#318 新型パワーアーマーの方向性
また流行り始めてますね……皆様体調にはくれぐれもお気をつけて_(:3」∠)_
仕様の決定にはさほど時間はかからなかった。何故なら、俺が求める性能というやつがこの上なくはっきりしていたからである。
まず、最低限度の要件として必要とされているのは環境適応性と精密動作性の二つだ。
環境適応性というのはつまり、テラフォーミング中の惑星や気密の失われた艦内やコロニー内、それに人体に有害な気象条件や有毒性の大気など、そういったあらゆる状況の中で生存し、問題なく活動できるだけの性能だ。これはあらゆる戦闘用パワーアーマーに求められる基本的な性能とも言える。
そして精密動作性というのはパワーアーマーが装着者の動きにどれだけ正確に追従できるか、という性能である。装着者の動きに対してワーアーマーの反応が遅ければそれは『鈍重』なパワーアーマーであると評価できるし、逆に装着者が思ったよりも『やりすぎて』しまうようなパワーアーマーじゃ『過敏』なパワーアーマーであると評価できる。
どちらの場合でも慣れ次第でそれなりに適切に扱えるようにはなるが『鈍重』過ぎれば反応が遅れ、『過敏』過ぎれば精度が落ちる。つまり過敏でも鈍重でもなく、吸い付くような操作感のパワーアーマーこそが精密動作性に優れるパワーアーマーだと言えるだろう。
「その辺りは殆どのお客様が同様に求められる点ですな。無論、そういった需要にお答えするためのノウハウはございますのでご心配なく」
それが先程彼の言っていた計測作業というやつであるようだ。ハードウェア面だけでなくソフトウェア面での調整もしていくわけだな。
「整備性も大事だな」
「技術的にはともかくとして、最新鋭の素材を使うとなかなかに難しくなるところですな。それは」
「となると、消耗が激しい部分に関しては予め予備のパーツなり素材なりを用意するか」
「もしくはそういった部分に関しては多少妥協をして整備性を優先するかでしょうな」
と、そんな感じで俺と店主が話している横でエルマとミミ、それにクギはパワーアーマーの見本を眺めながら何やらはしゃいでいる。
「パワーアーマーっていうともっとこう、ずんぐりむっくりしているというかゴツい印象なんですけど、なんだかとってもスリムですよね」
「そうね。貴族用ってことで見た目もかなり重視されているみたい」
「立派な鎧ですねぇ……でも、こんなものを着たら重くて動きが鈍くなるのでは?」
「パワーアーマーにはそうならないように人工筋肉で――」
パワーアーマーの事をよくわかっていないクギにミミが解説を始める。うん、なんだか微笑ましいな。ミミをクリシュナに乗せた直後のことを思い出す。最初の頃はミミにクリシュナの内部を案内しながら積んでいる装備についてあれこれと解説してたんだよな。
ちなみに、デザインに関しては実は俺も結構驚いている。SOLにはこういった貴族用のオーダーメイドパワーアーマーなどは存在しなかったので、初見なのだ。
「基本性能はこれで良いとして、あとはオプションか。実際のところどうなんだ? 俺がいつも使っているパワーアーマーには固定武装がいくつも搭載されていて、武器を装備しなくてもそれなりの火力があるんだが」
「無論、私どもの技術であれば精密動作性を維持したまま火力を追加することも可能です。勿論限界というものはございますが。あまりに多くの固定武装を着けてしまいますと、それだけ重量も増加致しますので」
「なるほどな。ああ、でもこのパワーアーマーを使うシチュエーションを考えるとそこまでの火力は必要ないか……?」
そもそも、普通のシチュエーションであれば元から持っているRIKISHIで問題ないわけだからな。剣を使わないといけない相手でもない限り、火力とパワーと装甲でゴリ押しできるRIKISHIの方が使い勝手が良い。となると、新しいパワーアーマーに求めるべき方向性は火力や装甲ではなく、素早さや隠密性か。
「ちょっと考え方を変えよう。環境適応性と精密動作性に加えて、隠密性や機動力を重視する方向にしたい」
「承知致しました」
RIKISHIでは隠密性や機動力は全く期待できないからな。同じような方向性を求めた末に中途半端な性能の似たようなパワーアーマーになってしまうのは勿体ない。
「しかし、隠密性と機動力ですか。なかなかに剣呑な注文ですな」
そう言って店主は苦笑いを浮かべる。そんな店主の反応に俺は首を傾げることになった。
「剣呑? レーザーガンやプラズマランチャーやグレネードランチャーを追加してくれって言う方が余程剣呑じゃないか?」
