#299 I barely escaped death.
寝坊しました( ˘ω˘ )(まうんとあんどぶれーどばなーろーどがたのしすぎる
「……気味が悪いねェ」
また私の狙撃が外れた。これで八発目。八発目だ。この私が、これ以上無いキルゾーンに追い込み、結晶生命体をけしかけることによって動きまで制限させている状態だというのに、八発も外した。
「外したわけじゃないんだよねェ」
断じて私は外してはいない。トリガーを引いた瞬間、確実に当たるという確信があった。だが、不思議なことにあの男はその瞬間に緊急回避を行なって逃げてしまうのだ。
私が乗っているこの機体、『アンダル』が装備している『虹』はオンリーワンの特殊な兵装だ。射程は長大、威力も極大。流石に光速で着弾するレーザー砲には少し劣るが、発射から着弾までが早く、レーザーと違って対物貫通力が高い。通常のレーザー砲は対象の表面を蒸発させて爆発と衝撃波を発生させ、破壊する兵器だ。だが、この『虹』は爆発を起こさずにただ対象を灼き貫く。
破壊力には劣るが、貫通力が高いので機関部やコックピット、メインスラスターや弾薬庫などの重要区画を抜くことさえできれば一撃必殺を狙うことも可能だ。
「まるで殺気を読んで避けているような……まさか、某ロボットアニメのエスパーじゃあるまいし」
あの額のあたりに電流のようなものが走る独特のエフェクトを思い出して苦笑いする。流石にあのアニメの主人公みたいに撃たれる一瞬前には既に回避行動を行なっているような化け物を相手にしているとは思いたくない。
「思いたくないんだがァ……チッ」
九発目。また外れた。いや、避けられた。これはいよいよあの機体――クリシュナとか言ったか――のパイロットを務めているあの男はエスパーか何かなのでは? という説が濃厚になってくる。
一発二発外れるくらいならまぁ、こちらも対象を完全に目視できているわけでもないし、距離もあるのだから無いこともないだろう。
三発、四発くらいなら運が悪かったと諦めることもできる。私だって完璧な人間ではない。たまにミスをすることもあるし、運が悪い日だってあるだろう。
五発、六発となってくると流石にこれはちょっとおかしいぞ? となる。私はこの世界で、この遠距離狙撃によって道を切り拓いてきたと言っても過言ではない。
突然この世界に放り出されて、右も左もわからない状況でなんとか生き延びてこられたのはステラパイレーツオンラインで培った技術と経験によるものだ。私にだってそれなりの自負というものがある。
七発、八発、そして九発目。疑念は確信に変わる。
「チートでも使ってんじゃないのかってェの……」
『お嬢、そろそろ時間です』
「ああ、もォ……しゃあないねェ。それじゃ、あくまで善意の協力者って体でいくよォ」
もうお嬢なんて歳じゃないってのにこいつらときたらお嬢呼びをやめようとしない。まぁ、姐御呼びされるほど年増でもなし。お頭って呼び方じゃあからさま過ぎるってんで結局お嬢呼びにするしかないんだけどさ。
『アイアイマム』
ここまでやって仕留めきれなかったからには仕方がない。今回はこれで諦めるとしよう。奴に落とし前をつけさせてやりたかったが。ここまでやって仕留めきれないとなると、ちょっと色々と考えを改める必要がある。あの状況で私の狙撃を九回も避けるような相手と事を構えるのはあまりに危険だ。下手をすると真正面からぶつかっても勝てるかどうかわからないし、勝てたとしても大損害は免れないに違いない。アレ一隻を落とすためにこっちが大損害を受けてしまっては算盤が合わない。
「妙に勘が良いしねェ……関わり合いにならないほうが懸命か」
思い返してみれば、初対面の時からあの男はこちらを過剰なほどに警戒していた。一度も顔を合わせたことがない筈なのに、最初からこちらの正体を見破っているかのような態度だった。あまり積極的に関わるとどんな離れ業でこっちの尻尾を掴んでくるかわかったものではない。
などと考えている間に星系軍の大部隊がこの宙域に到着した。ド派手な音を立てながら軍用艦が大量にワープアウトしてくる光景は心臓に悪いが、今の私達は至ってクリーンな身の上だ。何も恐れることはない。
「おいでなすったかァ……しゃあないねェ。皆、星系軍と協力してクリスタルどもを叩くよォ」
『『『アイアイマム!』』』
□■□
「こなくそぉ!」
「わぁぁぁっ!?」
「ギャーッ!?」
サイドスラスターと姿勢制御スラスターを全開で噴射し、無茶な方向転換で発生するGの影響をもろに受けながら紙一重でファッキンマリーの狙撃を躱す。クリシュナの慣性制御装置は大変に高性能なものだが、その性能にも流石に限界というものがある。これ、慣性制御装置が効いてなかったら良くてもブラックアウト。下手すると内臓や骨にダメージを負っていたかもしれん。
