#335 最辺境領域
おまたせしました( ˘ω˘ )
対宙賊独立艦隊はウィンダス星系を出発し、ゲートウェイを経由して辺境へと至った。辺境と言ってもこの辺りは俺とミミ、エルマが出会ったターメーン星系とは少し趣が違う。
「どう違うのですか? 我が君」
クリシュナのコックピット。そのサブパイロットシートに座ったクギが問いかけてきた。
エッジワールドが近づいているので、星系内を超光速航行している間は一応緊急発進ができるように備えているのである。
「ここから先は最辺境領域とも呼ばれるエッジワールドで、更にその先は未探査領域だ。辺境は辺境でも国境近くの領域じゃないんだよな。つまり……」
「つまり?」
「ド田舎ってことだ」
「あはは……身も蓋もないですね」
俺の説明にミミが苦笑いする。まぁ、なんというか本当に見るべき場所の少ないド田舎なのである。現状において国家戦略上重要ではなく、特別有用な資源も発見されていない。それはつまり、手を加えずに人類が居住できる惑星が存在しないという意味でもある。遠い将来、居住可能惑星がどうしても足りなくなったとかそういう特別な理由でも無い限り、今後もこの星系――確かボストーク星系だったか――は地味なド田舎星系であり続けるのだろう。
まぁ、星系情報を見てみた限りでは全く資源が採れないわけじゃないようだ。ただ、採れるのは別にこの星系でなくともどこでも採れるありふれた鉱物資源やガスの類で、競争力に秀でているわけでもない。今後、エッジワールドの開拓が進めばこの星系が中継地として発展する可能性も無くはないかもしれない、くらいの星系だろうな。
「実のところこういう星系が宙賊狩りの傭兵としては意外に狙い目だったりするんだけどな」
「そうなのですか?」
「国境に近いわけでもないから有り体に言って星系軍の数も質もお粗末なんだ、こういう星系は。だから宙賊としては活動がしやすい。こういう目立たない星系に宙賊が拠点を構えて周辺星系の治安を悪化させるってのはよくあるパターンだな」
「なるほど」
クギは俺の説明をふんふんと興味深そうに聞いている。ただ、こういう星系だとロクに機体の整備もできないから傭兵にとっては若干不便な星系でもあるんだよな。ターメーン星系は国境の辺境星系だったから配備されている星系軍や帝国航宙軍の戦力も多かったし、それらの船に補給するための武器弾薬や整備施設があったが、こういうど田舎星系のコロニーにはそういったものがまず存在しない。まぁ、うちの場合はブラックロータスがあるからクリシュナの整備には困らないけど。
しかし問題はアントリオンなんだよなぁ。中型艦の収容ドックを持つ母艦となると、もうそれは所謂キャピタルシップとか主力艦とか呼ばれるクラスの船になってしまう。帝国航宙軍で言うところの駆逐艦でも大型のものとか、或いは小型の巡洋艦とかその辺りの大きさだ。
傭兵でそのクラスの船を運用するのは、普通は小型艦や中型艦を合わせて十隻近く擁する大傭兵団くらいである。小型艦と中型艦を一隻ずつしか運用していない俺達が使うのには少々大仰過ぎる代物だ。
「最辺境領域というのはもっと何もない場所なのでしょうか?」
「ああ、いやそれが実はそうでもなかったりするんだよな」
「そうなんですか?」
クギの質問に俺が答え、その答えにミミが更に質問を重ねてくる。
「実際に今回の目的地をまだ見てないから絶対とは言えないが、この規模の艦隊が停泊できるだけの設備が整えられている筈だ。そしてそういう場所にはすぐに商人達が集まる。安全だからな。そうすると傭兵や未探査領域の探査を行う冒険家達も集まる。そうすると、もっと商人達が集まる」
「なるほど、そうやって交易コロニーが出来上がるんですね」
「まぁ、そうだな。多分まだ完成してないと思うけど」
「そうすると、どうやって商人達は交易とかしてるんですかね?」
「多分アレだろうとは思うけど、実際に目で見たほうが面白いんじゃないかな。多分驚くと思うぞ」
俺も帝国航宙軍というかグラッカン帝国の『ソレ』は見たことがないから、ちょっと楽しみなんだよな。
そんな話をしているうちに艦隊は再びハイパーレーンへと突入した。次が目的地の星系で、ハイパーレーン内の移動時間も短いのでこのままクリシュナの中で待機しておくことにする。その間、ミミとクギは一緒にサブシステムの扱いについて勉強することにしたようだ。そんな二人の話を横で聞くことに徹する。俺が補足したり更に詳しい説明をすることもできる部分がいくつかあったが、こういうのは自分達で学ぶってのが大事だからな。明らかに間違ったことを覚えようとしない限りは黙って聞いているのが吉だろう。
