#294 嘘は吐いていない
Q.遅かったですね?
A.友人達と朝6時までゲームで遊んでいたのが原因のような気がしなくもないです。
ユルシテ_(:3」∠)_
リーフィルⅣ――シータに降下して数日。俺達はウィルローズ本家の人々と交流を重ねたり、ローゼ氏族の縄張りにまで現れたミンファ氏族長を撃退(?)したり、お忍びで現れたグラード氏族長の娘、ティニアさんとお付きの二人とローゼ氏族領観光をしたりと、まぁ賑やかに骨休めをさせてもらった。
そして、今日はウィルローズ本家の人々に別れを告げ、いよいよ次なる目的地へと向かおうとクリシュナに乗り込んだわけなのだが……。
「気に入ったのか? それ」
「なんだかデキる女みたいな感じしません?」
ミミがどこか軍服っぽいデザインを漂わせるドレス姿のまま、澄ました顔でドヤ顔をする。伊達眼鏡までかけて知的な雰囲気を演出しているのはなかなかの気合の入れようだな。
「まぁ、そうね。なんとなくだけど傭兵ギルドの受付さんみたいな雰囲気あるね」
あれも制服の一種だからな。ミミの着ている衣装も制服っぽい印象がかなり強いので、知的と言うかキャリアウーマン感というか、オフィサー感は出てるね。いつもの露出が割とギリギリなファッションも好きだけどね、俺は。
「形から入るのも悪くはないと思うけどね。私もそんな感じだったし」
「その頃の初々しいエルマの姿を是非見てみたいものだな」
「絶対嫌」
サブパイロットシートに座ったエルマがべーっと舌を出す。ほんのり頬が赤いのは初々しい頃の自分のことを思い出したからだろうか? まぁ貴族のお嬢様が戦闘艦でいきなり実家から飛び出して、傭兵の世界に足を踏み入れたんだものな。それはもう最初の頃は色々なトラブルがあったことだろう。それでも結局数年でシルバーランクにまで登りつめているのだから大したものだと思うけど。
「ご主人様、荷物の積み込みは完了致しました」
「ありがとう、メイ。ティーナとウィスカは?」
「程なくこちらへと到着するかと」
そう言いつつ、メイがサブオペレーターシートに腰掛ける。まぁ、座ったところで彼女の仕事はないので、単に座席として座っただけなのだが。クリシュナはやろうと思えば一人でも問題なく操艦できる船なので、サブパイロットとしてエルマが、メインオペレーターとしてミミがいるだけでも運用要員は十二分に足りているのだ。
「ごめんごめん、お待たせやで」
「すみません」
メイに少し遅れてティーナとウィスカもコックピットに姿を現し、彼女達が改造したサブシートに収まった。
「それで、首尾はどうなの?」
「仕上げは上々ってところだな」
傭兵ギルドに出した依頼については既に全員に共有している。まぁ、内容としては単純なものだ。リーフィルⅣで要人護送の個人依頼を受けたので、万全を期すために戦力を募りたい、という内容だ。
傭兵がギルドを通さずに個人から依頼を受けることはままあることで、傭兵ギルドに所属する傭兵はそういった依頼を完遂するために必要に応じて傭兵ギルドに手数料と傭兵への報酬を支払い、他の傭兵を雇うことができる。俺はその制度を利用して戦力を集めたわけだな。
条件としてはシルバーランク以下の傭兵を対象に拘束料金は相場の五割増し。宙賊などを撃墜した場合には賞金は撃墜した者に与え、戦利品に関しても可能な限り回収して撃破した傭兵のものとする。また、俺達はブラックロータスという母艦を持っているので、もし持ちきれないほどの戦利品が発生した場合はブラックロータスの倉庫区画を無償で貸し出すという契約にした。
「でも、結局は寄せ集めやろ? それでその……クリムゾン・ランスやったっけ? そいつらに対抗できるん?」
「どれだけ集まるかにもよるが、まぁ無理だろうな」
「だめやん」
クリムゾン・ランスはゴールドランクの傭兵船団で、船団としてずっと行動を共にしており、戦闘面でも連携を練りに練っているに違いない。シルバーランク以下の傭兵で戦力を補ったとしても、真正面からぶつかって勝てるかどうかは正直微妙だと思う。集まる数によっては圧倒できる可能性もあるけど。
