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#030 二章プロローグ

休むかもしれないとは言った。

休むとは言っていない……!(´゜ω゜`)(無理そうなら休みます

 眩しくて目が覚めた。

 目に飛び込んでくるのは光の奔流。前から来て、後ろへと流れ去って行く青白い光の回廊。上下左右、全てが流れ去っていく光の奔流だけで構成されているのだ。目指す先にあるのは一点の光。視界を埋め尽くす光の奔流と同じ色の眩く輝く恒星の光である。


「ちょっと、寝てんじゃないでしょうね?」


 左斜め後方から不機嫌そうな声がする。はて、これは誰の声だったか? そもそも、ここはどこだろう?

 何らかの情報を現していると推測できるホログラムでできたディスプレイ。いくつものボタンがついた操縦桿のようなもの。それといくつかの計器。先程から見えている光の奔流は俺の真正面に広がる大きな……ディスプレイだろうか? 映像にしてはリアルな気がするが。


「ヒロ様?」


 心配するような声が聞こえてくる。ヒロ様? 俺は、俺の名前は佐藤孝宏さとうたかひろだ。ヒロ様なんて名前じゃない。でも、この声には聞き覚えが。

 誰かが近づいてくる気配がする。


「いでぇっ!?」


 脳天に衝撃が走った。とてもいたい。


「コックピットでうたた寝とは良い度胸ね……?」

「エ、エルマさん、暴力は……」


 激しく痛む頭を押さえながら振り返ると、俺にげんこつを落としてきた人物と、その後ろから心配そうにこちらを窺っている人物の姿が目に入ってくる。


「あー……思い出した」

「何をよ?」


 いかにも怒っています、という表情で俺を見下ろしている女の名前はエルマ。長くて尖った特徴的な耳を持つ美人で、胸部装甲は控えめ。髪の毛の色は透き通るように色素の薄い銀髪。肌は白く、きめ細やか。どこからどう見ても紛うことなきエルフだ。

 ただし、衣服は肌の露出が少なめの傭兵風。どことなくサイバー風味でファンタジー要素は皆無だが。腰には無骨なレーザーガンまでぶら下がっている。耳以外はエルフっぽくない実に残念なやつだ。

 彼女は傭兵歴五年のベテラン傭兵なのだが、今は俺の船で働くクルーの一人である。

 彼女が俺の船に乗る経緯については……まぁ、概ね不慮の事故と言って良いだろう。大規模な賊の討伐中に乗っていた宇宙船が暴走し、帝国軍の戦艦に突っ込んでもろとも大破したのだ。

 彼女は莫大な賠償金を負うことになった。しかし彼女の全財産と船を売り払った金額を合わせても賠償金が足りず、あわや犯罪者として過酷な監獄コロニーに送られる直前というところで俺がそれなりの大枚を叩いて助けることになったのだ。

 それ以来、彼女は俺の船のクルーとして働いている。俺に借金を返し、再び自分の船を手に入れるために。

 ちなみに、彼女が負った賠償金の金額について不当に高い請求などがされていないかは一応調べた。一応調べたが不審なところはなかった。それもそのはずで、額面が書類というかデータに残る軍からの正式な賠償金請求で不正などやりようがなかったというわけらしい。

 ただ、賠償金の支払い期限についてはあちらの手違いか何かで随分短く設定されていたようだった。そのミスをやらかした担当者は損耗率の高い懲罰部隊送りになったそうだ。ワンミスで懲罰部隊送りとか超怖い。やはり帝国軍には近づかないでおこう。


「二人のこととか、色々」

「私達のことを忘れてたんですか……?」


 エルマの影からひょこりと顔を覗かせた少女が悲しそうな顔をする。


「いや、寝ぼけてな」


 エルマの陰からこちらの様子を窺っている少女の名前はミミ。

 明るいブラウンの髪の毛に同じく明るいブラウンの瞳を持つ可愛らしい女の子だ。今はエルマの陰になって見えていないが、その胸部装甲は戦艦並みである。身体の大きさは駆逐艦級なのに。

 彼女もまたエルマと同様に俺の船のクルーである。彼女が俺の船に乗ることになった経緯もまた借金絡みだ……とは言っても、エルマと違って彼女に責任があるような類のものではない。

