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#305 新機体に関する話し合い

長らくお待たせ致しました。

更新再開!( ˘ω˘ )

 赤い旗宙賊団から鹵獲し、リストアした他国製の高速小型戦闘艦をスペース・ドウェルグ社に売りつけることに成功した俺達はその足でシップヤードへと向かうことにした。


「兄さんの脅しが効いたんかな?」

「180万エネルに動揺したんじゃないかな……」


 などとボソボソと話し合いながら整備士姉妹も俺達に同行している。

 ティーナとウィスカの二人はそのまま支社で仕事をすることになるかと思ったのだが、持ち込んだ機体の解析と研究を行う人員の選定と姉妹が持ち込んだレポートの査読にも時間がかかるということで、とりあえず今日のところは本来の任務――つまり俺の船のメカニックとしての仕事を続けるように、という話になったのだ。

 実際に人事や仕事の引き継ぎ、タスクの割り振りに時間がかかるのか、それとも俺の脅しが効いたのかは定かではないが……まぁ、新たな機体を迎えるにあたってメカニックが同行してくれるのは単純にありがたい。二人は業界人でもあるしな。俺やエルマのような傭兵とはまた違った視点で有効な助言を期待できる。


「シップメーカーの支社を巡るわけじゃないんですね」

「ブラド星系みたいにスペース・ドウェルグ社一強みたいな環境ならそれで良いんだけど、ここみたいに各社がしのぎを削るような場所の場合はシップヤードに行くのが便利ね」


 素朴な疑問を抱くミミにエルマが事情を説明している。SOLだと船からコロニーのコミュニケーションメニュー内にあるシップヤードにアクセスして船を売り買いしていたものだが、この世界で船を買うとなるとこうして足を運ぶことになるわけだな。

 え? 船からホロ通信とかで済ませられないのかって? まぁできないこともないみたいだが、そうやって船を買う人は少数派らしい。


「うーん、エルマさんの操縦特性から考えるとやっぱり機動型だよね」

「せやろな。まぁ基本的に小型艦に求められるものは速度とか小回りやし」

「火力とトレードオフなのが問題だよねぇ。出力の問題もあるし」


 ティーナとウィスカは話の方向性をエルマが乗る新機体の話に切り替えたらしい。

 一般的に小型艦に求められる性能はティーナの言う通り速度や小回りである。その上でどれだけ火力を持たせられるか、というのが永遠の課題だろう。小型艦に積むことができる小型のジェネレーターでは限られたエネルギー出力しか得られないので、必然的にその出力をどこまで機動性――つまりスラスターやブースターに注ぎ込み、どこまで火力――つまりレーザー砲などに割り振るかというのが頭の痛い問題なのである。


「火力は実弾兵器や爆発兵器で補うって手もあるんやけどな」

「確かにマルチキャノンとかシーカーミサイルとか魚雷発射装置は稼働させるのに必要なエネルギーは少ないけど、そっちは重量がね」

「小型艦だと特にそこがきっついよなぁ。装備そのものの重量も問題になるし、そもそも装弾数の問題もあるしなぁ」

「その点クリシュナは反則よね」

「そう言われてもなぁ」


 エルマのジト目を受け流しながら肩を竦めてみせる。

 確かにクリシュナは反則に近いレベルに性能の高い船だ。小型艦としては最大級の大きさではあるが、搭載している特別性のジェネレーターから生み出されるエネルギー出力は中型艦をも凌駕する。

 そのため強力なスラスターで十分以上の機動力を確保した上で、強力なシールドを装備し、更に四門もの重レーザー砲を扱えるだけの余裕があるのだ。無論、あくまでも小型艦という括りの中で破格な性能を誇るというだけで、例えば真正面からの火力勝負では帝国軍の戦艦や巡洋艦にはとても敵わないし、シールドの性能も比べ物にならない。クリシュナは間違いなく強力な小型艦だが、決して無敵の船ではないのだ。


