#342 計画通りとはなかなかいかない
ギリギリセーフ!( ˘ω˘ )
翌日。俺達はドーントレスから出撃することにした。艦内時間における朝に起き、身支度や食事、運動などいつものルーチンを済ませてからの優雅な出撃だ。
「酒は残っていないようで何よりだ」
「大変ご迷惑をおかけしました……」
サブパイロットシートに座るクギのテンションはどん底である。飲兵衛どものペースに付き合う事になった結果、彼女は結構早い段階でべろんべろんに酔っ払って気持ちよくダウンした。そしてスヤスヤと朝まで眠ったわけだが、そこで彼女に二日酔いが襲いかかったのだ。
朝、いつもなら真っ先に起きてきているクギが起きてこないことに気付いたミミがクギの様子を見に行くと、ベッドの上でクギがうんうんと唸っていたらしい。彼女はミミの介助でなんとか医務室まで辿り着き、朝から簡易医療ポッドのお世話になったというわけだ。
「もうお酒は懲り懲りです」
「下戸仲間ができて俺は嬉しいよ」
ミミもそこまで酒に強いわけではないが、普通に飲めるクチだ。クギは俺と同じでアルコールにあまり強くないらしい。俺としては若干肩身が狭かったから、下戸仲間が出来て嬉しい限りである。そのうち炭酸飲料の沼に引きずり込んでやろう。
『それで、今日のプランは?』
メインスクリーン越しにエルマがそう聞いてくる。これに関しては昨日のうちにミミと話し合って方針を既に決めてあった。
「テスカロープ星系に繋がってるハイパーレーン突入口とドーントレスの間に小惑星帯が被っているポイントがある。そこでいつもの待ち伏せ作戦だ。アントリオンはパワーをカットして小惑星の陰で潜伏、宙賊どもが罠にかかったらクリシュナがブラックロータスから飛び出すから、タイミングを見計らってグラヴィティ・ジャマーを展開しつつ参戦してくれ」
『了解』
エルマが神妙な顔でそう言って頷く。
テスカロープ星系というのは俺達が今いるケンサン星系に隣接する二つの未探査星系のうちの一つだ。まだ調査中だが、現時点で既にそこそこ有用なガス資源が採取できそうなガス惑星が確認されているらしい。その先の星系も名前だけはつけられているが、絶賛探索中とのことである。
『ご主人様、出撃許可が下りました。まもなく発進致します』
「わかった。安全運転で頼む」
俺達以外の傭兵も続々と出撃しているみたいだからな。ぶつけてくるヘボもいるかもしれないから気をつけないといけない。まぁ、ブラックロータスに突っ込んできても損傷するのは向こうだろうと思うが。シールドも装甲も分厚いからな、ブラックロータスは。
「メイさん、目的地の座標を送っておきますね」
『はい、ミミ様。ありがとうございます』
ミミとメイのやり取りを聞きながらクリシュナの状態をチェックしておく。ティーナとウィスカの仕事を疑うわけじゃないが、こういうチェックは何度しておいても良い。横着して『二人がちゃんとやってるから絶対ヨシ!』とかやっていると思わぬところで足元を掬われるかもしれないからな。
「クギ、一緒に機体の状態をチェックするぞ」
「はい、我が君」
メインスクリーンに機体の情報を表示し、セルフチェックプログラムを走らせて各項目を二人で確認していく。これもサブパイロットとしての修練だ。チェック項目は多岐にわたるが、特にサブパイロットが注意すべきなのはチャフやフレア、緊急冷却装置、シールドセルなどのサブシステムが正常に動作するかどうかと、ジェネレーターの出力振り分けが正常に作動するかどうかだ。
サブシステム関係は残弾というか使用回数がちゃんと最大になっているかどうかもチェックするべきだな。可能であれば実弾兵器の残弾チェックや各種スラスターの動作チェックなどもしたほうが良い。
「当然俺もチェックはするし、その前にティーナとウィスカがチェックしてる。それでも絶対にこの辺りのチェックは怠っちゃならない。万が一サブシステム周りとかジェネレーター周り、スラスター周りに不調があったらそれだけで命取りになるからな」
「はい、我が君」
武器に不調があってもサブシステムと足回りが生きていれば逃げる事はできる。だがその逆は難しい。基本的にこの辺りのサブシステムを利用する瞬間ってのはある程度追い詰められた時というか、防御的な行動を取る時だからな。いざという時に使えないとそれが致命傷になりかねん。
ということをクギに説明すると、彼女は素直にコクコクと頷いて聞いてくれる。ついでにその隣に座っているミミもウンウンと頷いている。この辺はオペレーターの心得でもあるからな。つまりコックピットにいる全員が各々で何度でもチェックする項目なのだ。命に関わることなので効率性なんぞ度外視して誰が何度チェックしても良い。
そうこうしている間にブラックロータスはドーントレスから発進し、エルマの乗るアントリオンもブラックロータスにドッキングした。
『ご主人様、指定座標へ移動を開始します』
「了解。いつも通りパッシブレーダーの感度は最大にして、もし応援要請や救難信号を拾ったらそっちを優先してくれ」
『アイアイサー』
俺達が宙賊を狩るために使う能動的な手は『釣り』だが、既に宙賊と戦闘が発生している地点があるのであればそちらを美味しく頂くほうが効率が良い。釣りはどのタイミングでも始められるが、宙賊との突発的な遭遇は一期一会だからな。俺達なら取り逸れることもない。
☆★☆
事が起こったのは間もなく目的地へ到着しようかというタイミングだった。
『ご主人様、救難要請を受信しました。発信元はスクリーチ・オウルズ――探索者船団のようです』
「おっと、もう少しってところで。それじゃあそっちに転舵してくれ」
『承知致しました。到着まで凡そ百二十秒』
「だそうだ。良いな?」
『アイアイサー。アントリオンの初陣を華々しく飾ってやるわ』
「違う意味で華々しくなってくれるなよ」
勢い込むエルマにそう言ってミミとクギにも視線を向ける。クギは初の実戦にかなり緊張しているようだが、ミミは落ち着いたものだ。
「ジェネレーター出力を戦闘モードに。ウェポンシステム起動」
「はい。ジェネレーター出力、戦闘モード。ウェポンシステム起動致します」
俺の指示に従ってクギが慎重にサブシステムを操作し始める。うん、速さはないが正確で結構。まぁこれくらいでドジられても困るが、仕事が丁寧なのは良いことだ。慣れれば黙ってても速度は上がるだろうしな。
「ミミ、脅威度の振り分けは火力順だ」
「わかりました!」
アントリオンがいるなら足が早くて逃げられるというのはあまり警戒しなくて良い。単純に火力の高い艦を脅威と考えれば良いから楽なもんだ。
『間もなく接敵します。即座に射出致しますが、それでよろしいですね?』
「勿論だ」
俺の返事が終わるか終わらないかというタイミングでブラックロータスが轟音を響かせ、通常空間へとワープアウトする。
『後部ハッチ開放。カタパルト作動、射出致します』
「オーケー。行くぞ!」
「「はい!」」
ミミとクギ、二人の返事と同時に電磁カタパルトが作動し、ブラックロータスのハンガーから宇宙空間へとクリシュナが射出される。さて、久々のドンパチだ。派手に行こうじゃないか。