 彼女の両親が事故死し、その事故の際に彼女の住んでいたコロニーに被害を与えた。その賠償金が子供である彼女に降り掛かったのだ。

 そんな無茶が罷り通るのかと思うが、そこに大人達のどんな思惑が絡んだのか、そんな無茶が罷り通ってしまった。そして、そんな彼女を助ける大人は一人もいなかった。

 だが、彼女は運良く俺と出会い、俺には彼女を助けられるだけの財力と力と立場があった。俺は彼女を助け、彼女は俺の船のクルーになった。お伽噺ならこれでめでたしめでたしで終わるんだろうが、残念ながらこの世界は現実である。借金が消えても彼女に寄る辺がないことには変わりない。

 なので、俺は助けた者の責任ということで彼女の面倒をみることにした。この船のクルーとして迎え入れ、俺の傭兵稼業のサポートをするオペレーターとしての役目を担ってもらうことにしたわけだ。

 というわけで、彼女はオペレーターとしての技術を一から勉強中。AIトレーナーによる訓練と、ベテラン傭兵であるエルマの教育もあって着実にオペレーターとしての経験を積んでいる真っ最中である。


「寝ぼけてたとはいえ薄情な野郎よねー。私達二人をとっかえひっかえ好きにしておいてさ」

「とっかえひっかえってお前ね……人聞きが悪いことを」

「事実よね?」

「否定はできないな」


 そう、二人とはそういう仲だ。

 この世界には地球の日本で過ごしていた俺には到底理解できない、想定も出来ないような妙な仕来りや文化。一般常識というものがいくつかあるらしい。勿論俺もまだ全貌を把握していないのだが、その妙な常識の一つに『男の船に乗る女は一般的にその情婦として見られる』というものがあった。

 意味がわからないだろう? 俺も意味がわからん。だがそういうものらしい。この世界がどのような歴史を歩んできたのかは俺はまだ知らないが、そういう文化や常識が育まれる経緯が何かしらあったのだろう。そうなのだと言われてしまえばそういうものなのだろうと納得する他ない。

 彼女達は俺の船に乗る際、もちろんそういう常識を理解した上で俺の船に乗ることを決めた。いや、二人に関しては正直ほとんど選択肢が無かったわけだから、理解したというよりは甘んじて受け入れざるを得なかったというのが正しいだろう。

 対して、俺はそんなことは深く考えずに彼女達を船に乗せることを決断した。それは単に同情であったり、クルーとしての能力を欲したという打算であったりしたわけだが、俺から彼女達に『俺の船に乗れ』と言ったわけだ。つまりそれは『俺とそういう関係になれ』と言うのと同義である。

 俺がそう発言した時点で俺にそのつもりがなくとも、彼女達はそう取る。それが常識だからだ。

 しかも状況も状況だ。どちらも金に困っており、俺の提案に乗らなければ貞操の危機と破滅が約束されていたような状態である。

 ミミは身寄りも自分の身を守る力もなく、俺の提案に乗らなければスラムじみた場所で玩具にされ、娼婦としてこき使われ、いずれ野垂れ死ぬような状況。

 エルマは賠償金が支払えず、傭兵を目の敵にしているであろう宙賊の男どもがわんさかといる監獄コロニーにぶち込まれる寸前。この世界では男女で犯罪者をぶち込む房を分けるなんてことはしないらしい。当然、そのような場所で彼女を待つのは物理的、性的な暴力の嵐であろう。

 そんな状況から助けられた二人が俺に救われ、俺の船に乗るわけだ。彼女達としては俺に関係を迫られれば断れない。ミミにいたっては俺に捨てられればその時点で詰みである。エルマは借金さえなければなんとか生きていけそうな気もするが。

 まぁ、長々と話したがそういう経緯があって二人とはそういう関係なのである。客観的に見ると、借金のカタに貞操を差し出させるというド畜生だな、俺。まったく否定はできない。

 だが、考えてみて欲しい。ロリ巨乳の美少女や見た目は完璧な美人のエルフが恥じらいながらも納得済みで自分から身を差し出してくるのだ。そんな状況で手を出さない男がいるだろうか?

 いるのかもしれない。ああ、そういう人はいるのかもしれないな。

 でも俺は無理だね! いっちゃうね! 俺は誘惑に弱くてそういうときには下半身でものを考えちゃう健全な男の子だからね!

