#290 再会
今日は寝坊して遅れました_(:3」∠)_(ゆるして
9/8 1901 禁則事項に触れる表現を変更 シャンパンやサイダーは存在しなかった。いいね?
寝不足はよくないな_(:3」∠)_(白目
「お待ちしておりました」
「お、リリウムか。久しぶりだな」
クリシュナから降り、空港へ着いた俺達を出迎えてくれたのは、以前シータを訪れた際に俺達の案内役として同行してくれたローゼ氏族のエルフの女性、リリウムだった。
「今日は……警戒されてらっしゃらないようですね」
リリウムさんが注意深く俺の手荷物を観察して呟く。
今日の俺の手荷物は一抱えほどのバッグが一つだけで、中身もちょっとした着替えや予備のエネルギーパック程度のものだ。いつぞやのようにサバイバルキットやら保存食やらを満載したクソデカバックパックというわけではない。
「そう言われると急に警戒したくなってきた」
「やめてください。あの一件で私、左遷されかかったんですからね?」
リリウムが真顔で胸の前でバッテンを作る。君が左遷されかかったとかいう話には興味はな――いやちょっと興味はある。でもあの墜落の件は別に俺達が悪いわけじゃないしな。航空客車が墜落した遠因は俺にあるような気がしなくもないが、俺だって俺に自身に制御できないよくわからん超能力じみた力のことなんて知らんし。
「貴方を処罰したらローゼ氏族は不手際を認めることになるものね。そりゃ現状保留って形になるわ」
「ほぇー……政治の話ですね」
俺達がグラード氏族の用意した航空客車で墜落したあの件に関して、ローゼ氏族は当初から航空客車の安全性に疑問を呈し、通常の小型航宙艦などによる移動を提案していた。まぁ航空客車には低出力のシールドすらついていないし、通信能力なども最低限。しかも軽量化のために車体も然程頑丈ではないと何かが起こった時にヤバい要素がてんこもりだったものな。
墜落判明後の救出活動も通常の小型航宙艦などによる迅速な捜索と救出を行おうとした。しかしそれもまた科学技術を毛嫌いするグラード氏族の猛反対で頓挫した。まぁ、結局紆余曲折の末にブチ切れたメイがクリシュナで駆けつけて俺達を救助してくれたわけだが。
まぁ、その対応の不味さについては問題になったらしい。まぁそりゃそうだろう。あの時の俺達は賓客待遇でグラード氏族領に向かっているところだったからな。そんな俺達を乗せた航空客車が墜落し、俺達は遭難。救出はエルフの氏族間のいざこざで遅々として進まず、結局メイが俺達を救出した。完全に責任問題である。
当然、ローゼ氏族は航空客車での送迎を強行した結果事故を起こしたグラード氏族と、それを後押ししたミンファ氏族を追及することになる。対するグラード氏族とミンファ氏族が突ける部分といえばローゼ氏族出身の案内役であるリリウムが俺達を置いて先頭車両に乗ったまま墜落現場を立ち去った、という点くらいだ。
まぁ、それもかなり無理筋である。あの時は先頭車両にも損害が出ていたという話だし、そもそも運転していたのはミンファ氏族出身のヒィシという男性エルフだった。彼としてもいつまで飛んでいられるかわからない先頭車両だけでなんとかグラード氏族の集落なりなんなりに辿り着いて事故が起こったことを確実に伝える以上の選択肢はなかったことだろう。
当然、ローゼ氏族はそんな苦し紛れの責任追及など一蹴したに違いない。リリウムの対応に落ち度は何もないと言い放ったことだろう。そうなると、ローゼ氏族としてはリリウムを処分するわけにはいかない。結果として彼女の首は皮一枚で繋がったというわけだ。
「その後、各氏族の関係はどうだ?」
「宇宙空間並みの極寒ですよ。特にうちとグラード氏族のトップ同士は完全に一触即発ですね」
「おいおい、氏族間のいざこざに巻き込むのはやめてくれよ?」
「大丈夫ですよ。一触即発と言っても本当にトップ同士だけの話ですから。顔を合わせれば笑顔で罵り合って、取っ組み合いの喧嘩になるくらいで」
「それはそれでどうなんだろう……?」
「鉄砲玉送りつけあっての殺し合いにならないだけマシやろ」
なんかティーナが物騒なことを言ってるな。鉄砲玉ってお前……マフィアやギャングじゃねぇんだから。
「我々としてはローゼ氏族が一番付き合いやすい相手でしょう。エルマ様のご血縁もいらっしゃいますし、科学技術に対する姿勢も一致するでしょうから」
ローゼ氏族はエルフの三氏族の中で科学技術の積極利用と宇宙進出を重視している先進派閥だ。親帝国派閥と言っても良い。
対外的な交渉とリーフィル星系の防衛に力を注いでおり、その性質上他星系との取引や帝国とのやり取りを牛耳る結果となっているため、三派閥の中で一番金を持っている。しかし、精霊との繋がりや伝統、魔法や精神主義的思想を重んじるグラード氏族とは相容れず、中庸を行くミンファ氏族も今はトップが魔法に傾倒しているためあまり関係が良くないとか。
