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#307 グラヴィティ・ジャマー

船の名前を考えていたらマニアワナカッタ( ‘ᾥ’ )(決まりはした

 ドヤ顔をしているオータム氏をよそに俺達は顔を見合わせ、無言で視線を交わしてからオータム氏に向き直った。


「そんな都合の良いものがこんな都合の良いタイミングで」

「怪しいセールスはお断りなんだけど」

「何か法外な交換条件でも提案するんですか?」

「それともなんか欠陥でもあるんか?」

「爆発でもするとか?」

「いや、そういうのではないですから。私は正真正銘イデアル・スターウェイ社の営業課の人間ですし、騙そうともしていません。至極真っ当な営業取引を提案しているだけです」


 俺達全員に一斉に疑われたオータム氏が慌てて手を振って俺達からかけられた嫌疑を否定する。

 本当にござるかぁ? こうして商品に自信のあるシップメーカーからの営業はある程度想定していたとはいえ、流石に一般流通していない機密装備を装備した新型試作艦を持ってくるとかいくらなんでも都合が良すぎるだろう?


「欲しい物を欲しい時に持ってくる商売人は疑ってかからないとな」

「流石はプラチナランカー、用心深いですね」


 オータム氏が苦笑いを浮かべたところでメイが口を開いた。


「確認致しました。フィリップ・オータム氏は間違いなくイデアル・スターウェイ社所属です」

「そうか。ならまぁ、信用はして良いわけだな」

「本来はここで営業活動をしている時点で大丈夫なはずなんだけどね」


 俺達のやり取りを見てオータム氏が更に苦笑いする。


「すみません、私達ってトラブル体質というかなんというか……」

「黙っててもトラブルが寄ってくるから、めちゃ警戒心強くなっとんのよ。ごめんな」

「いえいえ、お気になさらず」


 疑われるくらいなら気にもならないのか、オータム氏は苦笑いを引っ込めて実ににこやかな営業スマイルで対応してくれた。うーん、この変わり身の速さは流石だな。


「それで、グラヴィティ・ジャマーでしたっけ。FTLトラップの小型版って話ですけど、よく小型化できましたね。アレは消費エネルギーが大きすぎて大型艦――というか最低でも駆逐艦クラスのジェネレーターを使わないとまともに使えないって話でしたけど」


 ウィスカが質問をすると、オータム氏はその質問に頷いてから口を開いた。


「小型版というだけあって機能はだいぶ制限されていますよ。FTLトラップは元々グラヴィティ・ブラストという重力波収束砲として開発したものを流用したもので、簡単に言えば大出力の重力波を放出することで超光速ドライブを強制停止させ、更に再起動も阻害するというものでした。元々が戦艦の主砲として作られたものですから、要求エネルギー出力も大きく、そのままでは小型化が難しかったわけです」

「なるほど。それで、制限というのは?」

「グラヴィティ・ジャマーは既に超光速ドライブを起動して超光速航行中の船を止めることはできません。FTLトラップはごく簡単に言えば強力な重力波を放射することによって対象となる艦船の質量に干渉し、超光速ドライブを強制停止させるという原理でFTLを阻害するわけですが、グラヴィティ・ジャマーは直近に大質量があるという風に船のセンサーを騙して、超光速ドライブのセイフティを誤動作させます」

「ああ、なるほど。実際に質量を変化させるんじゃなく、近くにデカい小惑星なりコロニーなり大型艦なりがいるぞ、と船のセンサーに誤認させて超光速ドライブの起動自体を妨げるっちゅうわけか。そんなら確かにそんなにエネルギーは消費せんかもやね」


 ウィスカとティーナがオータム氏に技術的な質問をしているが、俺は半分程度しか理解出来んな。多分、聞いている俺達にもわかりやすいように話をしているんだと思うが。


「要約すると、超光速ドライブで突っ込んでくる船は止められないけど、戦闘中に超光速ドライブを起動して逃げようとする船は止められると」

「そういうことですね。有効範囲は凡そ半径50kmほどです」

「半径50kmね……あまり広くはないわね」

「そうだな」


 普通に半径50kmと聞けば滅茶苦茶に広範囲に聞こえるだろうが、最大出力でスラスターを噴射すると遅くとも秒速1000m、速い船なら秒速5000mとか出る宙間戦闘においてはさほど広いと言えるような範囲でもない。まぁ、決して狭いというわけでもないが。


「まぁ、船が動けばそれだけ範囲も移動するわけだし十分使えそうではあるな」

「そうね。問題は船のスペックだけど」


 エルマの言う通り、グラヴィティ・ジャマーが有用な装備であったとしても船の機動力や火力、防御力がお粗末なのでは使いようがない。それならグラヴィティ・ジャマーをブラックロータスにつけたほうが遥かにマシだ。


