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#328 新天地への同行依頼

雪が……雪掻きで身体が……_(:3」∠)_(死にかけている

 結果的に言えば、オーダーメイド軽量パワーアーマー……長いな。もうニンジャアーマーで良いや。ニンジャアーマーの輸送に関しては滞りなく行われることになった。あまりの事態に店主は動揺していたが、それでも彼のプロ意識は仕事をちゃんと果たしたのだ。整備に必要なデータなども含めて納品完了である。

 大変に頭が痛そうな彼に別れを告げ、これ以上何か変なことに巻き込まれてはたまらんということでとっととホテルに帰ることにする。


「どうして二時間もかからないくらい外に出ただけでそんなトラブルに巻き込まれるのよ……」

「ヒロ様、ですねぇ……」

「俺をトラブルメーカーの権化みたいに言うのやめない? 俺何も悪くなくない?」


 今回のトラブルに関しては本当に巻き込まれただけだからね? いや、今までも大概そうだったけどさ。


「生物の如き意思を持つ近接戦闘型スパイダーボットのような存在ですか。興味深いですね」


 俺とクギの話を聞いたメイはメイでなんだか珍しくあの鉄蜘蛛に興味を示している。


「珍しいな? そんなに興味深いのか?」

「はい。クギ様が言ったという精神の波動という言葉が。私からは同じものは感じられないという話ですね?」

「はい。此の身には貴方から精神の波動を感じ取ることはできません」

「なるほど。そうなると、いよいよもってその鉄蜘蛛とやらが生物である可能性が高くなってくるということですね。私の知識の範囲内では軍用のレーザー兵器による攻撃に晒されて破壊現象が発生しない装甲を持つ生物は存在しません。また、プラズマ兵器の直撃に耐える生物も同様です」

「アレが生物だとすると大発見ってことだな。どこから来たんだか……あ、嫌な予感がしてきたぞ」

「ちょっと、やめなさいよ」


 エルマが文句を言った瞬間、俺の小型情報端末が着信音を鳴らした。俺は無言で小型情報端末を取り出し、着信相手を確認し――思わず天井を仰いだ。その動作で発信元が誰だか予想がついたのか、エルマが右手で顔を覆って溜め息を吐き、ミミが苦笑いを浮かべる。メイはいつもどおりだが、クギだけは事態を呑み込めず首を傾げていた。


「……はい」

『とても嬉しそうな声での応答ありがとうございます。実に心が温まりますね』


 端末の向こうから聞こえてきたのは誰あろうセレナ大佐である。その声はとても平坦で、小型情報端末の向こうにいる彼女自身も大変に機嫌が悪いということを如実に示していた。


『さて、時節の挨拶などが必要な間柄でもないでしょう。単刀直入に言います、仕事の話です』

「今船の整備中なんで無理っすねー。いやー残念ダナー」

『無論、船の整備などが終わった後の話です。そのような事情はこちらも弁えています。まだ傭兵ギルドには話を持っていっていませんが、内々に相場の三倍で傭兵ギルドに指名依頼を出すことが決まっています。依頼、受けてくださいね』

「いや、別に指名依頼だからって絶対に受けなきゃいけないわけじゃないし。拒否権あるし」

『依頼、受けてくださいね』

「いやだから、指名依頼だからって別に受けなきゃいけないわけじゃ――」

『いらい、うけて、くださいね?』

「何だよお前『はい』って言うまでループするやつかよ!」


 平坦な声でひたすら言われるのは怖いからやめて欲しい。というか、普段にも増して無理押ししてくるな。これは嫌な予感が的中しそうで怖い。何が怖いって、この手の予感がした時に引き寄せられるトラブルは回避できた試しがないんだよな。


「とりあえず、話は聞くから。ホロ通話に切り替えるぞ?」

『そうして下さい』


 セレナ大佐からの了承も得られたので、小型情報端末からホテルの部屋に設置されているホロディスプレイに通信を引き継ぎ、音声通話からホロ通話に切り替える。すると、ホロディスプレイに極めて不機嫌そうな表情のセレナ大佐が映し出された。


