#269 作戦内容と思うところ
ぽんぺ……_(:3」∠)_(今は落ち着いた
簡易医療ポッドで治療をして訓練場と化しているカーゴスペースに戻ってくると、そこで貴族出身の士官達が良い感じに疲労困憊とい様子になっていた。セレナ中佐はそんなだらしがない様子の士官達を見ながら苦笑いを浮かべている。
「中佐殿は訓練なさらないので?」
「作戦開始を控えた身で負傷するわけにはいきませんからね。作戦終了後にでもお相手願います」
「はい、セレナ様」
当然ながら汗一つかかず、披露した様子も見せずにメイが頷く。メイドロイドだからそりゃそうなんだけども。
「んじゃ、大してお構いもできませんがこちらへどうぞ。休憩スペースがありますんでね」
そう言いながらヘトヘトになっている士官達を連れて休憩スペースに連れて行き、適当に放流しておく。
「それで、今日は何をしに来たんだ?」
セレナ中佐とサシの席に着きながらそう聞く。
「作戦について話をしにきたのです。彼らは護衛兼物見遊山ですね」
「ウチは観光スポットじゃないんだが?」
そんな話をしていると、ミミがお盆にお茶とお茶菓子を乗せて運んできてくれた。
「お久しぶりです、セレナ様」
「直接顔を合わせるのは久しぶりですね、ミミ様」
「いえ、あの、私に様付けは……」
「そうでしたね、はい。ミミさん」
「はい、それでお願いします」
セレナ中佐は俺達と帝室を繋ぐ役割をこなしたので、ミミが皇帝陛下の姪孫であることを知っているんだよな。
「あー、それで作戦がどうしたって? 聞かせてもらっても?」
「はい。我々が得た情報によると、宙賊どもは小規模拠点を周辺の星系に随分と多く作っているようです」
「どうやって情報を得たのかは聞かないでおく」
「それが賢明ですね」
セレナ中佐がにっこりと良い笑顔を浮かべた。
宇宙空間での戦闘に比べると大気圏内での戦闘では撃破された際の生存率が大変に高くなる。生命維持装置がぶっ壊れても即死するわけじゃないからな。脱出ポッドとして機能したコックピットブロックさえ無事であれば乗員が生きている可能性は高いわけだ。
で、先日リーフィルⅣ――シータでは赤い旗構成員による降下襲撃が行われ、メイの操るブラックロータスの働きによってかなりの数が撃墜された。つまり、それなりの数の捕虜が発生したはずである。
帝国航宙軍は――というかグラッカン帝国は宙賊に対して一切の容赦をしない。捕らえられた宙賊は良くて終身労働、生きては居られないようなマッドな実験の被検体にされたりなんだりと碌な目に遭わないそうな。そんな連中に対する尋問が人道的なわけもない。
「それで、小規模拠点相手にどうするって? 戦力を分散して同時に潰すとか?」
「近いですね。星系封鎖を行い、一星系ごとに掃除をしていきます」
「ああ、なるほど」
赤い旗海賊団は一つの大規模拠点を作って栄えているタイプの宙賊ではなく、複数の星系に多くの小型拠点を持つネットワーク型と呼ばれるタイプの宙賊だ。小規模拠点を一つ潰したところで奴らにとっては大したダメージにはならない。やるなら星系内の拠点を一斉に潰す必要がある。
そこで、セレナ中佐は今回掃討対象となる星系のハイパーレーン突入口を制圧して封鎖し、星系内の宙賊が出入りできない状況を作り出してから星系内の小規模拠点を全滅させ、赤い旗海賊団の勢力圏を削ぐことにしたようだ。
「それをやるとなると、敵拠点の正確な位置と数の情報が必要だろう?」
「それを入手できたからこその作戦というわけです」
「ああ、なるほど……」
捕虜になった宙賊の中に幹部でも居たのかね? それとも撃墜した船の残骸から航行データでもサルベージしたのか? どっちなのかはわからんが、とにかく必要な情報は手に入ったということか。
「しかし星系封鎖と言っても対宙賊独立艦隊の規模じゃ無理だろう? どこからそんな戦力を持ってくるんだ?」
「主に星系軍ですね。付近の帝国航宙軍で手隙の部隊も集めてますが」
「なるほど。それじゃあ攻撃は傭兵と対宙賊独立艦隊でやるわけか」
「そうなりますね。貴方には遊撃をしてもらいますので」
「了解。まぁいつも通りだな」
クリシュナの機動性と火力を活かすなら戦列の一端を担うよりもフリーで飛び回った方が効率が良いからな。
「ブラックロータスは後方支援に?」
「そうしてもらえると助かりますね。この艦の火力は頼りになりますから。特にEMLの威力と射程は拠点攻めに向いていますし」
「違いない」
ブラックロータスの艦首に装備されている大型EMLは非常に威力が高い。通常、実体弾兵器というものはシールドによる防御に弱いものなのだが、大型EMLにはシールドを貫通する特性があるからな。当然ながら装甲や船体に対するダメージも高いので、静止目標相手には非常に効果が高い兵器なのだ。
まぁ、レーザーに比べると弾速が遅いから、動く標的に対する遠距離命中率が低いという欠点もあるんだけど。メイの射撃精度だとそれもかなり軽減されるからなぁ。
「拠点はどうするんだ? 問答無用で破壊するのか?」
「その予定です。今回は目標が多いですからね」
セレナ中佐は肩を竦めて言葉少なにそう言い、ミミが淹れたお茶を一口飲んだ。
赤い旗海賊団の主なシノギ――ビジネスは闇奴隷の販売と身代金だ。惑星上居住地やコロニー、それに商船や客船などを襲って住人や乗員、乗客を拉致し、顧客の要望に沿うよう『加工』して販売する。身代金ビジネスに関しては説明の必要もないだろう。
つまり、奴らの拠点には『商品』がそれなりの数『貯蔵』されている可能性が高い。それを問答無用で破壊するということは、つまりそういうことだ。宙賊と通じて闇奴隷を購入するような連中がまともな趣味のはずもない。宙賊どもによって闇奴隷に不可逆的な『加工』を施された人々が、そのようにされる前の生活を取り戻すのには相当な努力と、類稀なる運が必要になる――らしい。
俺も実際に見たことはないんだがな。今までに闇奴隷を封入したコールドスリープポッドを回収したこともなかったし。
「浮かない顔ですね」
「そうか? そう見えるならそうなのかもな。あまり気にせんでくれ」
気分が良い話ではないが、人には出来ることと出来ないことがある。助かる見込みがないのなら、終わらせてやるのもまた慈悲というものか。そもそも、俺の手には余る案件だし、セレナ中佐の手にだって余る案件だろう。帝国が本腰を上げない限りは闇奴隷に関する問題はどうにもならんだろうな。
「ふむ、意外と可愛いところがありますね?」
「勘弁してくれ。それより、戦力の集まり具合はどうなんだ?」
「予定ではあと三十八時間で予定されていた戦力の招集が完了します。フィジカルだけでなくメンタルの調子も整えておくように」
「アイアイマム」
俺の返事を聞いて満足そうに頷いたセレナ中佐は士官達を率いて旗艦である戦艦レスタリアスへと帰っていった。
やれやれ、余計なことを考えて気分が落ち込んでしまったな。ここは一つ、誰かとイチャついて元の調子を取り戻すとしますか。
俺はそう考えながら携帯情報端末に戦力招集完了予定時間をセットし、艦内をブラつくことにした。
5/8に最強宇宙船5巻が発売されました! 買ってね!(直球
そしてご購入くださった皆様ありがとうございます! やったぜ!_(:3」∠)_




