#336 ケンサン星系
生活リズムが大崩壊( ˘ω˘ )
ケンサン星系はつい最近グラッカン帝国領として領有の主張がなされた星系である。その存在そのものはかなり前から認識されていたそうだが、実際に帝国の領土として主張され、それが国際的――つまり他の銀河帝国にも――に認められるにはそれなりの手順を踏む必要があるため、実際の編入はつい最近になったというわけだ。
「まぁ、つい最近と言っても三ヶ月くらい前の話だそうだが」
「それは最近、なのでしょうか?」
「どちらかと言えば最近に分類されるんじゃないかなぁ?」
小首を傾げるクギにウィスカも首を傾げつつ応じる。まぁ国家というスケールで見れば三ヶ月という時間はつい最近、と言っても差し支えがない程度の時間だろうと思われる。
「それで、うちらはどういう仕事をするん?」
いつものツナギのような作業スーツではなく、いかにも部屋着といった風情の気楽な格好をしているティーナがそう聞いてくる。まぁ、ブラックロータスの食堂に集まって駄弁っているという状況なので、そういう格好でもおかしくはない。おかしくはないんだけど、上がタンクトップ一枚だけというのはちょっと気が緩み過ぎというか無防備過ぎんかね。
「当面は偵察と情報収集みたいね」
エルマがそう言ってストローの伸びているカップ状の容器から中身が何なのかわからない謎のドリンクを飲んでいる。いつも身体を動かした後に飲んでいるからプロテインの類じゃないかと思っているんだが、確認したことはないな。美味いのだろうか? 後で聞いてみるか。
「具体的には宙賊狩りです。やっぱり輸送船や冒険船を狙った宙賊の襲撃が多いみたいなんですよね。周辺星系に根城があるんじゃないかって帝国航宙軍は睨んでいるみたいです」
「それで、俺達傭兵が手分けして宙賊どもを狩って情報を引っこ抜こうってわけだ。捕虜を手に入れるか、データキャッシュを手に入れるかだな」
「なるほどなぁ」
エルマとミミ、それに俺の説明を受けてティーナも納得してくれたようである。
捕虜を取る――つまり宙賊を降伏させてコックピットブロックをパージさせた場合、基本的に宙賊はコックピットに残っている情報の類を全て消去する。そうしないと宙賊仲間を売ることになりかねないからだ。宙賊にも宙賊なりに通すスジってもんがあるらしい。どっちにしろ惨たらしく死ぬんだから役に立ってくれれば良いのにな。
まぁ、データキャッシュが無いなら捕虜を尋問するだけの話なので、帝国航宙軍的には手間がかかるだけなんだろうけど。技術の進んだこの世界では黙秘など情報収集する上では何の妨げにもならないのだ。宙賊には半ば人権も認められてないしな。おっかねぇ世界だよ。
「つまりいつも通りっちゅうことやな」
「せやな」
つまるところ、小回りの利かない軍の穴埋めを俺達がやるわけだ。現状、この星系では宙賊に対する防衛戦力が全く足りていないのだそうだ。
補給母艦ドーントレスそのものの守りは全く問題はない。ドーントレス自体に多数の防衛用タレットが装備されている上に、迎撃用の戦闘機も数が揃っているという話だからな。補給母艦なんて呼称だと戦闘能力が低そうな印象を持つかも知れないが、実態は移動できる要塞みたいなものである。
ただ、星系を守るという話になるとドーントレス単艦ではどう考えても手が足りない。迎撃用の戦闘機は一応戦闘艦が必要とする一通りの機能を備えてはいるが、基本的に母艦から遠く離れて活動するのには向かない。なので、救援要請が入った際には戦闘機ではなく戦闘艦艇を派遣することになるわけだが、ドーントレスの護衛艦隊だけでは手が回らなかった。それでセレナ大佐とセレナ大佐に雇われた俺達がこのケンサン星系へと派遣されてきたわけだ。
ただ、話を聞く限りこの星系で活動している宙賊はどうも動きが洗練されていて厄介であるらしい。襲撃は迅速で、実入りよりも身の安全を第一にしているのか星系軍や帝国航宙軍の艦艇が駆けつけてくる前に退散してしまうらしい。
宙賊も馬鹿じゃないからな。勝てないと思ったら普通に逃げる。俺だって何度も逃げられている。
「偶然だと思いますけど、グラヴィティ・ジャマーを装備したアントリオンを手に入れた途端によく逃げる宙賊を相手にすることになるのって出来すぎな感じがしますよね」
「言いたいことはわからないでもないけど、そもそもアントリオンのグラヴィティ・ジャマーは宙賊によく刺さる装備だからな。宙賊を相手にする以上、そうなるのは必然だろう」
ウィスカの言葉にそう答えて肩を竦める。
別にセレナ大佐の仕事を受けずに宙賊狩りをしたとしても同じような感想が出てきたのだろうから、驚くようなことでもない。逃げようとする宙賊の超光速ドライブの起動を阻害して一網打尽にできる装備とか、俺達のような宙賊狩りを生業とする傭兵にこれほど相応しいものもそうそう無いことだろう。
まぁ、クギに言わせればこういう状況も俺の悪運だか運命力だかなんだかが引き寄せたとかそういう話になるんだろうが、何にせよその時その時で判断を下しているのは俺達自身なのだから、運命論とかそういう方向の話で片付けるのはあまり好みじゃないな。
「宙賊に懸けられている賞金も高くなってるって話だからな。慎重かつ大胆に、大いに稼がせてもらうとしよう……まぁ、今日一日は休みなわけだが」
「ティーナとウィスカのお陰で機体は仕上がってるし、補給はウィンダスで済ませてきたものね。これから暫くお世話になるドーントレスにご挨拶でもしにいく?」
「お、ええね。結構年季の入っとる船やけど、中身がどんなになってるか興味あるわ」
「この大きなお船の中を見て回るのは楽しそうですね」
ティーナとクギは乗り気のようだ。ティーナはまぁいつも通りとして、クギも好奇心を剥き出しにしているな。やっぱり箱入りで育ったからか好奇心は強いみたいだな。ゆるゆると尻尾を振っているのが可愛い。
「それじゃあ皆で行きましょうか」
「はい! メイさんも呼びますね」
ミミがタブレット型端末を操作してこの場に居ないメイにメッセージか何かを送り始める。ゆっくりじっくりと休むのもこれで暫く先までお預けになりそうだし、精々興味深く拝見させて頂くとしますかね。