「別に勝てなくても良いんですよ、この場合。そうですよね? ヒロ様」
「そういうこと。流石ミミ、わかってるな」
「えへへ」
俺に褒められたミミがはにかんで見せる。ミミも傭兵の流儀というか、俺のやり方に慣れてきたな。多分、傭兵ギルドに依頼を出した件を伝えた時から色々と考えていたんだろう。
「どういうことですか?」
「えっとですね、今回の私達の勝利条件はあくまでもゲートウェイを使ってクリムゾン・ランスの追跡を振り切ることなんです。もっと言えば、そもそもクリムゾン・ランスが私達に戦闘を仕掛けられない状況にすれば勝ちなんですよ」
「んんー?」
ミミの説明にティーナが首を傾げる。傭兵を多数雇ったのに戦力としては心許ないという情報と、クリムゾン・ランスが戦闘を仕掛けられないという情報が噛み合わないようだ。
「あ、そっか。負けないとしてもクリムゾン・ランスの船に損害が出たら大損だし、そもそもお兄さんが雇った傭兵が一人でも逃げ延びてクリムゾン・ランスの凶行を傭兵ギルドや星系軍に伝えた時点でクリムゾン・ランスは終わりですね」
「はい、正解」
「おお……? なるほど?」
ウィスカはミミの説明でピンと来たらしい。ティーナはまだあまりしっくり来ていないようだが。
まぁ、ウィスカの言った通りだな。戦力で劣るとしても、誰か一人でもクリムゾン・ランスの追撃を躱して星系軍や傭兵ギルドに通信可能な状態になった時点でクリムゾン・ランスは終わりだ。ゴールドランク傭兵としての地位は剥奪され、お尋ね者として傭兵や星系軍、帝国航宙軍に付け狙われることになる。
特に、傭兵ギルドは身内から賞金首を出すことを非常に嫌っている。元傭兵の賞金首には帝国からの賞金に加え、傭兵ギルドから多額の賞金が上乗せされるのだ。俺もSOLで遊んでいた時にはそういった高額賞金首を幾度となく撃破してエネルを稼いでいた。こっちに来てからはチェックする程度に留めて積極的に討伐はしてないけどな。危ないから。
高額賞金首は大半が元傭兵や元軍人で、乗っている船も宙賊艦とは比べ物にならないほど強力だ。その分撃破時に剥ぎ取れるパーツも超高額なものが多いのだが、いかんせんプレイヤーとそう変わらないか、下手するとより上位の装備を引っさげて襲いかかってくるので本当に危ない。追い詰められたら逃げやがるし。
無論、プレイヤーもやんちゃを繰り返せば同じように賞金首になる。誤ってNPCや他のプレイヤーの船を撃沈しても大概は賠償金の支払いで済むのだが、それを踏み倒して凶行を繰り返せば普通に賞金をかけられる。所謂闇堕ちというやつだ。そういうプレイを好んでする人も世の中にはいる。当然、普通のステーションなどは利用不可能になる――どころか近づいただけで強力な防衛設備に撃たれまくることになるし、星系軍や政府軍、その他全プレイヤーから付け狙われることになるのでかなりのドM向けのプレイになっていたようだけど。
「そういうわけでな。勇気ある傭兵諸君に協力してもらってこの場を切り抜けようというわけだ。別に俺達のだけの力で真正面から戦う必要なんてどこにもなかったわけだな」
「なるほどなぁ……でもなんかずっこくない?」
「ティーナ」
「なんや?」
「最終的に生き残った奴が勝者だ。名誉や誇りのために死ぬのはただの間抜けだよ」
「それはそうやな。でも傭兵ギルドに嘘ついてええんか?」
「嘘?」
「リーフィルⅣの要人なんて乗ってないやん?」
そう言ってティーナが再び首を傾げるが、俺はニヤリと笑って口を開いた。
「何を言っているんだティーナ。俺の隣に由緒正しい家柄の貴族のご令嬢が乗っているだろう? 俺は何も嘘は吐いてないさ」
「……まぁ、それは確かに嘘やないな」
何故だかティーナにジト目を向けられている気がするが、気にしない。気にしないったら気にしない。勝てば良かろうなのだ。




