#258 面倒な話ともっと面倒そうな話
ちょっと数日間執筆に割ける時間が少なくなります! 遅れたりするけど許してね!_(:3」∠)_(媚びる
「本当に、申し訳ない。この通り謝罪する」
一分後、グラード氏族長のゼッシュが俺の目の前で土下座していた。一分前に俺に食ってかかってきたエルフはどうしたのかと言うと、俺がメイを必死に止めている間に現れたゼッシュ本人の手によって鞘がついたままの蛮刀が振るわれ、その一撃を後頭部に受けて昏倒。ゼッシュの目配せによってお付きのエルフ達に連行されていった。
「いきなりのことでびっくりしたけど謝罪は受け取る。それでその、アレは何なんだ?」
「グラード氏族の中でも特に魔法の業に秀でた一族の長でな。わかりやすく言えば科学技術を毛嫌いしている連中の長だ」
顔を上げたゼッシュが床の上に正座したままそう言う。ふん? グラード氏族も一枚岩じゃないってことか? まぁ、一つの派閥が完璧に一致団結してるなんてことはそうあるものじゃない。珍しい話ではないか。
「……それがなんでここに? そしてああいう行動に?」
「ローゼ氏族からの提案――つまり航宙艦によるヒロ殿達の送迎に関して断固反対した連中のまとめ役でな。奴らの派閥による強硬な主張で航空客車を使うことになったのだ。その結果ヒロ殿達を危険に晒すことになったのだから、謝罪させるために連れてきたのだが……」
「それであの有様か? 本気で? そんなことある?」
あれはどう見ても最初からいちゃもんつけてくる気満々だったんじゃないだろうか。少なくとも、謝ろうという態度ではなかったぞ。
「昨晩の時点では内心はどうあれ謝罪することに同意していたのだが、この船に着くなりあのざまでな。魔法で足止めをされてしまい、遅れを取った。面目次第もない」
そう言ってゼッシュはもう一度額を床につけて謝罪をした。
まぁ、誠意は伝わってくるし、奴もゼッシュが自らの手で処断した。もしかしたらこの一連の出来事自体が芝居の可能性もあるが、そうであったとしても身内の派閥の長を俺の前で本気で張り倒して、自らも床に額をつけるほど頭を下げたわけだ。これが芝居であったとしても、ここまでするなら許してやろうという気にはなる。
「食って掛かってきたアレに関しては……まぁ、グラード氏族が責任を持って何かしらの処分するなら俺からはこれ以上は何も言わない。事故に関しては……予測は難しかったんだろうが、こちらとしても一歩間違えれば死にかけたってこともあるし、救出が遅れた原因がエルフ同士の内輪揉めによるものだってことも聞いている。聞いている以上、何らかの誠意は見せて欲しいとは思うな」
「もっともな話だ。私も逆の立場ならそう思う。いや、そう思うどころか寛大に過ぎるくらいだ」
「もう少し強く何かを要求されると思ったか?」
「正直に言えば、そうだ」
ゼッシュは素直に頷いた。未だ彼は床に正座をしたままである。俺はソファに座ってるけど。
「面子を顧みずにあんたは頭を下げてくれたし、謝罪の場で予想外のトラブルがあったにせよそれもまたあんたの手で処断してくれた。その後の処分もしてくれるんだろう?」
「無論だ。謝罪の場で謝罪するべき相手にあのように食って掛かるなど話にもならん。必ず厳しい処分を下させてもらう」
「オーケー。それでな、俺からこれといった要求をしないのにはいくつか理由がある。まず、俺が何かを要求しようにも俺が欲しがるものをあんた達が持っているということはまず無さそうだというのが一つ。最先端のシップテクノロジーなんて持っていないだろう? それに、例えば金を要求するにしても、エネルには今のところ困っていないし、どんなに請求したとしても今回の件じゃ数百万エネルがいいところだ。そうだな? メイ」
「はい。賠償金は150万エネルから250万エネルがいいところかと」
150万エネルから250万エネルというメイの言葉を聞いてゼッシュの顔色が随分と悪くなる。うん、まぁなかなかの大金だよな。森で半ば自給自足で暮らしているというグラード氏族が払うにはかなり荷が重い額なのではないだろうか。
「それだってあんた達には大金なんだろうが、俺にとっては端金――とまでは言わないが、一月もかからずに十分稼げる金額だ。もし金を請求したとしてもすぐに払える金額では無いだろうし、法的な手続きだなんだで相当な日数拘束されることになるのは目に見えてる。わざわざこの星に居座って延々とそんなことに時間を使うのは無駄にも程がある」
「なるほど。しかし何もしないというわけにもいくまい」
「それは勿論そうだな。何も出せるものがありませんからなにもしません、許してねとか言われたら、流石に温厚な俺もブチギレて帝国の名誉貴族としての特権を振りかざしてしまうかもしれん」
「名誉貴族」
俺の口から出てきた名誉貴族という単語をゼッシュオウム返しにする。うん、いきなり名誉貴族とか言われてもって感じだよな?
