#268 出撃前、束の間の安息
今日は! 最強宇宙船五巻の発売日!!( ˘ω˘ )(買ってね!!
「えっ、持ってくの? それ」
ピカピカと光る特級厄物を持って帰ってきた俺を見たエルマがとても嫌そうな顔をする。
「なんかそういうことになってな。最悪、ローゼ氏族で泥被るから置いていくくらいなら持っていってくれってよ」
「えー……大丈夫なの?」
「さてなぁ。こいつ自体が何か悪いことをするわけじゃないし、大丈夫だと思いたいが。何か因果を捻じ曲げて俺達に不運をもたらすとかそういうことなら今すぐクリシュナの重レーザー砲で消し炭にしてやるけど」
特級厄物が否定の意志を示すかのようにピカッ、ピカッ、と定期的に光を放つ。ああ、そう言えばノーの場合は一回、イエスの場合は二回光れとか言ってたっけ。意外と律儀に俺の言ったことを覚えてるんだな、こいつ。
「あ、ヒロ様。物資の補給は終わりましたよ。いつでも出撃可能です」
「お疲れさん。対艦反応魚雷もストックは十分あったよな?」
「はい。クリシュナに搭載している四発の他に、予備弾を一ダース積んであります」
「オーケー、やっぱり母艦があると便利だよな」
「一ダースって、一体何と戦うつもりなのかしらね」
腐るもんじゃなし、予備弾はいくらあっても良い。クリシュナに積んでる分も合わせて十六発もあればクリシュナ単機でも宙賊の拠点をスペースデブリにできてしまいそうだな。
「作業が終わったならいつ出撃になるかもわからんから、休んでおいてくれ。コロニーで羽根を伸ばしてきてもいいぞ」
「んー、私は良いかな。船の中のほうが落ち着くし」
「私も船で休んでます。ヒロ様はどうするんですか?」
「整備士姉妹の様子を見てくる。その後はメイの様子を見て、大丈夫そうなら俺ものんびりするさ」
エルフの皆さんには大層もてなしてもらったが、やっぱり船のほうが心が休まるんだよな。実家のような安心感とでも言えば良いのだろうか。いや、単純にセキュリティがしっかりしていて、いざとなったら家財まるごとどこへでもスタコラサッサできるというのが安心に繋がっているのかもしれんな。
「じゃあ私も見に行くわ。暇だし」
「それじゃあ私も」
「そうか? まぁそれでも良いか」
三人で連れ立って格納庫区画へ向かうと、メンテナンスボット達が忙しそうに働いていた。メンテナンスボット達の邪魔にならない場所にウィスカが座っていて、その手は目まぐるしくタブレットを操作している。
「あ、お兄さん――じゃなくて皆さんお揃いで。どうしたんですか?」
「あら? ヒロしか見えなかったのかしらー?」
「そ、そういうわけじゃないですよう」
ニヨニヨしながらからかうエルマにウィスカが顔を赤くして言い訳をするが、それは逆効果ではなかろうか。なんかミミもにんまりと良い笑顔を浮かべてるし。
「俺達は出撃前に終わらせるべきタスクが無くなったんでな、見回りだ。調子はどうだ?」
「えっと、今のところは特に問題はないです。クリシュナの整備は完璧ですよ。今は念の為にフルチェックをしているところです」
そう言ってウィスカがハンガーに駐機しているクリシュナに目を向ける。クリシュナの周りではメンテナンスボットやドローンのようなものが動き回っていて、何やらスキャンを繰り返している。仕組みはわからないが、きっとあれでクリシュナの状態をスキャンしているんだろう。
「ティーナは?」
「お姉ちゃんはブラックロータスの整備に回ってます。多分メイさんと一緒に作業をしていると思いますよ」
「なるほど。タスクを終えたら休んで良いからな。特に二人はこれから激務になりそうだし」
「やっぱりそうなりますか?」
「多分な。ああ、でもそんな頻繁に鹵獲した船を処分しに行けないだろうから、そこまでじゃないかもしれんな。装備を鹵獲する機会は増えるかもしれんけど」
俺達が鹵獲できる船の数は最大で四隻だ。格納庫に二隻、そしてクリシュナとブラックロータスがそれぞれ曳航して更に二隻だな。内訳としては小型艦が三隻と、中型艦一隻が限界だろう。更に言えば、曳航するには最低限超光速ドライブとハイパードライブが生きていないといけない上、曳航したままでは即応力が落ちることになるから戦闘が完全に終了した後でないといけない。
もっと言えば俺達の儲けのために全体の進行が遅れることは許されないので、手早くやる必要がある。整備士姉妹にとっては戦闘終了後からが本当の戦いになるってわけだな。
「おー、集まってどないしたん?」
そうして話していると、ティーナとメイが格納庫区画へと姿を現した。二人の様子を見る限り既にブラックロータスの整備は終わったらしい。
「タスクを終えたんでな。様子を見に来たんだよ」
「なるほどな? こっちも終わったで」
そう言うティーナからメイに視線を移すと、メイがコクリと頷いた。なるほど、終わったか。
「ちょぉ、待ち。今のリアクションは何やねん」
「一応メイに確認しただけだぞ」
「おうおうおう、ウチもプロやぞ? その反応は失礼ちゃうか?」
「ごめんて」
間合いを詰めて下からメンチを切ってくるティーナに素直に謝っておく。普段の態度が態度だからついね? 悪気はなかったんだぞ? 腕は信用してるんだけどな、一応。
「お? 謝ったな? ならその謝罪の気持ちをちゃんと形にしてもらうで?」
「えー? 何だよ?」
そんなに悪辣なことはやらないだろう。一応聞くだけ聞いてやるか。
「だっこ」
そう言ってティーナは俺に向かって両手を伸ばしてきた。
「え?」
「だっこ。ぎゅってしてくれたら許したる」
にっこり。そう表現するのが相応しい笑顔を浮かべてティーナがだっこを促すようにグッと両腕を伸ばしてくる。えー? まぁ別に良いけども。抱っこくらいなんてことはない。これで機嫌を直してくれるなら安いものだろう。
「んふふー……」
お望み通り正面からだっこしてやると、ティーナはかじりつくように俺の首に手を回して抱きついてきた。お望み通り左手でティーナのお尻を支え、右手を背中に回して抱きしめてやる。
「ごろにゃーん」
「でけぇネコだなぁ……」
と、俺の首筋に頬を擦りつけてくるティーナをそのままに足元を見ると、いつの間にかウィスカがじっと俺の顔を見上げてきていた。何ですかその物欲しそうな顔は。まさかウィスカさんもだっこをご所望で?