 そんな状況で手を出さないとかどんな聖人君子だよ。悟りでも開いてるのか? 俺はゲームとかでエロい選択肢があれば迷わず選んじゃう男なんだ。すまんな。


「でも、嫌なら――」

「嫌だなんて言ってないじゃない」

「嫌じゃないです」


 二人揃って食い気味に言われた。エルマは顔をほのかに赤くしてそっぽを向いており、ミミは真剣な表情でこちらをじっと見つめてきている。


「わかった。二人とも愛してるよ」

「はいっ!」

「そ、そう」


 俺の言葉にミミは満面の笑顔を浮かべ、エルマは照れくさそうに俯いた。うん、二人とも可愛いな。


 ☆★☆


 さて、そろそろしっかりと自己紹介をしておこう。

 俺の名前は俺の名前は佐藤孝宏さとうたかひろ、今はキャプテン・ヒロと名乗っている。

 今、俺が乗っている船は【ASX‐08 Krishna】という型番の小型戦闘艦だ。これは恐らくこの世界に一台しかないユニークな船で、俺はそのまま『クリシュナ』と呼んでいる。

 今、俺がいる場所はガーナム恒星系からアレイン恒星系へと向かうハイパースペース内だ。ハイパーレーンやハイパースペースの話は後回しにするとして、まずは俺の居るこの世界の話をしよう。

 俺が今存在するこの世界、この銀河の名前はわからない。誰も銀河に名前なんてつけていないようだからな。とにかくこの銀河には恒星間航行技術が普及しており、人々はとうの昔に惑星の重力圏から離脱し、星の海にその生息圏を広げているらしい。気がついたら、俺はそんな世界に放り出されていた。この船、クリシュナと一緒に。

 このクリシュナ自体は俺がこの世界に来る前からの付き合いだ。ああいや、別に元の世界でこんな宇宙船を乗り回していたわけじゃない。俺の知る限り地球における宇宙への進出はせいぜい軌道上の研究ステーション止まりだったし、それだってごく少数の宇宙飛行士が宇宙における様々な実験を行うための軌道上実験施設のようなもので、宇宙に住むとかそういう類のものではなかった。

 人々はごく普通に地表に暮らしていた。だから俺の言っているこの世界に来る前からの付き合いだ、というのはゲームの中での話である。

 この世界に来る前、俺はステラオンラインという名前のオンラインゲームにハマっていた。超広大な銀河で宇宙船を駆り、冒険をしたり戦闘をしたり、交易でお金を稼いだりと自由に色々と遊べるゲームだ。

 俺が今乗っているクリシュナはそのゲーム内のイベントで手に入れ、俺が乗り回していたユニークな船だったのだ。ここまで話せば察しの良い人はわかるかもしれないが、俺が迷い込んだこの世界はステラオンラインに酷似している世界だった。

 何せ、流通している船や商品はステラオンライン内で見覚えのあるものが多く、宇宙に潜んで民間輸送船などを襲う宙賊や、見境なく有機生命体を襲う結晶生命体などの敵対的な存在もステラオンラインのそれとほぼ変わらない。

 だが、全てが同じというわけではない。ステラオンライン内には存在しなかった船や商品なども見かけるし、銀河地図を眺める限りではステラオンライン内で俺が知っている恒星系の名前は見当たらない。周辺星系を支配している複数の銀河帝国の名前にも聞き覚えがない。

 似て非なる世界なのか、それとも単に俺が知らないだけなのかの判断は未だについていないのだ。それは何故かと言えば、ゲームのステラオンラインにおいても未だにゲーム内の銀河の全貌が明らかになっていなかったためである。

 確かステラオンラインのサービスが開始されてから四年ほど経っていたはずだが、プレイヤー達はその時点で銀河の中心部に到達できていなかった。四年もかかっているのにである。どれだけ広いんだっていう話だ。

 つまり、今俺がいる場所が銀河の中心部を越えた反対側だとすると、俺の見知った星系がないのも当たり前なのだ。何せ誰もまだ到達していないのだから、俺が知るはずもないわけだ。

 当然、太陽系がないかも調べてみたが見つからなかった。これはステラオンラインでも見つかっていなかったので、そもそも存在しないのか未発見なのかはわからないのだが。

 兎にも角にも、そんな状況に放り出された俺は途方に暮れた。幸い、クリシュナを動かすことは問題なくできたので、ステラオンラインでもそうしていたように傭兵としてこの世界で生きることにした。最初からクリシュナに積み込まれていた積み荷のおかげで金はそれなりにあったが、それを食いつぶしてダラダラと生きても仕方がないだろう。