「そうだぞ。あー、ゴールドスターはなんだっけ? 帝国内で子爵扱いだっけ?」
「そうなります。調べてみましたが、貴方達リーフィル星系の氏族長はリーフィル自治政府内の役職者に相当しますが、帝国臣民法の扱いの上では平民ですね。つまり、ご主人様は貴方達氏族長全員を帝国臣民法及び貴族法に認められた権利の名の下に斬ることが可能です。無論、比喩的な意味でなく物理的な意味で」
「なんと……」
流石に俺が帝国の名誉貴族であるという情報は知らなかったようだ。まぁ大っぴらに言ってないしな。わざわざ会う人会う人に『俺はゴールドスターの名誉子爵様だ。下手に扱うとずんばらりんだぜ?』と言って回るとか面倒この上ないし、あまりに小物ムーブすぎる。
「自分で言っておいてなんだが、名誉子爵云々は一旦忘れてくれ。とにかく、常識的な範囲内、かつ極力金以外のもので何か詫びの気持ちを示してくれれば良い。上げ膳据え膳でリラックスできる最高級の宿でのリゾートとか、シータでもめったに食べられない山海の珍味を提供してくれるとか、保存の利くおいしい食べ物を山程用意してくれるとか、うちにいる酒好き三人のために旨い酒を色々贈ってくれるとか、女性陣に何か綺麗な宝飾品や服を贈ってくれるとか、そういうので十分だ。それだってそんな150万エネル分用意しろとかそういう話じゃないから。センスよく頼む」
「それは難題だな。だが、承知した。我々なりに償いをさせてもらおうと思う」
「そうしてくれ。あ、いくら俺が女好きに見えてもそっち方面のサービスは間に合ってるからな」
「そちらも承知した」
ゼッシュが重々しく頷く。よし、これでまた新しくクルーが増えるような事態にはならないだろう。いざとなればゼッシュにこう言ったことを盾にして断れば良い。
「じゃあ謝罪と償いについてはそんなところで。あと、それとは別に聞きたいことがあるんだが」
そう言って俺は座っていたソファの後ろに隠してあった例の発光物体を取り出し、ゼッシュに見せた。俺の手に握られた光り輝くドリル状の手槍――のような謎の物体を見たゼッシュの顔から表情が抜け落ちる。
真顔である。物凄い真顔である。ちょっと怖いくらい真顔である。
「これを、どこで?」
焦点を失った瞳を俺に向けながらゼッシュが平坦な声でそう聞いてきた。ぶっちゃけかなり怖い。
「墜落した場所の近くの森の中で食料を探して歩き回っている時に見つけたんだが……これが何なのか知っているんだな。なんなんだこれは。やたらとピカピカ光るしこっちの言うことを理解してるみたいだし、置き去りにしたり捨てたりしようとするとやたらと情に訴えかけてくるんだが」
「それを捨てるなんてとんでもない!」
「うおっ!?」
突然大声で叫ぶゼッシュの勢いに押されて思わず仰け反る。どうやら相当重要なものらしい。
「それは御神木の種だ。宙賊の襲撃で半ば焼き払われた御神木を蘇らせるための鍵だぞ」
「へー……なんか知らんが重要なものなら渡すわ」
どうもエルフにとって物凄く大事なものであるらしい。俺が持っていても精々ちょっとした照明くらいに使うのが関の山だし、植物の世話なんてしたこともない。エルフに任せるのが良いだろう。
そう思ってゼッシュに渡そうとしたのだが、彼はブンブンと首を激しく横に振った。ついでに謎の発光物体――御神木の種とやらも拒絶の意を示すようにピカピカと激しく明滅する。
「それはできない。御神木の種に見い出されたのはヒロ殿だ。発芽するまではヒロ殿に持っていて貰う必要がある」
そうだそうだと言わんばかりに謎の発光物体もとい御神木の種もピカピカと光る。
えぇ? なんだか面倒なことになったなオイ。




