#297 いつか見た罠
ちょっと体調が悪くて一時間ほど昼寝をしました( ˘ω˘ )(ユルシテ
「各艦の集結を確認。ブラックロータスからの同期申請……受諾完了しました」
「了解。ジェネレーター出力は即応できるよう戦闘出力を維持」
「アイアイサー。でも、仕掛けてくるかしらね?」
「どうかな。あまり余裕はない筈だから、仕掛けてくるとしたら次かその次だろうな」
ゲートウェイが存在するエイニョルス星系はここから五つ先の星系だ。基本的にゲートウェイが存在する周辺三星系というのは大変に治安がよろしい。何故なら数十レーン分の移動を一瞬で済ませられるゲートウェイという存在は銀河帝国にとって経済的にも軍事的にも重要な拠点であるため、その周辺の治安が宙賊の活動などによって脅かされている状態というのは非常によろしくない。
あと、単純に帝国の威信にも傷がつくというのもある。ゲートウェイの周辺すら満足に治安維持できないとか完全に他国の笑いものになってしまうからな。なので、ゲートウェイ周辺というのは非常に治安が良いわけだ。星系内で戦闘なんぞ起きようものなら、まず間違いなく一分以内に帝国航宙軍の精鋭部隊がかっ飛んでくる。
なので、クリムゾン・ランスの連中が俺達に襲撃を仕掛けることができるのは今俺達が出発しようとしているリーフィル星系、その次のミラブリーズ星系、更にその次のホルミー星系のどれかだけだ。その先の星系では仕掛けても一分以内に帝国航宙軍の精鋭部隊がかっ飛んできて、俺達諸共拘束された上に先に仕掛けた方が処分を受けるという流れになるだろう。
「カウントダウン開始。間もなく超光速ドライブ起動します」
「はいよ。まぁ緊張しすぎず、気を抜かずって感じで行くしかないな」
3、2、1、とメインスクリーンにカウントダウンが表示され、0になった瞬間に轟音と共に遠くに見える星々が後方へと流れ始めた。いつ見ても超光速航行中の外の景色は綺麗だな。ハイパーレーン航行中の景色はサイケデリックに過ぎて気持ち悪くなるけど。
「亜空間センサーに反応は?」
「うーん……ブラックロータスのセンサー情報を見ているんですけど、それっぽい反応はないですね」
「偵察艦も本隊に合流したんかね?」
「どうかしら。まぁ少なくとも四時間は早く行動しているでしょうから、とっくにこの星系から移動していてもおかしくはないわね」
合流していたとしても、戦闘に加わる可能性は極めて低いしどうでも良いっちゃどうでも良いんだけどな。俺達も動き始めたわけだし、これ以上監視を続けても意味がない。しかしもう見ていないということは、見る必要が無くなったということでもある。やっぱり仕掛けてくるか? いや、あの偵察艦が持ち帰った情報を聞いて襲撃を諦める可能性もあるか。
『間もなくハイパーレーン突入口へと到着。引き続きハイパードライブを起動します』
話しているうちにメイから通信が入る。そうして間もなく船団がハイパーレーンへと突入した。
「でも、いくら帝国航宙軍の勢力圏外って言っても普通に星系軍は来ますし、そうそう襲撃なんてできるものでしょうか? 通信を妨害する装置は確かにありますけど、それにしたってリスキーですよね? どうやったって目立ちますし」
「それはそうだな」
俺の知る限り、SOLに実装されていた通信妨害装置は簡単に言えば通信に使う周波数帯に大出力の通信波を放出して電波障害を起こさせるものだ。当然ながら使えばすぐに星系軍にバレるので、星系軍が駆けつけるまでに手早く対象を仕留めなければならない。だから俺はデコイになる傭兵を雇って、戦闘時間を引き伸ばすことによって対抗しようとしているわけだが……。
「そもそもの目的を切り替えたとしたら、マズいな」
「目的を切り替える?」
「俺達を捕らえて見せしめにするって方針を切り替えて、とにかく無惨に殺すみたいな方向に舵を切ったとしたらちょっとマズい。嫌な予感がする。いや、もしかしたら最初から方針を勘違いしていたのか……?」
「それは確かに嫌な予想だけど、それにしたって襲撃する時に私達を優先的に狙ってくるとかそれくらいしか方法無くない?」
「いいや、ある。お尋ね者にならずに俺達に無残な死を押し付ける方法はある」
猛烈に嫌な予感がしてきた。
「ハイパーレーン移動中に後戻りってできねぇかな……」
「できませんよ……というか、ヒロ様がそんな事を言うくらい嫌な予感がするんですか? 私怖くなってきたんですけど」