「エルマさんとしてはどんな船が良いんですか?」

「性能も大事だけど、見た目も大事よね」

「せやろか?」

「私はちょっとわかるかも」

「そういうものなんですかね?」


 エルマの言にティーナとミミが首を傾げ、ウィスカは頷いている。俺はどちらかと言えば見た目よりも性能派なのだが、見た目も大事だというエルマの言葉を否定する気にはあまりならない。俺だって性能差が然程でもなければ見た目が気に入ったほうを使うだろうしな。


「兄さん的にはどないなん?」

「見た目だけを重視するのは俺の流儀じゃないが、性能が良くても見た目があまりにも趣味に合わないってのはモチベーションの点で良くはないと思う」

「玉虫色の答えやなぁ」

「実際そういうもんさ。見た目が気に入ってる艦だからこそ傷をつけられたくないって思うのが人情ってもんだからな。逆に見た目とかどうでもいいなんて思って船に乗ってると多少のダメージは気にしない雑な操艦になるもんだ」

「なるほどー。そう言われればそういうもんかもな」


 ティーナも俺の説明に納得してくれたようだ。実際のところ、アセンブリとペイントを済ませて船を眺めて『なんだこれカッコいいな。最高か?』という感情は馬鹿にできないものだ。船に対する思い入れというのも船乗りにとっては大事なものなのだと俺は思う。

 そんな船談義をしながら移動することしばし――もっとも歩いたのではなくコロニー内の移動システムを使ったのだが――俺達はシップヤードへと到着した。


「へー、こんなんなっとるんや」


 シップヤードを見回してティーナが感心したような声を上げる。正直に言うと、俺も少し驚いていた。予想以上に小綺麗な場所だったからだ。


「なんだか少しブラックロータスの休憩スペースに雰囲気が似てますね」

「ああ、なんだか見覚えがあると思ったらそういうことですか」


 ミミの発言にウィスカが納得したような声を上げる。質の良さそうなソファや長テーブル、それに各所に設置されている観葉植物やテラリウム、航宙艦の広告を表示しているホロディスプレイなど、どことなくブラックロータスに通じるデザインなのだ。


「奥の方に各社のブースがあるわけか」


 なんかアレだ、ニュースか何かで見たモーターショーみたいだな。


「そういうこと。あっちで目当ての船を探したら、こっちのスペースで商談するってわけ。まずは端から回って行く?」

「うーん、まずはもう少し具体的にどんな機体を調達するべきかっていう意識の摺合せをしておいた方が良いんじゃないか?」

「ああ、それもそうね。私も色々考えたから、聞いてもらおうかしら」


 ☆★☆


 そういうわけで、俺達は企業のブースを訪れる前に手前側のラウンジスペースで話し合いをすることにした。


「漫然と足の早い船で火力もそこそこ……ってのはどうかと思うのよね」


 席に着き、飲み物を注文し終えた段階でエルマがそう話を切り出した。


「なるほど。まぁソロならともかく、チームとして動くならそれはそうだな」


 エルマの言に納得した俺は頷く。しかしミミ達は今ひとつ要領を得ないようで、揃って首を傾げていた。


「つまり……どういうことなん?」

「つまり、今の私達のスタイルを続けていくなら現状の穴を埋めるなり長所を伸ばすなりっていう明確なコンセプトを考えて船を選ぶべきだし、逆にもう一隻船を増やすことでスタイルを変えるなら、それはそれでその新しいスタイルに即した船を選ぶべきだって話ね」

「なるほど……?」


 エルマの説明を聞いてもまだミミはピンときていないようだが、ティーナとウィスカは納得――というか理解できたらしい。これは技術面から航宙艦の設計や改造などに長年携わってきた姉妹と、俺の船に乗るまで全くそういったものに関わってこなかったミミとの差が出た形だな。


「今の宙賊狩りのスタイルって基本的にエサ釣りじゃない? ブラックロータスを囮にして、のこのことやってきた宙賊をヒロのクリシュナで奇襲して、囮役だったブラックロータスも武装を展開して挟撃するって感じよね」