「シールドセル!」
「残り二個よ!」
「助けはまだですかー!?」
今の回避で中型結晶生命体に擦った。比喩表現ではなく、本当に擦った。まぁ、艦体を直接ではなく、シールドがってことだけど。しかしおかげでシールドは大幅に減衰する羽目になり、複層型のシールドも残り一枚になってしまっている。すぐにシールドセルで回復しないとまずい。完全に消失すると再展開にはかなりの時間がかかる。
「これで九発目! あのクソアマ絶対に許さねぇ!!」
「どんどん精度が上がってきてますよぉ」
「今の掠ったわよね……というかよく避けられるわね、あんなの」
「相手の気持ちになればどこで撃ちたいかなんとなく想像がつくんだよ!」
とはいえ次が避けられるかどうかは正直自信がない。距離はわからんが、どの方向から撃ってきているのかは二発目を避けた時点でわかった。どっちの方向から撃ってくるのかさえわかれば、あとはタイミングだけだ。このタイミングで撃たれると不味いというところに的確に撃ち込んでくるから、逆にわかりやすい。こっちはそのタイミングで緊急回避をしてやれば良いんだからな。
問題は、周りが結晶生命体だらけだからそういう無理な回避をすると結晶生命体に接触したりして大変に危険が危ないというヤツなのだけれども。え? 言葉がおかしい? 良いんだよこれで。
「あっ」
「あ?」
「き、来ました! 星系軍です!」
「よっしゃ勝った!」
クリシュナのセンサーがこの宙域に次々に到着する星系軍の軍用艦の反応をキャッチした。
『ご主人様、退路を切り拓きます』
「うん?」
星系軍と一緒にワープアウトしてきたブラックロータスから通信が入る。退路を切り拓くってまさか艦首の大型電磁投射砲(EML)をこっちに向かってぶっ放すつもりじゃあるまいな? メイさん? まさかメイさん?
『弾道計算完了、データを送信します』
「ちょっ……!?」
クリシュナのメインスクリーン上にブラックロータスから一直線に伸びる真っ赤な砲撃エリアが投影される。やっぱこっちに向かってぶっ放すつもりだな!?
『発射』
結晶生命体の隙間から見える真っ黒な宇宙空間の一点でピカッ、と何かが光った。うん、間違いなくブラックロータスですね。間違いない。
「EML、来ます!」
「弾道を予告してくれるだけ有情よね」
「それはそうだけどさぁ!」
どっちも当たったらタダでは済まないって意味では同じなんだよなぁ! まぁ、あの女の狙撃と違ってEMLの方が加害範囲が広い。撃ち込んでくれた後に結晶生命体の群れにできる間隙を突けば群れの中から脱出できる可能性はかなり高まる。
「来ました!」
「撃ってくるなよぉ……?」
流石に星系軍が到着してなおこっちを狙ってくるとは思えないが、一応注意しながらEMLの弾頭が通った痕にクリシュナを滑り込ませる。そうしている間に星系軍の軍用艦からの砲撃も始まり、結晶生命体の数がみるみるうちに減り始めた。星系軍にヘイトが向いたのか、クリシュナに向かってくる結晶生命体の個体数も少なくなる。
「なんとか切り抜けたか」
「ヒロ様、マリーのクリムゾン・ランスも結晶生命体への攻撃に参加しているみたいです」
「あのクソアマ、いけしゃあしゃあと……」
「ヒロが見たこと無い顔してるわ……」
眉間に皺が寄りまくっている自覚がある。しかし残念なことにあのクソアマを告発することは不可能である。あのクソアマが歌う水晶を使った証拠もなければ、悪意をもって俺を狙撃した証拠もない。クリシュナとあのクソアマの機体は交戦していないので、交戦記録も残っていない。一応各種センサーのログを提出すれば、援護射撃と言うには際ど過ぎるものであったと訴えることはできるが……精々厳重注意で終わるのが関の山だろう。そもそも、敵味方入り乱れての乱戦ともなれば流れ弾の一発や二発は飛んでくるものだしな。
あの時は俺は結晶生命体の群れの中で激しく動いていて、あちらからはセンサーで俺の正確な位置を拾うことも難しかった。敵の濃い場所に撃ち込んでいたが、悪意はなかったと主張されればそこまでである。
そして、星系軍が到着しているこの状況では誤射を装った意趣返しをするのも既に難しい。
「キレそう」
「ヒロ様が今までになく怒ってる……」
「私も同じ気持ちだけど、どうしようもないわよ。諦めなさい」
くそう。いつかあの女は泣かす。絶対にだ。
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