#275 挑発
昼飯もまともに食ってないのでお腹が空きました( ˘ω˘ )
あの後は和やかに食事をして俺達は船に――ブラックロータスに戻った。帝国航宙軍が態勢を整え、再編成を終えるのには少し時間がかかるからな。
「で、帰ってくるなり何見てるの?」
「今回の宙賊拠点の攻撃のレポート。あとメイに頼んで帝国航宙軍が過去に行なった宙賊基地攻撃、及び固定目標への攻撃レポートも集めてもらってる」
「何でまたそんなものを……?」
食堂のテーブルに着いてレポートに目を通している俺にエルマが気味の悪いものを見るような視線を向けてくる。なんだよその視線は、失礼なやつだな。
「不勉強なのはいけないからな。あと他に帝国航宙軍の戦術教本なんかも手配してもらった」
「急ね?」
「さっきセレナ中佐と話している時に思い立ってな。俺の不勉強で俺だけならともかくお前らまで死なすわけにはいかないだろ」
「アンタってたまに変なとこで真面目よねぇ……」
そう言いながらエルマが俺の向かいの席に座って手酌でちびちびと酒を呑み始める。そうすると、程なくして整備士姉妹が食堂に現れた。彼女達はセレナ中佐に呼ばれる謂れもないということで、船に残って残務の処理をしていたのだ。
「おーっす、兄さんシャワー貸して……ああっ、姐さん呑んでるっ!」
「いいなぁ……」
「もう上がりでしょ? 奢るわよ」
そう言ってエルマが酒瓶を揺らすと、整備士姉妹の顔がパァっと輝いた。
「さっすが姐さんや! 話がわかる!」
「シャワーお借りしますね」
実に嬉しそうな様子で二人揃ってシャワールームの方向へと歩いていく姉妹。二人で入るんだろうか? まぁ、あの二人なら余裕で二人で入れるか。俺とエルマとかミミとかが二人でもなんとか入れるし。
二人が食堂から出てくると同時にシャワーを終えたミミが姉妹と入れ替わるように食堂に入ってきた。姉妹達より先に風呂に入っていたのでかなりほっこりとした様子である。
「ヒロ様、何を見てるんですか?」
「今日の戦闘レポートとか色々。まぁ帝国航宙軍の戦術とかを勉強しようと思ってな」
「? 軍に入るんですか?」
「いいや。単に奴さん達と仕事をする時のことを考えて、色々勉強しとこうってだけだ」
「なるほどー。私も一緒に教わっていいですか?」
「良いぞ。まぁ、今はレポート見てるだけだけど」
そう言うとミミが俺の隣に座り、身を寄せて俺が見ているタブレット型端末の画面を覗き込んでくる。お風呂上がりだからか、なんだかふわりと良い匂いが漂ってくるな。寝間着の薄い生地越しに感じられる体温も温かくてなんだかホッとする。
「……」
そうして少しすると、エルマも無言で俺の隣に座り直してきた。何故だかわからんが、ミミに対抗意識を燃やしているらしい。酔っ払ってるのか? 酔っ払ってるな。呑んでるもんな。
「楽しいか?」
「なんとなくのけ者になってる感じを味わいながら飲むよりはね」
「別にそんなつもりはないんだけどなぁ」
「あはは、エルマさん可愛い」
「うっさいわよ」
そうやってイチャコラしながら本日の戦闘レポートに目を通していると、整備士姉妹も風呂から上がってきた。
「あ、兄さんがイチャついとる」
「素晴らしいだろ? ってお前、それ俺のシャツじゃねぇか」
「風呂から上がった後にジャンプスーツ洗おうと思ったら洗濯機の中に入ったままだったんよ。丁度良いから借りたで」
「す、すみません……後で洗って返しますから」
「いや別に良いけども」
なんだかやたらと顔を赤くして恐縮しているウィスカに首を横に振ってみせる。
姉妹揃って俺のTシャツを着てきてまぁ……でかすぎてワンピースみたいになってるじゃないか。まぁ似合っているというかグッとくるというか若干犯罪臭が……ん? 洗濯?
