#281 トレードオフ
日中暑くなってきましたね……熱中症などにはお気をつけて_(:3」∠)_
撃破した宙賊艦の引き上げも終わり、整備士姉妹はなんだか難しい表情であーでもないこうでもないと相談しながら艦の修復作業を開始した。
「ぜんっぜんなんもわからん」
「私もです」
「そりゃそうでしょ」
クリシュナのタラップの上から撃破した宙賊艦の残骸と、その周りを飛び回るドローン、そして忙しなく動くメンテナンスボットとそれを操るティーナとウィスカを眺めているのだが、本当に何をしているのかなんもわからん。
ちなみに今回はまともな白兵戦になったようで、宙賊基地の制圧にはそれなりに時間がかかった。
とはいえそれも今は落ち着いたようで、残敵の掃討に入っているようだ。俺達は宙賊の増援が来た時に備えて緊急発進ができる態勢を整えて待機中ってわけだな。
「なんだか思ったよりものんびりですよね?」
「こんなもんだろう。集団の規模が大きくなればそれだけ色んな調整や準備を整えるのに時間がかかるもんだ。今だって残敵掃討とはいえ海兵部隊がまだ宙賊基地内で戦っているわけだしな。彼らを置いて俺達だけ先行して次の星系の宙賊を叩くわけにもいかないし」
「足並みを揃えないと戦力の逐次投入になっちゃうからね。百の戦力をちゃんと百ぶつけるのと、一を百回とか五を二十回ぶつけるのとでは結果が全然違ってくるでしょ?」
「それは確かに。百人がいっぺんに襲いかかってきたらどうしようもないでしょうけど、一対一が百回ならヒロ様なら余裕でなんとかしちゃいそうですもんね。ヒロ様なら百人がいっぺんに襲いかかってきてもなんとかなるかもしれませんけど」
「流石に百人にいっぺんに襲いかかられたら無理じゃねぇかなぁ……?」
もしかしたら意外となんとかなるかもしれないが、試したいとは思わないな。そもそも、俺は白兵戦はそんなにしたくないんだよ。殺傷出力のレーザーなんて食らったら痛いじゃ済まないし。
一応俺の着ている傭兵服やアンダーウェアは対レーザー防御性能のある特殊繊維らしいが、どの程度の効果があるかはわからんからな。実際に撃たれて確かめるのも嫌だし。
「まぁとにかくそういうわけでな。規模が大きくなれば大きくなるほど身軽さってのは失われるもんだ。集団であることで得られるアドバンテージってのもあるけどな。その辺はトレードオフだ」
「そうですよね。頭数が多ければ多いほど沢山の戦利品を運べますし、いざという時のカバーも効きますし」
「そうね。例えば今の私達だとクリシュナが落ちたら殆ど詰みね。ブラックロータスも優秀な艦だけど、やっぱり小回りは効かないから」
「それはそうだな。そろそろエルマ用に小型艦でも用意するか?」
そう言うと、エルマは驚いたような表情をこちらに向けた。いや、実際に驚いているんだろう。
「え、でも、それは……」
「俺が船のオーナー。エルマが雇われ船長。船のオーナーで俺である以上、取り分は俺の方が有利になるが、今よりもっと稼げるようになるぞ」
「えっと……」
「自分の船を手に入れたら俺から離れるか? 俺は行って欲しくないし、そう言う権利もあるんじゃないかと思っているんだが」
エルマとはこっちの世界に来て以来ずっと世話になってるし、逆に色々とお世話もしてきた。つまり、支え合ってきた。俺は少なくともそう思っている。いや、俺の方が寄っかかり気味かな? ついつい甘えてしまうんだよな、エルマには。
「も、勿論今更どこにも行くつもりなんて無いけど……」
「なら考えておいてくれ。エルマになら俺の背中を任せられる」
「ええ、わかったわ」
そう言ってエルマは笑みを浮かべた。本当に嬉しそうに。そして視線を感じたのでミミの方を見てみると、ミミもなんだか期待の眼差しを向けてきている。
