#278 対抗手段への対抗手段
寒くなったり暑くなったり気温が安定しない……( ˘ω˘ )
シノスキア星系の掃討も終え、今度は翌日にもう出発である。シノスキア星系での掃討が予定よりも早く終わったから半日ほど休めたが、苦戦して時間がかかっていた場合は碌に休息も取らないで次の星系――ショア星系に移動する予定であったらしい。
「忙しないな」
『セレナ中佐は宙賊に時間を与えたくないのでしょう。時間をかければかけるほど碌でもないことをするのは目に見えていますから』
「納得の判断ですね」
センサー系のチェックを終えたミミが頷く。何時間か前にシノスキア星系にあった宙賊基地内での戦闘の様子が記録されたホロ映像が回されてきたんだよな。半分くらい人の形が残ってる変異生物が理性を無くして突っ込んでくるのを海兵隊がバンバン撃って倒すような内容のやつが。
無理して見なくても良いって言ったんだが、結局ミミは最後までちゃんと見た。まぁ俺も強くは止めなかったんだけど。ホロ映像ででも良いから体験しておけば、何か同じような事態に巻き込まれてしまった時に冷静に動けるかもしれないからな。結果として「やっぱり宙賊はどうしようもない奴らですね」みたいなことを言っていたので、まぁ宙賊に対して慈悲をかける心とかそういうのは少し磨り減ったかもしれない。実際、宙賊には恩を売ってもどうせ仇で返されるだけなんだろうからそれはそれで良いことなんだけど。
「ショア星系への到達予定時刻は?」
『凡そ十五分ほどでワープアウトします』
「了解。それじゃあすぐ動けるように用意しとくか。今のうちにトイレとか済ませておこう」
「私は大丈夫です」
「私も」
「それじゃあワープアウトまで小休止だ」
俺も今は特に出そうにないからな。
ちなみに、あれから丸一日程経って整備士姉妹は完全に復活した。まぁ簡易医療ポッドに入ったら一発だったんだけども。風情がないとか言って二人ともすぐには入らなかったんだよな。今思えばミミもエルマもそうだった気がする。もしかしたら俺の知らないこの世界独自の暗黙の了解とか常識とかなのかもしれない。
☆★☆
宙賊達も馬鹿ばかりではない、と言ったのは確かエルマだったか。俺もその意見には同意するが、それと同様に帝国航宙軍も馬鹿ばかりではない。というか、基本的に軍人――それも作戦を指揮したり立案したりといった人間というのはエリートと呼ばれる人達である。
当然、頭が切れる。中には所謂頭でっかちと言われるような人も居るのだろうが、少なくともセレナ中佐はそういったタイプの軍人ではなかった。
「その結果がこれである」
ショア星系の宙賊基地の近くまで超光速航行で移動した宙賊基地攻撃艦隊は、そのまま宙賊基地に最大戦速で向か――わなかった。
「まぁこうなるわよね」
「派手にやりますねー」
戦艦や重巡洋艦などの特大型艦、大型艦が出力を絞った速射モードのレーザー砲で大量の機雷を容赦なく掃討していく。彼らの主砲の射程は小型艦や中型艦のそれよりも遥かに長く、出力を絞った速射モードで撃っても十分に機雷を破壊することが出来る。
つまり、宙賊どもは基地への攻撃艦隊がワープアウトするであろう場所に事前に大量の航宙機雷を散布していたわけだが、セレナ中佐に見事に見破られてこうして罠を食い破られているわけだ。
当然こんなことをすれば宙賊どもに今から襲うぞ! と大声でがなり立てているようなものだが、奴らの逃げ道はとっくに友軍が星系封鎖によって塞いでいる。
「急造の機雷なんてこんなもんだよな。弾頭が通常弾頭なのか反応弾頭なのかまではわからんけど、数が多いならスキャンして怪しいものは全部ぶっ壊せば良いじゃないというこのパワープレイ」
「このやり口は帝国航宙軍ならではって感じよねぇ」
「漏れとか無いんですかね?」
「あったとしても前に出てるのが戦艦とか重巡洋艦だからなぁ。急造の機雷に対艦魚雷みたいなシールド中和装置がついているとも思えないし、万が一触雷しても大したダメージにはならんと思う。反応弾頭だとしてもシールドで受けるならクリシュナのシールドでもギリギリ一発くらいは受けられるしな」
戦艦や重巡洋艦のシールド容量はクリシュナよりも遥かに高い。ギリギリ大型艦に分類されるかどうかというブラックロータスでもシールドの総容量はクリシュナの三倍を超える。正規軍の戦艦や重巡洋艦はそれすらも遥かに超える容量のシールドを装備しているのだ。俺の使っている対艦魚雷や散弾砲のようにシールドを無効化、或いは貫通して打撃を与える武器でもないとダメージを与えるのは非常に難しい。
「これ、今回も私達の出番は無しでしょうか?」
「どうかな」
結局のところ、戦艦や重巡洋艦といった特大型艦や大型艦ってのは数が揃うと凶悪に強いんだよな。足も遅いし小回りも利かないからまともに相手をせずに逃げるなり小惑星帯に引き籠るなりしてしまえばそうそう脅威にはならないんだが、拠点とかの固定目標に侵攻するとなるとそれはもう極悪に強い。小型艦や中型艦とは射程と火力が違いすぎる。
そもそもがアウトレンジから回避の難しい大口径レーザー砲をバンバン撃ち込む。相手は死ぬ。という設計思想だからな。え? やってることが海で大砲撃ちまくってた頃と変わらない? そんなもんだよ。結局のところ、どれだけ遠くから正確に敵を破壊するかって話だし。
航宙戦でミサイルの類が廃れている理由は弾速の遅さと射程の短さ、それにシールド装置を積めないからレーザー砲による迎撃に極端に弱いっていう三つの点がネックになっているからなんだよな。
射程でも弾速でも動標的に対する命中率もミサイル系の武装はレーザー砲には勝てない。単発の威力は高いし、シーカーミサイルみたいに撃ちっぱなしで誘導してくれる能力があるから小型艦同士の戦い――それも乱戦みたいな状況だと使い勝手は悪くないんだけどな。少なくともこういう遠距離からの撃ち合いじゃどうにも使い物にならんのだよな。
SOLには超光速ドライブを積んだ超光速ミサイルなんてのも存在したけど、あれはイベントでNPCが使う戦略・戦術兵器みたいな立ち位置だったからなぁ。この世界にもあるんだろうか? サプレッションシップに反応弾頭を積んだような兵器だったから、無いこともないんじゃないかと俺は睨んでるんだが。
「宙賊側がセレナ中佐の用意した大型艦攻勢に対抗できるだけの飽和攻撃か何かを仕掛けて来れば出番はあるかもしれんが……」
と言いつつ、実は左舷方向に見えている小惑星帯がさっきから気になって仕方がないんだよな。あそこなら伏兵を隠しておくことは出来なくもない。これは出番が来るかもしれんな。
「あれ? 前衛の副砲が左舷方向に向いてますね」
「おっと、これは早速か?」
「機関停止して隠れていたのかしら。この距離だと魚雷抱えて突撃してくる奴も居そうね」
まだクリシュナのセンサーで敵反応は捉えていないが、前衛を担っている戦艦と重巡洋艦の動きからするとあっちは何か掴んでそうだな。
「防空戦闘になりそうだな。同士討ちに気をつけよう」
「はいっ!」
「アイアイサー」
ミミとエルマの返事と同時に前衛から敵発見の報が入り、迎撃戦闘を開始するよう命令が下された。
防衛戦はあまり得意じゃないが、まぁ頑張るとしようかね。




