#256 一息ついて
X4とウマ娘という地獄みたいな組み合わせの時間泥棒がぼくの睡眠時間を削る!_(:3」∠)_
目を覚ますと、寝る前と変わらずメイが簡易医療ポッドの外から中で眠る俺をじっと見下ろしていた。俺が起きたことを確認したメイが簡易医療ポッドを操作し、ポッドの蓋を開けてくれる。
「おはよう、メイ」
「おはようございます、ご主人様。お身体の方は問題ありませんか? 目眩や吐き気、頭痛などは?」
「特に無いな。快調だ」
「それはようございました。しかし、頭の怪我は危険なものです。できるだけ早くちゃんとした医療施設で精密検査を受けましょう」
「了解。それで、状況は?」
簡易医療ポッドから起き上がり、ポッドに放り込まれる前にメイの手によって引っ剥がされたいつものジャケットに袖を通しながらメイに聞く。
「今は総合港湾施設に停泊しているブラックロータスに着艦しております」
「そうか。皆は?」
「ブラックロータスに戻ってから皆様お休みになられましたが、既に起きていらっしゃいます」
メイの返答を聞きながら小型情報端末で時間を確認すると、夕飯時――と言うには少々遅い時間だった。まぁ、でも腹が減ったし何か食うとするか。
「腹減ったからメシにするわ。まずは風呂だな」
「はい、お供致します」
「別に怪我なんて治ってるんだし、そこまで気を遣わなくても大丈夫――だけどうん、入ろうか」
「はい」
気を遣わなくても大丈夫、と言ったところでメイのテンションが下がったような気がしたので、方針を転換して一緒に入ることにした。メイは随分と俺達のことを心配していたようだし、実際に助けに来てくれた。多少の我侭は聞いてやることにしよう。普段はこうして自己主張することも少ないしな。
そうしてブラックロータスの少し大きいお風呂でメイとしっぽりじっくり風呂に入り、食堂へと向かう。そうすると既に食事を終えたミミ達が食堂に集まってマッタリとしていた。
「あ、ヒロ様おはようございます」
「おはようと言うにはかなり遅い時間だけどな」
「私達には基本的に昼も夜もないけどね」
そう言って肩を竦めながらエルマが食堂に設置されているホロディスプレイを指差す。見てみると、どうやら俺達も巻き込まれた今回の一連の騒動についての特番をやっているらしい。画面にはちょうど真っ赤な旗に黒いドクロが描かれた海賊旗――のようなエンブレムが表示されていた。
「やっぱレッドフラッグ(赤い旗)だったか」
「声明は無いみたいだけど、船のエンブレムを見る限りはそうみたいね。大部隊で星系軍を引きつけて、少数でシータに降下して総合港湾施設を破壊。地上を蹂躙するつもりだったみたいだけど」
「そこにメイとブラックロータスが居て、作戦は大失敗と」
「そういうことね。恐らく、前の襲撃が失敗して潰れた面子を取り戻そうとしたんでしょうけど」
「ドツボにハマってんなぁ。まぁ、ブラックロータスは見た目非武装に見えるし、クリシュナ一機くらいは数で押し潰せると思ったのかね」
「そもそも、まだ残ってるとは思ってなかったのかもしれないけどね」
などと話していると、画面が切り替わって見覚えのある面々が表示された。各部族の族長達だ。どうもニュースの内容を聞く限り、再度の母星襲撃に関して星系軍の不手際だと批判が殺到しているらしい。星系軍としては今回の襲撃は通常の襲撃規模を遥かに上回るものであり、警戒も厳にしていたからこそこの程度で済んだのだと主張しているようである。
今回の襲撃において宙賊側は超光速ドライブを取り付けた小惑星によるシータへの質量爆撃を試みており、そちらの対応に戦力を割かざるを得ずシータへの直接降下を阻むことができなかったということらしい。
「どっかで見たような手口だなぁ」
「宙賊同士にも独自のネットワークがあるらしいしね。成功体験は共有されたりしてるんじゃない?」
超光速ドライブを取り付けた小惑星による質量爆撃という手口は前に訪れたリゾート星系――シエラ星系でも見たんだよな。防御側としては絶対に小惑星を地表に落下させるわけには行かないから、その対応に嫌でも手を取られることになる。
「で、それはそれとしてうちらの墜落の件に関してはローゼ氏族がグラード氏族やミンファ氏族を強く非難しているみたいやね」
