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#034 地下の街並み

 エルマとイチャイチャ……というにはちょっとハードなスキンシップをして過ごし、逆襲したり逆襲され返したりして過ごした翌日。

 起きるなり早速風呂に入った俺は軽くトレーニングを済ませ、もう一回風呂に入ってと優雅な休日を過ごしていた。エルマ? まだ俺のベッドでダウンしてるよ。ふっ、俺の勝ちだな。


「おはようございます、ヒロ様」


 食堂に移動すると、トレーニングウェアを着たミミが休憩していた。なんとなくしっとりと汗ばんでいる感じがする。


「おはよう、ミミ。トレーニングしてきたのか?」

「はい、これからお風呂に入ろうかと」


 どうやら丁度擦れ違ったらしい。


「そっか。じゃあメシの用意をしておくよ」

「ありがとうございます。行ってきますね」


 ミミが嬉しそうに微笑み、パタパタと足音を立てながら風呂に向かう。別に俺が出るのを待たないでも乱入してくれても良かったんだけどな。ま、汗を流すだけならそんなに時間もかからないし、エルマもまだ起きてないからササッと済ませようと思ったのかね。俺と一緒に入ると長くなるからね。


「おはよー……」

「おう、おはよう」


 朝食の準備をしているとエルマも起き出してきた。


「なんつー格好をしているんだ、お前は」

「彼シャツ的な」


 どうやら俺の部屋のクローゼットから俺のTシャツを持ち出してきたらしい。背の小さなミミよりは身長のあるエルマだが、それでも俺よりは背が小さい。そんな彼女が俺のTシャツを身につけると、ダボダボというか丈の短いワンピースみたいになる。かなり際どいけど。


「今ミミが風呂使ってるから、交代で入ってこいよ」

「んー……」


 どうにもエルマは朝が弱いようで、起き抜けはいつもこんな感じだ。こんなので傭兵として大丈夫なのかと思わなくもないが、こういう姿を晒すのは今日みたいに完全オフの日だけなんだよな。オンオフの切り替えが上手いっていうのかね、こういうのは。


「あ、エルマさんおは……凄い格好ですね」

「おはよー、私もお風呂いってくるねー」


 ふわぁぁ、とあくびなんぞをしながら手をぷらぷらと振ってエルマがミミと入れ違いに風呂へと消えていく。そして唖然とした表情のまま取り残されるミミ。


「いいなぁ……」

「ミミにも俺のシャツやろうか?」

「いいんですか!?」

「お、おう。ええで」


 予想以上の食いつきにちょっと引いた。俺のシャツなんてそんな喜ぶものじゃないと思うんだけど。でもまぁ、ミミが俺のシャツを着たら……前だけ際どいことになりそうだな。起伏がね、エルマとは違うからね。はっはっは。


「メシにしようか。日替わりで良いか?」

「はいっ」


 ミミの元気の良い返事を聞きながら高性能調理器テツジン・フィフスに俺とミミの日替わりメニューを注文する。俺は大盛り、ミミは普通盛りだ。この船に乗ったばかりの頃は普通盛りではちょっと量が多かったミミも、今は普通盛りを無理なく食べられるようになっている。

 運動もしっかりしているし、きっと身体が適応してきたんだろう。身体つきはあんまり変わっていないように見えるけどな。


「エルマはあの様子だと長風呂だから食っちゃおう」

「そう……ですね」


 思い当たるところがあったのか、ミミは少し迷った後に頷いた。完全オフモードのエルマは風呂に入ると長いんだ。軽く一時間以上入ってるからね。きっと彼女なりのリフレッシュ方法なんだろう。


「んじゃいただきます、っと」

「いただきます」


 俺がいただきますと言って手を合わせると、ミミも俺の真似をして手を合わせる。

 今日のメニューは炊きたての白米に見えるナニカと焼き立ての鮭の切り身に見えるナニカと卵焼きのように見えるナニカとポテトサラダのように見えるナニカだな。

 いや、ナニカってなんだよって話なんだが、そのように見えるけど原材料は藻やオキアミめいた生物を加工したフードカートリッジだからな。実際のところ、食感や味はまさに調理されたそれそのものだから問題はないんだけどさ。