「そういう流れですね」


 ミミがコクコクと頷く。言葉にすると簡単だけど、ブラックロータスが囮だと看破されたり俺が奇襲する前に見つかったりすると台無しだから、それなりに工夫も要るんだよな。

 まぁその話は置いておこう。


「それで、今の状態で討ち漏らしが発生するのって宙賊どもに即座に逃げを打たれた時なのよね」

「確かに。言われてみるとそういう傾向があるように思います」


 逃げるのが一隻か二隻なら追撃もなんとか間に合うが、四隻、五隻以上に一斉に逃げを打たれると、やはりその全てを撃沈するのは難しい。あいつら、逃げる時には散り散りになって逃げるからな。示し合わせたように……というか実際に事前にそうするよう打ち合わせをしているのだろう。


「だから、穴を埋めるって言うなら追撃能力に長ける船を調達することに考えるべきだし、長所を伸ばすって方向ならそもそも逃げられる前に全部仕留めるって方向で射程や火力に長けた艦を調達するべきってこと」

「よくわかりました」

「ミミも納得できたところで、じゃあ具体的にはどういう方向性で船の仕様を考えるべきかって話だな。追撃能力と火力を同時に、お手軽に獲得するならやっぱりミサイルポッドを積んだミサイル艦が良いだろうな」

「ミサイルっていう実弾を積む関係上、重量増加と継戦能力の低下は避けられんのがネックやね」

「でも、ミサイルポッドは駆動に使うエネルギー出力が小さいから、その分はスラスターに回せるよね。一定の機動力は確保できるんじゃないかな?」

「そうね。撃った分は重量も減るからそれでさらスピードも上がるし」


 撃った弾薬分軽くなれば、その分機体が軽くなるから同じ出力でもより高い加速性能が得られるってのは道理だな。いっそミサイルを撃ち切ったらミサイルポッドをパージするなんてのも有りだが……コストが嵩むからナシだな。うん。浪漫はあるけど。

 戦闘機動中にミサイルポッドのパージなんてしたら超高速で宇宙の彼方に吹っ飛んでいって回収なんかできんからな。いくら保険に入っていても戦闘のたびにミサイルポッドをパージして行方不明にしていたら、お財布へのダメージがマッハだ。ただでさえミサイルは弾薬費が気になるのに。


「そうなると、気になるのはランニングコストでしょうか?」

「そうだな。継戦能力に関しては俺達が連続で長時間の戦闘することはあまりないし、戦闘の合間にブラックロータスで補給を受ければ問題ないだろうから気にしなくて良い。ミミの言う通りシーカーミサイルの弾薬費がネックだな」

「意外と高いのよね、あれ」


 そう言ってエルマが頬に片手を当てて溜め息を吐く。一般的に使用されるシーカーミサイルの一発辺りの価格は凡そ500エネルから800エネルである。日本円価格に換算すると滅茶苦茶に安いのだが、これはレプリケーターによる製造コストの低下や小惑星帯採掘などを始めとした航宙鉱業技術の向上による材料費の低下、それに傭兵ギルドからの補助金など様々な要因が重なった結果である。

 弾薬費の価格破壊に一番寄与しているのは基となるデータと材料さえあれば高度な誘導装置なども含めてボタン一つでポンと実物を作り出せてしまうレプリケーターの存在なわけだが、これもまたなんでもかんでも作れるというわけでもない。基となるデータが無ければレプリケーターで物を複製することはできないし、そもそもレプリケーターとは相性の悪い素材などもある。レプリケーターも万能ではないというわけだな。


「一発500エネルから800エネルって言っても、それを一回の戦闘で二十発も発射すればそれだけで10000エネルから16000エネルだからな。垂れ流していたんじゃ採算が取れん」


 一発50万エネルの対艦反応弾頭魚雷に比べれば一発辺りの金額は千分の一だが、あまり気軽にポンポン撃てるものでもない。これが生き残ればそれで良い戦争だとか、勝てばそれで良い試合だとかなら撃てる限りの火力を全投入してしまっても良いんだが、傭兵業はビジネスだからな。