「お前らその下は?」
「履いてないし着けてないで? 洗濯しとるし」
「おいィ……」
道理でウィスカが挙動不審なわけだ。ウィスカに視線を向けると、彼女はTシャツの裾を下に引っ張って俯いてしまった。うん、恥ずかしいなら姉の口車に乗らないで欲しい。というか、君の力でそんなに引っ張るとTシャツの裾が伸びるからやめてくれ。
「ほれほれ、この下は素っ裸やで? 流石の兄さんもこれにはグッとくるやろ?」
そう言ってティーナが科を作ってせくしぃぽぉずをキメる。
「ハハッ、ワロス」
「ぶん殴ったろか?」
「やめて下さい死んでしまいます」
両手を挙げて降参しつつ、視線を絶妙に逸しておく。流石の俺も薄っぺらいTシャツの下は全裸ですとか言われると少し落ち着かない。
「なぁなぁ姐さん、なんで兄さんはウチらに手を出してくれないんやろな?」
「私に聞かれても知らないわよ。とりあえず、はい」
「むー、納得いかんなぁ。なぁ兄さん?」
エルマから酒の入ったグラスを受け取りつつ、対面に座ったティーナが流し目を送ってくる。見た目は小さくても仕草は別に幼くないんだよな。
「そう言われてもなぁ……」
ストレートな物言いに思わず頭を掻く。何故かと言われると困るんだけど、やっぱ絵面がな……いやまぁ、二人とも間違いなく可愛いとは思うんだけど。
「何度も言ってるけど君等に手を出すとなんかもういけない扉が開きそうでな」
「うちら立派な成人やで」
「……ミミさんよりも歳上ですよ」
「というか兄さんとほぼタメやん。まぁ、兄さんがうちらみたいな身体が小さい女は好かんっちゅうなら仕方ないけど」
「いや、そういうわけでは無いんだけどな? こう、切っ掛けとか覚悟とか? そういうのが足りない」
と言いつつ、自分でも明確な理由がよくわからんのだよな。別に二人に魅力を感じていないわけじゃないんだが。なんだかんだ理由をつけて意外とヘタレなだけかもしれん。
「せやかて、うちらは兄さんにもう命預けとるで?」
「いやそれは……というか明け透けすぎない?」
「今更やで?」
「そうですね」
真顔でそう言うティーナにミミが苦笑いを浮かべてみせる。エルマも肩を竦めている辺り、既に二人に相談済みらしい。多分メイにもだろうな。
「実際のところちょっと不思議ではあるのよね。ミミにもメイにも私にも手を出してるのに、二人にだけ手を出さないのは。別に二人ともセレナ中佐やクリスみたいに貴族でもないし、私の時なんて勘違いしてみたいだけどまぁ良いか、みたいな軽いノリで手を出したじゃない」
そう言いながらグラスを片手にエルマが俺の頬をグリグリとつついてくる。そう言われるとそうだね、そんな感じだったね。
「よし、この話題やめ! 今日は疲れたしもう寝ようぜ!」
三十六計逃げるに如かず。情勢の不利を感じ取った俺はそう言って席から立つが、対面に座っているティーナから小馬鹿にするような声が飛んできた。
「なんや、逃げるんか?」
「……逃げますけど?」
一瞬熱くなりかけたが、自制する。落ち着け、挑発に乗る――いや、別に挑発に乗っても良いか? ここまで言われて引くのは逆にダメでは?
「……本当に逃げちゃうんですか?」
ウィスカがそう言って潤んだ瞳で上目遣いに見上げてくる。でもちょっとこれは演技入ってるな? なるほどね、そうやって俺をからかって遊ぼうってつもりか? OKOK。
「よしわかった。じゃあ望み通り二人とも部屋にお持ち帰りしてやるよ。後悔するなよお前ら。骨の髄まで理解らせてやるからな」
立ち上がった俺はスタスタとテーブルの反対側に回り込み、ティーナとウィスカの二人を両脇に一人ずつ抱えた。筋肉か骨の密度が違うのか、二人とも見た目の割にずっしりとしている気がする。こんなことは口が裂けても言えないが。
「えっ、ちょ、兄さん?」
「お、お、お兄さん?」
なんか今更二人とも慌てふためいてるけど、もう遅いぞ。やってやろうじゃねぇか! ドワーフなんざ怖くねぇ!
「それじゃあそういうことで」
「はいはい、手加減してやりなさいよ」
「二人とも頑張ってくださいね!」
エルマがヒラヒラと手を振り、ミミがなんだかよくわからないテンションでティーナとウィスカを応援する。自分達から挑発したくせに緊張でもしているのか、完全に固まってしまった二人を両脇に抱えたまま俺は食堂を後にした。
なんか後ろからチョロイわね、とか私も今度あんな感じで、みたいな声が聞こえてきた気がするけど、きっと気のせいだ。うん、きっと気のせい。
やってやろうじゃねぇかよこのやろう!(´゜ω゜`)(なおノクターン版はありません




