#338 巨大フードコート
原稿執筆期間に入るので暫くお休みします。ユルシテネ!_(:3」∠)_
怪しげなアーティファクトショップ廻りをした後、俺達はドーントレスの大食堂へと足を運んだ。
「ここが大食堂ですかぁ……なんだかワクワクしてきました」
ドーントレスの大食堂は大変に広かった。印象としてはめちゃくちゃ広いフードコートみたいな感じである。壁際に料理を提供する自動調理器が並んでおり、食事を取りたい人達はそこで料理を注文し、用意されているテーブルで食事をするという形式らしい。
この大食堂は他の場所と比べると天井が高く、開放的な雰囲気を感じさせる。あちこちに観葉植物や植物の繁茂するテラリウムなども設置されており、乗員達のストレスを極力緩和させようという工夫が見られるな。
「軍が提供する食事なんてそんなに期待するようなものじゃないと思うけどね」
「それはどうかな? 戦闘艦ならともかく、長期任務に当たる補給母艦ならそれなりの質を期待してもいいと思うけど」
高揚する気持ちを隠さないミミとそれに応じるエルマに俺も意見を表明しておく。精々数日から長くても数週間程度の活動が想定される戦闘艦と、短くとも数ヶ月から下手すると数年単位で活動を続けることに補給母艦とでは提供される食事の質に差が出るのではないかと俺は思っている。
まぁ、レスタリアスの士官用の御馳走なんてのは味も質も大したものだったが、普段の食事はかなり質が微妙って話だったからな。お茶関係だけは妙に充実してるって話だったけど。
「酒は無さそうやなぁ」
「艦内の生活時間的には昼間だしね。どっちにしろ軍の大食堂には置いてないんじゃないかな」
「民間の食堂や酒場があるようです」
「なら酒はそっちかー」
「ティーナさんは本当にお酒がお好きなんですね」
「うちだけやない。ウィーもや」
「流石にこの時間から飲もうとはしないよ。お姉ちゃんはTPOを弁えようね」
あちらはあちらでティーナとウィスカを中心に和気あいあいとした会話をしている。クギもすっかりうちのクルーに馴染んだようだな。後は俺に対する仰々しい言葉遣いをなんとかしてもらいたいんだが……説得は難航している。
「それじゃあ適当に食いもん調達して集まるか。席は……空いてるとこも多いし、確保するほどじゃないかな」
ドーントレスへの到着時間やアーティファクトショップを見て回った関係で昼飯時をちょっと外しているからか、席には余裕がある。というか、テーブルの数が滅茶苦茶多いからな。空いているテーブルも探せば沢山あるのだ。
「そうですね。それじゃあ行きましょう!」
ミミがごく自然に俺の腕を取って歩き始める。エルマに視線を向けると、肩を竦めながら手を振るような仕草を返された。良いからそのまま行けということらしい。ウィスカとクギもこっちについてきたそうな顔をしていたが、それぞれティーナとメイに止められているようだった。どうやら今日はミミのターンらしい。
「沢山自動調理器がありますね!」
「テツジンと同じメーカーのもあるんかね? 流石にテツジンそのものは置いてないと思うが」
「最新型のフィフスはどうかわかりませんけど、型落ちのフォースはあるかもしれません」
「まぁ、テツジンの料理はいつも頂いてるし、他のを探してみるか」
「そうですね」
自動調理器と一口に言ってもその特性というか、ウリは様々だ。テツジンシリーズは全体的に平均以上というスペックを目指しているハイエンド機という位置づけのシリーズだが、他のメーカーだとフードカートリッジからいかに上質な肉を合成するかに心血を注いでいる機種だとか、甘いお菓子に特化した機種だとか、とにかく一口に栄養を圧縮しようという機種だとか、こだわりの強い機種から変わり種まで色々とある。
「お、あれなんて良さそうだぞ。ファストフード系に特化した機種っぽい」
「良さそうですね。違う種類のを買っていきましょう」
ホットドッグやハンバーガー、それにタコスやピザのようなものを中心に扱っている自動調理器を見つけたので、二人で並んで食事を買い込むことにする。テツジンだと注文しないと出てこないんだよな、こういうファストフードというかジャンクフード系の食事は。なんかちゃんとした、と言うのもなんか変だが、俺の場合だと主食におかず数点みたいなメニューが出てくることが多い。