ふと周りを見回すと、エルマとミミ、それにメイもジッと俺に視線を向けてきていた。
「私は普通にハグで良いわよ?」
「私もそれで」
「では私も」
「何これどういう状況?」
結局ティーナの後はウィスカを抱っこすることになり、その後はエルマ、ミミ、メイの順にハグをすることになった。いや、別に良いんだけどさ。たまに君達の事がわからなくなる。平等にってことなのか? まぁ平等は大事か。
☆★☆
それから数日、俺達はリーフィルプライムコロニーで待機することになった。大規模宙賊の討伐ということで、近隣の星系からも戦力を集めるらしい。今は戦力の結集を待っているというわけだな。
そんな中、補給も整備も済ませた俺達はというとやることが特に無い。まぁそれでも一日のルーチンはある程度決まっているから、完全に暇というわけでもないんだが。身体を動かすなり、訓練するなり、勉強するなりとやることはそれなりにある。
「……毎回こんな訓練を?」
「そうだが?」
「そうですか……」
今日はセレナ中佐と彼女の部下である貴族出身の士官達がブラックロータスを訪れていた。俺がメイと剣の訓練をすると聞いてやってきたのだ。彼女達も戦力が集まるまでは暇らしい。
「ご主人様、行きますよ」
「見物人も居るし、控えめでお願いします」
「わかりました、強めでいきます」
「ぼくのはなしをきいて」
俺の懇願も虚しく、正に黒い疾風と化したメイが金属製の模擬剣を手に迫ってくる。対する俺の手に握られているのも金属製の模擬剣だ。
訓練ならもっと安全な模擬剣を使ってはどうかって? いや、これじゃないと俺とメイの剣速と剣戟に耐えられないんだよ。これまでに何度安全性を謳った模擬剣をへし折ってきたことか。
メイの身体の陰から銀閃が迸ってくる。コレをまともに食らうと当たった部分の骨が砕けた上に、下手すると内臓にまでダメージが入って誇張でもなんでも無く血反吐を吐くことになるので、絶対にまともに食らうわけにはいかない。
摺り足を使って滑るように横に動き、紙一重でメイの一撃を躱す。それと同時に逆手に持ち替えていた左手の剣でメイの剣を持つ手の手首を狙うが、剣撃を放ってきた時以上の速度で引き戻されてしまったために俺の反撃は空を切った。こうなるとがら空きの左脇腹を狙われるのがわかりきっているので、メイの次撃が放たれる前にするりと後ろに動いてメイとの間合いを取る。
その後は剣撃の応酬だ。俺の両手の剣で放たれる斬撃が尽くメイの持つ一本の剣によって迎撃され、逆にメイから放たれる斬撃を躱し、いなし、受け流す。絶対にまともに受けてはいけない。これは身体で受けるなという意味でなく、剣でも受けるなという意味である。もしまともに受ければ模擬剣をへし折られるか、そうでなくとも防いだ剣ごとぶっ飛ばされるか、あるいは衝撃のあまり得物を失うことになるか――どの結果にせよその後の展開は厳しいものになる。
「だぁっ!?」
結局、軍配はメイに挙がった。俺がメイの剣撃を受け流し損ねて右手の剣をへし折られてしまったのだ。こうなると後は詰将棋みたいなもんである。徐々に追い詰められた俺は最終的に腹に強烈な蹴りを喰らい、壁まで吹っ飛ばされて仕留められた。いくらなんでも鳩尾を打たれた上に背中を壁に叩きつけられた際の生理的な反応までは制御できない。息を整える間もなく、頭頂に模擬剣をコツンとやられて俺の負けである。
「むりぃ……」
「そんなことはありません。ご主人様の反応速度は前回訓練時よりも凡そ八%向上しています。ご主人様にはまだまだ伸び代があります」
「そこまで徹底的にしなくてもええんやで……」
メイの手を借りて起き上がりながら蹴られた腹を擦る。とてもいたい。これは確実に内出血してますね。
「あ、希望者はメイさんによるパーフェクトに安全な訓練を無料で受けられるぞ」
「安全に見えないのですが?」
「何を言っているんだ、パーフェクトに安全だぞ。だって俺は死んでないだろう?」
そう言って胸を張って――いやお腹痛いわ。無理だわ胸張れねぇわ。
「悪いけど俺は簡易医療ポッドに入ってくるから。お客様の対応は任せた」
「はい、お任せ下さい」
メイが俺に頭を下げ、それからセレナ中佐達の方向に視線を向ける。ビクリと全員が身体を震わせた気がするが、きっと気のせいだろう。大丈夫、安全だよ。絶対に死ぬことはないからな!
ドワーフ姉妹の可愛らしい姿を是非書籍版で目にしてね!( ˘ω˘ )