「シーカーミサイルで宙賊艦を吹き飛ばすと表面要素に大きなダメージが入りますから、敵艦の装備しているレーザー砲やマルチキャノン、スラスターなんかは全損するものが多くなりそうですね」

「結果として経費がかかる上に儲けも少なくなるっちゅうことか」

「こうして聞くと欠点だらけに聞こえるんですけど……」


 眉根を寄せながらミミが唸る。


「いや、強いんだよ。ミサイルはほんとに。爆発のエネルギーはシールドを飽和させやすいし、直撃すれば装甲を吹き飛ばして船体に大きなダメージを与えるし、表面要素――つまり敵艦の武装やスラスターなんかに損害も与えるから戦闘能力を大きく減衰させられる。だから使われると厄介だし、絶対に当たりたくないから俺は必ず避けるなり迎撃するなりしてる」

「言っておくけど、シーカーミサイルの弾幕を鼻歌歌いながら切り抜けられるのはヒロみたいな一握りの変態だけだからね。艦の性能によってはそもそもシーカーミサイルの追尾を逃れられるだけの速度を得られないし、レーザー砲で迎撃するにしても飽和攻撃を仕掛けられたらどうしようもないし、シールドで耐えるって言っても小型艦のシールドじゃ二発もまともに喰らえば全損よ」


 全損というのはシールドを完全に飽和させられることを指す俗語である。シールドを失った航宙艦は大変に無防備な状態と言って良い。クリシュナは装甲にも金をかけているからシールドをやられても一発や二発くらいのミサイル直撃は耐えられるだろうが、それ以上となるとクリシュナでも危うい。速度を上げるために艦体に軽量化を施しているような小型艦では大抵の場合シールド無しでのシーカーミサイル被弾=爆発四散である。


「うーん、なるほど。じゃあミサイル艦にするんですか?」

「そうだなぁ。射程と威力、拘束力って意味では理に適ってはいるんだよな」

「シーカーミサイルに追いかけられているような状況だと超光速ドライブの起動もままならないものね。アタッカーをヒロのクリシュナに任せて私はミサイルを使った足止めに徹するっていうのは悪くない考えだと思うわ」


 勿論通常武装としてレーザー砲も数門積むべきだろうけど、とエルマが言葉を続けたところで注文したドリンクが届いたので、各自一旦一息つくことにする。


「話を聞いていて思ったんですけど、小型艦に拘る必要ってありますか?」


 一息ついたところでミミからなかなか鋭い意見が飛び出してきた。


「うん、それはなかなか鋭い意見だ。俺も実は小型艦に拘る必要はないんじゃないかと思ってる」


 俺もミミの意見に同意する。表情を見る限り、エルマも同じように考えていたのか驚いている様子はない。対して整備士姉妹は首を傾げている。


「ブラックロータスのハンガーは小型用やで? あれに中型艦入れるのは無理があるわ」

「でも、ブラックロータスでの整備を前提としないならアリなのかな? 小型艦ならブラックロータスに格納して整備ができるけど、それで格納庫を埋めちゃったら今回みたいに戦利品の船をリストアするのは難しくなるよ」

「あー、なるほど。もし今回みたいなリストアするためにスペースを空けるとなるとどっちにしろ小型艦二隻のうち一隻は格納せずに随行する形になるから、それなら最初から中型艦にするっちゅうのもアリか」


 二人で話している間に俺達の考えにすぐに追いついたらしい。ミミは『なるほど!』みたいな顔をしているが、単純に小型艦に拘る必要があるのかどうか疑問に思っただけで、二人が細かい点までは思い至らなかったんだろうな。


「それじゃあ中型艦の導入について話し合うか」


 というわけで俺達は小型艦の話から中型艦の話に話題を移すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ますますスターシチゼンw
[一言] ミサイルの扱いがおかしくないです? まぁ宇宙船が飛び回る世界ならこんなもんなのかもしれませんが、携帯式の地対空ミサイルでも約400万円ハープーンで1億9500万円。 あと、エネルギー兵器の方…
[一言] 待ってた! 新しい艦の導入の話はワクワクしますな
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