不思議なことに、お任せにしていると人によって出てくるメニューが全然違うんだよな、テツジンは。トレーニングルームの運動量とか食事時の脳波とかを計測して最適な食事を提供するってことになっている。無駄にハイテクな自動調理機だ。
俺はホットドッグのようなものを、ミミはタコスロールのようなものを注文した。注文時にシェアメニューにチェックを入れておくと、シェアできるように輪切りにしてくれるのがなかなかに親切である。
「おー、兄さんこっちこっち」
ミミと二人で料理を手にみんなはどこかしらと大食堂を彷徨っていると、ティーナの声が聞こえてきた。見ると、既に席を確保して料理を並べているところである。メイの姿が見えないが、恐らく人数分の飲み物でも調達しに行っているのだろう。
「ほらー、お兄さん達はやっぱりシェアできそうなメニューにしてるじゃない」
「だってこれ珍しいから食ってみたかったんやもん」
ウィスカに文句を言われたティーナがカレーうどんのようなものが入っている丼を抱えて唇を尖らせている。それは別に良いんだが、そいつを食う時には十分に注意しろよ? 服に跳ねたら悲惨だぞ。ああ、いやこの世界の洗濯機は高性能だから別に汚れても簡単に綺麗にできるんだろうけどさ。
「ティーナのそれは伸びると美味くないだろうから、さっさと食っちまえ」
「のびる?」
「麺が汁を吸って膨らんだり食感が柔らかくなりすぎたりするんだよ、そういうのは。良いから食っちまいな」
「ほーん? 珍しい食いもんなのによう知っとるな、兄さん。あ、故郷の味ってやつ?」
「同じものではないと思うけどな。あと気をつけろよ。慎重に食わないと汁が跳ねて服が酷いことになるから」
「はっはっは、そんなん楽勝や」
これはダメそうですね。ティーナが来ている服の冥福を祈っておくことにしよう。
「見てください、我が君。此の身どもの国の料理がありましたよ」
そう言ってクギがニコニコしながら見せてきたのはどう見てもいなり寿司である。狐娘にいなり寿司とはなかなかにハマった組み合わせだが、よくそんなものがあったな? というかヴェルザルス神聖帝国にはいなり寿司があるのか……和食文化だったりするのだろうか?
「おいしそうだな。俺とミミは無難そうなところを選んできたぞ」
「私はドワーフ焼きを選んできました」
そう言ってウィスカが掲げたのはお好み焼きめいた見た目のドワーフ焼きである。実際、味もほぼお好み焼きだったんだよな。クギが自分の国の料理を見つけて買ってきたから、ウィスカもそれに合わせたんだろうか。
「私はこれ」
「酒のつまみかな?」
「美味しそうだから良いでしょ」
エルマが買ってきたのは大量のからあげのようなものである。何の肉かはわからない――というか多分自動調理器から出てきたものなのだろうから本物の肉ではないだろうが、見た目は鶏の唐揚げである。主食は? 本当にそれだけを大量に買ってきたのか? なかなかに思い切ったことをするな。
「お待たせ致しました」
そう言ってメイがお盆のようなものの上に人数分のドリンクを載せて運んできた。どこから調達したんだろうか?
「それじゃあ揃ったし食うとするか。特になにもないけど乾杯ってことで」
「かんぱーい!」
めいめいドリンクのボトルを手に取ったところで俺が音頭を取ると、口の周りをカレー汁っぽいものを黄色くしたティーナが一番に応じてボトルを掲げた。こういうのは何かと素早いな、ティーナは。
なお、味の評価としてはどれも無難というか普通に美味しかった。ただ、いなり寿司は俺以外にはあまり受け入れられなかったようだ。
「美味しくないってわけじゃないんですけど、ご飯かと言われると……?」
「単体で食うなら悪くないと思うんやけど」
「ちょっと他のメニューと合わないような……」
「お酒には合わなそうね」
と割とボコボコである。俺は全然問題無いんだが、クギはしょんぼりしてしまっていた。
「美味しいと思うんですけれど……」
「俺は好きだぞ。ただ、酢飯と甘いおあげの組み合わせは食べ慣れていないと奇妙に感じるものなのかもな」
「残念です」
耳をぺったりと伏せてしょんぼりとしているクギは可哀想だったが、こればかりは好みの問題だものな。
まぁ、このようにクギがしょんぼりとする一幕はあったが、昼食自体は満足の行くクォリティであった。
なお、ティーナの服は俺の予想を裏切らずに戦死した。




