#300 取り調べとホロメッセージ
まだ若干左腕に違和感が残っていますが、ほぼ復調したので更新再開( ˘ω˘ )
参集した星系軍の圧倒的な火力を前に、召喚された結晶生命体達は残らず駆逐された。
それじゃあ結晶生命体もいなくなったし、これで解散!
「とはならないんだよなぁ」
クリシュナとブラックロータスのクルー、それに護衛のために俺達と船団を組んでいた傭兵達もまとめてミラブリーズ星系軍に拘束されていた。いや、拘束とは言っても抵抗の意思も見せなかったし、彼等の本拠地であるコロニーへの移動にも唯々諾々と従ったから、手錠などもかけられずに待遇もそう悪くないものではあるのだけれども。
「それじゃあ君達は巻き込まれただけで、歌う水晶を不法に所持していたわけではないと。そう言うんだね?」
テーブルを挟んだ向こう側。灰色一色の殺風景な取調室の中で、目に眩しい真っ白な制服に身を包んだ星系軍の憲兵さんが俺に問いかけてくる。
「当たり前だ。万が一歌う水晶を使って結晶生命体で一儲けするにしても、あんな交通量の多いハイパーレーン突入口でやるわけがないだろう? ましてや自分の母艦や護衛のために雇った傭兵達まで結晶生命体の群れのど真ん中に放り込むような状況で歌う水晶を使うわけがないし、彼等を逃すために単身その場に残って時間稼ぎなんてするわけがない。俺じゃなかったらとっくに死んでるぞ。それに全艦船のログを確認したんだろう?」
「それは勿論。だが、当事者からの事情聴取はしなければならないのでね。私としてもゴールドスターをこのような件で疑うのはどうかと思うが、これも仕事さ。それで、他のクルー……特に今回雇われた護衛の傭兵達の証言なのだが、彼等が言うにはワープアウト後に何かしら――後から思えば結晶生命体の襲撃がある、というようなことをハイパーレーン移動中に通達され、その場合の行動指針まで具体的に指示されていたという話なのだが」
「何の根拠もない勘――と言いたいところだが、俺なりに考えた末の結論がどんぴしゃりだっただけだ。ただ、これを完全に説明するのにはかなりの時間がかかるし、その中にはただの想像や推測、下手をすると妄想や偏執狂じみた空想とも言えるようなものまで組み込まれている上に、とある人物や集団の名誉を毀損する恐れのある発言も入ってくるだろう。それでも聞きたいか?」
「手短に頼む」
「いや、今俺時間がかかるって言ったよな?」
そうして俺は小説一冊分にも及ぶ壮大な物語を憲兵さんに語って聞かせ、遂に釈放されたのであった。
☆★☆
「ずいぶん長くかかったわねー」
「お疲れさまです、ヒロ様」
「うん、疲れた」
星系軍の取調室から解放され、ブラックロータスに戻るとエルマとミミに出迎えられた。話を聞くと、どうやら整備士姉妹はクリシュナの整備に大忙しらしい。ブラックロータスも艦首大型電磁投射砲を撃ったり、各部に装備された武装もぶっ放したりしたので、そちらも一応整備をすると張り切っていたとか。
「この後はどうするんですか?」
「晴れて無罪放免になったんだから、とっととこんなシケたコロニーからは出ていくぞ。整備はゲートウェイを通った後にでもじっくりやってもらう」
「それはそうね。ちょっと足止めを食らったけど、まだ当初の予定時間内にゲートウェイのあるエイニョルス星系に到着できそうだし」
「面倒に巻き込んだ分はボーナスでも弾んでおくか」
幸い、臨時収入が転がり込んできたからな。無罪放免となったので、艦に記録されていた交戦記録などのデータを元に功績から換算した褒賞金が出たのだ。クリシュナ単艦で相当数を撃破したから、反応弾頭を四発も使っても十分以上にお釣りが来るくらいに稼げた。
それに、結晶生命体の残骸からはレアクリスタルも採れるので、そちらもミラブリーズ星系の資源管理課が大喜びで買い取ってくれたし。これが全部合わせると傭兵達の雇用費用よりも随分と大きく稼げたので、まぁ危険手当ということで支給しても良いだろう。
報告によると護衛の傭兵艦も結晶生命体に嬉々として殴りかかって、いくらか褒賞金をせしめたらしいけど。まぁそれはそれ、これはこれってことで。
「それじゃあ程なくして出発する旨を皆さんに伝えておきますね。三十分後で良いですか?」
「それで良いだろう。フットワーク軽くコロニーに降りてる連中も三十分ありゃ戻ってこれるだろうしな」
間に合わないやつは知らん。容赦なく置いていくし、逸れた奴には報酬は払わんがな。
そういうわけで、再びクリシュナに乗り込むべくミミ達と一緒に移動し、格納庫に着いたところで端末に着信があった。通話ではなく、ホロメッセージだな。はて? 送ってくるような相手に心当たりが無いが。クリスが息抜きにでも送ってきたのだろうか? などと考えながら上着のポケットから小型情報端末を取り出し、その画面を見て思いっきり渋面を作ることになった。
「何よ、凄いブサイクな顔してるわよ」
「どうしたんですか?」
「これ」
二人に小型情報端末の画面を見せると、二人とも眉間に皺を寄せたり、口元を引き攣らせたりした。そうだよね。そういう反応になるよね。
「どうやってヒロのアドレスを探り当てたのかしら……」
