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#320 セレナ中佐もとい大佐との立ち会い

天気が悪くて寒いとどうにも捗りません……-7℃とか勘弁してくれ_(:3」∠)_

 店の地下――というか下階にモーションデータを取るための部屋があり、俺とセレナ大佐はそこで立ち会いをすることと相成った。


「前から気にはなっていたんですよ。貴方とは肩を並べて戦った仲でもありますし」

「左様で」


 セレナ大佐は白いコートのような上着を脱いだだけ。俺はいつもの傭兵服という出で立ちのままで、互いに強化樹脂製の模擬剣を選んでいる。この部屋自体が巨大なモーションスキャナーになっており、こうして模擬剣を選んだりしている今も俺とセレナ大佐のモーションデータを記録しているということらしい。つまり、戦闘時の動きだけでなく、ごく自然な一般的な動作も含めて一挙手一投足までをも記録することによって、アーマー装着時の違和感を少なくすることができるのだそうだ。


「乗り気ではなさそうですね?」

「痛いのは誰だって嫌だと思うんだが……」


 長さと重さが丁度よい塩梅の模擬剣を二本選び、セレナ大佐に視線を向ける。ああ、うん。もうなんかやる気満々って感じだね。模擬剣で俺を小突き回すのがそんなに楽しみなのだろうか。


「やる前からそんなことでは勝てるものも勝てませんよ。もっと覇気というものを――」

「それにセレナ大佐みたいな美人さんをボコボコにするのも気が進まないし」

「――私をボコボコにすると?」

「そうなるでしょう」

「……良い度胸です。気に入りました」


 セレナ大佐が笑顔を浮かべる。うん、とっても笑顔なんだけど大変に攻撃的な笑顔だ。やだこわい。

 まぁ、セレナ大佐は俺を小突き回すのを楽しみにしていたようだが、多分そう簡単にはいかない。やる以上は手を抜く気はないし、負けるつもりもないからな。セレナ大佐がメイをも上回る豪傑でない限り、俺の勝ちは揺らがないだろう。


「では、始めましょうか」

「オーケー。お手柔らか――」


 お手柔らかに頼む、と俺が言い切る前にセレナ大佐が動いた。というか、既に間合いを詰めて両手で持った大型の模擬剣を肩の上に担ぐように振りかぶっている。


「おっと」


 交差させた両手の模擬剣をセレナ大佐の模擬剣に合わせるのと同時に後ろに跳び、セレナ大佐の振るう剣の力も利用して大きく間合いを離す。パワーと速度で上回る相手に足を止めて打ち合うのは危険だ。受け流しようのないパワーのある斬撃を何度も連続で見舞われたら逃げることも出来ずに防御ごと打ち崩されて血反吐を吐く羽目になるからな。


「そちらからは来ないのですか?」


 剣を振り切った体勢のまま、セレナ大佐が鋭い視線を向けてくる。


「俺は平和主義者なので」

「面白いジョークですね」


 そう言った瞬間、セレナ大佐の姿が一瞬ブレた。いや、違う。凄まじい速度で踏み込んできたのだ。軽く10m以上は離れていたはずなのだが、もう目の前にまで迫っている。うん、人間に出せる速度じゃないと思うんですけど? 強化された貴族ってこえぇな。


「――ッ!」

「くっ――ッ!」


 息を止め、スローモーションになる世界の中で一歩踏み込みながらセレナ大佐の斬撃を紙一重で避け、すれ違いざまにセレナ大佐の腹部と右膝の下を二本の剣で撫でていく。真剣だったらこれでセレナ大佐は腹部を斬られて致命傷の上、右膝から下を斬られて倒れ伏していたことだろう。


「なるほど。厄介ですね」


 前方に跳んで間合いを離してから振り向くと、セレナ大佐は剣を降ろして俺に斬られた腹部の辺りを左手で撫でていた。


「まだやる気で?」

「当たり前です。納得するまで付き合ってもらいますよ」

「うへぇ」


 セレナ大佐が獰猛な笑みを浮かべ、再び剣を構える。どうやらとことん付き合う必要がありそうだぞ、これは。


「行きますっ!」


 またもその姿がブレて見えるほどの速度で間合いを詰めてきたセレナ大佐であったが、今度は不用意に間合いを詰めずにアウトレンジから攻めてきた。先程までの攻撃は防御ごと相手を打ち崩すような剛の剣だったが、今度は打って変わって一撃が軽い代わりに驟雨の如き剣である。手数に加えてフェイントも交えた技巧の剣だ。


「むっ!?」


 だが、手数が増えれば付け込む隙もそれだけ増える。普通であればその隙すらも手数で覆い隠してしまえるのだろうが、時の流れを鈍化させてその隙を突くことができる俺にとってはその隙を突くことも難しすぎるということはない。


