#341 星系地図とにらめっこ
17日火曜日に三回目のワクチン接種に行くので、数日から一週間くたばります。
ゆるしてね!( ˘ω˘ )
セレナ大佐達と別れ、ブラックロータスに戻ってきた俺達は解散してそれぞれ思いのままに過ごすことにした。今日一日というか、ドーントレスの艦内時間で明日の朝八時までは自由休憩時間としたのである。
投擲のみとはいえ戦闘に参加したメイは、念のためメンテナンスポッドに入ると言って半ば彼女の私室と化しているコックピットへと戻っていった。
「ヒロ様はこの後どうするんですか?」
「俺? 休憩スペースでケンサン星系の星系地図を眺めながら明日どうやって動こうか考えようかと思ってた」
「相変わらず真面目ねぇ……私はもうお酒飲むわ」
「うちも飲むー」
「まだ昼間だよ、お姉ちゃん」
「ええやん。明日から忙しいんやし」
「オフの時はしっかり休めばいいのよ。ウィスカも飲みましょう? とっておきの出すわよ」
小言を言うウィスカを飲兵衛二人が篭絡しようとしている。流石に二対一ではウィスカもひとたまりもあるまい。こりゃ早々にへべれけ三人組ができあがりそうだな。
「ミミはどうするんだ?」
「そうですねー……ヒロ様と一緒に居ても良いですか?」
「良いぞ。クギは――」
「クギはこっち」
「一緒に飲もうなー」
「おい、無理矢理飲ませるんじゃないぞ」
クギは飲兵衛達に連れ去られてしまった。というか、クギは酒を飲めるんだろうか? まぁ無茶な飲み方をしないように気をつけてくれればいいか。
「メイ、メンテナンス中のところすまんが、注意して見ておいてくれ」
『はい、ご主人様』
メンテナンス中でもメイはブラックロータスを完全に掌握している。当然ながら、艦内の様子はメイは全てまるっとお見通しだ。メイに見ていて貰えればクギもきっと大丈夫だろう。
「それじゃあ始めるか」
「はいっ!」
食堂の方に歩き去った四人を見送り、ミミと一緒に休憩スペースのソファに腰掛けてホロディスプレイを起動する。
「通常の星系であれば気にするべきはどこにコロニーがあって、どこに身を潜めやすい小惑星があって、交易船や採掘船がどういうルートで航行するかってところだが、エッジワールドだともう少し見方は単純になる」
「はい」
まずは星系地図上にドーントレスの停泊宙域をマークする。
「これがドーントレス。んで、このケンサン星系のハイパースペース突入口はここと、ここと、ここだな」
「そうですね」
一つはグラッカン帝国の辺境へと接続しているハイパースペース突入口で、他の二つは未探査星系へのハイパースペース突入口である。
「で、まずはこの三つのルートがメインのルートだな」
ドーントレスと三つのハイパースペース突入口を結ぶラインを星系地図上に引く。商船の類は基本的にドーントレスと辺境へのハイパースペース突入口を行き来することになる。冒険者や探索者が未探査星系から持ち帰ってきたアーティファクト等の戦利品はドーントレスに集まっているし、他にコロニーの類が無いのだから、持ち込んだ商品を卸す先もドーントレスしかないからな。
そして未探査星系に向かうルートは冒険者や探索者と呼ばれる連中が『仕事』へと向かうルートだ。彼らは未探査星系へと向かい、マッピングデータや資源情報を持ち帰ってグラッカン帝国政府へと売り捌く。その他にも惑星などに降下を行って地表の探査や、アーティファクトの探索などを行うわけだな。
もっとも、アーティファクトとは言っても大半はちょっとめずらしい形の鉱石だとか、そういったものが大半で、未知のエイリアンの手によるテクノロジーでできた本物の遺物なんてものはそうそう見つかるものではない。もし見つかれば物凄い値がつくらしいけどな。
「冒険者や探索者って宙賊に襲われるんですか?」
「他に獲物がいないか、狙いづらい場合は襲われることがある。ただ、連中の船は交易に使われる輸送艦に比べれば重武装だから、宙賊にとってはリスキーな相手だろうな。何せ基本的には帝国航宙軍や星系軍の庇護下にない場所で活動する連中だから、自衛手段はしっかりと持っている」
場合によっては宙賊だけでなく宇宙怪獣なんかも相手にすることがある連中だ。駆け出しの傭兵よりも装備も戦闘技術も上、なんて手合もゴロゴロいる。
「ただ、そういう連中を狩って装備を剥ぎ取って自分のものにしている宙賊も最辺境領域にはいる。だから、最辺境領域の宙賊は今までに戦った連中と比べると『質』が高いのが多いから、注意が必要だ」
「なるほど。あと、増援に注意、でしたよね?」
「お、覚えてたな? そうだ。最辺境領域では戦闘が長引いても帝国航宙軍や星系軍が来る可能性が低い。だから最辺境領域の宙賊は傭兵とかの強い敵を相手にする場合に仲間を呼んで獲物を数で押し潰そうとしてくることがある」
これがセキュリティレベルの高い星系だと帝国航宙軍や星系軍が駆けつけてきて一網打尽なのだが、最辺境領域ではそうもいかない。
「だとすると、今までに比べてかなり危ないですね?」
「俺達だけでやるならな。ただ、今回はセレナ大佐の対宙賊独立艦隊と、俺達以外にも大量の傭兵がこの星系に来てる。数で押し潰される心配はあまりしなくてもいいだろう」
「なるほど。そうすると、私達はどう動くのが良いんでしょうか?」
「いつもなら小惑星帯でブラックロータスを囮にして釣りをするんだけどな。今回はハイパースペース突入口近くで網を張るのもアリかなと思ってる」
そう言って俺は未探査星系へと繋がっているハイパースペース突入口周辺をマークした。
「ハイパードライブの不調を装って宙賊を誘き寄せて、宙賊が寄ってきたところをブラックロータスから出撃して叩くわけだな」
「いないいないばあ! 作戦、ってわけですね」
「良いね、いないいないばあ作戦。んで、逃げようとしてもアントリオンが邪魔をするってわけだな」
味方の増援が来る前に敵の増援が大量に押し寄せてくると危ないかもしれないが、そこはクリシュナとブラックロータスの火力でなんとかなるだろう。ただ、宙賊連中が対艦反応魚雷なんかを装備していた場合にはブラックロータスに危険が及ぶから、メイには十分に注意してもらう必要があるな。もっとも、いくら若干宙賊の質が良くても、ブラックロータス相手に真正面から魚雷を捻り込むのは難しいと思うが。
「ミミは何か作戦を思いつかないか?」
「私ですか? うーん……」
ミミが頬に手を当てて考え込む。こうして宙賊をどう倒すか考えるってのはオペレーターというか、傭兵としてステップアップするのに重要なことだからな。ミミにもぜひ考えてもらうとしよう。
離れた場所から微かに聞こえるエルマ達の酒盛りの音を聞きながら、俺は暫くの間ミミと一緒に星系地図とにらめっこを続けるのであった。