「隠密性と機動性を重視した貴族用のアーマーなんて、考えようによっては暗殺仕様でしょ……そりゃ剣呑って評価にもなるわよ」
「なるほど」
同じく苦笑いを浮かべているエルマに指摘され、目から鱗が落ちたような心地になった。確かに、高い隠密性と機動力でもって警備を掻い潜り、剣によって音もなく対象を殺傷するとか暗殺者ムーブ以外の何物でもないな。
「でもその方向性で」
「そこは曲げないんですね」
「曲げる理由がないからな」
ミミに突っ込まれたが、俺は肩を竦めてそう答える。
正直、外聞なんぞ知ったこっちゃないからな。俺は名誉と誇りを重んじる貴族様ではなく、金のために命のやり取りをする傭兵なのだ。卑怯と言われようが汚いと言われようが、そんなものは褒め言葉である。最終的に生き残っている奴が勝者なのだ。勝ち方や戦い方に拘って命を失っては元も子もない。
そうして最終的に決まった仕様として、まず装甲は対レーザー積層装甲を採用。これはレーザーを照射された際に爆発的な蒸発を起こさないように工夫された最新の装甲で、レーザーライフル級の威力であれば同じ場所に三発受けても内部を守ることができるものなのだという。なんでも最近採掘量が増加したレアクリスタルを素材にした新素材であるらしい。
「レアクリスタルって、アレよねぇ?」
「まぁ、アレだろうなぁ」
「アレですよねぇ」
俺とエルマ、そしてミミの脳裏を過ぎっているのは間違いなく同じものだろう。パルサーの眩い光をその身に受けてギラギラと輝くバカでかいウニみたいなアレだ。
その他、人工筋肉は現行で手に入る最高級のもので、筋肉量の関係でパワーはRIKISHIには及ばないもの、生身の人間ではまず敵わないレベルのパワーがある。こいつはパワーだけでなく瞬発力にも優れる品で、フル装備でも時速80kmほどのスピードで長時間走り続けることが可能であるらしい。静粛性も抜群だとか。
「慣熟訓練がかなり必要そうだな」
「多少は必要となりましょう。ただ、お客様のモーションデータを予め取り込んでおけばその苦労はかなり軽減されます」
「なるほど」
他には高出力の小型ジェネレーターと、シールド機能。それに多機能迷彩。これはカメレオンサーマルマントよりも更に高機能な迷彩機能で、光学的な迷彩効果だけでなく赤外線や電磁波、その他諸々の探知機能を誤魔化すことのできる高機能迷彩であるらしい。
「ただし、あまり激しい動きをすると迷彩効果は著しく低下してしまいます」
「完璧な透明人間にはなれないってことか」
この世界の技術であればもっと完璧な迷彩技術も開発、実用化されていそうなものだけどな。まぁ、貴族御用達の店と言ってもあくまでも民間の工房だ。軍用の極秘技術まで扱えるわけではないのだろうから、こんなものなのかもしれない。
「しかし、完璧に暗殺者仕様みたいな装備になってるわね……」
「カッコイイだろ?」
その他には高出力のフックショットと対レーザースモーク展開機能を追加した。
フックショットは現実にありそうでなさそうな道具世界一位(当社調べ)の一品である。壁やら屋根やらにワイヤー付きのフックを撃ち込んで、自分の体を引っ張り上げるアレだ。ワイヤー自体が非常に頑丈な人工筋肉の束で出来ており、それに高出力のモーターを組み合わせてパワーアーマーごと使用者の身体を持ち上げるらしい。つまりカメレオンの舌と巻き上げ機を複合したような機構であるのだそうだ。
対レーザースモークは煙によってレーザー兵器の威力を大幅に減衰させる装備で、両肩の部分に二つずつ、合計四回展開できるようにしてある。展開できる回数に限りがあるから、使い所は考える必要があるだろう。
「かっこいいですね!」
「もう少しこう……どうにかなりませんか? なんだか悪役っぽいような」
ミミがパワーアーマーのデザインを見て絶賛しているが、どうもクギにはウケが悪い。確かにちょっと悪ノリしてニンジャっぽい外観にしたんだが、そう悪くないと思うんだよな。というか、俺に純白や白銀色に輝くいかにも騎士ですって感じのデザインは似合わないと思うんだよ。
「カメレオン機能で色は変えられるから」
「色の問題ではないような……いえ、此の身が我が君に意見するなど烏滸がましいですね」
「いや、そういうのは言ってくれても良いけれども」
良いけれどもデザインを変えるつもりはない。すまないな。しかし力士に忍者とか大概偏ってるな、俺のパワーアーマーのデザインは。いや、ある意味では統一性があるし、これはこれでアリなのか? そのうちサムライ型のパワーアーマーでも作るかね。