 原因はわからないが、折角ドハマリしていたゲームのような世界に来たのだ。楽しまなきゃ損というものである。

 そして俺は傭兵となり、成り行きでミミやエルマと出会い、傭兵として宙賊を狩り、同じく傭兵として宇宙帝国同士の小競り合いに参加して活躍した。

 しかし活躍しすぎたのがいけなかった。美人だがヤバそうな雰囲気を放つ帝国軍人のお嬢さんに目をつけられ、熱烈に帝国軍に勧誘され、そのままで居るとなし崩し的に帝国軍に入れられてしまいそうだったので逃げてきたわけだ。自由を求めて。

 なぁに、俺達は自由な傭兵という立場だ。仕事を求めてどこかに移動しようとも特に咎められる筋合いもない。もしかしたら帝国軍からの印象は悪くなるかもしれないが、別に軍と関わらなくたって傭兵は稼げる、問題はない。問題はないとも。


 ちなみに、この船に乗る三人にはそれぞれ目標がある。

 俺の目標はこの世界の安全な惑星上居住地に庭付きの一戸建てを買うことだ。そして思う存分炭酸飲料をかっ喰らいたい。

 何故かこの世界には炭酸飲料が存在しないのだ。調べてみたが、理由がさっぱりわからない。どの媒体を見ても炭酸飲料というものの存在自体が見当たらない。意味がわからない。

 だが、無重力下で炭酸飲料を飲むことは非常に難しいという話は聞いたことがある。この銀河で宇宙進出が一般的になものになってからどれだけの月日が経つのかはわからないが、宇宙進出の過程で炭酸飲料というものが廃れてしまったのかもしれない。

 ならば地上でこの俺が炭酸飲料というものの存在を復活させてみせる。そして思う存分飲むのだ。

 というわけで、俺の目標は惑星上居住地に庭付き一戸建てを買うことである。帝国では上級市民権の購入代金を含めて数億エネルかかるらしい。舐めてんのか高すぎるわ。


 そして次にミミの目標だが、彼女の当面の目標は銀河中のグルメというグルメを味わうことだ。この広い銀河には俺達の想像もつかないような不思議で美味しいものがたくさんあるという。それを食い尽くす。それがミミの目標だ。シンプルかつ遠大な目標だな! 勿論俺もそれに付き合う予定だ。ミミの宇宙グルメの一つに炭酸飲料を入れることが俺の密かな目標である。


 そして最後にエルマだが、エルマの目標は当然俺に対する借金の返済と、再び独立して傭兵になるための資金稼ぎである。

 俺に対する彼女の借金は三〇〇万エネル。日本円に換算するとおよそ一エネルあたり百円ほどなので、日本円にして約三億円。大金だ。とは言ってもこの前のターメーン星系における帝国と連邦の小競り合いの際に二六万エネルほどの金額をエルマの取り分として渡したので、このペースだと一年もしないうちに全額返済するかもしれないな。

 まぁ、借金を返しただけでは傭兵として活動するための宇宙船を購入することはできないだろうから、借金を返し終えてもしばらくはうちのクルーでいることになりそうだけど。


 俺達の状況としてはこんな感じだ。


 今は帝国内でも医療技術がとても進んでいるというアレイン星系へと向かっている。

 何故かと言うと、まさか異世界から迷い込んできましたと言いふらして歩くわけにもいかないので、この世界の常識がなかったり、突如ターメーン星系に現れたりしたことに関してはハイパードライブ中の事故によるもので、その事故の際に記憶があやふやになってしまっているという設定にしているからだ。

 その設定を聞いたミミとエルマが心配して、一度医療系のステーションで詳しく検査をしたほうが良いと提案してきた。その提案に乗らないのも不自然だし、俺自身も今の自分の体がどうなっているのか知っておいたほうが良いと思ったのでその言葉に従うことにしたわけだ。実際、異世界転移だかなんだかしらないが妙なことになっているわけだからな。身体に異常がないともかぎらないわけだし。

 そういうわけで、いま俺達は自由と医療技術を求めてアレイン星系へと向かっている。自由と医療技術を求めて。大事なことだから二回言っておくぞ。

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― 新着の感想 ―
単純に何も考えてないだけなんだろうけどクソみたいな世界とはいえ強制的に強くてニューゲームだからから元気もあるんだろうな…
誤字報告 俺の名前は俺の名前は佐藤孝宏、今はキャプテン・ヒロと名乗っている。 「俺の名前は」が連続で書かれてます。
[一言] 『男の船に乗る女は一般的にその情婦として見られる』って常識が出来た経緯は最初から情婦として乗せたか結果的にそうなった人がたくさん居たんだろうな。
2022/10/10 17:40 退会済み
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