 しかし、なぜ白米や鮭や卵焼きといった和食っぽいものにポテトサラダが混ざるんだ? どれも美味しいんだけど、テツジンシェフはたまにわけのわからない組み合わせで日替わりを出してくるんだよな。

 ちなみに、ミミの方はなんか深皿に入った大量のおかゆみたいなものと焼いた肉のようなナニカとサラダっぽいナニカだった。ミミも満足そうに食べているので、あのおかゆっぽいものはきっとそれなりに美味しいんだろう。多分。


「ミミ、それ一口くれ。とても味が気になる」

「いいですよー、はい」


 ミミがおかゆのようなものをスプーンで掬ってはい、と突き出してくる。ちょっと気恥ずかしいが、遠慮なく頂いた。ふむ……なんだろう、ほんのり甘い、もたっとしてまろやかな感じのスープのような粥のような……意外とお腹にはたまりそうな感じがするな。ほんのりチーズやはちみつっぽい風味もあるような。これは主食ではなくスイーツの類なのでは?


「美味しいですよね」

「美味いような気がする。すまん、食ったことのない味で判別がつかない。でもなんとなく二口、三口と食いたくなるような感じはあるな。お返しにミミにもこの卵焼きっぽい何かをあげよう。はい、あーん」

「あーん」


 箸で卵焼きを一口サイズにしてミミの口に運んでやる。この卵焼きっぽいものはふんわり甘めに仕上げられた一品で、きっとミミの口にも合うだろう。


「んー、美味しいです。はい、じゃあもう一口。あーん」

「あーん」


 再びミミの手によってお粥のようなスイーツのような何かが口元に運ばれてきたので、素直に口にする。うーん、絶妙。甘すぎない優しい味なんだが、チーズっぽい感じや牛乳っぽい感じが合わさって物足りないことは全然ない。不思議な食べ物だ。


「あんた達……」


 そんな感じで「あーん」の応酬をしていると、風呂から上がってきたエルマに呆れたような声をかけられた。


「おはようございます、エルマさん」

「おはよう、エルマ」

「はぁ……おはよう。邪魔ならもう少しお風呂に入ってくるけど?」

「???」

「なんだ、エルマもあーんして欲しいのか? ほら、あーん」


 箸で卵焼きを掴んで差し出してやると、エルマは指先で卵焼きを摘んでひょいっと口に入れてしまった。ぺろりと指先を舐める仕草が妙に色っぽい。


「朝からイチャイチャと……まぁ、昨日は私がヒロを独占したし、今日はミミの番かしらね?」

「えへへ」


 ミミが頬をほんのりと紅潮させてニマニマと笑みを浮かべる。そんなミミに苦笑いを浮かべながらエルマもテツジンで朝食を注文し始めた。


「何なら二人でデートにでも行ってきたら? 船には私が残ってるし、イナガワテクノロジーから連絡が来たら端末で報せるわよ。ああ、傭兵ギルドには一応顔を出してきてね。昨日は顔を出してないし、ここに滞在していることは伝えておいたほうが得だから」

「ああ、わかった。ミミもそれでいいか?」

「はいっ!」


 ミミがフンスフンスと鼻息を荒くしながらグッと胸の前で両拳を握ってみせる。気合を入れているようだ。


「昨日のうちにリサーチはすませてありますからっ!」

「やる気満々だな」

「そうね。ちゃんとエスコートしてあげるのよ?」

「まったくリサーチしてないから無理だなぁ……情けないことに。まぁ、何かトラブルが起こったら俺が守るよ」

「それで良いわよ。十分」


 テツジンから朝食のプレートを受け取ったエルマが俺の隣に座る。

 エルマさんや、朝から人造肉の分厚いステーキに山盛りのポテトサラダとかパワフル過ぎない……? いや別にいいんだけどさ。


 ☆★☆


「ここはターメーンプライムコロニーと随分雰囲気が違いますねっ」

「そうだな。あっちに比べるとかなり賑やかな感じがするし、歩いている人達の雰囲気も違うよな」


 身支度を整えて船から降りた俺達は連れ立って明るい街並みの中を歩いていた。昨日エルマと一緒に歩いた常夜の街とは打って変わってとても明るい。

 それに、歩いている人達はなんというか皆個性的だ。ターメーンプライムコロニーの第三区画を歩いている人達は皆同じような服を着ていたものだが、このアレインテルティウスコロニーの地下区画を歩いている人々の服装は実にバリエーション豊かである。

 スーツのようなものを着ている人もいるし、まるでゴスロリファッションのようなドレスを着ている人もいる。それ服なの? って言いたくなるような全身タイツめいたものを装着している人も居るし、何かメカメカしい格好の人もいる。アレはサイボーグか何かなんだろうか?