それにしてもミミとクギは仲良く出来ているようで何よりである。最初はミミが若干警戒していたので心配してたんだが、現状を見る限りは仲良くしているように見える。少なくとも俺の目からは。今後も二人の仲については注意深く見守っていく必要があるだろうな……と考えていたら、ブラックロータスのブリッジで待機しているメイから通信が入った。
『ご主人様、間もなく目標星系へと到着します』
「了解。いつぞやの結晶生命体の時みたいなことは無いと思うが、一応備えておいてくれ。エルマにも伝えてくれるか?」
『承知致しました』
メイとの通信が切れる。すると、程なくしてブラックロータスがハイパーレーンを抜けて通常空間に回帰したという通知が来た。
「着いたな。とりあえず物騒な展開は無さそうだ」
コンソールを操作してブラックロータスのセンサーが拾った情報を見ながら呟く。とりあえず襲撃警報とかそういうのは発されていないようだ。メイなら亜空間センサーで拾った超光速通信の内容まで分析してもっと確実な判断を下せるんだろうが、如何せんそれは人の身である俺には荷が重すぎる。
これといった問題もなく艦隊の隊形を整えた俺達は超光速ドライブを同期し、全艦隊が一団となって光より速い速度で星系の中心方向――つまり恒星のある方向へと移動し始めた。
「ハイパースペース内はド派手過ぎて落ち着かないけど、超光速航行時の外の様子は見てて面白いというか綺麗だよな」
煌めく星々が線となって後方に流れていくように見えるこの光景は単純に綺麗だと思う。星の流れの中を泳いでいるようなこの感覚は万能感というかなんというか、とてつもない自由さを感じさせてくれるのだ。
「えー? ハイパースペースの中も綺麗だと思いますけど」
「ミミの感性はたまにちょっとズレてるよな」
「酷いです」
ミミが憮然とした表情をしてみせる。
いや、ミミは基本常識人なんだけど、芸術方面というかビジュアル方面というか、そっちの方の感覚はかなりズレているというか独特だと思うよ。
「おっと、もうすぐ目的地に着くみたいだ。さぁ、集中集中」
「話を逸らしましたね、ヒロ様……この件については後でじっくりと話しましょう」
「覚えてたらな」
これから見るであろうものを考えれば驚きのあまりこんな些事は忘れると思うけどね。アテが外れると一転してピンチだな。頼むぞグラッカン帝国。俺が思っていた通りのものをちゃんと配備していてくれよ。
「超光速ドライブ停止まで5、4、3、2、1……今」
ミミのカウントと同時にブラックロータスのセンサーから送られてくる映像が切り替わる。超光速航行から通常航行へと切り替わったのだ。後方へと流れていっていた星の煌めきが線から点へと戻る。
「わぁ、なんですかあれ」
「大きい……ですね?」
通常航行へ戻ったことを確認してからブラックロータスの外部光学センサーが拾っている映像を何度か切り替えると、巨大な物体がメインスクリーンに映し出された。
それは双胴の巨艦であった。流石にこのクラスの船に関してはリサーチもしていないので一見してどこのメーカー製なのかまではわからないが、間違いなく俺が「あるだろう」と予測していた艦種だ。見た目からして新しい船ではない――というか、外装の感じを見る限りかなり年季の入っていそうな船である。
「あのバカでかいのは所謂軍用補給母艦ってやつだな。大量の物資と装備、兵員を運ぶことが出来て、更に小型艦から戦艦まで補給や整備をすることができる移動基地みたいなもんだ」
とんでもない巨体だが、ちゃんと超光速航行能力も恒星間航行能力も備え持っている筈だ。あんまりにもデカいから星系内を航行するのにもコース取りが滅茶苦茶難しそうだけど。
「前にコーマット星系で見た移民船よりも大きいですね」
「だな。まぁあの時は確か五隻くらい居たはずだから、総人口って意味ではあの時のほうが多いと思うけど」
「あの中に何人の人が住んでいるのでしょう……」
ミミは前に移民船を見ていたから衝撃も小さく済んだようだが、クギは初めて見る超大型艦を前に感心しきっていた。ちょっと口が開いてるのが可愛い。
「暫くはあの船を拠点に動くことになるだろうな。馴染めるよう祈っておこう」
「そうですね」
補給母艦のシップネームは『ドーントレス』か。暫く世話になる事になりそうだな。馴染めるように祈っておくとしよう。




