#332 暇なヒロ
来週はカクテイシンコクという強敵を倒したいのでお休みします( ˘ω˘ )
さて、ミミとクギの訓練方針も決まったことだし、エルマ用の戦闘艦の調達もブラックロータスの改修も終わった。ここのところ自由に宇宙を飛び回ってドンパチする機会もなかったので、そろそろお仕事に取り掛かりたいのだが、残念ながら今は帝国航宙軍――というかセレナ大佐の対宙賊独立艦隊から指名依頼が入っており、艦隊の出撃準備が完了するまで待機を命じられている状況である。勝手にフラフラとウィンダステルティウスコロニーから出ていくと怒られるどころの騒ぎでは済まないので、不本意ながら特にやることもなく待機しているしかない状況だ。
まぁ、出撃したところでこの星系は帝国航宙軍のお膝元と言って良い星系だ。宙賊とやりあおうと言うのであれば、少なくとも三回。万全を期すなら五回か六回はハイパーレーンを移動しなければまともな稼ぎを得ることは出来まい。五回、六回とハイパーレーン移動を行うとなれば、片道でも数日の行程となる。軽々しく「ちょっとそこまで」と言って出ていけるような距離ではないな。
というか、軍の任務中にやらかしたらほぼ確実に脱走扱いされる行為である。
「それで私達の仕事を見に来たんですか」
「よっぽど暇なんやなぁ」
「人が仕事をしている姿を見ながらくつろぐのは楽しいぞ」
「よっしゃええ度胸や。その喧嘩高く買うたる」
「ゆるして」
ティーナが化け物を解体できそうなプラズマ工具めいたものを持ち出してきたので、早々に降参する。それは人間に向けちゃダメなやつでは?
「しかし、地味だな」
「そらそうや。クリシュナもブラックロータスもアントリオンも整備は完璧な状態やで」
「そうなると、消耗しやすい部品とか、複製に時間がかかる部品を予め備蓄しておくくらいですね。あとは今みたいにメンテナンスボットとか軍用戦闘ボット達の整備とか、工具類とか整備施設の整備とか」
「なるほどなぁ」
今、彼女達の周りには様々な形状のメンテナンスボットが集まっている。人型のものはほんの数体で、殆どのものは多脚型且つゴツくてパワーのありそうなアームを一本、又は複数持つ作業機械めいた連中である。その他には高所作業を担当するドローン的な連中もいる。こいつらは重力制御技術を使ってふわふわと浮かんでいるらしい。あの無駄にハイテクなドリンクホルダーと同じ原理だな。
「まぁ、メンテナンスボットはメンテナンスボット同士で互いに整備できるようになっていますし、軍用戦闘ボット達は専用のメンテナンスシステムで全自動で整備が出来るようになっていますからあまり手がかからない子たちばかりなんですけど」
「正直うちらが使う工具のが手が掛かるで」
「実際のところ、二人が直接手を使って整備するところなんてあるのか?」
これだけメンテナンスボットが揃っていれば二人が直接工具を振るう機会なんて無さそうだが。
「クリシュナとかブラックロータスとかアントリオンの整備には必要ないな。ただ、鹵獲した宙賊艦から装備引っ剥がしたり、ニコイチして修理するって話になるとうちらがメインになって作業せなあかんやん?」
「ああ、なるほど。それはそうかもしれんな」
「クリシュナも最初は手作業での整備が多かったですけどね。テンプレートがなかったから」
「ああ、うん。それはそうだろうね」
ブラックロータスはスペース・ドウェルグ社製で、アントリオンはイデアル・スターウェイ社製だが、クリシュナは俺がこの世界に迷い込んだ時に一緒に現れた――と思われる機体だ。どこが製造したものかということは全くの不明で、機体パーツの一部はブラックボックス化されている。
幸い、この世界の船とは一定の互換性があり、なんとか整備できてはいるのだが、ブラックボックス化されているパーツが損傷した場合には修理不能となる恐れが高い。実は今運用している船の中で一番の問題児なんだよな、クリシュナは。
