#325 クギとのデート
なんだかやるきがでないいちにちでした_(:3」∠)_
ティーナとウィスカが正式にうちのクルーになるということが決まってからまた数日が経った。
え? あの後はどうなったのかって? 飯食って、祝いの席なんだからと酒を無理押しされた上に飲まされて、気がついたらレストラン近くの『休憩所』でご休憩してたよ、三人で。
まぁ、わかってて乗った部分も多分にあるけれどね。とはいえこんな悪いことする二人にはお仕置きが必要だよなぁ? ということでちゃんと理解らせておきました。
「今日の予定はどうする?」
朝食を終え、最低限の身支度を整えたところでそう発言すると、メイが声を上げた。
「はい。例のアーマーショップから商品が仕上がったという連絡が入っております」
「それじゃあ今日はその受け取りですね」
メイの報告を聞いたミミがにこにこと上機嫌な様子でそう言う。
この三日間、それぞれエルマ、メイ、ミミという順でデートをして過ごしてきたのだ。つまり、昨日はミミの番だったわけだな。二人で食べ歩きをしたり、バーチャルアクアリウムを楽しんだり、まぁその後はイチャイチャしたりなんだりって感じでお互いに大変に楽しめた。それで今日はミミの機嫌が良いわけだ。
「それじゃあ今日はクギちゃんの番やね」
「此の身ですか?」
ティーナに言葉をかけられたクギが耳をピンと立ててびっくりしたような様子を見せる。
「そらそうやろ。順々にデートしてるんやし」
「今回は順番が最後の最後になっちゃったけど、こういうのはやっぱりフェアじゃないとね」
ティーナの発言にエルマも同意する。メイは無表情なので今ひとつ心情を読むのが難しいが、もし反対の立場なのであればすぐにそう発言するだろうから、反対というわけではないのだろう。ウィスカとミミも頷いているので、やはり反対する人は居ないようだ。
「わかりました。では本日は此の身がお供させていただきます、我が君」
「ああ、よろしく」
とクギにはそう返しつつ、エルマに視線を送る。するとエルマは頷いた。次いでメイにも視線を送るが、メイも同様に頷く。とりあえず、今までクギと一緒に生活を供にしてきた結果、クギに何らかの裏というか、危険はないだろうと二人は判断したらしい。判断が早すぎるのでは? と思わなくもないが、きっと何らかの対策を講じるつもりなのだろう。とりあえず俺自身も何かトラブルに巻き込まれないよう注意をしておくべきだな。
☆★☆
ちゃんと身支度を整え――ジャケットを着てレーザーガンと剣を身に着けただけだが――てクギと一緒にホテルを後にする。
「まずはアーマーショップに行って商品を受け取ってしまうとしよう」
「はい、我が君。しかし、メイさまに手伝って貰わなくてもよろしかったのですか?」
「手伝うと言うと?」
「ああいった鎧は重いのでは? 持ち帰るのは大変だと思いますが」
クギが俺の隣を歩きながら心配そうな表情でそう言う。ああ、なるほど。そういうことね。
「こういったコロニーには物資の配送システムがあるから、ああいう大荷物は俺達の自身の手で運ぶ必要はないんだよ。ほら、コロニー内の移動にトラムを使うだろう? ああいう店にはあれの小型版みたいなものがあって、物資や商品のやりとりを倉庫から直接できるようになっているのさ」
「なるほど……それでは何故――ああ、わかりました。受け取る前に試着しなければなりませんね」
「そういうことだな。まぁ、俺のサイズやらモーションデータやらはしっかり取ってあるはずだから、そうそう試着して気に入らないなんてことにはならないと思うが」
と、話をしている間にトラムステーションに着いたので、二人でトラムに乗り込む。コロニー内はトラム網がしっかりと張り巡らされているから移動にあまり不便は感じないが、実は結構歩かされるんだよな。