「これはまた機嫌の悪そうなお顔ねぇ……」

「でも、セレナ大佐ってなんだかどんな表情でも絵になりますよね……」

「気品のある御方ですね」


 女性陣がボソボソと小声で話し合っている。セレナ大佐に聞こえてるかどうかわからんが、それくらいにしておきたまえ君達。まぁ陰口って感じの内容じゃないし、聞こえたところで問題はないと思うが。


「それで、依頼の内容は?」

『機密事項です』

「ふざけてんのか通信切るぞ」

『現状ではそうとしか言えないんですよ。正式に傭兵ギルドから依頼が入るのを待って下さい』

「それだったら今連絡してくる意味無いじゃん。何も話せないなら俺も返事できないし」

『それでも個人的な付き合いがあるからと事前に説得をするように命令された私の気持ちがわかりますか?』


 セレナ大佐がにっこりと微笑む。目だけが笑っていなくてとてもこわい。


「そりゃご愁傷さまってところだが、もう大佐だろう? そんな下っ端仕事みたいなことを未だに押し付けられるのか?」

『ゴールドスター持ちのプラチナランカーで名誉子爵でもある貴方は、多分貴方自身が思っているよりも重みのある立場ですよ。私のように個人的に友誼を結んでいなければ、帝国航宙軍の士官でもおいそれとは話を持っていけないと思われる程度には』

「そうなのか。まぁ、知らない奴にいきなり仕事の話を持ってこられるよりは良いかもな」

『では、今回の依頼も受けて頂けるということで』

「いやそれは話が別だが」

『……』

「……」


 互いに無表情で見つめ合う。なんだよいくら俺を睨んでも条件を聞く前に首を縦には振らんぞ。


「機密だろうがなんだろうが、内容も報酬額もはっきりとわからないのにホイホイと依頼を受けるかどうか決めるわけ無いだろ。常識的に考えて」


 明日の食事もどうなるかわからない食い詰め傭兵ならいざ知らず、俺達は普通に数ヶ月単位でこのままこのホテルに滞在し続けるだけのエネルを持っているし、船の整備が終われば適当な星系に移動して好きなだけ宙賊を狩って金儲けができる。リスクを見積もることも難しい軍からの謎の依頼を受ける理由なんぞ一つもない。


『それはそうですよね。私でもそう思います』

「じゃあこの話は終わりってことで」

『仕方がありませんね。ところで、先程このコロニーの高級商業区画の辺りで殺人事件が起きたそうです』


 それはもしかしなくてもさっき俺が一戦交えた鉄蜘蛛の話じゃあるまいか? ここでその話を持ち出してくるとか情報はええな。


「へー……それで?」


 話の方向を切り替えてきたな。どんな話が飛び出してくるのやら。


『犯人はセキュリティチームによって制圧されたそうですが、それまでに七人もの住人が惨殺されたそうですよ。また話は変わるんですけど、最近このコロニーに最辺境領域エッジワールドの探索から帰ってきた調査船が入港して、様々な興味深い品を持ち帰ってきていたそうです。そのうちの一つが高級商業区画に『あった』とある店に買い取られていたそうで。ああ、ちなみに先程惨殺された七人の住人っていうのはその店の従業員と店主、それに偶然居合わせた客ですね』

「うわぁ一気にきな臭くなってきた」


 どう考えてもその調査船絡み――つまり最辺境領域エッジワールド絡みの話だ。ここでその話を出すってことは、つまり依頼の内容もエッジワールド絡みの話なんだろう。

 最辺境領域というのはただのど田舎と違って、最近グラッカン帝国の版図に組み込まれたばかりの領域――つまり帝国拡大の最前線と呼ばれる領域だ。帝国の法の支配が緩い地域でもあり、宙賊や時には宇宙怪獣すら跋扈する危険な領域である。まぁ、それ以外にも未知の敵性国家の干渉や未コンタクトの異星人や異星生命体、勝手に『王国』を築き上げた無法者達など危険には事欠かない領域だ。