「まぁ、少しずつ解析は進めてるんやけどね。基本的な整備範囲の作業テンプレートは作れたから、よほど重大な損傷を受けない限りは整備もなんとかなる」
「とりあえず消耗の激しいスラスター周りとか、可動アーム型ウェポンマウントは最優先でなんとかしましたからね。他の部分もだいぶ解析が進んで整備ができるようになりましたけど、やっぱりジェネレーター周りがネックです」
「兄さんなら大丈夫やろうけど、ジェネレーターへの直撃弾は避けるんやで」
「ジェネレーターが破損するような状況はほぼ詰みだからなぁ」
当然ながら、航宙艦にとってジェネレーターは一番重要と言っても差し支えない弱点である。直接的な損傷を受けるような状態というのはシールドも装甲も抜かれてバイタルパートに風穴が空いたという状況に相違無いので、まぁその状況だと搭乗している人員もほぼ無事では済まない。爆発四散する前にコックピットブロックごと脱出できていれば御の字といったところだろう。
「まぁクリシュナの話は置いておいて、出撃はいつになるんやろね? そろそろ時間潰しのネタも尽きてくるところなんやけど」
「やることのネタが尽きたら二人はどうするんだ?」
「うーん、お勉強ですかねぇ。毎日コツコツとやってはいますけど」
「勉強?」
まさかウィスカの口から勉強なんて言葉が出てくるとは思わなかったので、思わず聞き返す。
「うちらはエンジニアやから、常に最新の素材や技術について勉強し続けないとあかんの。知識が古くて現行の製品の整備ができないエンジニアなんてただの穀潰しやろ?」
「なるほど。知識と技術のアップデートが必要なわけだ」
「そういうことやね」
「そういうのにかかる費用については経費として申告してくれれば俺が出すから、ちゃんと申告するようにな。あまりに趣味に傾いたものはダメだけど」
「ほんま? 助かるわー」
「ありがとうございます」
ティーナとウィスカが揃って嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「メイに精査させるからな」
「うっ……だ、大丈夫や」
一応重ねて釘を刺しておく。専門家じゃない俺には申告された経費が正当なものかどうかなんて判断はできないからな。メイに任せるのが確実だ。メイには苦労をかけるが、これは必要な処置だろう。
「ところで、お兄さんはそんなにお暇なんですか?」
「お暇です」
エルマはアントリオンの調整にかかりっきりだし、ミミとクギは新たなるキャリアを積むべくメイを講師としてお勉強中である。俺はと言うと現状では新しい仕事も受けずにひたすら待機するしかないので、こうして働いているティーナとウィスカに茶々入れしに来るくらいしかやることがないのである。まぁ、趣味のホロムービー鑑賞なりトレーニングルームで身体を動かすなりしようと思えばできるのだが、一人で見たり身体を動かしたりするのも虚しいからな。
「兄さんって結構寂しがり屋なとこあるよなぁ」
「うーん……? まぁ、そうなのかもしれんな?」
こちらに来てすぐの頃は一人で過ごしていたが、その後はミミを拾って、さして日を置かずにエルマも拾った。なんだかんだでいつもミミかエルマと過ごしていたし、その後もメイが増えてティーナとウィスカが増えて、いつも誰かしらと一緒にいることが多かった。元の世界では割と一人で過ごす時間が多かったのだが。
「ん、まぁうちらも急いでやらなあかん作業も無いし?」
「そうだね、お姉ちゃん。お兄さん、何をしましょう?」
なんだか二人がとても優しい顔になっている。やめないか、君達。そのナチュラルに母性めいた感情を向けてくるのは。なんだかとてもいたたまれない気分になってくる。
なお、この後二人の部屋でホロムービー鑑賞をしたりして大変に楽しい時間を過ごした。