「くっ、どうしてっ!?」


 驟雨のような激しい攻撃の合間合間に存在する僅かな隙。その隙を的確に突いていくうちに驟雨もそのうち小降りになり、やがて攻守が逆転することになる。突かれた隙を補うために防御に回れば次の攻撃を繰り出すことができなくなり、攻撃のリズムが崩れ、更に隙が増えるのだ。


「はい、終わり」


 俺の突き出した模擬剣がセレナ大佐の胸を軽く突く。完璧に心臓を捉えた致命傷だ。如何に貴族と言えども循環器系の中心たる心臓を破壊されれば死は免れない。たまに第二の心臓を増設してるのもいるらしいけど。


「……」


 おや? セレナ大佐の様子が……?


「もういっかい! なっとくいかない!」

「うわぁ! 半泣きだぁ!」


 顔を真赤にしてぷるぷると震えているセレナ大佐はなんだか可愛く見えてしまうのだが、手に模擬剣を持っているのでそれ以上に物騒が過ぎる。強化樹脂製だから斬れたりはしないけど、それで思い切りぶん殴られると普通に痛いんだよ。だから俺は絶対に手加減はしない。絶対にだ。


「おかしいでしょう!? 何かイカサマしてませんか!? なんでそんなに速くもない剣に私が負けるんですか!」

「そうは言うがな、大佐。見ての通りの結果が全てだと思うんだよ」


 イカサマをしていないかと問われるとイカサマをしていないとは言えないので、しれっとその質問には答えないでおく。嘘はついていない。真実を話さないだけだ。


「納得がいきません! もう一回! もう一回!」


 ダンダン! と地団駄を踏みながらセレナ大佐が模擬剣を振り回す。お子様かよ!


「それじゃあ泣きの一回だぞ? これは貸しだからな?」

「ぐぬぬ……わかりました! 借りておきます! いざっ!」


 結局、更に五戦ほど剣を交えたところで俺がギブアップした。全部勝ったが、これ以上は俺の体力が保たない。


「勝ち逃げはズルい! ズルいと思います!」

「これ以上付き合えるかっ! 結局七戦もやったんだからもう良いだろ!」


 そう言って俺は剣を順手から逆手に持ち替えた。これ以上はやらないという断固たるサインだ。

 セレナ大佐はまだまだ元気いっぱいのようだが、俺はもうクタクタである。剣を使った近接戦闘というのは実に集中力と言うか、精神力を消耗するのだ。セレナ大佐もどんどん俺の太刀筋に慣れてきたのか、後半は何度も呼吸を止めて時の流れを鈍化させる羽目になったしな。こんなに連続で能力を使うのはメイとの剣術訓練の時くらいだ。まぁ、メイとの訓練と違って血反吐を吐いて転がるようなことにはなっていないので、まだセレナ大佐の相手をするほうが楽だが。


「こんな屈辱は初めてです……」

「屈辱って……ただの模擬戦だろ」

「模擬戦でも私を七度も連続で下した殿方はいなかったんですよ!」

「左様で……別に責任とか取らないからな?」

「むーっ! 別にそんな事は一言も言ってませんけど! 言ってませんけど!?」


 セレナ大佐が顔を赤くして模擬剣の切っ先を俺に突きつけてくる。Oh、ノーノーノーノー、ワタシ無抵抗デース。暴力反対。二本の模擬剣を小脇に挟んで両手を挙げて降参しておく。


「モーションデータを取るという目的は十二分に達成されたでしょう。はい、終了。解散!」

「また今度手合わせしてもらいますからね……」

「あーはいはい、今度ね今度」


 屈辱に震えるセレナ大佐の視線をスルーして模擬剣を収納するために壁際に設置された棚へと向かう。なんだか以前に増してセレナ大佐にロックオンされることになってしまった気がするが、これは不可抗力……不可抗力かなぁ? 不可抗力ということにしておこう。いつものトラブルメーカー体質がまた顔を出してきている気がするけど、気のせいだ。きっと気のせい。そういうことにしておこう。

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― 新着の感想 ―
なんかさぁ、セレナ主人公を殺しかけたり色々と序盤でヘイト稼ぎすぎてどんな事してもゴミにしか見えなくなった。
[一言] 見事に地金が出てるというかなんというか……。 困ったおねーさんだ。
[一言] 息止め連発してもメイには敵わないのか。 ヒロの息止めスキル使えばメイの武器だけの戦闘力の50%位は使わせてるのかな。 メイがこれに体術や投げ、暗器まで使いだしたら1VS1で勝てる人型生命…
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