「なるほど、戦力を増強した対宙賊独立艦隊をエッジワールドに投入して一気に支配を確立しようってことか。それによくわからん異星起源と思われる妙なものが見つかったから、掻き集められるものはなんでも掻き集めて行こうって腹だな?」

『キャプテン・ヒロは想像力が豊かですね。とりあえず、帝国航宙軍――というか私も貴方の有効な使い方というのをそれなりに把握してきたとだけ言っておきましょうか』

「なるほどね」


 これ以上詳しくは話せないということか。だけど、話の流れからすると依頼を受けるとセレナ大佐の指揮下に組み込まれることになるんだろうな。

 まぁ、セレナ大佐なら俺の扱いってのもそれなりに慣れているだろうし、ある程度は気心も知れている。そんなに無茶なことは言われな……いや、言われるかもしれんが、理不尽な命令をされたりはしないだろう。多分。


「前向きに考えておく。あとは条件に折り合いが付けば、だな。約束もしたことだし」

『とりあえずはその答えで納得しておきましょう。それでは失礼します』


 セレナ大佐との通信が切断された。


「で、受けるの?」

「さぁな。言ったけど条件次第だ。まぁエネルが稼げるならわざわざ断る理由もないだろう」


 エルマの質問に肩を竦めて答える。

 毎日黙ってても金が入ってきて、その上働けば働いただけ上乗せも頂けるってんならフリーでチンケな宙賊を追い回すよりはずっと実入りが良いのは間違いない。このコロニーでそれなりに散財したし、ここらでドカンと大きめに稼ぐのも悪くないな。


「エッジワールドに行くとなると、どんな準備をしておくべきなんでしょうか?」

「帝国航宙軍と一緒に行動するなら弾薬や装甲、構造材、それに最低限の食糧なんかの補給に関しては心配は要らないと思うが、その他生活物資や嗜好品の類は長期間活動になると不足するかもな」

「なるほど。それじゃあ依頼の内容次第でメイさんと相談してその辺りの物資を多めに補給しておきますね」

「そうしてくれ」

「私はアントリオンの慣熟訓練をできるだけ進めておいたほうが良さそうね。流石にぶっつけ本番は勘弁願いたいし」

「ええと、此の身は……どうしたら良いでしょうか?」


 ミミとエルマは慣れたもので既に次の依頼に向けて何をするべきかを把握しているわけだが、当然ながらクギには何の経験も無いのでそういった判断ができない。まぁそれはそう。当たり前だな。


「そうだな、クギにはミミのサポートとしてまずはオペレーターとしての勉強をしてもらうか」


 ミミにはサブパイロットとしての経験を今後積んでいって貰う予定だったし。いずれオペレーターからサブパイロットに転身してもらって、空いたオペレーターの枠にクギに入ってもらうと。

 まぁ、それもクギの適性を見てからかな……ミミは努力によって短期間でオペレーターとして一前と言えるだけの能力を得たけど、クギが同じようにオペレーターの道を進めるとは限らないし、逆にミミにサブパイロットとしての才能が全く無い可能性もある。そうなると、クギをサブパイロットにするという方向性も考えられるかも知れない。あぁ、なんだかんで考えることが多いな。

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― 新着の感想 ―
セレナ大佐達の砲撃で死にかけたシーンをヒロがキレてたけど納得して和解した点を理解できてない人が多いけど、 ゲームのソロプレイヤーが集団で行動している宙賊狩りのセオリーのままヒロは行動していたけどそもそ…
とりあえず、セレナ大佐がクリシュナに直進を命じて死の一歩手前だったあの展開は完全に間違いだったんじゃないですかね。そのあとヒロが反省していたのもよくわからなかったけど。主人公が一番死にかけた場面を捨て…
一前  一人前?
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