「ミミもサブパイロットにステップアップだ。できるか?」
「がんばります!」
ふんす! と鼻息を荒くしてミミが胸の前で拳を握って見せる。ミミもオペレーターとしての経験はもう十分だからな。そろそろステップアップの時期だ。ちなみに、俺もエルマもオペレーターとしての働きは勿論できる。というか、SOLだと艦の操作は一人で全部やってたからな。センサー系やサブシステムの掌握も全部。NPCを雇ってある程度オートにすることもできたけど、俺は全部手動でやっていた。その方が細やかな操作ができたからな。
「それじゃあ今後はそういう方針で行こう。機体の選定も進めなきゃな」
クリシュナの他にもう一隻、逃げようとする連中を足止めできる船がいればもう少し狩れたかもしれない。やはり機動戦力がクリシュナ一隻だけではどうしても取り漏らしが出る。これまでにも追撃が間に合わなくて獲物に逃げられたことはあったしな。
「私はスワンを」
「それは却下だ。お前懲りてないのかよ……」
「ぐぬぬ……」
かつてエルマが乗っていた機体――ギャラクティックスワンはマシンスペックが非常に高いものの、あんまり調子に乗ってブン回すと暴走の末に爆発四散するというクソみたいな隠し機能がある機体だ。明らかにリコール対象の欠陥機なのだが、何故かこの世界でも普通に流通して……いや、殆ど見た覚えがねぇな? 考えてみればアレってやたらと高い機体だし、もしかしたらこの世界では殆ど流通していないのかもしれない。エルマは一体どんなルートでスワンを手に入れたのだろうか。
「あくまでも船のオーナーは俺だからな。どんな機体を導入するかは俺が決めるぞ」
「仕方ないわね。オーナー様に従うわよ。でも、良いの? 目標から遠ざかるわよ?」
「良いんだ。俺もミミも上級市民権を得たし、エルマだってそうだろ? まぁ姉妹の分は何か考えなきゃならんが、頼る伝手は複数あるしな」
「まぁ、それはそうね」
ダレインワルド伯爵家に頼ることもできるし、あまり頼りたくはないがセレナ中佐の伝手もある。なんならミミ経由で皇帝陛下に頼るなんて方法も無くはない。禁じ手に近いが。
とはいえ、今のペースで稼いでいればエルマが乗る船を用意するだけの資金を稼ぎ直すのにもそんなに時間はかからない。クリシュナとブラックロータスの他にもう一隻運用できるようになれば、できることの幅も広がる――つまり受けられる依頼の幅も広がるしな。
「とにかくそういうことで、今の仕事が終わったらエルマの機体も見繕うとしよう。どうせ軽量型パワーアーマーを入手するためにハイテク星系に行くつもりなんだから、丁度良いだろ」
「そうですね。ゲートウェイが使える今、シップメーカーの本拠地まで赴くのもそんなに手間ではないですし」
最先端技術を開発しているハイテク星系に行けば、最先端技術に関する情報も入手しやすい。つまり、最新鋭の船に関する情報も集めやすいってわけだ。シップメーカーのディーラーもあるだろうしな。
「今回の仕事を終えて目的地に向かうのが楽しみになってきました」
「そのためにも今の仕事をまずは終わらせないとね」
「そうだな。まぁ、このペースでもう一つか二つ基地を潰せばお開きだろう。気合を入れ直していくぞ」
「はいっ!」
「ええ」
二人ともやる気に満ちた表情だ。うん、これで士気も保てるってもんだな。俺の士気? 俺の士気はほら、皆がいてくれればそれだけで元気百倍だから。冗談でもなんでもなくな。
ミミにエルマ、メイ、それにティーナとウィスカ。こんな美少女、美女達に囲まれて奮い立たない男なんてそういないと思う。男なんて単純なもんだぜ、HAHAHA!
彼女達に失望されないように頑張らないとな。