「知らん。俺は教えてないぞ」
「考えられるのは傭兵ギルド経由か、雇った傭兵経由でしょうか……?」
「どっちにしろ無視はできんな」
念の為メイに連絡してホロメッセージに変なもの――所謂マルウェアの類――がくっついていないか確認してもらってから開く。
『どうもォ。直接会おうとしてもきっと断られるだろうから、メッセージで失礼するよォ?』
船のコックピットで撮影したのだろうか? リラックスした様子のマリーの上半身が小型情報端末の上に表示される。憎たらしいニヤニヤ笑いしやがってこのクソアマ。
『まァ、そんなに話すことがあるわけでもないんだけどォ……挨拶くらいは、ねェ?』
芝居がかった仕草でホログラムのマリーが流し目を送ってくる。
「話すことがないならメッセージなんて送ってくるんじゃねぇよ!」
「ホロメッセージ相手にいきり立っても仕方ないでしょ……」
「なんか私も気に入りませんね、この人」
ミミが珍しく頬を微妙に膨らませてホログラムのマリーにジト目を向けている。何かわからないが、今回のマリーはミミの癪に障ったらしい。
『何にせよ見事な手前だったよォ? たった一隻であの数の結晶生命体を相手に大立ち回り。あたしみたいな凡俗にはとても真似できない芸当だったねェ……おかげであたしもうっかりあんたを『誤射』せずに済んだみたいで何よりさァ』
「こいついけしゃあしゃあと……明らかに狙ってただろうが」
『今度会った時には是非仲良くしてもらいたいもんだねェ……あんたみたいな腕利きがウチに入ってくれりゃ色々と捗るってもんだしさァ。とりあえず色々と水に流して、今度はまっとうに付き合ってくれると嬉しいねェ? 少なくとも、こっちはそういうつもりで接するからさァ』
そう言ってホログラムのマリーは意味ありげにニタリといやらしい笑みを浮かべた。
「どういう意味だと思う?」
「そのままの意味で受け取ればレッドフラッグとしての恨み辛みは水に流すって意味に聞こえるけど、そのまま素直に受け取るのは危険ね」
「明言してないですもんね。向こうもこっちに言質を取られるような発言はしないでしょうけど」
二人ともマリーの言葉を俺と同じように受け取ったようだが、やっぱりそのままの意味で素直に受け取るのは危ないよな。私は許そう、でもこいつらが許すかな? とか言って手下をけしかけてこないとも限らないし。
『そういうことで、縁があったら今度は仲良くしようねェ? なんなら別の意味でも、ねェ?』
「いやです」
「何言ってんのこいつぶっ殺すわよ」
「間に合ってます」
総スカンである。それはそう。こんな匂いに釣られて近寄った奴を養分にする食虫植物じみた女なんてどうあっても御免だ。セレナ中佐――今は大佐か――とは違う意味で地雷臭が凄まじい。
「こいつのことは忘れよう。この広い宇宙だ。ゲートウェイで遠く離れれば二度と会うこともあるまい」
「そうですね、帝国領は広大ですから」
「そうだと良いわね」
エルマが遠くを見るような目をしながら呟く。やめろやめろ、同じようにゲートウェイであちこちに跳んでるのに行く先々で会うセレナ大佐のことを言うのはやめるんだ。また今回も会ってるからな……なんなんだろうね、あの私生活残念美人との縁は。
「切り替えていこう。とにかく今はゲートウェイに到達して遠くに高跳びするのが先決だ」
「実のところ、逃げるみたいでなんか釈然としないんだけどね」
「大規模宙賊団なんぞまともに相手できるかっての。俺達は英雄なんかじゃなく、一介の傭兵なんだぞ」
「ヒロ様がそれを言うのはなんだか物凄い違和感が……」
「一介の傭兵は敵国の正規軍艦隊や結晶生命体の群れに突っ込んで生き残れないし、生体改造も無しで貴族相手に剣で互角以上に戦ったり出来ないし、ましてやプラチナランカーになったりゴールドスターを受勲して皇帝陛下に顔と名前を覚えられたりしないわよ」
「アーアーキコエナーイ」
俺の耳は都合の悪いことは聞こえないようにできているんだ。凄いだろ? などとマリーの一件を努めて忘れるために他愛のないやり取りをしながらブラックロータスの格納庫へと向かうと、すぐに整備士姉妹が俺達の姿に気付いた。
「あっ、兄さんや。お勤めご苦労さまです」
「お勤めご苦労さまです」
「別に収監されてないからね? 刑期を終えて娑婆に出てきたとかじゃないからね?」
「「きゃー」」
ふざけて深々と頭を下げている二人の頭を作業用のヘルメット越しにぐりぐりしてやる。スペース・ドウェルグ社の社章がプリントされた絶妙にダサいヘルメットだ。あのレトロフューチャー的なロケットに跨ったドワーフのおっさんのやつ。
「ダメージは受けてなかっただろ? 補給だけ済ませておいてくれ。もうすぐ出るから」
「それはもう済ませたから大丈夫や。いつでもいけるで」
「本当は激しい戦闘の後はダメージを受けていなくてもフルチェックしたいんですけどね」
「これは安全な場所でゆっくりやろう。整備ありがとうな、二人とも」
最後にポンポンと二人の頭をヘルメット越しに撫でてクリシュナへと向かう。
さぁ、さっさとこんな場所からはおさらばして次の目的地に行くとしよう。
これでリーフィル星系編はおわりです_(:3」∠)_




