#284 ラッキールーター・マリー
い つ も の 。
18時投稿は三日と続かなかったな……!_(:3」∠)_(ユルシテ
『貴君の寄港を歓迎します、キャプテン・ヒロ』
「そりゃどうも」
港湾管理局からの通信に適当に返答しつつ、クリシュナのコンソールを操作してリーフィルプライムコロニーの港湾区画を観察する。
「見慣れない船が結構泊まってるな」
「? 見慣れない、ですか?」
俺の言動にミミが不思議そうに首を傾げる。
ミミの疑問も尤もなものだ。基本、これといって固定のホームコロニーを定めていない俺達にとって、コロニーの港湾区画に停泊している船というのは殆ど全て一期一会の『見慣れない船』である。セレナ中佐のレスタリアスのように特に行き先を示し合わせても居ないのに頻繁に遭遇するほうが異常なのだ。
「あ、あまり見たことのない機種ってことですか? 確かにそう言われればあまり見覚えのない船ですね」
「傭兵か深宇宙の探査船団かしら?」
「知らん機種が多いからはっきりとは言えないが、探査船団や武装商船団にしてはちょっと戦闘能力が高めに見えるな。どれかと言えば傭兵船団のように思えるが」
俺の目を引くのは多数停泊している船の真ん中辺りに居座っている真っ赤な小型艦である。小型艦にしては大型の部類で、恐らくクリシュナと同等程度だろう。小型艦と名乗るにはギリギリ上限いっぱいくらいのサイズだ。武装は……わからんな。パッと見でわかるのは機体の上部に装備されている大口径砲のようなものだけだ。
「目立つわね、あの機体」
「だな。どことなくクリシュナに似ている気がする」
作風とでも言えば良いのか。機体の上部に装備されている大口径砲のせいで全体的なフォルムはかなり違うが、どこか似た流れを感じさせるのだ。
「どう思う?」
エルマが港湾区画に居並ぶ見慣れない船団に視線を向けたまま聞いてくる。このどう思う? というのはつまり、あの船団と赤い旗宙賊団――レッドフラッグが何かしらの関係を持っている可能性はあると思うか? という意味だろう。
「さてな。神経質になり過ぎているだけかもしれんし、なんとも。ただ、警戒はしたほうが良いな。灯台下暗し、なんて言葉もある」
「灯台下暗し、ですか……だとしたら大胆ですね」
「帝国航宙軍に喧嘩を売るような連中だ。肝は据わっているだろうさ」
リーフィル星系は帝国航宙軍が実施した赤い旗撃滅作戦において一番最初に宙賊を一掃した星系だ。そんな星系のメインコロニーに堂々と宙賊が居座っているなんて普通は考えられないが、宙賊なんてのは基本的に思考回路がぶっ飛んでいる連中だからな。何をしてもおかしくはない。
「メイ」
「はい。過去二週間分のリーフィルプライムコロニー、及びリーフィル星系における治安関連の情報を精査しましたが、大きな問題は起こっていないようです。欺瞞工作の痕跡も今のところは発見できていません。掃討作戦後、治安数値は上昇しているようです」
「なるほどね」
不安を煽るような情報はない。何一つ無い。ただ、どうにも嫌な予感が拭えない。
「顔が険しいままね?」
「どうにも嫌な予感がビンビンしてなぁ。特大の面倒ごとの気配を感じる」
「あー……それはダメなやつですね」
「ダメなやつね。いつも以上に気をつけましょう」
苦笑いするミミと溜息を吐くエルマ。俺だって好きで嫌な予感を感じているわけじゃないんですけどね?
☆★☆
ミミには船に残って貰い、リーフィルⅣ――シータへの降下申請を進めてもらうことにした。
今回の降下先はローゼ氏族領の大型空港だ。残念ながらブラックロータスが停泊できるほどのスペースは無いが、クリシュナなら問題なく着陸可能であるという。以前降下した際に利用した総合港湾施設を利用する手もあったのだが、あっちだとミンファ氏族やグラード氏族の連中が押しかけてきかねないからな。今回はローゼ氏族の傘下に在るウィルローズ氏族を訪問するのが目的だから、グラード氏族やミンファ氏族とは距離を置きたい。
「あの子達だけで大丈夫かしら?」
「引きこもっている分にはまず問題ないだろう。シールドも起動してるし、万が一シールドを破って外殻をブリーチングされても戦闘ボットがいる」
「私も常にブラックロータスの状態をモニタリングしておりますので」
今日もブラックロータスのホームセキュリティは完璧である。特に今は赤い旗の連中に付け狙われているかもしれないので、いつもより五割増しくらいで慎重に行動しているからな。傭兵ギルドに顔を出すのに俺とエルマの二人きりでなくメイまで同行している辺りで察して欲しい。
「コロニーの様子は見た目にはあまり変わってないように思えるな」
「そうね」
ブラックロータスから傭兵ギルドへと向かって港湾区画を歩きながら辺りの様子を窺う。今は停泊している船が多いが、見た目の変化はそれくらいで特に港湾区画が活気づいたりはしていないようだ。思った通り、停泊している船団は商品を大量に持ち込んできた商船団の類ではないらしい。
「見た感じ、規律はしっかりしているようね。なんだか軍人みたいだわ」