案内役としてローゼ氏族のリリウムが同行してはいたが、グラード氏族領に赴くための足を手配したのはグラード氏族だし、運転手を務めていたヒィシはミンファ氏族だ。早急な救助をするためにローゼ氏族が航宙艦での捜索を打診したが、テクノロジーアレルギーのグラード氏族がそれを拒否。自分達のケツは自分達で拭くと航空客車と同じ原理で飛ぶ乗り物で救助をしようとしたが、ミンファ氏族がそれに待ったをかけた。事故車両を検査した結果、過剰な魔力によるオーバーロードを起こしていた可能性があり、同じ仕組みの乗り物だと二の轍を踏む可能性があると。
そうして早期の救助が必要なはずなのに対応に遅れが生じ、そのうちに赤い旗による襲撃が起こった。混乱の中で俺達の救助は遅れ、最終的にはキレたメイが周囲の静止を振り切ってクリシュナで出動。速攻で俺達を発見して連れ帰ってきたという顛末である。
「政治だなぁ」
「それで墜落したまま放置された方はたまりませんけどね」
ウィスカが苦笑いを浮かべる。
「ヒロ様が事前にサバイバルキットを用意していなかったら、保存食や水筒を用意するように言っていなかったらと思うとゾッとしますね」
「本当にあれは慧眼だったわね。まぁ、普通に考えると奇行以外の何物でもないんだけど」
「俺の中のゴーストが囁いたんだ」
「トラブルに遭いまくって予想がつくようになっただけやろ」
「やめろ。そのストレートな物言いは俺に効く」
もはや何かに呪われているのではないかというレベルでトラブルに見舞われているからな。一度お祓いとかしてもらったほうが良いんじゃなかろうか? しかしこの世界だとどこでお祓いしてもらえるんだ? エルフならそういうのもできそうだけど、あまりにガチすぎて逆に嫌な予感がするんだよなぁ。藪をつついて蛇を出てくる予感しか無い。
「で、結局俺達への対応はどうなるんだ?」
「はい。各氏族から連絡があり、明朝こちらまで出向いて謝罪させて欲しいとのことです。返事は保留してあります」
「謝罪を受け入れるってことで連絡しておいてくれ」
「承知致しました」
そう言ってメイが頭を下げる。メイも風呂の中でじっくりと俺の身体の様子を確認して幾分落ち着いたようである。しかし、謝罪ねぇ。
「まぁ、客として招待して、その途中で墜落事故なんか起こしたんだから謝罪するのが筋っちゃ筋か」
「事故の原因、兄さんかもしれんけどな」
「それはそれ、これはこれじゃないかな? 予測することは難しかっただろうけど、結果としてお客さんを危険に晒したんだから」
「担当の人災難やなぁ……リリウムさんも航空客車は絶対安全みたいなこと言うとったし、ほんとに安全な乗り物やったんやろね」
「お兄さんを乗せたばっかりに……」
「俺が悪いみたいな言い方はやめないか」
「だって、ねぇ?」
「その件に関してはティーナちゃん達から聞きましたけど、正直私もあまり弁護が……」
「ね。まぁ、それをこっちから言ってやることもないとは思うけど」
肩を竦めてエルマがそう言う。こういうところは強かだよな、エルマは。まぁ、本当に確証があるわけでもなし、かえって場を引っ掻き回すことになりかねないから今回は黙っているのが吉だろうとは俺も思うけど。
「でも、自己調査の結果、魔力? のオーバーロードの可能性があるってことは判明したんだな」
「そうみたいやね。人を乗せる乗り物である以上は考え得る限りの耐久実験はしてると思うんよ。恐らく、あの羽みたいなのに大量の魔力を流してどれくらいまで耐えられるか、っちゅう試験をしたことがあるんやろね」
「その結果か、途中経過の記録の中に今回起きたような現象が記録されていたんだと思います、先頭の二つの車両はなんとかグラード氏族領まで着いたんでしょうし」
「なるほどなー。まぁ、いずれにせよ故意ってわけじゃないし、俺の過失責任は無いだろう」
「せやね。うちらに魔法とか魔力とか言われてもようわからんもん」
「帝国内でサイオニック・テクノロジーに触れる機会なんて無いもんね」
俺の言葉にドワーフ姉妹も頷く。専門家がこう言うならやっぱり俺に責任はないな。今回の責任を取って比喩的な意味で首が飛ぶ人が出そうな気はするけど。そもそも普通の航空機や航宙艦を拒んで航空客車なんて使ったグラード氏族が全部悪いってことにしておこう。うん。