「勿論、船の性能も妥協はしておりませんとも。大型の新型ジェネレーターとグラヴィティ・ジャマー用のエネルギーキャパシターを搭載しているので、その分居住性や積載能力は犠牲になっていますがね」


 タブレット端末で確認する限り、確かに居住スペースは狭いしカーゴスペースも最低限だ。ただ、その分ジェネレーターは大型で出力には余裕があり、大型のキャパシタを積んでいるので瞬間的に大出力のエネルギー兵器を運用することも可能だな。まぁ、本来はキャパシタに溜めたエネルギーをグラヴィティ・ジャマーの駆動に使うのだろうから、火力方面でキャパシタの容量を使ってしまうとグラヴィティ・ジャマーの使用可能時間に響きそうだが。


「大型ジェネレーターもキャパシタもグラヴィティ・ジャマーも後部ブロックに積んでるのね。なら、前部ブロックは交換できるのかしら?」

「可能です」

「なるほど」


 イデアル製の航宙艦はイデアル・ブロックシステムを採用しており、艦を前部ブロックと後部ブロックに分けて自由に組み合わせることができる。

 後部ブロックには主にジェネレーターやシールドジェネレーター、スラスター、カーゴスペースなどが集中して配置されており、ジェネレーターの大きさやメイン・サブスラスターの数、カーゴスペースや居住スペース、その他装備の格納スペースなどに使える区画の大きさなどによって色々と種類があり、前部ブロックには主にレーザー砲などの兵器を装備するスロットの数やミサイルポッドや魚雷発射管の数、その他にはセンサー類などの設置スロットの位置や数がそれぞれ違うものが用意されている。

 そしてこのブロックシステムの有用性は仮に船が損傷を負った際に用意にブロック単位で交換が可能という点である。前部ブロックが損傷したなら前部ブロックだけを別のものに付け替えて迅速に戦線に復帰することが可能なのだ。その分若干船体の耐久力に劣るわけだが、基本的に航宙艦はシールドで攻撃を受け止めるものだからな。船体の耐久力は二の次にされがちなのである。


「後部ブロックは固定として、前部ブロックは……今の構成だとクラスⅡの砲スロットが六門、ポッド系スロットが二門の計八門か」

「火力としてはまぁまぁね。でもこっちのブロックの方が良いんじゃない?」

「ああ、そうだな。クラスⅢ二門にクラスⅡ二門の方が使い勝手は良いかもしれん。こっちにもシーカーミサイルポッドは二門つけられるしな」


 武装のクラスについてはクラスⅠが小型砲、クラスⅡが中型砲、クラスⅢが大型砲だと考えればほぼ問題ない。

 クラスⅠの砲は一部の偵察用小型高速艦が使うもので、民間船を叩くのには十分だが戦闘艦同士での戦いではほぼ役に立たないレベルのものと思って良い。宙賊がよく使うのはこのクラスだ。

 クラスⅡの方が標準的な威力の砲で、航宙艦の武装として尤も普及している。その為非常に種類も豊富で、用途に合わせて様々な武器を選ぶことができる。

 最後にクラスⅢの砲だが、これはほぼ市場に流通している航宙艦用の砲としては最大クラスのものだ。大きいだけあって火力も高いが、それだけエネルギーの消費も大きい。ただ、威力が高いということは航宙艦のシールドを短時間で飽和させられるだけの性能を持っているということでもあるので、エネルギー出力が許すのであればやはりクラスⅢの砲は強力である。

 クラスⅡの武器を沢山積むべきなのか、それとも手数が少なくなってもクラスⅢの武器を積むべきなのかという議論はSOLでも盛んに行われていたが、俺は射程にも威力にも優れるクラスⅢの武器を積む派である。継続火力よりも瞬間火力派なのだ。

 航宙戦闘では継続火力を発揮しようにもそうそう攻撃を長い時間当てられ続けられるものでもないからな。静止目標に対してなら継続火力が高いほうが有利だとは思うが、動目標に対してなら攻撃を叩き込める一瞬で火力を発揮できたほうが有利だろうと俺は思っている。


「データを見る限り、機動性も悪くはないわね。シールドもまぁまぁのを二枚積むだけの余裕はありそうだし」

「火力面もまぁ、中型艦としては及第点ってところだよな。機動性とグラヴィティ・ジャマーも合わせれば総合性能はかなり高いな。つまり――」

「「実にイデアルらしい機体だな(ね)」」


 俺とエルマの声が見事にハモった。グラヴィティ・ジャマーはともかくとしてその他の性能は実に可もなく不可もなく。突出した性能は無いが、全体的に良いバランスでまとまっているしイデアル・ブロックシステムという利点もある。


「後は値段次第だな」


 予算の範囲内かどうか。それが問題だ。

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