長距離移動はトラムで。そしてステーションからは歩きでって感じになっていて、あまり自動車のような乗り物は普及していない。というか、軍関係とか消防、緊急医療関係しかそういった車両を利用していないんじゃないだろうか。
「わ、我が君、くすぐったいです」
「ん? ああごめんごめん」
トラム内が混んでいてクギと結構密着気味になったんだが、どうやら俺の鼻息がクギの頭の上にある獣耳にふんすふんすとかかってしまっていたらしい。なんか妙に耳をパタパタさせているなと思ったらそういうことか。いや、別に鼻息荒くしていたわけじゃなく、普通に呼吸していただけなんだけどな。本当に他意はない。不幸な事故だ。
そんな一幕もありながらトラムでの移動を終え、再びアーマーショップへと一緒に歩き始める。
「生活には慣れたか?」
「はい、皆様よくして下さるので。なんとかご恩を返したいと思います」
「そうか。まぁもう数日で船も仕上がってくるだろうから、そうすればまたちょっと違う生活になる。寧ろそっちのが本番というか日常だから、そっちにも慣れてもらわないとな」
「はい。一日も早く皆様に信用されるよう力を尽くしていきたいと思います」
とても真面目な表情で頷くクギに内心で苦笑する。やっぱり俺達がまだクギを完全に信用していないというのはクギ自身にも伝わっているらしい。まぁそれもそうか。
「なんだかすまんな」
「いえ、他国の方に此の身どもの使命が理解されないというのはよくあることですから。それに、此の身どもは法力を操りますので、尚更です」
「ほうりき。所謂魔法とかサイオニックパワーとか呼ばれるやつだよな?」
「はい。呼び方は様々ですが、根は同じです。精神波で此の世の法則を一時的に捻じ曲げる技術ですね。炎や雷、不可視の力など物理的な力を操る術もあれば、精神などに干渉する術もあります。此の身どもの国では、時空間や運命を操るような術が特に高等なものと見做されています」
「そうすると、俺は何の訓練もなしに時空間や運命を操る危険人物なんじゃないか?」
俺がそう言うと、クギは微笑みを浮かべて俺の顔を見上げてきた。
「はい。だからこそ此の身のような者が必要なのです。此の身の使命は我が君を支え、時に教え導くことです。此の世の平和と均衡が保たれるように」
「なるほどなぁ……聞きようによっては、この世の平和を均衡を乱す存在となりそうであれば排除を厭わないというようにも聞こえるんだが」
「そうならないために此の身が在るのです。此の身が我が君の側に在る限り、我が君にそのような道を辿らせるようなことにはなりません。絶対に」
クギが俺のジャケットの袖部分を掴み、強い意志を感じさせる瞳で俺の顔を見上げてくる。うーん、なるほど。これは本気だ。事実がどうかは別として、少なくともクギ自身はそうであると心の底から信じている。何がこの子にそこまでの決意を……いや、それは全て詳らかにされているのか。彼女は彼女の国の人々が生まれたその時から課せられているという使命を全うすべく、ここまでの決意を胸に抱いているのだ。
正直、俺は宗教とかそういうものを胡散臭いものだと感じている人間だ。だから、俺が彼女を完全に理解するのは無理だろう。だが、彼女がそういう人間なのだと納得し、受け容れることはできるはずだ。あとは目に見えているものを信じるかどうかという話なんだろうな。
「今すぐには難しいけど、俺はクギを信じてみようと思うよ。そうなるように努力する」
「ありがとうございます。此の身が我が君にとって信頼できる存在か否か、どうかその目で見極めてください。此の身も我が君の信頼を勝ち取れるよう力を尽くします」
そう言った次の瞬間、クギの耳がピクリと動いた。そして彼女は足を止め、不快げに眉根を寄せながらスンスンと鼻を鳴らす。
「どうした?」
「……不吉な気配がします。それと、血の臭いも」
「……えぇ?」
アーマーショップはもうすぐそこなんだが……またぞろトラブルか? 勘弁してくれ。