 それによくわからん異星人らしき生命体も多いな。人型なのはまだいい。顔がどう見ても両生類だったり、爬虫類だったり、猫だったり犬だったりキツネだったりするのはまだわかる。ケモ耳がついているだけの人とか、青肌で角つきの色っぽいお姉さんとかは是非お知り合いになりたい。

 でもあの宙に浮いてるクラゲっぽいのとか、触手の生えた電球みたいなのとか、どう見ても薄いエッチブックに出てきそうな触手タワーっぽいものとかどう反応すれば良いんだ。コミュニケーションを取れるのか? あれは。

 いや、気にしたら負けだ。俺は必死にそれらの情報を脳内からシャットアウトした。真面目に受け止めるとSAN値がピンチになりそうだ。


「地下のほうが明るいとはなぁ」

「地上というか、港湾や駐屯地のある表層区画はいつも夜みたいに暗いそうです。基本的にはこういった地下区画で生活する人が多くて、地下区画では時間によって朝、昼、夕方、夜で明るさを変えているそうですよ」


 ミミはそんな人々を見てもまったく動じる様子がない。見慣れているのか? そういう異星人がいるということを最初から知っているのとそうでないのとでこんなに違うものなのだろうか。ううむ。


「あのビルは天井まで続いてるんだな」


 俺は異星人達達の姿を視界内から追い出すために高層ビルを見上げた。でかいなぁ、何階建てだろう?


「構造を支える柱の役目もあるみたいです。一番下はコロニーの外にまで突き抜けてるとか」

「あー、そういやコロニーの外壁にもビルっぽいものが突き出てたよな」


 入港する時にコロニーの外壁を見たが、立方八面体の面の部分はのっぺりとしているわけではなく、所々にビルのようなものが突き出ていた。多分、あの天井まで貫いているビルはそのうちの一本なんだろうな。


「あのビルにはどんなテナントが入っているんだ?」

「色々ですね! 様々なレストランや商店、クリニック、商社のオフィスやホテルなんかも入ってるみたいですよ」

「ほー、そりゃあれだな、あのビル一つ探索するだけで一日楽しめそうだな」

「多分全てのお店を回ろうとしたら一日じゃ済みませんね」


 そんな話をしながら街中を二人で歩いていく。朝食は食べてきたばかりなので、何か食うということもないし、さてどうしたものか。


「服でも見に行くか?」

「うーん、そうですね……でも、今ある服だけでも十分ですし」

「お洒落着とか買おうぜ。あんな感じのドレスとか着たミミとか見てみたいし」


 そう言って斜め前の方向に佇んでいるロリータ・ファッションめいた可愛らしいドレスを着ている女性を視線で示すと、ミミの顔が真っ赤になった。え? 何なん?


「なんか俺マズいこと言った?」

「いえ、あの、ああいうのは私には似合わないかなー、と」


 微妙に視線を逸らしつつもチラチラと女性の方に視線を送っている辺り、興味がないわけでも無さそうだ。よし、ここは強引に行こう。


「そんなことないない、俺が見たいから是非行こう。今行こう」

「え、ええと……」

「リサーチした店の中にああいうのを扱った店もあるよね?」

「あり、ますけど……」


 俺はニッコリと笑う。一方ミミは笑顔を引き攣らせた。ははは、観念したまえ。

ロリータ・ファッションを詳しく描写し、説明したりしはじめるとそれだけで本が一冊分くらいになりそうだからそれっぽい服ということで(´゜ω゜`)

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― 新着の感想 ―
服だろうと食べ物だろうと何だろうと、掘り下げて書くと地獄を見るぜ(笑
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