだのって装備類は。
「真面目に働くのは勿論大事だが、不要なリスクを避けるのも大事だ。最終的に多額の賞金を稼ぐことさえできるなら良いのさ」
俺達は悪を討つ正義の戦士ではなく、宙賊どもを叩き潰して賞金を得る傭兵だ。最終的に金を稼げるならそれだけで良いのである。何か目的があって勲功というか、戦果を稼ぎたいわけでもないしな。既に傭兵としては最上位のプラチナランカーになっているわけだから、傭兵ギルドに対する貢献度云々に関しても気にする必要はない。
「どうせリスクを避けても向こうから寄ってくるしね」
「それは言うな……何はともあれお疲れ」
「はいはい、ありがと」
ブラックロータスのシャワーでさっぱりしてきたと思しきエルマに拳を突き出すと、彼女はそれに自らの拳を軽く合わせて俺達が座っているソファに並んで座る。俺の左右はミミとクギが固めているので、エルマはクギの隣だ。
「どうだった? 久々の単独での戦場は」
「やっぱ一人は寂しいというか、不安があるわね。全部一人でやらなきゃならないし、負担が大きいわ。戦闘中何回かミミを呼んじゃったし」
「ふむ。暫くミミと二人で乗るか? ミミにとっても良い経験になりそうだし」
「んー、やめとくわ。とりあえず今の環境に慣れてからにする」
「そっか。まぁミミの訓練にもなりそうだし、そのうちな」
エルマがチラリとミミに視線を向けたのとか、左頬に突き刺さる圧力の強い視線とかは気づかないことにしておく。スキルアップには必要なことだと思うんだけどな――などと考えていると、俺の端末からコール音が鳴り始めた。相手はスクリーチ・オウルズのキャプテン・ソウルズか。さっき話した時に一応連絡先を交換しておいたんだよな。
「ヒロだ。何かあったか?」
『ソウルズだ。いやなに、うちの連中をメシに連れていくんだが、一緒にどうかとな。助けてもらった礼もあるし、一杯奢らせてくれ』
「そりゃいい。俺は下戸なんで飲めないが、うちには大酒飲みが三人いるんだ。高く付くぞ?」
『構わんさ。宙賊どもから頂戴した戦利品だけでも釣りが出るし、俺達も手ぶらで帰ってきたわけじゃないんでね』
つまり、スクリーチ・オウルズは未探査星系で何らかの戦利品を獲得してきたってことか……あ、今凄く嫌な予感が。気のせいであってくれ。とにかくスクリーチ・オウルズの連中をその『積荷』から早急に引き離したほうが良い気がしてきた。
「それじゃあ遠慮なくご馳走になる。こっちは七……いや、飲み食いするのは六人だな。一人は飲み食いはしないんでね」
『飲み食いしない……? まぁ良い。合流ポイントを送るぞ』
ソウルズからドーントレス艦内にある飲食店の情報が送られてくる。ふん? まぁ怪しい店ではないようだな。友好的なふりをして何か企んでいる可能性もゼロじゃないから、用心だけはしておかないといけない。何せ俺はキャプテンとしてクルー達の身の安全に責任がある立場だからな。
「オーケー、では現地で。準備をしてから向かうから少し時間を貰うぞ」
『そうだな。一時間後でどうだ?』
「それでいこう……というわけで、スクリーチ・オウルズの連中とメシに行くぞ」
「うーん……ちょっと不安なんですけど」
ミミが若干難色を示す。
「ああ、なんか向こうのオペレーターに絡まれてたもんな。俺の側から離れなきゃ大丈夫だ」
「それじゃあ私たちは皆ヒロの側から離れないほうが良さそうね」
「べったりくっついていきましょう。べったり。クギちゃんもべったりです」
「べ、べったり? こうですか?」
ミミとクギが左右から俺にくっついてくる。うん、とっても嬉しいけど流石にここまでベッタリは目立ち過ぎるというか、ちょっと度を越した感じがするぞ?
「ヒロは大変ね。その状態で私とティーナとウィスカの面倒も見なきゃならないんだから」
「酒飲み勢はある程度自衛というか自重してくれ……」
ただでさえ連中の積荷から嫌な予感をビンビンに感じているんだから、これ以上俺の心労を増やさないでくれ。頼むから。