「エルマ様の仰る通りですね。こちらに視線を向けてくる方は多いですが、騒ぐ方はいらっしゃらないようです」
「軍人みたい、ねぇ。それはそれできな臭い感じがプンプンしてたまらんな」
大型艦を奇襲しようとしていた軍隊式の連携戦術を駆使する連中が脳裏をよぎる。あれが帝国航宙軍に関係しているにしても、ベレベレム連邦に関係しているにしても、あまり関わり合いにはなりたくない。
「何か通信しているようですね。一瞬で傍受ができませんでしたが、何かしらのサインを送ったようです」
「うへ……ますます嫌な予感がしてきたな。とっとと用事を済ませて戻るか」
俺達がこんな危険な状況でわざわざ姿を晒したのは偵察、というか例の船団の連中がどのように反応するかを確かめるためである。やはりちょっとこのやり方はリスキーだっただろうか? でも相手がどう反応するかわからないと、こっちとしても対応を決めにくいしなぁ。
「ブラックロータスに閉じこもってるべきだったかね?」
「どうかしらね。少なくとも、あいつらが私達に興味を示したってことがわかっただけでも良かったんじゃない?」
「そう思うことにしておこうか」
そして暫く歩いた後、特に誰かに絡まれることもなく傭兵ギルドの建物に入ることに成功した。大規模な掃討作戦で宙賊が居なくなった影響か、ギルドには閑散とした雰囲気が漂っているようだ。
入り口に姿を現した俺達に気づいたのか、受付で暇そうにしていたエルフの女性職員が目を輝かせる。
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませってメシ屋か何かか?」
「傭兵ギルドに入っていらっしゃいませって言われたの初めてかもしれないわね……」
エルマと二人でぼやきながらニコニコ笑顔でエルフの女性職員が俺達を待ち受けている受付へと向かう。ちなみにメイは完全無欠の無表情でしずしずと俺達の後ろをついてきている。特にコメントはないらしい。
「いやぁ、ここ数日全く人が来なかったのでつい」
「大丈夫なの? この支部」
「半分お役所みたいなもんだし、大丈夫なんじゃね? というか仕事無いのか?」
「それがさっぱり。四日ほど前に掃討作戦で足止めされていた商船が一斉に出ていってしまったので、商船護衛の依頼すら無いんですよ。宙賊はさっぱりと鳴りを潜めてしまいましたし」
そう言って女性職員が肩を竦める。
「周辺星系も一掃されているから、そりゃ流入もしてこないだろうな」
「もう少しすれば出払った商船がまた一斉に来るでしょうから、そうしたらまた活気づくと思うんですけど」
「なるほど。で、港に泊まってるのはその商船待ちの傭兵団か何か?」
「そうですね。クリムゾン・ランスという名前の傭兵団です。リーダーはゴールドランカーですね」
「ゴールドランカーね。エルマより上じゃん」
「うっさいわね」
ジト目のエルマが俺の脛を蹴ってくる。とてもいたい。まぁ、一匹狼やってたエルマとあれだけの船団を率いて活躍してるリーダーじゃランクの上昇速度が違うのも当たり前か。
まぁ、実績の何%が真っ当な方法で得たものなのかはわかったもんじゃないが。
え? クリムゾン・ランスを疑っているのかって? 証拠は何も無いけど疑ってるよ。何せ居る場所が都合良すぎるからな。ここに居座っている口実も、ゴールドランカーが率いる傭兵団って肩書きも何もかもが完璧だ。そんな完璧な存在がトラブルに愛されている俺の行く先に偶然居るとか、どう考えても怪しいだろう。俺の思考が完全にパラノイアじみているのは確かだが、今までの経験から考えるとどうしてもなぁ……。
「あ、ちょうど噂のゴールドランカーさんが来ましたよ」
エルフの女性職員の視線を追って振り向くと、そこには屈強な男を左右に従えた迫力のある美女の姿があった。
派手な女だ。マゼンタピンクの髪の毛がとにかく目立つな。服装は肩出しのブラウスにコルセットスカート、腰には二丁のレーザーガン。なんだか周りがSFチックな服装なのに、あの女だけ服装が普通というかなんというか……ファンタジー世界の住人みたいだな。腰に下げているものは別として、だが。
「ふゥん……?」
あちらも俺を値踏みするかのような絡みつく視線を俺に向けてくる。まるで蛇か何かに獲物かどうか見定められているような気分だ。
「こんなところで有名人に会えるとはねェ? アンタ、キャプテン・ヒロだろ?」
「いかにも。俺はアンタのことを知らないけどな」
「ハハッ、アタシもそこそこ名は売れてるつもりなんだけどねェ? ま、アンタほどじゃあないのは確かさね」
女は一歩踏み出し、自信に満ちた表情で名乗りを上げた。
「アタシはキャプテン・マリー。アンタと同じく宙賊狩りで名を挙げている傭兵さ。『幸運な収奪者』・マリーなんて呼ばれることもあるね」
「そりゃご丁寧にどうも。既にご存知のようだが、キャプテン・ヒロだ。握手は必要ないよな?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらに視線を向けたままのキャプテン・マリーに視線を返しながら、直感する。
こいつは、俺の敵だ。