「まぁ、そうなるでしょうね。きっとヒロ達は驚くんじゃないかしら。あまりにも普通で」
「あまりにも普通って……いやまぁ、確かにグラード氏族やミンファ氏族の人達はどうにも仰々しかったりエキセントリックだったりしたけど」
ムキムキイケメンエルフとか清楚ないかにもお姫様っぽいエルフとか、魔法大好きエルフとかが脳裏を過る。普通っぽかったのは俺が助けたミンファ氏族長の息子のネクトくらいだったな。
「足は用意してありますのでこちらへ。VIP御用達の豪華な車両ですよ」
「お、ええやん。兄さん、VIPやって、VIP。やたら広い車内でなんか高級そうなワインとかつまみとか出てくるんやきっと」
「ホロムービーか何かの見過ぎと違うか? というか今からローゼ氏族のトップと顔合わせるのに酔っ払っていくつもりかお前は」
「大丈夫や。うちらにとって大概のワインはただのぶどうジュースと変わらんよって」
「そういう問題かなぁ……」
大丈夫じゃない。問題だ。というか心配そうに言いつつウィスカもちょっと期待してるね? 俺の目は誤魔化せんぞ。ちょっと口角が上がってますよ。
「高級おつまみ……」
うん、ミミは最近食いしん坊キャラに磨きがかかり過ぎている気がするな。嬉しそうにも程がある。もっと食べて育ってくれ。どことは言わないけど。
「はしゃがないの。先方を待たせてもいけないし行きましょ」
「そうだな。メイも行こう」
「はい、ご主人様」
浮かれているミミと整備士姉妹を追い立てるようにして空港を後にする。実は地表上を車両等で長距離移動した経験が無いので、俺もちょっと楽しみだったりする。帝都では基本クリシュナか超高速列車みたいな移動システムだったからな。
☆★☆
「地上用の移動車両ってこんな感じになってるんだな」
俺達が乗り込んだのは所謂空飛ぶ車であった。大型トラックほどの大きさの車両で、クリシュナよりはだいぶ小さい。しかし内装はなかなかに豪華で、まるで高級ホテルのラウンジみたいな感じだ。俺が三人くらいは横に並んで座れる座り心地の良い座席がL字型に配置されており、飲み物やおつまみ、果実類が用意されたバーカウンターのようなものまで用意されている。しかも運転は完全自動化されているらしい。
「あんまり乗る機会無いわよね、私達は。都市部はこんな感じみたいよ?」
「都市部じゃないところはどんな風になっているんですか?」
「自動運転システムが普及していない場所では航宙艦のようにパイロットシートが用意されている車両で手動で運転することになります。SVと同じく地上も空中も走行可能な車両が主に使われていますね」
「なるほどー」
ミミがおすすめされたお菓子を食べながらリリウムの説明に頷いている。え? 整備士姉妹? 早速用意されていた高級ワインを空け始めたよ。もうこいつらのことは放置でいいんじゃないかな。
「ご主人様」
「どうした?」
「アレはどうするのですか?」
そう言ってメイが目を向けた先には何やらピカピカと光っている特級厄物――御神木の種があった。
「ローゼ氏族に押し付ける」
「なるほど。ご主人様がそう判断されるのであればそれが一番良いと思います」
「メイには何か考えがあるのか?」
「いえ。アレはご主人様のサイオニックパワーを増幅し、強化する性質を持っているようなので。このまま所持されるのも一つの選択肢かと思った次第です。ただ、その場合リーフィル星系のエルフとの間に深刻な亀裂を生じかねないので、危惧しておりました」
なるほど? 確かにこれを所持し続ければ俺の謎パワーがもっと強くなる可能性は高いな。
「駄目駄目。どう考えても良い結果になると思えん。コレはローゼ氏族に押し付ける」
「そうしていただけると助かります」
見ると、俺とメイの会話を聞いていたリリウムが胸を撫で下ろしながら呟く。俺がこの特級厄物をリーフィル星系の外に持ち出して帰ってこないとなると、リーフィル星系のエルフとしては大問題だからな。主に精霊信仰方面で。
ローゼ氏族はそこまで精霊信仰を重視していないようだけどそれでも拠り所の一つではあるんだろうし、何より外から来た俺とローゼ氏族の配下であるウィルローズ家の分家の娘が信仰のご本尊とも言えるものを持ち去ったとなればローゼ氏族の立場が悪くなることも考えられる。彼女にとって今の会話は本当にほっと胸を撫で下ろすような内容だっただろうな。
「間もなく氏族会館に到着します」
「はいよ。ほら、お前らそろそろ呑むのやめろ」
ぶーたれるティーナの手からワインのボトルを取り上げ、車――車? とにかく車両から降りる用意をする。
さて、ローゼ氏族の人達はどんな感じなのかね。前に来た時にもちょっと話したと思うんだが、あまり印象が無いんだよな。