「奇遇ね、私もよ。それで、どんな可能性を思いついたの?」
「確証はないけど、二人とも一度その光景を見てるぞ……ミミ、メイに通信を繋いでくれ」
「わかりました」
「一度見ている……?」
エルマが怪訝な表情で首を傾げているが、きっとすぐに思い当たるだろう。あの方法なら自分の手を汚さずに対象を始末できるからな。
☆★☆
極彩色のハイパーレーンを駆け抜け終え、ブラックロータスの巨体を先頭に俺達の船団が通常空間へと帰還する――と同時に超光速ドライブのカウントダウンと、前方で何かが爆発したのが見えた。畜生、やっぱそう来たか。
「っ!」
「うっ……!」
「ああ、もう!」
同時に脳内を掻き回す金切り声のようなものが響き渡る。真空に近い宇宙空間も、完全に気密が保たれている船外殻も、強固な装甲やシールドすらも突き抜けて。こりゃ間違いなく歌う水晶を使いやがったな。しかし、この金切り声みたいなやつは多分普通の音じゃないんだろうな。もしかしたら精神波とかそういう感じのサイオニック系の波動なのかもしれん。
「間に合うか?」
「微妙……いやちょっと無理そうですね」
痛む頭を押さえつつミミに聞いてみるが、その表情は厳しい。俺もミミが見ているセンサーの反応を確認してみるが、既に空間を引き裂いて結晶生命体が出現し始めている。その数は非常に多い。俺達の戦力だけで全ての結晶生命体を撃破するのはかなり骨が折れるだろう。
「仕方ない……メイ、プランBだ。各機は引き続きブラックロータスの護衛を行なってくれ」
『承知致しました。超光速ドライブ、チャージ完了まであと三十秒です』
「了解」
超光速ドライブのチャージ時間は全体質量が大きければ大きいほど伸びる。元々ブラックロータスはクリシュナとは比べ物にならない質量を持つ船だし、今は同期状態で護衛の船も引き連れているので、超光速ドライブのチャージ時間は更に伸びている。もし、チャージ中にシールドを破られて装甲や船殻にダメージを負うと、超光速ドライブのチャージをキャンセルされることすらある。
本来のプランはワープアウト後、即座に超光速ドライブを起動して危険な宙域を離脱するというものであったのだが、それが上手く行かないと予想される場合には俺がクリシュナで脅威を足止めしてその間にブラックロータスは離脱するというプランBを決行するとハイパーレーン内を航行中に打ち合わせしておいたのだ。クリシュナ以外の船は引き続きブラックロータスを護衛するというのも雇った傭兵達には了解を取り付けてある。
「派手にやるぞ」
超光速ドライブの同期状態を解除しながらウェポンシステムを立ち上げる。初手はド派手にやるとしよう。敵の注意を引きつける必要があるからな。
「わかりました。船団の進路上にいる結晶生命体をピックアップします」
「サブシステムはいつでも。しかしまた結晶生命体か……できればもう関わり合いになりたくなかったんだけど」
「縁があるよな」
機体を加速させながら対艦反応弾頭魚雷の炸裂距離を設定する。全部撃ち切ると大型に対処できなくなるが、まぁ大型の始末は駆けつけてくる星系軍に任せればいいだろう。そんなに数が出てくるとは思えんし、進路上の中型さえ始末してしまえば問題ない。
「そら行けっ!」
二発の反応弾頭魚雷を発射し、更に加速しながらもう二発。炸裂地点はブラックロータスを中心とする船団の進路上だ。まずは範囲攻撃でブラックロータスと傭兵達の船が離脱するための道を空ける。
「結晶生命体が動き始めました!」
「進路上に出てきそうな敵を優先して叩くぞ。一発当てて注意を引くだけでいい」
「はいはい! 重レーザー砲はこっちでやるわよ!」
「任せた」
俺は戦闘機動と艦首に固定されている二門の散弾砲を担当し、エルマに四門の重レーザー砲の火器管制を担当してもらう。クリシュナの重レーザー砲は射撃可能範囲が広いから、やろうと思えば四つの目標を別々に狙う事ができる。通常の戦闘では火力を集中した方が有利だからまず使わないが、今回のように一隻で多数の注意を引き付けなければならない時には有効な機能だ。
「反応弾頭、炸裂します!」
一発目の対艦反応魚雷が炸裂して広範囲の結晶生命体を消し飛ばし、残り三発の対艦反応魚雷も次々に爆発して空虚な宇宙空間に光の華を咲かせる。大量に砕け散った結晶生命体の残骸がキラキラと恒星の光を反射して実に美しい。
「素敵なパーティーの始まりだな」
「どこも素敵じゃないわよ!」
ははは、こういうのは楽しまないと損だぞ。




